第60話 夏休み
ネレウスとの決闘から数週間後。入学から早くも1ヶ月半が経った頃、学院はついに夏季休業に入った。
俺はマヨたちの部屋で、のんびりと過ごす。
窓から差し込む夏の陽射しが部屋を明るく照らし、扇風機のような魔導器具がゆるやかに風を送っている。
ミリアは床の上に寝転がってアイスを食べ、カタルシアは本を読みながら時々メモを取っている。
マヨはアイスティーを淹れながら、優雅にソファに腰を下ろしていた。
「ふぅ……もう夏休みか。学院生活も慣れてきたけど、こうしてゆっくりするのも悪くないな」
俺はソファの背もたれに深く寄りかかり、天井をぼんやり見つめながら呟いた。
すると、マヨがカップを置いて微笑んだ。
「そうね。天神聖書が目的とはいえ、学校も有意義で忙しいから、こういう時間も大事だわ」
ミリアがアイスを頰張りながら、尻尾をゆっくり振る。
「テンにぃ、なんか面白いことないの? 夏休みなんだから、久しぶりに冒険とかしたい!」
「確かに、せっかくなのでみんなでお出かけしたいですね」
カタルシアも本から目を上げて、静かに同意する。
「そうだな……夏休みといえば、やっぱり海じゃないか?」
俺は少し考えてから、ふと思いついたように言った。
しかし、マヨが苦笑しながら首を振る。
「でも、フォルティスは大陸の真ん中にあるから、海は無いわよ。アンドロメダに行けばあるけど、フォルティスのチェックポイントは使えないし、かなりの移動になるわ」
「じゃあ、湖はどうだ? ライオスたちから聞いたんだけど、フォルティスには巨大な湖があるらしいぞ。岸にはビーチがあって、海と変わらないって」
俺はマヨにそう提案した。
すると、その言葉にミリアの目がキラキラと輝いた。
「湖!? 楽しそ~!!」
マヨは少し考えてから、
「面白そうね。それじゃあ、みんなで計画を立ててみましょうか」
と、俺の提案に賛成する。
こうして、俺たちは湖に行くことになった。
その日の午後、俺たちは早速行動に移すことにした。
湖に行くための準備として、水着や軽食などを買いに行く。
学院近くの商業区は、夏休みに入った生徒たちで賑わっていた。
「テンにぃ、水着ってどんなの? 泳げるやつ?」
ミリアが尻尾を振りながら、俺の袖を引っ張る。
「私も泳いだことはないので、知りませんね」
それに、カタルシアも続いた。
それを聞いて俺は、
(そっか。この世界に水着とか浮き輪ってないんだっけ? いやでも、ライオスたちは普通に話してたから、発展したフォルティスにはあるのか)
と、考える。
「まぁそうだな。見てからのお楽しみってことで」
そして、俺がなんとなくごまかしていると、マヨが地図を広げながら、
「この先の店街に、水泳道具専門店があるみたいね」
と言った。
そうして、俺たちは店に行き中へ入る。
「おぉ〜、結構本格的だなぁ」
そこには、色とりどりの水着がズラっと並んでいた。
「ねぇねぇテンにぃ、あの綺麗な輪っかは何?」
ミリアが奥の方を指さす。
俺が指先に視線を向けると、そこにはどこか懐かしい代物が置いてあった。
「あぁ、あれは浮き輪だね。あれを使うと、水の上に浮けるんだ」
「へぇ〜、すごーい!!」
俺が説明すると、ミリアは興奮した様子で奥へと駆け出した。
「これが水着ですか……可愛らしいですが、着るのはちょっと恥ずかしいですね」
カタルシアは、手前にあった女性用の水着を手に取りながら、そう口にする。
「私は水着なんてきたことないけど、結構いいデザインだと思うわ」
マヨは案外気に入ったように、水着を眺めていた。
そんな中、俺は男性用コーナーへ移動し、シンプルな水着を手に取る。
黒と赤のストライプが入ったデザイン。伸縮性のある繊維で作られており、動きやすそうだ。
(水着……久しぶりに見たな。元世界でも、最後に着たのは小学校のプールの授業くらいか)
その隣には、シュノーケルやフィンのような道具も並んでいた。
(この光景……なんか元の世界に戻ってきたみたいだな)
そんな風に、少し感慨に浸っているとマヨが近くに来る。
「私たちはもう買うの決まったけど、そっちはどう? 何かいいもの見つけた?」
「うん。俺も今決めたとこ」
俺はそう言うと水着をマヨに渡し、お会計を済ませて店を後にした。
その後、俺たちは他にも買い物を楽しんだ。
「夏用の私服かぁ。確かに俺たちの私服って、冒険用の服だったもんな」
俺は、そんなことを口にしながら夏服を選ぶ。
(異世界の衣装にしては、ずいぶん現代的だな……これが、この国が2世紀進んでいると言われている所以か。この小型のショッピングモールも、よくよく考えたらおかしいしな)
服を選んでいる最中、俺は周りを見渡しながら違和感を覚えた。
だが、あまり気に留めずマヨたちと私服選びを続けた。
それから私服を選び終わると、俺たちは店内をさらに回り始めた。
「わあっ、これ可愛い! テンにぃ、見て見て!」
ミリアが麦わら帽子を頭に乗せて、くるくる回る。
「似合ってるよ、ミリア。夏らしいな」
俺が褒めると、ミリアはさらにテンションを上げて別の帽子を試し始めた。
マヨは少し離れた棚で、シンプルで上品な麦わら帽子を手に取っていた。
「これ、どうかしら? 湖で日差しが強いと困るもの」
マヨが鏡の前で軽くかぶってみせる。白いリボンが付いたデザインが、マヨの黒髪と白い肌によく馴染んでいる。
「いいんじゃないか。なんか、皇女様っぽいよ」
「ぽいって、私は皇女よ。まぁ、ありがとう。じゃあこれにしましょう」
マヨはそう言うと帽子を買い、カゴに入れた。
その隣。カタルシアは日傘コーナーで、真面目な顔で傘を吟味していた。
「この白と紫色の傘、デザインも機能性も良さそうです」
カタルシアは丁寧に傘を開き、光の透過具合を確認する。
次に、サンダルも何足か試し履きした。
「カタルシア、そっちの青いサンダルも可愛いよ。動きやすそうだし」
「ありがとうございます、テンコさん。では、これ購入しますね」
カタルシアは少し照れながら、サンダルと日傘をカゴに入れた。
「マヨねぇ、どっちがいいと思う?」
ミリアは白と黒のサンダルを、マヨに見せる。
「白のほうがいいわよ。そっちのほうが似合ってるし、黒は熱くなるからね」
マヨはそう言いながら、白い子供用サンダルをカゴに入れた。
最後に俺たちは、食べ物コーナーでビーチで食べるのに良さそうなものを物色した。
「ピクニックみたいな感じで、サンドイッチの材料でも買うか」
俺はパンや新鮮な野菜、フルーツジャムをカゴに詰めていく。
ミリアは、
「テンにぃ、肉と魚も!」
と、俺の服を引っ張る。
「まぁ、焼肉サンドでも作るわ」
それを見たマヨが、苦笑しながら肉をカゴに入れた。
そうして、俺たちは店内をぐるぐる回りながら、必要なものを次々と買い揃えたのだった。
「これで準備は万端ね。湖、楽しみだわ」
やがて、会計を済ませ、マヨが満足そうに言う。
「うん! 絶対楽しいよ!」
ミリアが尻尾を全力で振りながら飛び跳ねる。
カタルシアも日傘を軽く回しながら、
「良い休暇になりそうですね」
と、静かに喜んでいた。
翌朝、俺たちは早めに準備を済ませ、湖に向けて寮を出発した。
マヨは白い夏服に麦わら帽子を被り、涼しげな雰囲気を纏っている。
ミリアは元気いっぱいに白いサンダルを履き、カタルシアは紫と白の清楚なワンピースに日傘を持つ。
「荷物は全部〈インベントリ〉に入れたけど、忘れ物はないか?」
俺が確認すると、みんなはうなずいた。
「よし! それじゃあ、改めて出発だー!」
「「おぉーー!」」
こうして、湖のある『自然都市ニューテラスへ』と向かった。
ニューテラスは王都から山を超えたところにあるようで、馬車で進むこと約1時間半、馬車が木々の間を抜けると突然視界が開ける。
「わあ……!」
「おぉ~、想像以上だ!」
そこに広がっていたのは、透明度の高い巨大な湖『テラス湖』だった。
水面はエメラルドグリーンの輝きを放ち、周囲を白い砂浜と緑の森が囲んでいる。
遠くには小さな島も見え、まるで絵画のような美しい景色だった。
「すごいですね……本当に海みたいです」
カタルシアが思わず呟いく。
「ええ。フォルティスにもこんな場所があったのね。今日は思いっきり楽しみましょう」
マヨも満足そうに微笑む。
その間、ミリアはもうサンダルを脱ぎ捨て、砂浜を全力で駆け出していた。
「テンにぃ! 早く泳ごうよ!!」
「ちょっ! まずは水着に着替えてからだ!」
こうして、俺たちの夏休み最初の思い出となる湖での1日が始まったのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




