第76話 大秘境の古城
再び冒険を始めた俺たちは、北へと馬車を走らせた。
「こう見てみると、四大陸に1つずつ印がついているんだな。こうなると、表示されていない残りの2つを探すのは相当苦しいぞ」
俺が呟くと、隣に座るマヨが地図を見ながら口を開く。
「確かに……地図を見た感じ、魔神王がいる国に1つずつあるみたいね」
「そういえば、魔神王って各大陸に1柱ずついるのか。なら、四大陸全部に聖書があるのもおかしくないな」
「まぁ、魔神王は大陸の守護者みたいなところあるしね。べスティア大陸はビーズテリア帝国にあるみたいだし、他の魔神王に会えば聖書や過去の手がかりも手に入るんじゃない?」
そんな会話をしながら、俺たちは馬車の荷台でくつろぐ。
街を抜け、草原を優雅に駆け抜ける。
俺たちは街道を北へ、そして徐々に北西へと進路を変えながら、小国が点在する地域を目指した。
道中は比較的穏やかで、時折現れる魔物も俺たちの戦力なら苦にならない。
そうして進むことおよそ5日。日が沈む頃、ようやく小さな町に到着した。
石造りの家が並ぶ、質素だが落ち着いた雰囲気の集落だ。中央通りに宿屋の看板が見える。
「ここが小国群の入り口あたりね。今日はここで休みましょう」
マヨの提案に俺たちはうなずき、宿屋に荷物を下ろした。
宿屋は2階建てで、暖炉のある共有スペースが温かく灯っている。
そこでは、地元の客や旅人が数人、静かに酒を酌み交わしていた。
俺たちが夕食を済ませ暖炉の近くで休んでいると、隣の席にいた白髪の老人がふとこちらに視線を向けて、
「そこの若いの、旅の者かい?」
と、話しかけてきた。
「はい、そうです」
「どこを目指してるんじゃ?」
「北のにあるベスティア大陸を目指しています」
俺が答えると、老人はゆっくりとパイプをくわえ、煙を吐く。
「北の方へ向かうのか。なら、少し気をつけた方がいい。さらに先の秘境には、昔から奇妙な話が残っておる」
「奇妙な話……?」
マヨが興味を示して身を乗り出す。
老人は暖炉の炎を見つめながら、静かに語り始めた。
「北に広がる中立地帯……あそこには、広大な湖とその中の島に古い城が残っておってな。そこは『東の帝国の守護神』がかつて祀られていた場所だといわれている。誰も詳細を知らぬ秘境……興味半分で行く冒険者はいたが、無事帰ってきたものはおらぬそうじゃ」
「東の帝国……」
俺は思わず呟いた。隣でカタルシアが小さく息を呑む。
「東の帝国、といえば……」
「ミルキーウェイ皇国のこと、よね」
マヨが俺と視線を交わす。
老人はこちらの反応を気にせず、続けた。
「守護神が祀られていた旧城。どこにあるかは知らんが、ドラゴンが住み着いておるらしい。見かけたら即逃げるんじゃぞ」
「……貴重な話、ありがとうございます」
俺は礼を述べ、老人に軽く頭を下げる。
それから部屋に戻った後、4人で改めて話をした。
「東の帝国の守護神……もしかして、魔神王に関係があるんじゃないかしら」
マヨが腕を組んで言う。
「可能性は高いですね。それに、ドラゴンもいるとなると竜天神との関係に説得力があります」
マヨの言葉に、カタルシアも同意する。
「テンにぃの昔の城かもしれないね!」
ミリアはワクワクした様子で尻尾を振る。
俺は天井を見上げ、小さく息を吐いた。
(かつての魔神王城……か。もし本当なら、かなり大きな手がかりになる)
「どうする? ついでに探してみるか?」
老人の話しが気になった俺は、みんなに質問する。
「でも、話を聞く限りかなり危険そうよ。ドラゴン以外の脅威もありそうだわ」
「答えは一旦保留にして、途中で手がかりを見つけてから考えるのがいいと思います」
俺の問いに、マヨとカタルシアは冷静に返す。
俺はその意見に納得し、明日は通常通り中立地帯を目指すことにした。
翌朝、俺たちは宿を出て北へ向かう。
小国群を抜け、徐々に人の気配が薄れていく。街道は次第に細くなり、やがて踏み固められた道すら消えて、ただの獣道になっていった。
「ここから先が、中立地帯ね」
それから4日ほど経ち、マヨが地図を確認しながら呟く。
「空気が変わってきましたね」
カタルシアも周囲を警戒するように視線を巡らせる。
ミリアは耳をピクピクさせながら、楽しそうに馬車に揺られる。
森、山、草原。大自然に囲まれた秘境に、俺たちの心は浄化されていく。
そうして1日ほど、中立地帯を進んだ頃だった。
馬車の通れない獣道を進んでいると、突然、頭上で大きな風切り音がする。
「……ん?」
俺が空を見上げた瞬間、巨大な影が木々を覆った。
「なッ……!?」
俺は、その影の正体に驚愕する。
陽光を反射する鋼のような深緑色のウロコ。20mを優に超える巨体。鋭い黄金の眼光。
――ドラゴンだ。
「ど、ドラゴン!?」
マヨが剣に手をかける。
「全く気配を感じませんでした。気を付けてください!」
カタルシアも即座に結界を展開し始めた。
だが——
「ちょっと待ってくれ。このドラゴンに、敵意はない」
俺は、そんな2人を制止する。
ドラゴンは穏やかな雰囲気のまま、ゆっくりと俺たちの目の前の空き地に降り立った。
翼を畳み、地面を大きく揺らしながら着地する。
ウロコには、ところどころ金色の模様が走っていた。
マヨたちは未だ戦闘態勢を取っているが、ドラゴンは全く攻撃する気配を見せない。
ただ、金色の瞳で静かに俺たちを見下ろしている。
「……これは、どういうことなの? テンコ」
マヨが呟くと、ドラゴンは低く喉を鳴らした。威嚇というより、何かを伝えるような響きだ。
そして、ゆっくりと首を下げ、背中をこちらに差し出すように体を傾けた。
「どうやら……乗ってこい、って言ってるようだ。俺は竜天神で竜の起源――こいつは神である俺を迎えに来たってところだな」
「まさか……でも、よくよく考えればそうですね」
俺はドラゴンの瞳を見つめた。どこか懐かしいような、それでいて圧倒的な威圧感がある。
「……乗ってみよう。何かあるはずだ」
少し間をおいて俺がそう決断すると、マヨは一瞬迷った後、小さく息を吐いた。
「わかったわ。テンコがそういうなら」
「わくわくする〜!」
ミリアはすでに尻尾を振って乗り気だった。
俺たちは恐る恐るドラゴンの背に登る。
ドラゴンは俺たちが全員乗ったのを確認すると、大きく翼を広げた。
――バサッ!!
次の瞬間、俺たちは一気に空へと舞い上がった。
森が急速に遠ざかり、眼下に広がる景色が一変する。
「すごい……! 空を飛んでる!」
ミリアが興奮した声を上げる。
「どこに向かっているのでしょうか?」
「これまでの因果関係を考えると、恐らく――」
俺がそこまで言うと、前方に広大な湖が見えた。水面は鏡のように静かに光を反射し、その中央に一つの島が浮かんでいる。
そして島の上には、巨大な城の影がはっきりと見えた。
「……やっぱり、老人の言っていた旧城か」
俺は息を呑んで見つめる。
しばらく飛んで湖の上まで来ると、ドラゴンはゆっくりと旋回した後、島の岸辺に正確に着陸した。
俺たちが降りると、ドラゴンは一度だけ俺を見つめ、低く鳴いて翼をはためかせ、再び空へと舞い上がり遠ざかっていく。
「……行ってしまった」
「運んでくれたってことかしら」
マヨが周囲を見回す。
島は予想以上に広かった。石畳の道がところどころ残り、崩れた石柱や壁の一部が草に覆われながらも残っている。
明らかに、かつては人が住んでいた文明の痕跡だ。
(……ゲームの隠しマップみたいだな)
俺は内心でそう呟き、胸が高鳴るのを感じていた。
「城は島の中央みたいね。行きましょう」
それからマヨに促され、俺たちは石畳の道を辿って進んだ。
やがて、巨大な城壁が目の前に立ちはだかる。
そして、城の正面入口。黒く巨大な両開きの扉が、静かに閉ざされていた。
俺は扉に近づき、表面を見た瞬間、足を止めた。
「……これ」
扉の中央には、円状に配置された7つのシンボルが鮮明に刻まれていた。
光、闇、空、雷、地、炎、水。
七位星将の紋章だ。
「間違いない……ここは、かつての魔神王城だ」
俺はそう確信し、扉を見上げた。
(でも、なんでこんなところにあるんだ? 別荘的な感じか?)
大秘境に佇む過去の自分が治めていた古城。
新たな過去の遺物に、期待と興奮で俺の胸は高鳴っていた。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




