第62話 ビーチスポーツ
「ルールは簡単よ。フラッグまで先に向かった方が勝ち。能力は身体強化まで許可。能力は禁止。いいわね?」
「了解です」
真夏の湖で唐突に始まった、3回生首席vs1回生後期三席によるビーチフラッグ対決。
アンナが俺と向き合い、軽く距離を取った。金色の長い髪が陽光に輝き、余裕たっぷりの笑みが浮かんでいる。
「じゃあ、始めましょうか」
俺とアンナはその場に伏せる。
「よーい……スタート!」
マヨが合図役になって、声を上げた。
瞬間、俺とアンナは同時に地面を蹴った。
砂が舞い上がり、風を切る音が響く。
(速い……!)
アンナの加速は予想以上だった。学院最強の名に恥じない、洗練された身体能力。神力操作と出力が桁違いだ。
俺は身体を強化しながら必死に追うが、わずかに出遅れる。
フラッグまでの距離は約100メートル。
アンナが中間地点を越えた頃、俺はさらに力を込めた。
雷のオーラが足元を駆け巡り、一気に加速する。砂を蹴り上げながら、アンナの横に並んだ。
アンナの目がわずかに細まる。
「いい反応ね」
だが、アンナはさらに速度を上げた。まるで風を纏っているかのような軽やかな動き。俺は必死に食らいつくが、結局、フラッグに手が届いたのはアンナが先だった。
「ふふっ、私の勝ちね」
アンナが棒を掴み、軽く振り回して笑う。
「さすがです。雷属性でスピード負けするなんて、俺もまだまだですね」
「いやいや、新入生の三席がここまで食らいついてこれるなんて、十分面白いわよ」
アンナは満足そうに俺を見て、棒を元の場所に戻した。
「テンにぃ、惜しかったー!」
そこに、ミリアが尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
「合図からフラッグまで1秒足らずで……テンコさんはやっぱり凄いですね」
カタルシアもそばに来て、そう微笑んだ。
そんな中、
「次は俺とサーフィンで勝負しましょう」
と、ネレウスがアンナに対決を申し込む。
「あら、いいわよ」
こうして、今度はサーフィン対決が始まった。
海のスキルを持っているネレウスは流石の上手さで、波を乗りこなす。
対して、アンナも美しい波乗りだ。
「なんか、夏って感じだな」
「そうね。記憶がなくても、感覚でわかるのね」
「あ、あぁ、そんな気がする」
(そっか。俺ってこの世界での初めての夏なのか)
俺たちは、水面に浮かびながら、2人のサーフィンを眺めていた。
穏やかな空気が、俺たちを包む。
一方――
「なかなかやりますね。ですが、海は俺のフィールドですよ!」
ネレウスたちは熱いバトルを繰り広げる。
「俺のとっておき――」
「ちょっとネレウス! 淡水に海水を混ぜないで!」
熱くなりすぎて、スキルを使おうとしてしたネレウスを、マヨが止める。
「はっ、そうだ。ここは湖だ」
「全く、ネレウスって意外と抜けてるところあるわよね。そんなことしてたら、"テラス湖の主"が出てくるかもしれないじゃない」
マヨの言葉で冷静になるネレウス。
それを見たアンナは、少し呆れたような表情を浮かべた。
サーフィン対決……というより、ただのサーフィンが終わると、今度はみんなでビーチバレーをすることになった。
チームは俺とミリア、カタルシア。アンナとネレウス、マヨ。
ミリアの力強いスパイクが飛び、アンナが冷静にレシーブを返す。ネレウスはマヨを意識して過剰に守りに回り、逆に空振りすることがあった。
カタルシアのトスは安定していて、俺は速めのスパイクやブロックで対応する。
そして、数セットを終える頃には、みんな汗をかいて息を整えながら笑っていた。
「なかなかいい運動ね」
アンナがタオルで顔を拭いながら、満足そうに呟く。
「ええ。久々に思い切り動けました」
カタルシアも、静かに同意した。
ビーチバレーを終えて、みんなで砂浜に腰を下ろして休憩する。
だが、その時だった。
――ザワザワザワ……
ふと湖面が不自然に揺れ始めた。
「……ん?」
俺が眉を寄せた瞬間、アンナがすでに立ち上がっていた。
「あれは、もしかして……」
アンナの声は静かだったが、はっきりと緊張を含んでいた。
次の瞬間、湖の中央付近で水面が大きく盛り上がり、巨大な影が浮かび上がる。
「な、何よアレ!?」
マヨが驚いて指さす。
現れたのは、体長は優に20メートルを超える、半透明の青い鱗をまとった水棲の怪物だった。
周囲には小さな影がいくつも泳ぎ回り、観光客の悲鳴が砂浜に広がる。
「アレはこの湖にいるとされていた大型の魔物――デュランだ!」
アンナはそう言うと、冷静に剣を抜き前へ出る。
「なんで今そんなヤツが……何か理由があるのか?」
ネレウスもそう言い、神剣を生成した。
(なんか、急に雑な戦闘イベントみたいなの始まったな……)
俺は内心でそう呟きつつ、すぐに体勢を整える。
「レベルは50相当。デュランは近接攻撃に高い耐性を持ってるから、近接組は周りの小さいのを。遠距離組はデュランを攻撃するんだ!」
「わかりました!」
「了解です!」
そして、アンナの指示で、みんなは一斉に動き出した。
ミリアが魔力の爪を輝かせて小さな魔物に飛びかかり、カタルシアが結界を張って観光客の退避を援護する。
マヨは水魔法でデュランを牽制しつつ剣で小さい魔物を倒し、アンナは持ち前の速度で、魔物をまとめて斬り伏せた。
「テンコ、合わせろ」
「了解です!」
ネレウスの声に、俺はうなずいて雷のオーラを全身に纏う。
巨大な湖の主が口を開け、高圧の水流を放ってくる。
その攻撃を、ネレウスの水流で相殺した。
「今だ!」〔ライトニングアロー〕
同時に、俺は雷の弓矢を生成し、放った。
――バチィ!!
稲妻の矢が、魔物の首筋を捉える。
しかし、魔物は少し怯んだ程度で、あまりダメージになっていない。
(硬い!)
「グルアァァァァ!!」〔四大眷属召喚〕
さらに、小さな魔物よりも二周りほど大きい魔物を召喚してきた。人形で5m程の大きさだ。
「問題ないわ」
アンナが素早く体をひねり、剣を振り抜く。
黄金の斬撃が眷属の一体を両断するが、残りの三体はすぐに俺たちに向かって突進してきた。
俺は雷のオーラを足元に集中させ、瞬時に位置を変える。
(ここは湖……出力を上げすぎたらマヨたちまで感電する。迂闊に出力は上げられないな)
抑え気味の雷で牽制しながら、眷属の攻撃をかわす。
ネレウスが水の壁を作り、カタルシアがバフや大地魔法で援護するが、デュラン本体の威圧は変わらない。
「テンコ! 無理するな!」
ネレウスの声が飛ぶ。
「大丈夫です……!」
俺は歯を食いしばり、再び雷を纏って踏み込む。
しかし、抑えられた出力では、デュランの厚い鱗に深く届かない。
やや劣勢の空気が漂い始めた、その時だった。
「みんな、待たせたわね!」
「遅れてごめん!」
砂浜の方から、二つの声が響いた。
振り返ると、アスカとメイが走ってくる。今まで観光客の避難誘導をしてたらしく、それを終えて援護に来たらしい。
「アスカさん! メイ!」
マヨが安堵の声を上げる。
「援護するわ!」
アスカが手をかざすと、空間魔法でデュランの攻撃の軌道がそれる。
そして、巨大な体が不自然に動きを止め、バランスを崩した。
「メイも頑張る!」〔神化〕
メイが叫ぶと、体に淡い光が纏わる。
時間が経つにつれて強くなる身体強化スキル。徐々に加速していく動きで、眷属の一体に飛びかかり、拳を叩き込んだ。
「助かる!」
アンナが素早く反応し、隙を突いて斬りかかる。
アスカの空間歪みがデュランを牽制し、メイの強化された攻撃が魔物を次々と薙ぎ払っていく。
俺も雷の出力を慎重に調整しながら、援護に回った。
戦闘の流れが、少しずつこちらに傾き始める。
やがて、デュランの動きが明らかに鈍くなった。
「近接が通るようになったわ……今よ!」
アンナが低く呟く。
その刹那。アンナの剣が、白く輝いた。
〔白光閃〕
――シュインッ!!
光の軌跡が走り、デュランの太い片腕が根本から切り落とされる。
「グアァァァァ!!!」
青い血のようなものが湖面に飛び散る。
「テンコ!」
「了解!」
俺は一気に間合いを詰め、雷を全身に集中させた。
抑え気味だった出力を、一瞬だけ最大限に解放する。
「雷魔法」〔瞬雷〕
――バリバリッ!!
稲妻がデュランの胴体を貫いた。
巨大な体が激しく痙攣し、バランスを大きく崩す。
「ネレウスさん!」
「わかっている」
波打ち際で力を溜めていたネレウスが両手を大きく広げた。
「これで終わりだ――海神の加護」〔溟海の魔神〕
ネレウスが技を発動すると、背後で海水が渦巻き、巨大なシャチ型の神獣が現れる。
――ボォォォン!!!
刹那。轟音と衝撃波が俺たちを襲った。
「うわっ!?」
一瞬で、デュランの体が光の粒子となって霧散する。
周囲の小さな魔物も、同時に消滅した。
静寂が戻る。湖面は再び穏やかになった。
「ハハッ、やるなぁ。さすが『海神』だ!」
アンナはネレウスの技に感心する。
「やりましたね」
そうして、俺たちは、テラス湖の主を打ち倒すことに成功した。
騒ぎが完全に収まり、観光客が少しずつ湖から離れていく頃、俺たちは再び砂浜に座った。
西の空がオレンジ色に染まり始め、湖面が夕日に照らされて柔らかく輝いている。
「……綺麗だな」
俺がぽつりと呟くと、ミリアが隣に寄りかかってきた。
「うん。テンにぃ、今日楽しかったね!」
「ええ。魔物が出るとは思いませんでしたが……みんなで乗り越えられてよかったです」
カタルシアも静かに微笑む。マヨは少し離れた場所でネレウスと話し、アンナは遠くの湖面を眺めながら、どこか満足そうな表情を浮かべていた。
(湖で遊んで、魔物と戦って……異世界の夏休みは、刺激があっていいな)
俺はそう思いながら、夕日に染まるテラス湖を静かに見つめる。
真夏の一日は、こうして穏やかに幕を閉じるのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
アスカ:桃色髪の女の子。マヨと同じ超級クラスで、フォルティス王国公爵家の令嬢。使う魔法は空間魔法。年齢は17歳。
メイ:茶髪の活発な女の子。持っているスキルは加護。一応上位階級の家の娘。13歳。
ネレウス:銀髪ロングの青年。17歳。ミルキーウェイの公爵家長男で、マヨの従兄弟。マヨにとても過保護で、ウザがられているが、優秀で思いやりのある性格をしている。
アンナ:学院最強と謳われる、3回生首席の聖人族。剣神という以下にも強そうなスキルを持っている。容姿端麗。




