第64話 代表決め
合同体育が終わって数日後の火曜日。
朝のホームルーム。ネス先生がいつになく引き締まった表情で教壇に立った。
「本日から、いよいよ代表決め――すなわち代表選抜試験が行われる。ここにいるのは、先週の会議で代表候補者に選ばれた者たちだ。気を引き締めるように」
先生の短い言葉に、教室全体がピンと張りつめた空気になる。
代表決めのシステムはシンプルだった。直近の体育や実践訓練などの成績と結果を基にした教員会議で各種目の代表候補が選出され、その候補者同士で競い合う。
そして、特に優秀だった上位3名が本選の代表に選ばれ、残りは補欠となる。
1人あたり最大2種目まで出場可能で、3回生までが対象だ。
天星級の生徒たちは、ほぼ全員がなんらかの種目で候補に挙がっていたため、みんなの表情は真剣そのものだ。
ネス先生は黒板に「代表選抜期間」と書きながら、続けた。
「各種目の詳細なスケジュールは後ほど貼り出す。今日は『伝導騎馬戦』と『一騎討ち』、『殲滅タイムトライアル』の総当たり戦が行われる。候補者は準備しておくように」
(一騎討ち……か)
俺は少し目を細める。
というのも、昨日寮に『一騎討ち』と『魔水晶バトルロイヤル』の代表候補者になったと通知が来ていたからだ。
(大会でも特に注目される競技……頑張らないとな)
俺は心の中でそう呟く。
やがて、ホームルームが終わると、教室はいつもより静かに、しかし熱を帯びた空気に包まれた。
ライオスが俺の机に寄ってきて、小声で言う。
「テンコ、お前一騎討ちの代表候補になったんだろ? 絶対に代表になれよ!」
「あぁ。頑張るよ」
俺は静かに微笑みながら答えた。
こうして、親善大会に向けた本格的な代表決めが幕を開けたのだった。
一コマ目。俺たち一騎討ちの代表候補者は、第一競技場に集まった。
周りには錚々たるメンバーが集まっており、かなりピリついた空気が流れている。
3回生首席のアンナをはじめ、上位の実力者たちがずらりと並んでいた。
観客席には、候補に選ばれなかった生徒や、今日は試験がない生徒、別の学科の生徒たちが座っている。その中には、マヨたちの姿もあった。
(試験期間中は候補者以外休みなはずなのに、やっぱり注目されてるな……少し緊張する)
そんなことを考えていると、
「テンコさん……」
と、隣から女の声がした。
「ッ!? あ、アンナさん!?」
俺はビックリして振り向く。
そこには、運動着姿のアンナが立っていた。
(い、いつの間に!? まるで気配を感じなかった……入学式の時はあまり感じなかったけど、なんて異質な雰囲気なんだ……)
「驚かせてごめんなさい。珍しい顔がいたからあいさつしようと思って。1回生で一騎討ちの候補者になるなんて、やはりあなたはすごいのね」
アンナはそう言うと、ニコッと微笑む。
(アンナ・ソーディア……学院最強と謳われる聖人族の剣士。かなりの名家出身とウワサされているけど、出自不明のミステリアスな人……)
俺はそんなことを考えながら、
「ありがたいお言葉です。期待に添えるよう、全力で代表枠を取りにいきたいと思います」
と、言葉を述べた。
それを聞いたアンナは、
「楽しみにしてるわね」
と残して、その場を去って行った。
そんなことをしていると、やがて体育教師が中央に立ち、総当たりのルールを簡単に説明した後、試合が開始される。
序盤は他の候補者たちの試合が続いた。3回生同士の激しいぶつかり合いや、搦め手を使ったハイレベルな読み合いなど、見応えのある戦いが展開される。
俺は控えスペースで待機しながら、じっくりと相手の動きを観察した。
そうして、俺の順番が回ってくる。
「次、テンコ=ミルキーウェイvsエリック=フォルティス!」
教師の声が響くと、会場がわずかにざわめいた。
(フォルティス……あれがウワサの、フォルティス王国侯爵家の次男か。初戦からかなりハードだな)
アリーナに入ると、対戦相手のエリックがすでに待っていた。
青白色の髪をした、冷静な印象の青年。エリックは俺を見て、わずかに目を細める。
「1回生が一騎討ちの候補に選ばれるとは珍しい。しかも後期三席……興味深いな」
そして、エリックは静かな声で言った。
侮りではなく、純粋な好奇心が感じられる口調だった。
「よろしくお願いします」
俺は軽く頭を下げ、構える。
「君の実力は大方把握している……存分にやらせてもらう」
エリックがそう告げた瞬間、試合開始の合図が鳴った。
同時に、エリックは即座に両手を掲げた。
「〔プラズマ〕——発動」
次の瞬間、エリックの周囲に青白いのプラズマが渦を巻き始めた。
空気が帯電し、鋭い裂けるような音が響く。
(プラズマ……! ウワサには聞いていたが、とんでもない出力だ)
俺は雷のオーラを纏いながら距離を取った。そして、先手必勝とばかりに〔雷光〕を放つ。
稲妻が一直線にエリックを襲うが、エリックはプラズマの壁を展開して難なく受け止めた。むしろ俺の雷撃が彼のプラズマに吸い込まれるように中和されていく。
「電撃耐性……いや、相性が良いのか」
俺が呟くと、エリックが静かに微笑んだ。
「その通りだ。私の加護『プロズマ』は文字通りプラズマを操る。君の雷も、所詮はプラズマの一種に過ぎない」
同じ系統のスキル。故に、相性差ではなく、純粋なる力量の差で勝敗が決まる。
「……厄介だ」
そこからは、一進一退の攻防が始まった。
プラズマの鞭が蛇のようにしなり、俺の側面を狙う。
俺はそれを雷剣で弾く。
俺は〔雷駆〕で高速移動を繰り返し、〔雷電剣・流星〕を多方向から浴びせる。
エリックはそれに対し、プラズマの球体を無数に生成し、弾幕のように撃ち返してくる。
結界が激しく揺れ、観客席からどよめきが上がった。
中盤、エリックはギアを上げる。
「これならどうだ」〔電離奔流〕
周囲一帯にプラズマの嵐が巻き起こり、視界を覆う。高温と電磁波が俺の身体を苛む。
(くっ……このままじゃ押し負ける)
俺は歯を食いしばり、攻撃を質から量へ切り替えた。
「最大出力」〔雷光〕
全力の〔雷光〕で攻撃を吹き飛ばしてエリックの集中を乱し、プラズマの制御をわずかに崩す。
隙が生まれた瞬間、俺は態勢を整える前に全力で技をぶつけた。
「くらえ!」〔雷電剣・乱れ裂き〕
無数の雷の斬撃が、エリックに襲いかかる。
しかし、エリックは即座に結界を展開し、これを防御。続けて技を発動する。
〔プラズマバースト〕
プラズマのビームが、空気を裂きながら迫ってくる。
「くっ……」〔雷撃砲〕
俺はかろうじて攻撃を相殺すると、一気に踏み込み間合いを詰めた。
――バチィッ!!
俺は〔雷電一閃〕を放つ。だが、プラズマと干渉して攻撃がうまく当たらない。
激しい攻防に、観客や他の候補者、教員まで釘付けだ。
「ハハッ、しぶといな。流石、1回生で候補者に選ばれただけはある!」〔電離豪雨〕
「お褒めいただき光栄です。先輩!」〔天裁きの雨〕
――バリバリバリッ!!
青白いプラズマと黄色い稲妻が激しく入り乱れ、空気を裂くような音が闘技場に響く。
(出力も相性もほぼ互角。だが、スピードは俺に分がある。相手の攻撃は当たらないが、俺の攻撃も当たらない。だったら、俺が勝つためにはゼロ距離攻撃しかない!)
互角の戦い。不用意に近づいたら、カウンターを貰う危険性もある。
だからこそ、賭けに出る時。
「雷魔法。最大出力!」〔雷閃光〕
「うわっ!?」
俺は〔雷光〕に目眩しを追加した技を放ち、一時的に相手の動きを止める。
そして――
「空を穿つ滅びの紫電よ。今こそ神威を示す時。雷魔法」〔撃・滅紫電〕
刹那。一筋の紫電が、アリーナを穿いた。
ずっと、記憶の片隅にあった技が、詠唱と共に放たれる。
俺は目にも止まらぬ速さで駆けると、雷を帯びた掌底をエリックの胸に叩き込んだ。
――バリィ!!
「ガハッ!!」
エリックは後ろに大きく吹き飛び、アリーナの壁に激突して膝をついた。
しばしの沈黙の後、教師の声が響く。
「勝者、テンコ=ミルキーウェイ!」
会場から拍手が沸き起こる。
そんな中、俺はゆっくりと、エリックに歩み寄った。
エリックはゆっくり立ち上がり、汗を拭いながら小さく笑った。
「ゴホゴホッ……ハハッ、見事だ1回生。俺のプラズマに打ち勝つとは。だが、まだ総当たりは終わっていないぞ」
「ええ……ありがとうございました」
やがて、俺は軽い会話を済ませると、アリーナを後にする。
代表選抜はまだ続いている。
候補者は俺も入れて6人。その中にはアンナさんもいる。
(……まだ終わらないな)
代表を決めるための試験は、まだ始まったばかりだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
エリック:学院3回生次席の男。フォルティス王国侯爵家の次男。プラズマを操るスキルを持つ。




