第69話 自主練
放課後。俺たちは、校庭の端にある実技訓練場に来ていた。
「よし、まずは軽く身体を動かしていくぞ!」
ライオスが先頭に立って号令をかける。
俺たちは円陣を作り、まずは基本の魔力循環と関節の柔軟運動から始めた。
カイスが神力を細かくコントロールしながらストレッチをし、アルトは魔力の出力調整を行っている。
俺もその輪に加わり、ゆっくりと魔力を身体に流していく。
(……魔力操作がだいぶ上達したなぁ)
そんなことを考えながら、みんなが軽い汗が浮かぶ程度まで身体を温めたところで、ライオスがにやりと笑った。
「よし、ウォームアップはここまで! 本番だ! 2対2の模擬戦をやるぞ!」
「チーム分けは……近接の俺とライオスが分かれて、中、遠距離が得意なアルトがライオス、主に近、中距離が専門のカイスが俺とだな」
「それでいこう!」
チームが決まり、俺たちは少し作戦会議をした後、訓練場の中央に立つ。
カイスは眼鏡を軽く押し上げながら、静かに微笑んだ。
「よろしく、テンコ」
「あぁ、頼む」
やがて、簡易結界を張って安全を確保した後、ライオスが大きく息を吸った。
「いくぞー! 始め!」
合図と同時に、ライオスが猛然と突っ込んできた。
「行くぞ!」〔紅蓮の拳〕
ライオスの右腕に炎が集中し、一気に解放される。
一直線に突進してくるその攻撃は、十分な迫力だった。
「テンコ!」
「任せて!」
俺は素早く前に出て、両手を突き出す。
そして、〔ライトニングシールド〕を生成し、ライオスの攻撃を受け止めた。
「くっ……重いな!」
俺が歯を食いしばる中、カイスは横に回り込んでライオスに接近した。
「行くぞ、ライオス!」〔模倣:炎〕
軽く身体を強化し、炎属性を手に纏わせて掌底を放つ。
――ボン!
「ぐわぁ!」
炎が爆ぜ、ライオスがよろめく。
繊細な神力操作。そして、見たものを"1回につき1度だけ"再現できるスキル。
戦闘タイプには見えないが、実は4人の中で最も戦闘が得意な男。それがカイスだ。
だが、ライオスも決して負けてはいない。
「まだまだァ!!」
ライオスは炎を爆発させ、同時にその推進力を使って後退し、間合いを取った。
「アルト! 今だ!」
「了解!」
続けて、アルトが後方から魔法を放つ。
風を操る属性で、俺たちの足元に突風を巻き起こし、バランスを崩そうとしてくる。
「この程度!」
俺は跳躍して風を回避し、そのままアルトに向かって突進した。
だが、アルトは冷静に技を発動させる。
「風魔法」〔旋風斬〕
次の瞬間。強烈な風が、刃のごとく襲いかかった。
「まずい! 防護結界!」
俺は素早く結界を張り、カイスは後ろへ下がり攻撃を回避した。
ライオスはそれに乗じて前線を上げてくる。
「おらァ!!」〔魔炎爆弾〕
――ボォン!
ライオスの放った炎の球は一気に爆ぜ、爆音が轟く。
「ハハッ、良い攻撃だな。出力が以前より上がってる」
その攻撃を見て、俺は笑いながらライオスにそう言った。
「そうだろ!」
ライオスは得意げな表情。
「でも、俺も負けないぜ!」
俺はそう言うと、雷のオーラを一気に開放し加速した。
「いくぞ!」〔瞬雷〕
――バリッ!!
稲妻の斬撃が、ライオスを襲う。
「うおっ!?」
ライオスがとっさに防御したが防ぎきれず、衝撃で後ろに下がった。
その隙にカイスがアルトへ回り込み、
〔模倣:旋風斬〕
と、アルトと同じ技を再現して突風を返した。
「くっ……器用だな!」
アルトが結界で防ぎながら後退する。
激しい攻防が続く。
ライオスの炎は以前より出力が高く、アルトの風魔法も精密さを増していた。
だが、俺とカイスの連携も負けていない。
「雷魔法――」〔天裁きの雨〕
〔模倣:魔炎爆弾〕
無数の雷が降り注ぎ、避けた先にカイスの追撃が来る。
「くっ、なんつう魔力量だ。相変わらずデタラメだぜ!」〔獄炎破弾〕
だが、ライオスも負けじと反撃する。
空から無数の火球が襲いかかる。一つ一つが〔魔炎爆弾〕並の威力だ。
「僕に任せて!」〔模倣:大地創成〕
その攻撃を、カイスは大地の壁で身を覆い防ぐ。
「それは、先生が体育のとき使っていた魔法……! ストックしていたのか!」
それを見たライオスは、目を見開いた。
「僕は3つまでストックできるからね。こういうときのために、隠し玉は常にあるものだよ」
カイスはメガネを触りながら、得意げに言った。
そして――
「じゃあ、そろそろ終わりかな」
俺はそう言いながら決め顔をすると、
「魔法陣展開」
と、唱える。
その瞬間、ライオスとアルトの足元に、巨大な黄色の魔法陣が展開された。
「なっ!? まさか、戦いながらこの術式を組み立てていたのか!?」
それを見たアルトは、驚愕する。
「最近編み出した技で、まだ扱いきれなくてね。だから範囲を絞らせてもらったよ」
俺はそう言いながら、両手を前に突き出した。
それに呼応するように、魔法陣が光り始める。
「まずいな。にげ――」
「逃さないよ」〔模倣:植縛〕
ライオスたちは慌てて逃げようとするが、ツル植物が絡みつき、これを阻止する。
「いくぞ。雷魔法――〔EMP〕!」
次の瞬間、無音の衝撃が訓練場を駆け抜けた。
青い光の波が広がり、ライオスとアルトの体が同時に強張る。
「いーえむぴー? スタン攻撃か? それにしては威力が弱い……」
だが、思ったより害はなく、アルトは困惑する
「ハハハ、失敗したかテンコ! 残念だったな!」
そうして、ライオスが反撃しようとしたその時だった。
――ボボッ!!
技を発動しようと手のひらに発生させた炎が、不自然に消える。
「なにっ!? 魔力がうまく練れない……魔力の流れが……乱れてる……!」
「ライオス、俺もだ。なんだこの現象は?」
ライオスの炎が消えかかり、アルトの風も制御不能になる。
その不可解な現象に、2人は混乱した。
その隙に、俺はトドメを刺す。
「これで終わりだ!」〔雷撃砲〕
――ズドォォン!!
俺の両手から放たれた白雷のビームは、ライオスたちを襲う。
「ぐぁぁぁ!!」
ライオスたちは全身が感電し、その場にひざまずいた。
「はぁ、はぁ……ハハハ、やっぱ敵わねぇな!」
やがて、ライオスはその場に大の字に寝転がり、笑った。
「さっきの技は……一体……?」
アルトは未だ混乱している。
俺は、ライオスたちの元へ歩み寄ると、ゆっくりと口を開いた。
「今の技は、俺が相性の悪い敵と戦うために編み出した技だ。俺の〔雷光〕を拡張した技で、天賦力がおよぶ"場"や"回路"を一時的に乱す効果がある……って言ってもわかんないか。要するに、相手の天賦力に干渉して大きなデバフをかける技ってところかな」
元世界の知識を応用した技。理屈ではなく、何となくできそうというイメージを実現した技だった。
「……よくわかんないけど、やっぱすごいなお前」
それを聞いて、アルトは感心したように言う。
「まぁ、その理不尽さが魔法使いの良いところでもあるね」
カイスは眼鏡を直しながら、静かに微笑んだ。
「今日はいい練習になったな。ライオスたちは、付き合ってくれてありがとな」
「こっちこそ、いい経験ができたぜ! 次は負けねえからな!」
こうして、4人の自主練は和やかな雰囲気のまま終わったのだった。
夜。俺はいつものようにマヨたちの部屋に顔を出した。
ミリアがベッドの上でごろごろしながらお菓子を食べており、カタルシアは机で講義の復習をしている。
マヨはソファに座って、お茶を淹れていた。
俺はカップを受け取り、ソファに座る。
「今日は久しぶりの学校だったけど、いつも通りだったな」
「そうね。身体が冒険モードになってたけど、意外と切り替えられたわ」
そんな他愛ないやり取りをして、マヨが本題に入る。
「それで、焔葬の遺跡の再挑戦の話なんだけど、明後日の土曜日に行こうと思うの。明日は最終調整に充てましょう」
マヨの提案に、カタルシアがペンを置いて顔を上げる。
「賛成です。レベルも装備も整ってきましたし、あと一日あれば万全の状態で臨めます」
「やったー! また冒険だね!」
ミリアが目を輝かせて飛び起き、尻尾を振った。
「そうだな。もう行けそうか。4人のレベル状況は、俺が46、マヨが33、ミリアが38、カタルシアが40か。よくよく見たら、ミリア、お前年不相応なレベルしてるよな」
俺はみんなのステータスを確認しながら、そう呟く。
「ミリアちゃんは獣人ですし、レベル30くらいはすぐにいきますよ。まぁ、レベルが上がるにつれ必要経験値が指数的に上がるので、30から40はその倍の時間かかりますけどね」
それに対し、カタルシアがそう答えた。
「まぁいいか。じゃあ、明日は最終確認ってことでいいな」
俺はその説明に納得すると、話を切り替えそうまとめた。
「ええ。明日の放課後、街にある訓練場に行きましょう」
マヨは満足そうに微笑む。
こうして、炎の残滓獲得に向けた再挑戦の日程が正式に決まった。
あと2日。俺たちは、レベル50のボスに再び挑む準備を整えるのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
ライオス:テンコのクラスメイトで、前期選抜首席の実力者。暑苦しいが、見た目に反して魔法使い。
アルト:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。風魔法使いらしい。
カイス:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。スキルの模倣は加護。




