第71話 複雑なクエスト
俺たちは、焔葬の遺跡にゆっくりと足を踏み入れる。
壁のルーンは相変わらず淡く光り、空気中に漂う神力の気配も変わらない。
やがて、しばらく歩いたとこので前回同様別の場所に転移させられた。
「……やっぱり飛ばされたか」
俺は周囲を見回す。
「転移の直前までなんの力も感じなかったので、恐らく一定距離歩いたら強制転移とかそんな仕様ですね」
隣では、カタルシアがメガネを触りながらそう言った。
「それにしても……前回とは違う場所だな」
俺は壁に手を当てる。
前回とは明らかに異なる石造りの通路だ。天井が低く、分岐も少なく、炎の灯りの数も減っている。
「でも、やることは変わらない。慎重に行こう」
だが、俺は冷静にそう言って、先頭に立った。
そうして、俺たちはダンジョンの奥へと進んでいく。
飛ばされた先でも、魔物の気配はほとんどない。時折、小さな炎の精霊が姿を見せる程度で、レベルも低く、特に苦戦することもなかった。
マヨが魔剣で軽く斬り払うと、精霊はあっさりと霧散する。
「やっぱり、この剣は使いやすいわ」
「もう使いこなせているの凄いですね。やっぱり相性がいいんでしょうか」
「マヨねぇ、かっこいい!」
そんないつもの雰囲気のまま、俺たちはダンジョンの奥を目指す。
そうして通路を進むこと十数分。やがて、視界が開けた。
円形に広がった空間。壁には古びた炎の紋様が刻まれ、中央には大きな岩の塊が鎮座している。
そして、俺たちが近づくと、
――ゴゴゴ……!
と、岩が立ち上がり、全身に炎を纏い始めた。
赤黒い炎が装甲のように表面を覆い、2つの赤く光る目が俺たちを見据える。
4mほどの大きさのゴーレムだ。
「……来たか」
俺は即座に〔解析〕を発動する。
「フレイムゴーレム、レベルは前回同様35。コイツが今回の中ボスか」
想定通りの中ボス戦。俺たちは冷静に戦闘態勢に入った。
すると、
「ここは私に任せて」
と、マヨが静かに前に出た。
手に持つ〔魔剣・アクエリアス〕の刀身が淡く青く輝き始める。
「……わかった。今こそ特訓の成果を見せる時だな!」
それを見た俺は、笑みを浮かべてそう言った。
マヨはその言葉に微笑むと、剣を構える。
やがて、フレイムゴーレムが重い足取りで一歩踏み出し、炎の腕を振り上げると、マヨは動じず魔力を魔剣に流し込んだ。
刀身から水が溢れ出し、刃を覆う。
「水魔法――」〔ウォータースラッシュ〕
そして、魔剣を一振。
その瞬間、以前とは比べ物にならない規模の水の斬撃が、ゴーレムの右腕を砕いた。
――ジュォォォォッ!!
炎と水が激しくぶつかり、大量の水蒸気が噴き上がる。
ゴーレムの体が大きくのけぞり、炎が急速に弱まっていく。
「まだよ」
だが、マヨは止まらない。さらに一歩踏み込み、魔剣を大きく振り抜いた。
〔水簾一閃〕
青く輝く斬撃が、ゴーレムの胴体を横に断ち切る。
――ザシュッ!!
ゴーレムの炎が完全に消え、岩の体が崩れて地面に散った。
広い空間に静寂が戻る。
「……終わりね」
マヨが剣を下ろし、軽く息を吐く。
「おぉ〜、思ったよりあっさりだな」
戦いが終わると、俺はそう呟きながら崩れたゴーレムの残骸を見た。
「すごい! マヨねぇ、一瞬で倒しちゃった!」
「この調子だったら、私たちの出番はいらないかもですね!」
それに続きミリアが目を輝かせ、カタルシアも感心した様子でうなずく。
「あ、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」
マヨはその言葉を聞いて、少し頬を赤らめながら答えた。
そんな3人を横目に、俺は周囲を見回す。
すると、空間の奥に、さらに下へと続く長い階段が口を開けているのが見えた。
「よし、このまま先に進もう。ボス部屋は近いはずだ」
俺がそう言うと、みんなは再び気を引き締める。
こうして、俺たちは崩れたゴーレムを後にし、長い階段を降りていった。
長い階段を降りしばらく歩いていると、目の前に見覚えのある重厚な扉が現れた。
頭上には巨大な縦穴が口を開けている。前回浮遊する足場を渡りながら降りてきた場所だ。
「……やっとついたな」
俺たちは扉の前で立ち止まる。
そして、軽く深呼吸をして、
「よし、行くぞ」
と、俺は扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けた。
――ギギィ……バタン!
俺たちが中に入ると、背後で扉が重く閉ざされた。両サイドの石柱に赤い炎が一斉に灯り、空間が赤く染まっていく。
「来るわよ」
マヨが魔剣を構える。
同時に玉座の上で炎が渦を巻き、やがて巨大な人型の姿を形成した。
ダンジョンボス、炎の守護者が、再び俺たちの前に姿を現す。
「〔解析〕!」
俺は即座に〔解析〕の応用技を発動し、ボスの頭上にHPバーを表示させた。名前とレベルと共に、赤いゲージがはっきりと浮かび上がる。
目標を視覚的に確認するために編み出した技。これだけで、かなりの精神的余裕が生まれる。
「よし、後はあのバーが空になるまで攻撃するのみだ!」
「了解よ。行くわ!」
俺が合図を出すと、マヨが先陣を切って駆け出す。
魔剣が青く輝き、刀身から水が溢れ出す。
「バフをかけます!」〔強化魔法〕
「水魔法――」〔ウォータースラッシュ〕
マヨが技を放つと、巨大な水の斬撃がボスの右腕を直撃した。
――ジュオォォッ!!
前回とは違い、水は一瞬で蒸発せず、炎を削り取るように食い込んでいく。
「効いてる……!」
マヨの目が一瞬輝いた。
「ウオォォォォ!!!」
だが、ボスは怯むことなく咆哮を上げ、巨大な炎の剣を振り下ろす。
「防護結界!」
「俺も手伝う!」
それを、カタルシアと俺が即座に防護結界を展開し、衝撃を受け止めた。
「ミリア、牽制を頼む!」
「任せて!」〔魔獣の咆哮〕
その隙に、ミリアが遠距離から衝撃波を繰り出し、ボスの動きを乱す。
「よし、今だ! 雷魔法――」〔EMP〕
それに続き、俺は雷のオーラを一気に解放した。
青い光の波が広がり、ボスの体の炎が激しく揺らぐ。それに加え、動きも鈍くなった。
「水魔法、最大出力――」〔溟海の荒津波〕
そこへマヨの追撃が襲いかかる。絶え間ない連携攻撃。
ボスのHPが目に見えて削れていっている。
「グオォォォォ!!」
しかし、相手はレベル50のバケモノ。
ボスは激昂し、無数の火球を放った。
結界がひび割れ、熱波が内部に侵入してくる。
「まだだ! マヨ、カタルシア! これでMPを回復しろ!」
それを見て、俺は〔インベントリ〕からマナポーションを2本取り出して、マヨとカタルシアに渡した。
準備は万全。2人は即座にMPを回復させ、カタルシアは結界の再構築とバフの再付与、マヨは再び大技の準備をする。
〔ライトニングソード〕
〔魔獣の爪〕
その間、俺は雷を纏い、ミリアと共に火球を打ち払った。
練り上げた連携。炎と水が激しくぶつかり合い、空間が水蒸気で白く霞む。
HPバーは着実に削れていく。
激しい戦い。何度か攻撃を喰らいながらも、巧みな連携で優勢に持ち込んだ。
――そして、残り20%。
「あと少しよ!」
マヨが息を整えながら叫ぶ。
ボスは最後の力を振り絞り、全身の炎を剣に集中させた。
やがて、巨大な炎の斬撃が放たれる。
「みんな、下がれ!」〔EMP〕
俺は全力で攻撃を減衰させた後、〔ライトニングシールド〕を展開し正面から受け止めた。
衝撃で両腕を伝うが、なんとか耐える。
「今だ、マヨ!」
「ええ!」
マヨは一瞬の隙を逃さず、魔剣を大きく振り上げた。
「剣術、水魔法、混合。最大出力――」〔水簾格子斬り〕
やがて、格子状の水の斬撃が、炎の守護者の全身を貫く。
――ジュオォォォォッ!!
「グオォォォォッ!!!」
ボスの咆哮が空間に響き渡る。
そして、炎が一気に消え去り、巨大な体が光の粒子となって崩れていった。
HPバーが完全に0になる。
「……倒したか」
俺は息を整えながら、ゆっくりと呟いた。
「やった……! やったわね!」
マヨが膝に手をつき、安堵の息を吐く。
「やったー! 倒したー!」
「本当に……よく耐えました」
ミリアとカタルシアも、疲労と達成感を滲ませた表情でうなずいた。
そんな中、ボスが消滅した玉座の奥で、新たに一枚の扉が姿を現す。
「……ここからが本番だな」
俺は扉に手をかけ、慎重に開けた。
中は小さな部屋だった。中央に簡素な祭壇があり、その上に鍵型のアイテムが静かに浮かんでいる。
「これ、は……」
俺はそれに手をかざし、〔解析〕を発動した。
【火神の鍵】
『炎の残滓』が収められた宝物庫の扉を開けるための鍵。
ウィンドウに表示された文字を見て、俺は小さく息を吐いた。
「……やっぱり、そう簡単には終わらないか。でも――」
俺はそこまで言うと、笑みを浮かべる。
「このダンジョンは大当たりだったな! この鍵は、炎の残滓ゲットの為には欠かせないものだ」
「そうね。こんなに早く、天神聖書に近づくなんてツイてるわ」
「次は、今度こそ炎の残滓をゲットしましょう!」
「おぉー!」
俺たちは、改めて炎の残滓獲得に向けて気合を入れる。
伝説のアイテムへの道は、まだ続くのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




