第72話 火神の鍵
翌日。俺たちは『火神の鍵』を持って、冒険者ギルドへと向かった。
受付で事情を伝えると、すぐに奥の部屋へ通される。
そして、部屋に入ると、前回のようにギルドマスターのオリブが机の向こうで腕を組んで待っていた。
「おう、久しぶりだな。今日はどんな用件なんだ?」
「お久しぶりです。実は、昨日遺跡を攻略してきまして……」
俺がそう切り出すと、オリブは目を見開いて、
「こ、攻略だと!? あの未踏破のダンジョンを!? 熟練の冒険者ですら、最奥部に到達できなかったのに……!」
と、少し大きな声で驚いた。
「まぁ、複雑なダンジョンでしたし、運要素もあると思います」
そんなオリブに、カタルシアが静かに補足する。
やがて、オリブはしばらく無言で俺たちを見つめた後、ゆっくりと息を吐いた。
「……そうだな。確かに、焔葬の遺跡は魔物も資源もほとんどない。あるかどうかもわからん伝説のアイテムを求めて潜るパーティは、元々少なかった。だから未踏破のままだった、ってのはありえなくもないか」
オリブは机に肘をつき、興味深そうに続ける。
「で、何か見つかったのか?」
「はい。炎の残滓ではありませんでしたが、こんなものがありました」
俺はそう言うと、入れ物から『火神の鍵』を取り出し、机の上に置いた。
淡く赤みを帯びた鍵型のアイテム。オリブは身を乗り出してそれを見る。
「どうやら、炎の残滓がある宝物庫を開けるための鍵のようですが……」
「なるほど……これは」
オリブが手を伸ばし、鍵に触れようとしたその時だった。
――バチッ!
オリブの指が、結界のようなもので弾き返される。
「なッ……!?」
オリブはびっくりして、目を丸くする。
「もしかして……」
マヨも恐る恐る手を伸ばすが、同じく弾かれてしまった。
「ど、どうやら、手に入れた本人にしか触れない仕様のようです……ね」
それを見た俺は、苦笑いしながら鍵を自分の手に戻した。
(天神聖書みたいに、俺にしか触れないもの……そもそも、俺にしかゲットできないし、他のパーティが攻略できなかったのもそのためなんじゃないか? 油断してた……!)
内心でそう考察しつつ、表向きは平静を装う。
オリブは指先をさすりながら、苦い顔で頷いた。
「……そうか。鑑定もできねえとなると、この鍵については何も言えねぇな」
「いえ、十分参考になりました。では、他に『炎の残滓』がありそうな場所を教えてもらえませんか?」
俺が尋ねると、オリブは少し考えてから口を開いた。
「候補はいくつかあるが、焔葬の遺跡にないってんなら次に怪しいのは赫光霊山だな。山全体がフィールドタイプのダンジョンで、『火の化身が降り立った場所』と伝えられているパワースポットだ。山のどこかにある祭壇に宝がある、って伝説もある」
「わかりました。ありがとうございます」
その情報を聞き、俺たちは礼を述べ部屋を出た。
ギルドの外に出ると、俺は鍵を〔インベントリ〕にしまい空を見上げた。
「よし、それじゃあ赫光霊山に行ってみるか」
そうして、俺たちは次の目的地へと足を向けた。
ギルドを後にした俺たちは、そのまま赫光霊山へと向かった。
王都から北西に位置する山岳地帯。街道を外れ、森を抜けてしばらく歩くと、やがて視界が開けた。
「……これが、赫光霊山か」
目的地に着くと、俺はたちは正面にそびえる山を見上げ、やがて山道に足を踏み入れた。
「空気が違う……とっても神聖な雰囲気ね」
マヨが静かに周囲を見回す。中は木々の生い茂る普通の山という見た目だが、雰囲気が明らかに違う。
「火の化身が降り立った場所、と言われていますからね」
「オリブさんも冒険者より参拝客が多いって言ってたし、この山全体が聖域だからいつもとは違った緊張感があっていいな」
そんな会話をしながら、俺たちは山の奥へと進む。
道は整備されているわけではないが、踏み固められた土の道が緩やかに続いていく。
両側には木々が立ち並び、時折、風が葉を揺らす音だけが聞こえた。
しばらく歩いていると、前方の茂みから小さな気配がした。
「……あ」
ミリアが目を丸くする。
出てきたのは、白い毛並みをした鹿だった。角は枝分かれしていて、淡く金色に輝いている。
身体には緩やかな銀色の模様がある。
「あ、あれはアルバディア!? 特定の地域にしか生息しない、幻の神獣ですよ!」
それを見たカタルシアは、興奮気味にそう言った。
「神獣……確か、魔獣と比べて極端に数が少ないんだっけ?」
「はい。ミルキーウェイにも、ルミナスくらいにしかいません」
「へぇ〜」
俺たちは、静かに神獣を観察する。
やがて、神獣は俺たちを一瞬見つめると、警戒する様子もなくゆっくりと道を横切って森の奥へと消えていった。
「珍しいものを見ましたね」
「そうね」
そんな会話をしながらさらに進むと、今度は赤みがかった毛並みの狐が、岩の上からこちらを窺っていた。
尻尾がふわふわとしていて、こちらをじっと観察している。
ミリアが手を振ると、狐は小さく鳴いて茂みに姿を隠した。
「可愛い……!」
「今の神獣は初めて見ましたね。この山の固有種でしょうか?」
「神獣が普通に生息している場所、か。確かに『攻略より参拝』って言われる理由がわかるな」
そんな風に、俺たちは周囲の空気を感じながら歩を進めた。
大自然の中、みんなと一緒に宝探しをする。
「なんか、久しぶりだなこの感じ。ルミナスに行った時のことを思い出したよ」
そんな中、俺はルミナスの大森林を探索した時のことを、ふと思い出した。
そして、
「最近、またみんなと楽しく冒険できる機会が増えて、嬉しいな」
と、俺はそう呟く。
それを聞いて、3人は嬉しそうに微笑んだ。
「確かにそうね。初めて4人で冒険した時のことを思い出したわ」
「そうですね! 前みたいに、探検気分で行きましょう」
「じゃあ、またテンにぃが隊長だね!」
そんな和やかな雰囲気で、俺たちは探索を続けた。
そうして、山を歩くこと数十分。周りになにかの遺跡らしきものが、チラホラと見え始めた。
「この先、少し開けているみたいです」
やがて、カタルシアが前方を指差す。
視線の先には、木々が途切れ小さな平坦な場所があった。
そこには、古びた石造りの小さな祠のようなものと、その手前に広がる滑らかな石の地面があった。
地面には幾何学模様が描かれている。
そして、祠の近くには、半ば土に埋もれたような石版が一つ、静かに佇んでいる。
「……これは?」
カタルシアが近づき、石版を観察する。
「神力が、かなり濃くこもっています。普通の遺跡の碑文とは明らかに違いますね」
俺も興味を惹かれ、一歩踏み出し、石の地面に足をかけた。
その瞬間だった。
――バリバリバリッ!!
激しいグリッチ音とノイズが空間を埋め尽くす。
壊れたビデオテープのように、視界が激しく乱れる。
「なッ……!?」
理解する暇もなく、すり抜けバグのように俺たちは地面の"裏"へと落ちていった。
――ドサッ!!
そして、硬い地面に体がぶつかる感触。
「な、何が起こって……」
俺はとっさに手をついて上体を起こし、周囲を見回す。
そこは、さっきまでの山の風景ではなかった。
まるで楽園のような、緑に囲まれた神秘的な世界。
荒廃した遺跡。透き通る湖。淡く光を放つ植物。
空気はひんやりとして、どこか懐かしいような、それでいて圧倒的な神力が満ちていた。
まるで、以前訪れた竜星神殿を思わせる空間だった。
「……ここ、は?」
俺が呟くと、隣でマヨがゆっくりと立ち上がる。
「痛たぁ……とりあえず、全員無事みたいね……」
「びっくりしたー……ここ、どこ?」
ミリアも耳を澄ましながらながら周りを見回し、カタルシアも困惑の表情だ。
すると、突如俺たちの目の前に炎のようなモヤが現れ、やがて人の形をして静かに揺らぎ始めた。
「な、なんだこれ……」
「炎……? でも、熱を全く感じません」
その赤い光は、輪郭だけが人型を保っている。
明確な顔や体の詳細は見えないが、明らかに何かを見守るように、こちらを向いている。
俺たちは、その炎の人影から目を離せないまま、息を呑んで立ち尽くしていた。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




