第67話 困難なミッション
最奥部の扉を開け中に入ると、そこにはいつものように広い空間が広がっていた。
天井が高く、薄暗い。
しかし、今回はいつもと違う点があった。
「ここ……玉座の間か……?」
俺は思わずそう呟く。
円形ではなく縦長に伸びた空間。壁は黒く煤けた石材で覆われ、奥には一段高い台座の上に、巨大な玉座が鎮座している。
まるで、誰かのための"玉座の間"のような造りだった。
「城の遺跡ではないのに……なんだか不気味ね」
「何があるんでしょうか……」
そんな風に、俺たちが警戒していると、
――ゴゴゴゴ……!
と、背後で、重厚な扉がゆっくりと閉まり始める音が響く。
「なっ……!?」
「まずい!」
俺たちが振り返った時には、すでに扉は完全に閉ざされていた。
次の瞬間、両端に並ぶ石柱に、一斉に赤い炎が灯り始める。
空間全体が赤く照らされ、熱気が一気に増す。
「……来るわよ」
マヨが警戒するように剣を構える。俺も即座に雷のオーラを纏った。
そして、玉座の上に赤い炎が渦を巻き、炎は徐々に形を成し、やがて大きな人型の影を作り出した。
炎の塊が凝縮され、装甲のような部位が浮かび上がり、2つの赤い光が目となってこちらを見据える。
全身から圧倒的な熱と威圧が放たれ、空間が軋むような感覚がした。
「……これが……ボスか」
俺は冷静に、〔解析〕を発動する。
しかし、表示されたステータスに、思わず息を呑んだ。
「炎の守護者……レベル50だと……!?」
「レベル50!? なんでそんなのが、中級ダンジョンに……私たちのレベルじゃ勝てないわよ!」
明らかに俺たちよりも格上の相手。
俺たちが困惑する中、炎の守護者は、ゆっくりと玉座から立ち上がり、巨大な炎の剣を生成した。
圧倒的な神力が、空間を満たす。
(これはやばいぞ……どうする。逃げ場はない……いっそ〔破壊者〕で……いや、それはリスクが……)
そんなことを考えていると、
――ドゴォン!!
と、巨大な炎の剣が振り下ろされ、空間を真っ二つに裂くような衝撃波が広がった。
「しまッ――!?」
混乱が収まらない俺は反応が遅れ、攻撃をモロに食らってしまった。
――ドゴッ!
「ぐっ!」
俺は後方に吹き飛ばされ、壁に激しく叩きつけられた。背後の壁に亀裂が走る。
(コイツ……俺にも攻撃をしてくるのか……!)
ドラゴンや古代兵器など、今までの古代系ダンジョンのボスは、俺を攻撃することはなかった。
「テンにぃ!!」
「俺は大丈夫だ!! みんな気をつけろ!!」
俺が叫ぶと、炎の守護者は次の攻撃動作に入る。
「水魔法――」〔ウォータースピア〕
それを見て、マヨが水の槍を複数生成し、一気に投げつけた。
しかし、槍が炎の守護者に触れる直前で、激しい蒸気となって消滅した。
「蒸発……!?」
マヨの目が大きく見開かれる。
水属性が得意なマヨの攻撃が、一瞬で無効化された。
「マヨ、下がれ! あいつ、格が違う!」
俺は雷を全身に纏い、〔雷電剣・流星〕を連射する。
稲妻が一直線に飛んだが、炎の守護者は剣を軽く振っただけで、すべてを弾き返した。
「通らない……!」
ミリアも、遠距離の〔魔獣の爪・弾〕を撃ち込むが、装甲のような炎の表面で爪が弾かれ全く効いていない。
カタルシアのバフもほとんど意味をなさない。
そんな状況でも、炎の守護者は容赦なく次の攻撃を放った。
無数の火球が空間を埋め尽くす。
「結界、限界です……!!」
カタルシアの声が悲鳴に近い。
やがて、結界がひび割れ、熱が内部に侵入してくる。
俺たちは必死に回避しながら反撃を試みるが、どれも決定打にならない。
マヨの大技〔溟海の荒津波〕すら、発動した瞬間に炎の熱で水がほとんど蒸発し、衝撃を与える程度で終わった。
「こんな……水が……!」
マヨの息が乱れる。
俺の雷も、相手の神力の前では蚊に刺された程度の反応しか引き出せない。
(レベル差がこれほどまでに影響するのか……!)
徐々に、みんなの動きが鈍くなっていく。HPが目に見えて減っていくのがわかった。
特にマヨとカタルシアのHPが、半分に迫っていた。
「まずい、このままじゃ――!」
そう思った瞬間、視界が白く弾ける。
気がつくと、俺たちはダンジョンの入口下に立っていた。
岩壁の中腹に空いた入口。切り立った崖。さっきまでいた最奥部の熱気も、威圧も、何も残っていない。
ただ、静かな風が吹いているだけだった。
「……ここ、入口……?」
マヨが呆然と周囲を見渡す。
「強制転移……ですかね。HPが一定以下になったら、自動で排出される仕組みのようです」
カタルシアが息を整えながら、冷静に分析する。
ミリアは地面にへたり込み、尻尾を力なく揺らしていた。
俺は拳を握りしめ、入口を見上げた。
「……中級ダンジョンに、あんなバケモノがいるなんてな」
「相性差を、あそこまで圧倒的にひっくり返されるなんて……私の力不足だったわ」
みんなは、ただ呆然と入口を見上げる。
俺たちが、圧倒的な力の差を身をもって知らされた瞬間だった。
学院の寮に戻ったのは、夕方近くになってからだった。
マヨたちの部屋に集まり、ソファに深く腰を下ろす。誰もが疲れ切った顔をしていた。
「……次の挑戦に向けて、まず現状を整理しましょう」
そんな中、カタルシアが静かに口を開く。
「炎の守護者はレベル50。こちらの現在の戦力では、正面から挑んでも勝ち目はありません。強制転移で命は助かりましたが、このままでは再挑戦しても同じ結果になる可能性が高いです」
「そうだね。だから、最低限の準備は必要だ」
俺は額に手を当てながら、考える。
「レベルを上げるしかないわね。最低でもあと5は欲しいところだけど……」
マヨも腕を組んで、
「それに加えて、テンコの魔力を活用する方法はないかしら。魔力をかなり持て余しているでしょう? 魔導書を使って魔導を習得すれば、戦力強化になるんじゃない?」
と、提案した。
しかし、カタルシアは少し考え込んだ後、首を横に振る。
「魔導の習得は……正直、効率が良くありません。属性魔法となると、基礎から積み上げる必要があり、実戦で使えるレベルまで持っていくには相当な時間がかかります。それなら、同じ時間をレベル上げに充てた方が確実です」
「そうね……じゃあ、素直にレベルを上げて、装備の強化も並行して進めるってことでいいわね?」
カタルシアの意見を受け、マヨがまとめると、みんなうなずいた。
「オッケー」「わかりました」「うん!」
そうして、作戦会議は、そこで一旦終了した。
夜。俺は自室に戻り、ベッドに座って目を閉じた。
「……スピーカー」
そして、久しぶりにスピーカーに話しかける。
〈はい〉
「水関連のスキルを増やしたいんだけど、今、俺が獲得できるものは何がある?」
〈現在、獲得可能な水関連のスキルは以下の通りです〉
少し間が空いた後、スピーカーが返答する。
同時に、視界にウィンドウが浮かび上がるが、候補はほとんどない。
「……少なすぎるな……なんでだ?」
俺が疑問に思っていると、スピーカーは説明を始める。
〈スキルの獲得には、ポイントの蓄積が必要です。ポイントは経験値や天賦力量、レベルに対応しています〉
「ポイント……?」
〈はい。正確には、経験値同様、表示されない裏のシステムパラメータであり、蓄積されたポイントを消費することで、創造が可能となります〉
「なるほど……つまり、俺はここ最近学院生活で、そのポイントを溜めれていなかったということか」
俺はスピーカーの説明に納得する。
そして、あることに気がついた。
「ん? そういえば、スキル以外にも特殊なアイテムとかも創れるのか?」
〈はい。特別なアイテムの創造も可能です〉
今までスキルにこだわっていたが、よくよく考えれば、特殊効果つきのアイテムも創れて当然だ。
俺は少し考えてから、続けて尋ねた。
「今創れそうなもので、炎属性に強い武器はあるか?」
〈はい。現実的な範囲で、最も強力なアイテムは〈魔剣・アクエリアス〉が該当します。水属性を帯びた魔剣であり、炎属性の敵に対して高い有効性を持ちます。創造するには、あと2レベルの上昇が必要です〉
スピーカーの言葉を聞いて、俺は軽く拳を握った。
「……アクエリアス、か。2レベル上げれば作れるんだな」
俺は目を開け、天井を見上げる。
(やっぱりゲームのクエストは、苦労がなくちゃ面白くないよな!)
そんな思いを胸に、俺はベッドに寝転がった。
翌朝。俺たちは早めに寮を出て、レベルを上げるためダンジョンへと向かった。
「レベルは以前より簡単には上がらないが、頑張ろう!」
俺が地図を確認しながら言うと、マヨが隣でうなずく。
「ええ。無駄に時間をかけないように、効率よくいきましょう」
「お宝もあったらいいな〜!」
ミリアが元気よく先を歩き、カタルシアが苦笑しながら後に続く。
こうして、俺たちの本格的なレベル上げと、再挑戦への準備が始まったのだった。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。
ブックマークがいただけると、大変励みになります。
〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




