第66話 焔葬の遺跡
切り立った岩壁の中腹に開いた入口に、俺たちはカタルシアの植物魔法で登る。
(ジャックと豆の木みたいだな……)
そんな事を考えながら、ダンジョンに足を踏み入れる。
「お〜、雰囲気あるなぁ〜」
内部は予想以上に薄暗かった。
壁には古びたルーンや複雑な印がびっしりと刻まれ、壁に並んだ淡い灯りが、空間に光を落としていた。
空気はひんやりとしていて、どこか異様な静けさが漂っている。
「……なんか、妙な感じがするわね」
マヨは周囲を見回しながら呟いた。
その言葉を聞いて、俺は違和感に気づく。
空間を漂っている力――いつもとは異なる気配。
「これ……魔力じゃない。神力だ。このダンジョン、神力で満たされてる」
俺が違和感を口にすると、カタルシアが静かにうかずいた。
「確かに、神力が漂っていますね……このダンジョンは当たりかもしれないです」
「当たり?」
カタルシアの言葉に俺が疑問符を浮かべると、カタルシアはゆっくり語り始めた。
「火の化身ベテルギウスは、神力を使うと言われているんです。魔神王は魔と神の両方を司っているので、生み出した星将も、魔と神に分かれているんですよ。その中で、ベテルギウスは神に分類されます。他に神は光、雷、空。魔は闇、地、水という構成です。なので、神力で満たされているこのダンジョンは、ベテルギウスに縁のあるダンジョンである可能性が高いという訳です」
「なるほど……言われてみれば、確かに全員魔法っていうのもおかしな話か」
俺は壁に刻まれたルーンを眺めながら、その言葉を噛み締めた。
遺跡全体に染み付いているような、神力の気配。
「まぁ、何はともあれ気をつけて進もう。何か仕掛けがあってもおかしくない」
そうして、俺たちは慎重に通路を奥へと進み始めた。
俺たちは、薄暗い通路を進んでいく。
壁のルーンは時折淡く光るだけで、特に反応を示すこともなく、魔物の気配もほとんどない。
「……なんか静かだな」
俺が呟くと、マヨが小さく息を吐いた。
「まぁ、ここは神聖な遺跡だし、入口もあんなだから魔物が住みつかないのね。城の遺跡って訳でもないから罠も少ないし」
「そうですね」
カタルシアは結界を薄く展開し、警戒を怠らない。
そんな緊張感を保ったまま、さらに十分ほど進んだときだった。
――突然、壁一面のルーンが、一斉に赤く光り輝いた。
「なっ……!?」
「まずい! これは――」
次の瞬間、視界が白く弾けた。
次に目を開けたとき、周囲の景色は完全に変わっていた。
さっきまでの通路とは違う、入り組んだ石造りの迷宮。
天井は低く、分岐が無数にあり、出口の気配がまったくしない。
「……飛ばされた、か」
「空間転移の罠ね。ルーンが起動したわ」
俺とマヨは、冷静に状況を分析する。
「出口がわかんないよ……!」
ミリアは少し不安そうに尻尾を揺らした。
「大丈夫ですよ、ミリアちゃん。テンコさんの解析と、私の感知で進めば問題ありません」
そんな中、カタルシアが落ち着いた声で支える。
俺たちは互いにうなずき合い、迷宮をさまよい始めた。
奥に進むにつれ、炎属性の小さな精霊や、炎を纏った獣型の魔物がたびたび出現するようになる。
レベルは20前後で、特に苦戦するほどではないが、数が多く、罠と組み合わさっているのが厄介だった。
炎の床トラップを避け、崩落する天井をかわしながら、慎重に進む。
「この迷宮、意図的に撹乱する設計になってるな……」
俺が解析を続けながら呟くと、マヨが隣で剣を構えた。
「だからこそ、気を引き締めないとね」
そうして戦いと探索を繰り返すうちに、俺たちは広い空間に出た。
ダンジョンボスの居そうな、円形で天井の高い広い空間。
中央には、巨大な炎の塊が浮かんでいる。
それは人型に近い姿をしており、全身を炎で包み、2つの光る目でこちらを見据えていた。
「……これは」
俺は自然と戦闘態勢を取る。
解析から、ここがダンジョンの最奥部ではないことはわかっていた。
(このダンジョンには、中間ボスがいるのか……ちょっとワクワクするな)
俺は少し興奮しつつ、解析する。
「あいつは『炎の精霊帝』。レベル35の炎の精霊だ。弱点はもちろん水」
俺が解析結果を簡潔に伝えると、マヨが前に一歩出た。
「なら、ここは私が主力でいくわ。テンコとミリアは牽制を、カタルシアは結界とサポートをお願い」
「了解!」「わかりました」「任せて!」
マヨの指示に、俺たちは即座に動いた。
巨大な炎の精霊が両腕を振り上げ、炎の奔流を放つ。
それに対し、カタルシアが素早く結界を展開し、熱波を弾く。
その隙に、マヨが水の槍を生成して投げつけた。
「水魔法――」〔ウォータースピア〕
複数の水槍が精霊の胴体に突き刺さり、激しい水蒸気が上がる。
精霊が咆哮を上げて身をよじる。
「今だ!」
俺は雷を纏い、距離を保ちながら〔ライトニングアロー〕を放った。
しかし、雷と火は互いに相性が悪く、あまり干渉しないため攻撃が通らない。
「まじかっ!?」
困惑する俺をよこm、すかさずミリアが地面を蹴り、側面から飛びかかって、〔魔獣の爪〕で体勢を崩した。
「ナイス、ミリア!」〔ウォータースラッシュ〕
精霊が大きくのけぞったところへ、マヨが攻撃を叩き込む。
――ジュオォ!!
マヨの攻撃は、炎の精霊にとって大ダメージとなる。
一撃でHPがどんどん削れていく。
だが、炎の精霊もそれだけでは終わらない。
「ヴォオォォォォ!!」
炎の精霊は、凄まじい咆哮と共に数十の火球を放ってきた。
「みなさん、下がってください!!」
カタルシアはそう叫ぶと、結界でバリアを張り、攻撃を防ぐ。
そこに、炎の精霊が突っ込んできた。
――ズドン!!
炎の精霊の拳が結界にぶつかり、鈍い振動が伝わってくる。
「うっ……やばいです。このままだと、破られます!」
カタルシアは、結界を維持するのが限界な様子。
しかし、マヨはニヤリと笑うと、
「ナイスサポートよ、カタルシアちゃん。もう溜まったわ」
と言い、居合の構えをした。
「水魔法。最大出力!」〔溟海の荒津波〕
そして、マヨの大波が精霊を包みこんだ。
「グオォォォォ!!!」
炎の精霊は抵抗するが、マヨの水魔法がそれを完全に打ち消し、
――ジュワッ……
と、巨大な炎の塊が急速に縮小し、やがて消えていった。
広い空間に静寂が戻る。
「……倒したわね」
マヨが剣を下ろして息を吐く。
「すげぇなマヨ! あんな速度で〔溟海の荒津波〕を放てるようになってたなんて。今回俺は何もできなかったよ」
俺はマヨに歩み寄ると、そう声をかけた。
「ええ。おかげで大きな消耗もなく済みました」
カタルシアも結界を解いてうなずく。
「ま、まぁ、今回は相性が良かっただけよ」
その言葉に、マヨは頬を赤らめて視線をそらした。
「さぁ、早く先に進も~!!」
そんな中、ミリアは奥の方に駆け出す。
奥の壁には、いつの間にかさらに続く通路が口を開けていた。
「あぁ、そうだな」
俺はそう言って、さらに奥へと足を踏み出した。
しばらく奥の通路を進むと、景色が一気に変わる。
天井が消え、代わりに広大な縦穴が口を開け、無数の石の足場が不規則に浮かび、淡い炎の光を放ちながらゆっくりと動いていた。
「おぉ、怖ぇ。これはまた、厄介な構造だな」
底は暗くて見えない。
俺以外が落ちたら危険だ。
「私の植物魔法でゆっくり降りましょうか」
俺が色々考えていると、カタルシアがそう提案した。
俺たちはその案に賛成し、徐々に下層へと降りていった。
時折、炎の矢が飛んできたり、足場が突然崩落したりする罠もあったが、俺の解析で先読みしながら回避しする。
やがて、数メートル下に重厚な扉が見えてきた。
最後の足場から飛び降り、扉の前に着地する。
「……着いたな」
俺は扉を見上げながら、小さく息を吐いた。
扉は黒く煤けた石材で作られ、表面には炎を象った巨大な紋様が刻まれている。
周囲の空気は熱を帯び、明らかに最奥部の気配を放っていた。
「この先に、『炎の残滓』があるのかしら」
マヨが隣に立ち、同じように扉を見つめる。
「雰囲気的にはあってもおかしくないな」
「そうですね。ただし、このダンジョンが未踏破だというのも気になります。油断せずに行きましょう」
カタルシアの言葉に、俺たちは気を引き締める。
そして、俺は皆の顔を一度見渡し、扉に手をかけた。
「よし、行こう!」
そう言い、俺たちは最奥部の扉を押し開けるのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




