第65話 全身全霊
エリックとの激戦を終えてから、俺はさらに一試合をこなす。
相手は2回生の強豪だったが、エリック戦で得た手応えを活かし、比較的スムーズに勝利を収めることができた。
(まだ終わらない……この総当たり、全部やり切らないと代表は決まらない)
俺は、控室で軽い昼食を取りながら深呼吸をする。
やがて、昼休憩が終わり、午後の試合が再開された。
第一闘技場は朝以上に熱気と緊張感に満ちている。代表選抜期間中とはいえ、この一騎討ちの総当たりは学院全体の注目を集めていた。
俺は控室で軽くストレッチをしながら、次の相手を待った。
やがて、体育教師の声が響き渡る。
「次、テンコ=ミルキーウェイvsアンナ・ソーディア!」
その瞬間、会場全体がどよめき、すぐに大きな拍手に変わった。
(……ついに来たか)
俺は一呼吸置いてアリーナへと足を踏み入れた。対面に立つのは、3回生首席のアンナ。
金の髪を後ろでまとめ、聖なる気配をまとったアンナは、いつもの穏やかな微笑みを浮かべている。
しかし、その瞳の奥には、学院最強と謳われる剣士としての鋭い光が宿っていた。
「テンコさん。エリックさんとの戦い、とても素晴らしかったわ。まさか、こんなに早く再戦できるなんて……少々本気でいきます」
アンナの声は静かだが、闘気を感じさせるものだった。
「はい……全身全霊でお相手します」
俺は軽く頭を下げ、構えを取った。
心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、俺は内心で呟いた。
(アンナさん……本気で来るなら、俺も全力で挑むしかない)
やがて、教師が手を高く掲げ、試合開始の合図を告げた。
——瞬間、闘技場の空気が一変した。
アンナが一歩踏み込んだ刹那、姿が視界から消えた。
(速い……!)
俺は咄嗟に横へ跳ぶ。直後、背後から剣が空を裂いた。
「くっ……!」〔瞬雷〕
俺は即座に反転し、生成した雷剣から雷の斬撃を放つ。
黄色い稲妻の軌跡がアリーナを横断するが、アンナは余裕で回避。まるで風のように滑る動きで間合いを詰めてくる。
観客席から「見えない……」「速すぎる」という驚きの声が上がった。
アンナの聖剣が聖光を纏い、連撃を浴びせてくる。
一撃一撃が重く、正確で、隙がない。俺はカウンターを狙うも、ことごとく先読みされる。
(俺はこの学院に来て、レベルこそ上がってないものの、以前より確実に強くなった。でも、強くなったからこそはっきりとわかる……この人は、化物だ)
俺の全力の〔雷駆〕は、初速で遷音速に達する超スピードの技。なのに、アンナはそのスピードを軽く上回る程のスピードを持っている。故に、攻撃から逃れられない。
そして――
(以前戦った時はわからなかったけど、この人、無駄がなさすぎる。全ての神力をスキルや身体強化に還元し、ロスが全くない。異次元の神力操作……)
出力。神力操作。そして、美しすぎる剣術。
(これでレベル39とか……嘘だろ……! 下手したら、アンドロメダの第一王子——本気のラッツより強いぞ……!)
俺はギアを上げる。
「出し惜しみはしない……!」〔ライトニングソード・双〕
雷剣をもう一つ生成し、その剣にありったけの魔力をそそぎ込む。
すると、黄色だった雷剣が青白く変化した。
「ほう、まだ余力があるようね。ならばこちらも、とっておきを見せてあげるわ」
アンナはそう言うと、
「――神剣解放」
と、聖剣の力を解放した。
剣を纏う光が増大し、黄金に輝き始める。
「あ、あれはまさか、アンナさんの神剣!?」「なんてオーラなんだ……」「聖剣よりワンランク上の剣……すごすぎる!!」
その光景に、観客席からはどよめきが起こった。
アンナは静かに剣を構える。そして――
「それでは行きます」
――ドォォン!
目にも止まらぬ強烈な一閃が、アリーナを震わせた。
「ッ!?」
俺は間一髪でそれを避けると、
〔雷電双閃〕
と、怯まずカウンターを入れる。
アンナは後退してこれを回避。だが、その隙に俺は次の技を繰り出した。
〔雷電双剣・乱れ裂き〕
青白い稲妻の斬撃が、アンナを襲う。
〔神剣・簡易聖域〕
しかし、アンナは目の前にバリアのようなものを張り、攻撃をガードした。
(あれは……空間を切り裂き、囲んだ範囲を聖域にして魔法を浄化する技。その応用か。まずいな)
力の差は圧倒的。普通の生徒なら、既に死んでいてもおかしくない程の攻撃に、俺は内心焦る。
だが、俺は自分を奮い立たせ、本腰を入れた。
〔雷電剣・流星〕
俺は剣を掲げ、多方向から雷剣を降り注がせる。
アンナは聖なる障壁を展開しながらも、俺の攻撃を最小限の動きで躱し、剣で俺の側面を打ってきた。
〔ライトニングシールド〕を展開するも、衝撃が身体に響く。
俺は距離を取り、即座に〔雷電双剣・乱れ裂き〕を放った。
今度は、俺の攻撃がアンナの頰をわずかに掠める。
「……やるわね、テンコさん」
そんな中、アンナが初めて本気の笑みを浮かべた。
次の瞬間、アンナの気配が爆発的に膨れ上がる。
聖光が爆発し、アンナの速度がさらに上がった。もはや残像すらほとんど残らない。
俺は必死に反応し、攻撃を凌ぎながらカウンターを入れるが、徐々に防戦一方になっていく。
全身が熱を持ち、雷のオーラが激しく揺らぐ。俺は歯を食いしばり、切り札を繰り出した。
「雷魔法、最大出力——」〔撃・滅紫電〕
紫電の一撃がアリーナを穿つ。これまでで最も集中した一撃だった。
しかし――
——バチィッ!!
アンナはそれを真正面から受け止め、神剣を振り抜いた。
爆音とともに衝撃波が広がる。俺の紫電が砕け散り、アンナの剣が俺の肩を浅く斬り裂いた。
「がっ……!」
膝が折れそうになる。
(俺の身体に傷が!? 防御力無視の攻撃……まずすぎる!!)
俺は即座に後退する。
だが――
「素晴らしいわ。本当に……あなたは成長した」
アンナの声が静かに響いた直後、アンナの聖光が最大限に輝いた。
〔神剣・白光閃〕
刹那、俺の視界は完全に白く染まった。
次の瞬間、胸に強烈な衝撃が走り、身体が浮く。
――ズガァァン!!
そして、俺はアリーナの壁に叩きつけられ、壁を滑り落ち、膝をついた。
全身が痺れ、立とうとしても力が抜ける。
やがて、教師の声が響いた。
「勝者、アンナ・ソーディア!」
会場から割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
俺はゆっくりと顔を上げる。すると、アンナがこちらに歩み寄り、手を差し伸べてきた。
「……参りました。アンナさん、強すぎます」
俺は苦笑しながらその手を取って立ち上がる。
「あなたこそ、本当に強かったわ。代表に相応しい戦いだった……お疲れ様」
アンナは優しく微笑み、軽く頭を下げて去っていった。
その後、残りの試合も行こなわれ、総当たり戦の俺の成績は4勝1敗。第2位という好成績で、無事一騎討ちの代表に決定した。
会場から再び大きな拍手が送られる中、俺は控室に戻りながら静かに息を吐いた。
(……全身全霊で挑んでも、首席には届かなかったか。流石は聖人族。種族としてのパワーが桁違いだった)
こうして、『一騎討ち』の代表選抜試験は幕を閉じた。
その日の夜。俺はいつものように、マヨたちの部屋でくつろいでいた。
ソファに深く腰を下ろし、今日の激戦の疲れを癒やしていると、カタルシアが紅茶を淹れてくれた。
ミリアはベッドの上でクッションを抱えて座り、マヨは俺の隣に座った。
「テンコさん、本当にお疲れ様。4勝1敗で第2位……一騎討ちの代表、決定おめでとうございます」
カタルシアが優しく微笑みながらカップを差し出す。
「あぁ、ありがとう。でもアンナさんには完敗だったな……あの人、本当に化け物だった」
「それでも、ものすごく成長していたわ。やっぱり、ポテンシャルは圧倒的ね」
少し視線を落とす俺に、マヨが励ましの言葉をかけた。
「そうだな。でも……それにしても、あの強さは異常だ」
今日の戦いで全身全霊を出し切った手応えは確かにあった。でも、それでも首席には届かなかったという現実が、胸の奥に残っている。
「まぁ、その話は置いといて――」
そんな中、お茶を一口飲んでから、俺は本題を切り出した。
「実はさ……もう一つの候補競技の話なんだけど」
「魔水晶バトルロイヤルね」
マヨがすぐに察す。
「ああ。あの競技の選抜試験は特殊で、候補者一人+候補者が選んだメンバー4人で計5人のパーティを組んで戦う形式らしい。チーム戦だから、連携が全てになるって話だ。だから、俺は今まで冒険をしてきたこのメンバーで挑みたい」
俺がそう言うと、ミリアの目がキラキラと輝いた。
「それって、テンにぃと一緒に戦えるってこと!?」
その言葉に、部屋の空気が一瞬温かくなった。
カタルシアが静かに微笑む。
「ふふ、そう言って頂けて嬉しいです。私もテンコさんと一緒に大会に出られたら……きっと楽しいと思います」
「私も、そう思うわ!」
マヨも乗り気に口を開いた。
ただ、まだ一人足りない。
「問題は、残りの1人をどうするかだが……」
「他の候補者を選ぶことも可能なのよね?」
「あぁ。だから――」
俺は少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「もう1人のメンバーは、ネレウスさんにしようと思う」
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
アンナ:学院3回生首席の聖人族。剣神という以下にも強そうなスキルを持っており、学院最強と謳われる女。容姿端麗。




