第65話 伝説のアイテム
学院の書庫から戻った俺たちは、すぐにマヨたちの部屋に集まり、今後の方針を話し合っていた。
「禁書庫の解放条件で足りないもの、はレベル50以上またはレジェンドアイテム『炎の残滓』の所持……か」
俺はソファに座りながら、ステータスウィンドウを開いて、自分のステータスを確認する。
現在のレベルは45。あと5レベル上げれば条件を満たせるが、それなりに時間がかかりそうだ。
「レベル上げだけでもいけるけど、並行して『炎の残滓』も探した方が効率的よね」
そんな中、マヨが腕を組んで提案する。
「そうですね。どちらか一方に絞るより、両方進められる方が安心です」
それに、カタルシアも同意する。
「お宝探し……久しぶりに大冒険した~い!」
ミリアはすでにやる気満々だ。
「じゃあ、明日からは情報集めとレベル上げを並行して進めよう。まずは『炎の残滓』がどんなものか、どこにあるのか調べないとな」
俺がまとめると、みんなうなずく。
そうして、俺たちの次の方針が決まったのだった。
翌朝。俺たちは、情報収集のため、王都イロアスの中心部にある冒険者ギルドへ向かう。
ちなみに、昨夜、スピーカーに『炎の残滓』について尋ねてみたが、有益な情報は得られなかった。結局、自分たちで地道に調べるしかないらしい。
「おぉ~、これが王都の冒険者ギルドか!」
しばらくして、俺たちはギルドへと到着する。
ギルドはミルキーウェイのものとは大違いで、ちょっとしたビルのような大きな建物がそびえ立っていた。
周辺はとても活気があり、朝から多くの冒険者が行き交っている。
「流石フォルティス王国だわ。ギルドの規模が桁違いね」
「ここなら、何か情報があるかもしれませんね」
そう言いながら、俺たちは建物の中へと入る。
そして、受付にレジェンドアイテムを探している旨を伝えると、すぐに奥の部屋へ通された。
しばらく待っていると、やがて1人の男が部屋に入ってきた。
年齢は40代半ばくらい。短く刈り込んだ黒髪に、鋭い目つき。冒険者らしい傷が残る顔だが、どこか落ち着いた雰囲気をまとっている。
「はじめまして。このギルドのギルドマスターをやっているオリブという者だ。君たちが、レジェンドアイテムを探しているという冒険者か?」
オリブはそう言いながら、机の向こうに座る。
「はい。『炎の残滓』というアイテムについて、何かご存じないでしょうか」
俺が切り出すと、男は一瞬目を細めた。
「……炎の残滓、か」
オリブは少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「珍しいものを探すんだな。あれは、フォルティスに存在すると言われる伝説のアイテムだ。だが、正確な所在も、姿形も、ほとんど伝わっていない」
「それでも、何か伝承はあるんですか?」
マヨが前のめりになって尋ねる。
「あぁ……だが、本当に伝説的なはなしだ」
やがて、オリブは机の上に肘をつき、ゆっくりと語り始めた。
「古代イロアス帝国と古代アース帝国が戦争をしていた頃のことだ」
「古代アース帝国って……今のミルキーウェイ帝国があったところの……」
俺は、初めて天神聖書を見つけた奇妙なダンジョンを思い出す。
「そうだ。そして、イロアスは『火の化身』と呼ばれる存在に、滅亡寸前まで追い詰められた。その時、イロアスの指導者が化身と盟約を結んだらしい」
「盟約……?」
「ああ。『次に我らの国を襲えば、その『炎の残滓』によって、貴様たちの国は業火に焼かれるだろう』――そう言い残して、化身は炎の残滓をイロアス側に渡したという。一種の抑止力としてな」
ギルドマスターはそこで一度言葉を切り、俺たちを見据える。
「その……火の化身っていうのはもしかして……」
俺が口を開くと、隣でカタルシアが小さく呟いた。
「火の化身――七位星将第六席『ベテルギウス』……確か、古いおとぎ話で似たようなものを聞いたことがあります」
カタルシアは少し間を置いてから、静かに語り始めた。
「七位星将は、かつて魔神王が直接生み出した七柱の強大な存在です。その中で第六席のベテルギウスは、戦いの神として恐れられていました。特にラニアケア大陸では、ミルキーウェイの前身である古代アース帝国を守護する存在として君臨し、他国への抑止力としても機能していたと伝えられています」
「伝説の魔神王の眷属ってわけか……」
オリブが呟くと、カタルシアはうなずいた。
「はい。その力が余りにも強大だったため、敵対する国々は本気で攻めることを躊躇したと言われています。今回の『炎の残滓』の伝承も、そうした力の一端を示しているのかもしれません」
オリブは腕を組んで、静かに息を吐く。
「七位星将、か。聞いたことはあるが、あくまで伝説。正直、実在するか怪しいものだ」
オリブの反応は予想通りだった。現代では、星将や魔神王の存在はほとんど神話やおとぎ話扱いになっている。
だが、俺たちは違う。俺たちは、それが単なる伝説ではないことを知っている。
(……やっぱり、ここにあるんだな)
俺は内心で確信を強めた。
「それでも、場所の手がかりくらいはありませんか? 古代イロアス帝国のダンジョンのどこか、とおっしゃっていましたが」
俺はオリブにそう尋ねる。
「そうだなぁ……可能性のあるダンジョンはいくつかあるが、一番有力なのはここだ」
オリブはそう言うと、カバンから古い地図を取り出し、広げた。
指差された場所は、王都からそれほど遠くない山岳地帯。
「『焔葬の遺跡』と呼ばれている。危険度は中級だが場所が複雑すぎる上、古代の仕掛けが難解で踏破者はいないと言われている。あそこなら、何か手がかりがあるかもしれん」
「わかりました。ありがとうございます」
俺たちは礼を述べ、地図の写しを受け取る。
「気をつけろよ。伝説のアイテムを探す連中は、ろくな目に遭わないことが多い」
オリブの忠告を背に、俺たちは部屋を出た。
外に出ると、マヨが小さく息を吐く。
「……本当にありそうね。
「案外簡単に情報が手に入ったが、さっそく行くか?」
「そうね。じゃあ、焔葬の遺跡へ向かいましょうか!」
「久しぶりの冒険だー!」
みんなの笑顔に、俺は地図を握りしめた。
そうして、俺たちは『炎の残滓』を求めて、次のダンジョンへと向かうことになった。
昼。俺たちは諸々の準備を済ませ、目的のダンジョンへ向かう。
王都から山岳地帯までは、歩いて数時間ほどだが、馬車で行くと早く着く。
街道を離れ、徐々に人通りは少なくなっていったところで、インベントリから久しぶりに荷車を出し馬車で進む。
「焔葬の遺跡……か。名前からして、いかにも炎っぽいな」
俺が地図を確認しながら呟くと、マヨが口を開いた。
「火の化身――ベテルギウスの伝説と繋がっているなら、当然かもしれないわね。七位星将の力の一端が残っている場所、ってことかしら」
「そうですね。でも、不思議なのは天神聖書との関係です」
カタルシアが静かに続ける。
「天神聖書はミルキーウェイの魔神王――つまりテンコさんに関わるものだとされていますが、実際に『炎の残滓』が禁書庫の封印を解く条件になっているのは、偶然ではない気がします」
その言葉を聞き、俺はふと過去の記憶を辿った。
「そういえば……初めて天神聖書を見つけた時のこと、覚えてるか?」
「古代アース神殿、よね」
「ああ。その時、壁に妙なシンボルが描かれていなかったか。木のような……いや、枝が広がるような模様だった」
「……それってもしかして」
カタルシアが少し考えるように視線を落とす。
「ハッ……! 竜星神殿だ」
俺が言うと、3人が同時にこちらを見た。
「竜星神殿で見た七位星将のシンボルと、酷似している」
「……本当に?」
マヨが目を細める。
「ああ。当時は『既視感があるな』くらいにしか思わなかったけど、今こうして話を聞いてみると、明らかに繋がっている気がする」
ミリアが尻尾を軽く振りながら、首を傾げた。
「そもそも、誰が書いたの? テンにぃ?」
「う〜ん……」
俺は空を見上げながら、思考を整理する。
(確かに、天神聖書って誰が書いたんだ? なんのために……何が書かれているんだ……)
ピースが少しずつ嵌まっていくと同時に、謎が深まっていく感覚。
「……複雑になってきたな。でも、少なくとも『炎の残滓』を手に入れれば、禁書庫に入れる。そこから先は、また考えよう」
「そうね。まずは目の前のダンジョンをクリアしましょう」
そうして話しながら進むうちに、前方に切り立った岩壁が見えてきた。
岩壁の中腹に、黒く煤けたような石造りの入口が口を開けている。
「……着いたみたいだな」
俺は地図をしまい、入口を見上げた。
「おお〜、楽しみだね!」
ミリアが目を輝かせる。
「油断は禁物よ。ギルドマスターも言っていたし、仕掛けが複雑らしいから」
マヨが釘を刺すように言う。
「気をつけて進みましょう」
カタルシアも真剣な表情でうなずく。
俺たちは互いに顔を見合わせる。
こうして、『炎の残滓』を求めた探索が、本格的に始まるのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




