第70話 再挑戦
放課後。俺たちは王都の訓練場に来ていた。
入学試験前に最後の特訓を行った場所で、懐かしい雰囲気だ。
「よし、まずは軽く身体をほぐしましょう」
マヨがそう言って、準備運動を始める。
そうして、10分ほど身体を温めたところで、俺は一歩前に出た。
「マヨ。特訓を始める前に一つ渡したいものがあるんだけど、いいかな?」
「ん? どうしたの」
マヨが首を傾げて近づいてくる。
「これなんだけどさ――」
俺は〔インベントリ〕から、淡く青い光を放つ一本の剣を取り出した。
「……これ、何?」
「昨日の夜、スキルで創った〔魔剣・アクエリアス〕だ」
そう言って、俺は剣をマヨに差し出す。
「水属性の攻撃ができる特殊効果がある。それに、水魔法使いが使うと、魔法の出力がかなり跳ね上がるらしい。お前が使うのにぴったりなアイテムだろ」
俺が笑みを浮かべると、マヨは一瞬目を丸くした後、慎重に剣を受け取った。
そして、ゆっくりと鞘から剣を抜く。
細身で優雅な形状。刀身には水の流れを思わせる紋様が浮かび、柄の部分には小さな青い宝石が埋め込まれている。
「……すごい。持つだけで魔力がみなぎるわ」
マヨは剣を軽く振り、感触を確かめる。
「でも、魔力の籠ったものは創るの大変だって言ってなかった?」
「あぁ。だから、今後しばらくはちょっとした回復薬くらいしか作れないけどな。でも、そんな事はいいんだ。今回の勝利の鍵はマヨだ。それに、今までの感謝を兼ねてって感じかな」
俺がそう言うと、マヨは剣を見つめたまま小さく笑った。
「……ありがとう、テンコ。大事に使わせてもらうわ」
その声には、いつもより少しだけ熱がこもっていた。
「どういたしまして。よしっ、それじゃあさっそく試し打ちしてみるか! 形式は俺との一騎討ちで」
俺はそう言うと距離を取る。
「えぇ、そうしましょうか。ミリアとカタルシアちゃんは審判をやってちょうだい」
マヨもそう言って、魔剣を構えた。
マヨが魔力を流すと、刀身が一際強く青く輝く。
「それじゃあ行きますよ。よーい、始め!」
やがて、カタルシアの合図と共に勝負が始まると、マヨが先に動いた。
一歩踏み込んだ瞬間、マヨの姿が加速する。
「水魔法――」〔ウォータースラッシュ〕
(速い……!)
以前とは比べ物にならないほどの規模の、水の刃が襲いかかる。
「雷魔法――」〔瞬雷〕
だが、俺は雷の斬撃で攻撃を相殺した。
――ズシャァァッ!
水が一気に蒸発し、水蒸気が上がる。
「出力が、明らかに違うな」
俺は思わずそう呟く。
まるでネレウスを相手にしているかの如く、"水の圧"を感じる。
「まだまだ!」〔激浪乱斬〕
マヨはそう言うと一気に間合いを詰め、うねるような水の斬撃の乱れ打ちを放った。
「くっ……いい攻撃だ! 雷魔法」〔EMP〕
俺は結界で攻撃を防ぎつつ、反撃する。
「うわッ!?」
俺の攻撃で水の斬撃は分解され、マヨの動きが一瞬鈍った。
しかし――
「水魔法――」〔ウォータースピア〕
すぐに水の槍が、一直線に飛んできた。
俺はそれを直前で躱す。
「やっぱEMPじゃ、アイテムの特殊効果までは消せないか。それにしても、良い対応力だな」
「えぇ、私も成長を感じているわ。だからこそ、あなたに一撃入れてみせるわ!」
マヨがそう言うと、攻撃の密度が一段と上がった。
〔雷電剣・流星〕
〔ウォータースピア・レイン〕
稲妻と水が空中でぶつかり合う。激しい技の打ち合い。
「すごい……テンコとここまで渡り合えるなんて、本当に私じゃないみたいだわ」
マヨは、自分の技の威力に思わずそう漏らした。
「魔剣とのシナジーがすごいな」
俺もそっと呟く。
「マヨねぇ頑張れ!!」
「どっちも頑張ってください!」
横からは、ミリアとカタルシアの声援が響く。
そうして、互いに譲らない攻防がしばし続いた。
そして――
「そろそろ、魔力が尽きてきたわね……決めに行くしかないわ!」
マヨは、今度は魔剣を大きく振り上げた。
刀身から大量の水が溢れ出し、魔剣の周りを渦巻いていく。
(雰囲気が変わった……大技が来るな)
それを見て、俺は身構える。
「剣術、水魔法、混合。最大出力――」〔水簾格子斬り〕
やがて、マヨは魔剣を思い切り振り下ろした。
その瞬間、訓練場を覆うほどの攻撃が放たれる。
格子状の水の斬撃。逃げ場がない。
(この攻撃……〔溟海の荒津波〕並の圧を感じるな。生半可な防御じゃ防ぎきれない……だったら――)
俺は本気で雷を解放する。
(力でゴリ押す!)
「雷魔――」
俺はそう考えて、技を発動しようとした――その時だった。
――パシャーン!!
俺の目前で、突如攻撃が離散した。
「なッ!?」
水飛沫と水蒸気が迫ってくる。
俺は咄嗟に腕で顔を覆った。不意の出来事に、一瞬思考が止まる。
マヨは、その隙を逃さなかった。
「水魔法――」〔水簾一閃〕
マヨは一気に加速し、その横薙ぎの魔剣が俺の銅を捉えた。
「ぐほッ!!」
マヨはそのまま魔剣を振り抜き、俺は後方に飛ばされ、そのまま床に大の字に倒れた。
「そこまで!」
そこで、カタルシアの声が響く。
「大技で注意をそらした後に本命の攻撃……ネレウスみたいだな」
俺が倒れたまま口を開くと、
「えぇ、そうよ。あなたの敗因は私を舐めていたことね。ネレウスは失敗してたみたいだけど、相手が私だからと油断していたわね」
と、マヨが歩み寄ってきた。
「……ぐうの音も出ません」
そんな会話をしていると、
「マヨねぇがテンにぃに勝った!! すごかったよ!!」
と、ミリアも尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
「いい戦いでしたね。私も負けてられません」
カタルシアもミリアの後を追ってくる。
マヨは剣を下ろし、少し照れたように微笑んだ。
「……そうね。でも、この魔剣の力も大きいわ。テンコのおかげよ」
マヨの言葉に、俺は肩をすくめて笑う。
そして――
「よしっ! 気合が入ったところで、2人も参加して最後の特訓するか!!」
「そうね」
「はい!」
「やろーー!」
ミリアとカタルシアも加わり、本格的な最終調整が始まった。
連携や攻撃、防御、作戦など、万全の対策をする。
カタルシアは地属性魔法の中でも火に強い大地魔法を使い、ミリアは遠距離攻撃を練習する。
俺は〔EMP〕を実戦レベルまで練り上げ、マヨは魔剣と魔法のコンビネーションをひたすら極めた。
こうして、訓練場での最終調整は、満足のいく形で終わったのだった。
訓練が終わったのは、夕暮れが近づいた頃だった。
寮に戻ると、明日の準備と確認を始める。
「荷物は全部、俺の〔インベントリ〕に入ってるからな。一応今は、ちょくちょく創って溜めておいたマナポーションと回復薬が数本ずつ、予備の剣3本と杖1本、カタルシアが前着てたローブが入ってるけど、他に必要なものある?」
俺はソファに座り、〔インベントリ〕の中身が表示されたウィンドウを眺めながら尋ねる。
「かなり複雑そうなダンジョンだったし、飲食物も持っておいたほうが良さそうね」
マヨは俺の隣に座って、そう答えた。
「確かにそうですね。後は、私の予備のメガネもお願いします」
カタルシアもマヨに続く。
「わかった。今の懸念は、ダンジョンのギミックだけだな。他にはないか?」
「それくらいあれば十分ね。後はしっかり休息を取って、万全の状態で挑むのみよ。ボスは、前回時点で5パーセント程度しか削れてなかったけど、今ならいける気がするわ」
「そうですね。今日の連携もスムーズでしたし、明日は自信を持って臨めそうです」
マヨの言葉に、カタルシアも静かにうなずく。
「明日は絶対勝とうね!」
「あぁ。今度こそあのボスを倒して、アイテムもゲットしてやる!」
ミリアの言葉に、俺は拳を軽く握った。
そうして、俺たちは明日が来るのを、楽しみに待つのだった。
翌朝。まだ陽が完全に昇りきっていない薄い光の中、俺たちは再び山岳地帯へと向かっていた。
街道を離れ、切り立った岩壁が見えてくる。
やがて、中腹に口を開ける黒く煤けた石造りの入口にたどり着いた。
焔葬の遺跡の入口。以前、圧倒的な力の差を突きつけられた場所だ。
「……着いたな」
俺は入口を見上げながら、小さく息を吐いた。
マヨが隣で静かに魔剣の柄に手を添える。
「それじゃあ、行きましょうか」
「頑張りましょうね」
「うん! 頑張るよ!」
カタルシアとミリアは笑顔でうなずいた。
こうして、焔葬の遺跡攻略の再挑戦が始まるのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




