第8話 魔物退治
オリンに来て3日目。一つの街の滞在期間はだいたい3日と決めてるので、今日が最終日となる。
「今日は魔物退治の依頼があるわね」
ギルドに入ると、マヨが掲示板にあった依頼書を指さす。依頼内容は2つあるようだ。
「おぉ、魔物退治か。なになに……1つ目は近くの農村を荒らす『ルビーウルフ』の討伐……か」
「ルビーウルフ……あの炎を纏うウルフ種のことですね」
カタルシアが書類を覗き込む。
「普通のウルフでも面倒なのに、炎属性ってなると、ちょっと危険かもね」
マヨは腕を組みながら、いつものように冷静に分析している。
「まぁ、やってみるしかないだろ。農村を荒らしてるなら急いだ方がいい」
「そうね。やってみましょうか!」
こうして俺たちは、その依頼を受けることにした。初めての魔物退治の依頼だ。
そしてギルドを出た俺たちは、オリン郊外の農村へ向かった。
農村に着くと、どこか焦げた匂いが漂っている。
畑の一角が黒く焼け焦げ、村人たちは怯えた顔でこちらを見てくる。
「冒険者さん、来てくれたんですか!」
駆け寄ってきた村長らしき老人が訴えるように言った。
「被害の状況を教えてください」
俺がそう言うと、老人はコクリとうなずき、話し始める。
「昨夜、赤く光る2匹の狼が畑を荒らして……家畜も何頭かやられてしまいました。火の粉のようなものを撒き散らして……」
「火の粉?」
「ルビーウルフの特徴ね。体表から魔力が漏れ出してて、それが燃えるのよ」
マヨが解説しながら、地面に残る足跡をしゃがんで観察する。
「この足跡まだ新しいわね。多分、近くにいるよ」
「よし。それじゃあ森に入って探すか」
俺たちはそう言って、森に足を踏み入れた。
それから、歩き始めてすぐのことだった。
――ボウッ!
小さな爆ぜる音とともに、森の奥で赤い火柱が上がる。
「いたっぽいわね」
マヨはそういうと剣を構える。
「よーし、サクッと倒しますか!」
俺も雷剣を生成する。
森の中は不自然なほど静かだった。鳥の鳴き声さえしない。
やがて、2つの赤い光が木々の間を駆け抜け、こちらに向かってくる。
「来るぞッ!」
俺の叫びと同時に、炎を纏う獣が飛び出してきた。
「ガアアアアッ!!」
全身が赤熱し、ルビーのように輝く毛並み。目は燃えるように赤く、息を吐くたび火花が散る。
「これが、ルビーウルフか」
思った以上の迫力だ。
ウルフは地を蹴り、一直線に俺へ突っ込んできた。
(速い!)
俺が剣で攻撃を受け止めると、真横から水の光線が1匹の魔物の足を貫く。
「私の水魔法は相性がいいから、多少のダメージは与えられるわ!」
「私も強化魔法で援護します!」
「助かる!」
俺は着地がぶれて、一瞬だけ動きが鈍った魔物を、
「今だッ!」〔雷電一閃〕
と、稲妻の斬撃が切り裂く。
炎が散り、魔物が倒れる。
「まだだよ!」
ミリアがさらにもう1匹の魔物を攻撃しようとしたその時、ボワッ! と、ルビーウルフの体表が一気に赤く膨れ上がり、爆発的な熱風が周囲に広がった。
「うわっ!?」「きゃっ!」
俺たちは一瞬、距離を取らされる。
「くそ〜、うかつに近づけないな」
「あっつ〜い」
俺たちが怯んでいると、ルビーウルフが、
「ガアアアアッ!!!」
と、吠えた。それと同時に、口からものすごい火力の砲撃を放ってくる。
「ここはあたしが!」〔魔獣の咆哮〕
それに対し、ミリアの音波砲撃のような攻撃で、ルビーウルフの砲撃を相殺する。
「ナイス、ミリア!」〔ウォータースラッシュ〕
マヨも負けじと追撃をする。
水色を纏った剣がルビーウルフに触れると、ジューッと音を立てて、ルビーウルフの炎の勢いが弱まった。
「援護します!」〔バインド〕
「いける!」〔瞬雷〕
それを見て、カタルシアが相手の動きを封じ、俺が一気に切り込んだ。
赤い火花が弾け、魔物を纏う炎が消える。
「やりましたね!」
「テンにぃすごーい!」
初の魔物討伐に、後ろでみんながはしゃいでいる。
「よーし! この調子でもう1つの依頼もこなすぞ!」
俺は振り返り、みんなの元へ行く。
その後、村の人に報告をし、お礼の品も貰って次の依頼場所に向かった。
「次の依頼もこの辺の集落だな」
「ウィンドホーク……風を操るホーク種の魔物ね」
そして集落に着くと事情を聞き、再び魔物退治へと足を運ぶ。
場所は少し岩肌が見える丘のような場所だった。木はあまり生えていない。
「あれね」
マヨが空を見上げる。確かに、遠くの空で何かが円を描くように旋回している。
「鳥系かぁ。遠距離攻撃は慣れてないから、1匹でもキツそうだなぁ」
「私も水魔法じゃ相性が悪いわね」
俺たちが少し弱音を吐いていると、
「あの、私に考えがあります――」
と、カタルシアが何やら作戦を話し始めた。
「――なるほど……わかった。みんなやれるか?」
「もちろん!」
「当然よ」
俺たちはカタルシアの作戦を聞き、魔物の元へ向かい、魔物と対峙する。
鋭い風切り音。逆光の中から、鋭利な嘴と長い翼を持つ巨大な鳥が急降下してくる。
「ギャアアアアッ!!」
全身の羽根が淡く光り、風が渦を巻くように旋回している。
「わっ、思ったよりデカいな!」
「動きも速い!」
ウィンドホークは地面すれすれで急速に旋回し、横薙ぎの風の刃を放つ。
「ッ避けろ!」
俺たちは散開する。
風の刃は草を裂き、木の幹を浅く切り裂く。
「テンコさん! 隙を作ります!」〔バインド〕
カタルシアの魔法陣がウィンドホークの足元に展開される。
半透明の鎖が出現し、ウィンドホークの動きを一瞬だけ鈍らせた。
「ナイス!」
俺は雷を纏わせて跳躍する。
〔瞬雷〕
そして、鋭い霆を放った。
だが魔物は翼を閉じてこれを防ぎ、さらに突風を生み出して、俺を押し返してきた。
「うおっ!? 耐久あんのか!」
「やっかいね」
双方の間に冷ややかな風が流れる。
「カタルシア、いけそうか?」
「もう少しです」
見るとカタルシアは地面に魔法陣のようなものを描いて、それにミリアが魔力を注ぎ込んでいる。
そして、
「できました!」
と言って、みんなに合図を送った。
俺たちはその合図を見て、魔物から距離をとる。
「では行きます。大地を巡る力の根源よ。その悠々たる力の一端を解き放て――」
魔法陣の中心でカタルシアが詠唱すると、大地が震え、魔物がその下に展開された魔法陣に固定され、
〔大地の怒り〕
と、技を発動すると、地面が盛り上がり、噴火のようなマグマの柱が魔物を襲った。
「ギャアアアアッ!!」
羽根が散り、熱風の渦が乱れる。
攻撃が終わると、黒焦げになった魔物が上から降下してきている。まだ息があるようだ。
「これで終わりだ!」〔雷電一閃〕
俺は雷剣を強く握り、思い切り踏み込む。そして、黄金の稲妻の軌跡が走り、魔物の身体を貫いた。
「ギ……ギャァ……」
魔物は小さな悲鳴をあげ、地面に倒れ込んだ。
敵の魔力が霧散し、風が止む。そんな中、ビビッと何かが歪むような気配がした。
「……よし、討伐完了だな!」
だが気のせいだと思い、俺は穏やかな表情で剣を降ろす。
「やったー!」
「やりましたね」
戦いが終わると、カタルシアとミリア微笑みながら近づいてきた。
「カタルシアの作戦。1日1回しか使えない大技を決めるなんて、すごかったぞ!」
「えっ! そ、そんな……!」
俺の言葉にカタルシアは耳まで赤くなっている。
「こ、このメガネのおかげですよ。このメガネは魔力の流れを読むことができる魔具なんです。魔力操作にはうってつけで……」
(なるほど、だからあの時、俺の神力がごっそり持っていかれたのか)
俺はカタルシアの発言に1人で納得する。
「さ、戻りましょ!」
そしてマヨの声とともに、俺たちは再び集落へ向かった。
集落に戻ると、村長は心底ホッとした表情を見せ、報酬の袋を差し出した。
「本当に助かった。これで村はしばらく安心じゃ」
俺たちは礼を受け取り、オリンへの帰路を歩き出した。
今日の仕事は二つとも無事達成。少し疲れたけど、悪くない達成感だった――。
オリンに戻る頃には、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。
街門をくぐると、いつもの雑踏と活気が迎えてくれる。
「ふぅ~、今日は頑張ったねぇ」
ミリアは伸びをしながら大きく息を吐く。
「みんなお疲れ。とりあえずギルドに報告だな」
俺たちはギルドに入り、依頼書と討伐証明を提出する。
「ありがとうございます。こちらが報酬になります」
俺たちが受け取った袋は、思っていたよりも重かった。
「さっ、飯でも食いに行くか!」
「やったー!! 今日の夕飯は豪華にいこうよ、テンにぃ~!」
「まぁ、そうだな。豪華って言ってもほどほどにな」
俺たちがはしゃいでいる一方で、カタルシアは袋を見ながらポツリと言った。
「……私、実はあの技使うの、初めてだったんです」
「え、そうなのか?」
「はい。入ったパーティでは、詠唱の遅さとかで……常にバフ役だったので……」
彼女は少し寂しそうに微笑む。
「なら今日が初披露なわけだな。見ただろ? 君の魔法は十分戦力だよ!」
俺がそう言うと、カタルシアの顔がぱっと明るくなった。
「あ、ありがとうございますっ!」
ミリアもマヨも、その表情にほほ笑む。
その日の夜。今日は俺も宿に泊まって、明日の出発の準備をしていると、カタルシアが急に驚いた声を出し始めた。
「そ、それ……もしかして、『天神聖書』……!?」
その時俺が手に持っていたのは、古代系ダンジョンで見つけた解読不能の本だった。
「こ、これのこと何か知ってるのか!?」
「え、えぇ、家は教会なので、古代の物品に関する知識はあるんです」
カタルシアは目を丸くして、本を覗き込む。
「間違いない。これは伝説の聖典……幻の魔神王……つまり、テンコさんの――伝記」
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




