第61話 合同体育
親善大会の発表の翌日。朝のホームルームが始まると、担任のネス先生がいつになく厳しい表情で教壇に立った。
「本日より、天星級1回生と2回生合同で特別体育を実施する。これは親善大会の代表選抜に直結する重要な授業だ。各自、自分の得意分野を把握し、目指す競技を明確にせよ」
その言葉に、教室が一気にざわつく。
ネス先生は、黒板に「合同体育」と大きく書きながら、続けた。
「場所は第一闘技場。模擬戦、実戦形式のミニゲーム……すべて親善大会の選抜に関わってくる。真剣に取り組むように」
そして最後に、力のこもった声で締めくくった。
「今後2週間は本格的な選抜試験が続く。己の限界を超えろ」
ホームルームが終わると、教室は一気に活気づいた。
ライオスがすぐに俺の机に寄ってきて、興奮気味に言った。
「テンコ! 今日からガチでやるぞ! お前と一緒に代表狙えるかもな!」
アルトとカイスも笑いながら同意する。
「今年はかなり熱くなりそうだ」
「他学年と競うのは初めてだね」
俺は心の中で、
(2回生……なんか引っかかるなぁ)
と、思いながらも静かに微笑んだ。
「そうだな。全力でいこう」
こうして、天星級1回生と2回生による合同体育が始まった。
ホームルームが終わると、俺たちはすぐに第一闘技場へと移動した。
広い訓練場には、すでに天星級2回生の面々が集まっていた。
1回生と2回生が合同で行う特別体育――親善大会の代表選抜に直結する、実践重視の授業だ。
2回生たちは1回生より一回り体格が良く、全体的に落ち着いた雰囲気がある。
その中に、銀髪を後ろでまとめている見覚えのある人物の姿があった。
(げっ……! そういえば、ネレウスさんって2回生だったか。面倒なことにならなきゃいいけど……)
そんな風に考えながら見ていると、一瞬目が合った。
俺はすぐに視線を逸らしたが、ネレウスはわずかに目を細めるとこちらに歩いて来た。
「テンコ。また会ったな」
ネレウスは俺の前まで来ると、低く静かな声で話しかけてくる。
「あぁ……はい。お久しぶりですね……」
俺は若干苦笑いしながら応答する。
周りの生徒たちは、それを見て、
「おい、あいつ誰だ?」
「知らないのか? 天星級の後期三席で、一騎打ちでネレウスに勝ったってやつだよ」
「知ってる! 入学式でアンナさんと戦ってた子よね」
と、ヒソヒソと話し始めた。
ライオスたちも、
「ネレウス公爵令息じゃないか! テンコ、知り合いなのか!?」
「ライオス、ウワサを知らないのか? テンコは最近、ネレウス様に勝ったらしいぞ」
「マジか!? ネレウス様って、天星級五席だぞ!」
と、デカイ耳打ちを始めた。
(ネレウスって五席だったのか……2回生からは1回生時の成績で、前期と後期混合の序列になるから、実質俺と同等以上の立場か。通りで強いわけだ)
俺たちはしばしの間無言で見つめあった後、
「フッ、戦いはまだ終わってないからな」
と、ネレウスが言い残し、その場を去っていった。
やがて、体育教師が中央に立ち、短く説明を始める。
「今日は、1対1の軽い模擬戦を数回行った後、3対3のチーム戦に移行する。お互いの動きを見て、己の強みと課題を把握するように。代表選抜に直結する授業だと思って、全力で臨むんだ」
先生の言葉が終わると同時に、場内に緊張感が広がった。
ライオスが俺の肩を叩いて笑う。
「お前、ネレウス様に勝ったんだってな! 殲滅力なら2回生1位とまで言われていて、『海神』の異名で知られるあの! これなら、各種代表の中で最も栄誉ある『一騎討ち』に出場できるかもな!」
「そうだな。面白くなりそうだ!」
俺は素直にそう答えた。
天星級三席として、もう力を誤魔化す必要はない。
ここでは存分に動いて、自分の現在の力を確かめられるいい機会だと思っていた。
準備が整うと、初めに1対1の模擬戦が始まった。
闘技場がいつものように、結界でいくつかの区画にわけられ、その中で軽い手合わせを行うそうだ。
先生がランダムにペアを発表していく。
俺の最初の相手は、2回生の女子生徒だった。短い金髪で、明るい。
〔斥力〕というスキルを使うらしい。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね!」
やがて、審判約の生徒が合図をし、模擬戦が開始される。それと同時に、相手は強烈な斥力を放った。
「――ッ!?」
俺は後方に飛ばされるも、なんとか踏ん張り、結界に激突するギリギリで静止した。
相手は斥力を纏いながら、すかさず間合いを詰めてくる。
「やべッ!」
俺は反射的に空中に逃げると、
〔雷光〕
と、技を発動させた。
「きゃぁッ!」
相手が怯んでいる内に俺は空中で身を捻り、後方へ着地すると、雷を帯びた掌底を突き出し、相手が膝をついた所で手合わせが終わった。
「いたたた~、負けちゃったよ。雷とか炎とか、エネルギー攻撃は私の斥力が働かないのが課題ね」
負けた女子生徒は、そう言って微笑む。
このように、1対1の模擬戦が数回行われた後、体育教師が大きな声を張り上げた。
「次は実戦形式のミニゲームに移行する! 種目は『タグ取りゲーム』だ!」
教師の説明によると、ルールはシンプルだった。
各生徒は腰に2つのタグを付け、相手チームのタグを先に全て奪い取った方が勝利。
致命的な攻撃以外の能力使用は可能。タグを取るための動きが主となる、実践的かつ戦略性の高いゲームだ。
「チーム分けはこちらで決める。1回生と2回生の対抗戦で、バランスよく組むぞ」
そうして、俺はフラムとフルクトゥスとチームを組むことになった。
フラムは青髪の魔人族の少女で、1回生後期次席。蒼炎を操る魔導士として評判が高い。
フルクトゥスは茶髪の男で、1回生前期三席。『波動』という"波"を操るスキルを持つ。
「よろしくね、テンコさん」
3人で集まると、フラムが静かに微笑む。
「こちらこそ。全力でいこう」
俺は笑顔で答え、フルクトゥスもうなずいた。
対する相手チームは、2回生の次席、三席、六席という強者揃いだった。
簡易結界が張られ、広い訓練場に5つのエリアが設定される。
俺たち3人は中央エリアに移動した。
そして、教師の合図と同時にゲームが始まる。
2回生の六席が最初に仕掛けてきた。『双剣王』のスキルを持つ男――六席は、俊敏な動きで距離を詰め、俺の腰のタグを狙う。
だが、俺は素早く後退しながら雷のオーラを軽く纏い、相手の動きを牽制した。
「フラムさん、援護を!」
「了解!」
俺の合図と共にフラムが杖を掲げ、蒼い炎を放つ。
青い炎が弧を描き、相手の進路を封じた。
その隙に、フルクトゥスが拳に神力を纏わせ、地面を思い切り殴った。
――ドゴォ!
その振動波を操ると、地面を這うようにして相手の足元を襲い、バランスを崩させる。
「うおッ!?」
「今だ!」〔雷駆〕
俺はその瞬間、加速して相手の腰に手を伸ばし、1枚のタグを奪取した。
「1枚取った!」
「くそっ……やるな、1回生」
2回生の六席は、舌打ちしながら一旦下がる。
しかし、相手もすぐに反撃してきた。
使役魔法を使う黒髪の女――2回生次席が強力な狼型の魔物を2体召喚し、六席と共に接近戦でプレッシャーをかけてくる。
青髪の男である2回生三席は、スキルの『空気支配』を使い、真空波のようなものでサポートと攻撃を同時にこなす。
3人の連携は非常に洗練されており、2回生の経験値を感じさせる動きだった。
「テンコさん、右から来ます!」
フラムが警告を飛ばすと同時に、俺は雷を帯びたステップで横に跳び、相手の攻撃を回避。
「ナイス!」
フルクトゥスが喜ぶが、相手の三席が素早い風の移動でフルクトゥスの背後に回り込み、タグを1枚奪い返した。
「くっ……!」
ゲームは一進一退の激しい展開となった。
俺は前線で相手の注意を引き、フラムの蒼炎で牽制、フルクトゥスの波動で足止めという連携を繰り返す。
2回生チームも経験を活かした的確な動きで応戦してくる。
中盤、俺は大きく息を吸い、雷のオーラを強く纏った。
「ここから本気でいくよ!」
〔雷光〕を継続発動で放ちながら突進。フラムの蒼炎が俺の雷に絡みつき、青と黄色が混じった美しい光の軌跡を描く。
「くらえ!」〔神聖叫喚〕
フルクトゥスの低周波から超音波までが混ざった音波攻撃が、相手の三半規管にダメージを与え動きを鈍らせた隙に、俺は2回生六席の残り1枚のタグを奪取した。
「残り1人!」
最終局面。2回生次席が最後の抵抗を見せたが、俺たちの連携が勝った。
フラムの蒼炎で視界を奪い、フルクトゥスの波動で足を止め、俺が最後のタグを奪い取る。
「エリア5。タグ取りゲーム、終了! 勝者、1回生チーム!」
教師の宣言に、俺たちは息を弾ませながらハイタッチをした。
「やったね、テンコさん!」
フラムが笑顔で言う。
「いい連携だった」
フルクトゥスも満足げにうなずいた。
そんな中、2回生の次席が汗を拭きながら近づいてきて、俺に手を差し出す。
「……強かったな、1回生。さすが後期三席だ。ネレウスに勝っただけはあるな」
俺はその手を取り、笑顔で答えた。
「みんなの連携が良かっただけですよ。それに、一騎討ちだと負けるかもしれません。2回生の皆さんも、さすがでした」
合同体育はまだ続いていたが、このタグ取りゲームを通じて、俺は自分の現在の力と、チームとしての可能性をしっかり実感することができた。
親善大会に向けて、確実に前進している手応えがあった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
ライオス:テンコのクラスメイトで、前期選抜首席の実力者。暑苦しいが、見た目に反して魔法使い。
アルト:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。風魔法使いらしい。
カイス:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。スキルの模倣は加護。
フラム:テンコのクラスメイトで、後期選抜次席の魔導士。テンコとはあんまり話したことがない。お淑やかな雰囲気をしている。14歳。ライオスより強い。
フルクトゥス:テンコのクラスメイトで、前期選抜三席の男。テンコとの関わりはあまりない。面白い性格をしている。16歳。




