第60話 迫る目玉イベント
ネレウスとの決闘から数日が経ったある日の放課後。
天星級1回生の教室では、いつものように帰りのホームルームが行われていた。
担任のネス先生が、いつになく背筋を伸ばして教壇に立ち、やがて口を開く。
「諸君、来月8月1日より『フォルティス四学院総合親善大会』が開催される」
その瞬間、教室がざわめいた。
担任は黒板に文字を書きながら、淡々と説明を続けた。
「2年に一度、フォルティス王国が誇る覚醒者育成の四大学院――ノース校、サウス校、イースト校、ウェスト校が総力を挙げて競う、国内最大規模の学院対抗イベントだ。魔導戦技戦、一騎討ち、バトルロイヤル、魔物討伐競技――など、様々な種目で競い合う。例年以上の規模になるとの話だ。各学院の威信がかかっているのは言うまでもない」
教室の空気が一気に変わる。
後ろの方で誰かが小さくガッツポーズを決める音が聞こえ、横を見ると、ライオスが目を輝かせているのが見えた。
「おぉ、ついに来たか……!」
「前回は惜しくも2位だったらしいから、今年こそは!」
「絶対に代表になってやる!」
他のクラスメイトたちも興奮を隠しきれない様子で、互いに顔を見合わせている。
俺は自分の席に座ったまま、静かに説明を聞いていた。しかし――
(親善大会、対抗戦――なんて典型的な学園イベントなんだ! これは面白くなりそうだ!)
その学園生活らしい大イベントに、心の中で興奮していた。
担任は最後に、力のこもった声で締めくくる。
「天星級の諸君は特に注目される立場だ。代表選抜のための軽い自主練を各自で行うように。詳細は追って連絡する」
ホームルームが終わると、教室は一気に賑やかになった。
ライオスがすぐにテンコの机に寄ってきて、興奮気味に声をかけた。
「テンコ! お前絶対出るよな!? 天星級三席なんだからよ!」
近くにいたアルトとカイスも笑いながら同意する。
「今年はかなり熱くなりそうだね」
「代表になれたら、かなりの注目を浴びることになるぞ」
俺はその言葉に、力強くうなずいた。
「あぁ、頑張るよ」
(隠れ最強……とまでは行かなくとも、存分に力を発揮出来るチャンスだ。天星級になってしまった以上、必要以上に力を抑制することもないからな)
窓の外では、初夏の柔らかな風が木々の葉を揺らしていた。
フォルティス四学院総合親善大会――学園生活において最大のイベントが、静かに迫ろうとしていた。
放課後。俺は、ライオスの「自主練やろうぜ!」という誘いを受け、校庭の端にある実技訓練場に来ていた。
もちろん、アルトとカイスも一緒だ。
「よし、まずは軽く身体を動かしていくぞ!」
ライオスが先頭に立って号令をかける。
俺たちは円陣を作り、まずは基本の魔力循環と関節の柔軟運動から始めた。
カイスが神力を細かくコントロールしながらストレッチをし、アルトは魔力の出力調整を行っている。
俺もその輪に加わり、ゆっくりと魔力を身体に流していく。
(……魔力操作がだいぶ上達したなぁ)
そんなことを考えながら、みんなが軽い汗が浮かぶ程度まで身体を温めたところで、ライオスがにやりと笑った。
「よし、ウォームアップはここまで! 本番だ! 2対2の模擬戦をやるぞ!」
「よし来た! チーム分けは……近接の俺とライオスが分かれて、中、遠距離が得意なアルトがライオス、主に近、中距離が専門のカイスが俺とだな」
「それでいこう!」
チームが決まり、俺たちは訓練場の中央に立つ。
カイスは眼鏡を軽く押し上げながら、静かに微笑んだ。
「よろしく、テンコ」
「ああ、頼む」
やがて、簡易結界を張って安全を確保した後、ライオスが大きく息を吸った。
「いくぞー! 始め!」
合図と同時に、ライオスが猛然と突っ込んできた。
「行くぞ!」〔紅蓮の拳〕
ライオスの右腕に炎が集中し、一気に解放される。
一直線に突進してくるその攻撃は、十分な迫力だった。
「テンコ!」
「任せて!」
俺は素早く前に出て、両手を突き出す。
そして、〔ライトニングシールド〕を生成し、ライオスの攻撃を受け止めた。
「くっ……重いな!」
俺が歯を食いしばる中、カイスは横に回り込んでライオスに接近した。
「行くぞ、ライオス!」〔模倣:炎〕
軽く身体を強化し、炎属性を手に纏わせて掌底を放つ。
――ボン!
「ぐわぁ!」
炎が爆ぜ、ライオスがよろめく。
繊細な神力操作。そして、見たものを"1回につき1度だけ"再現できるスキル。
戦闘タイプには見えないが、実は4人の中で最も戦闘が得意な男。それがカイスだ。
だが、ライオスも決して負けてはいない。
「まだまだァ!!」
ライオスは炎を爆発させ、同時にその推進力を使って後退し、間合いを取った。
「アルト! 今だ!」
「了解!」
続けて、アルトが後方から魔法を放つ。
風を操る属性で、俺たちの足元に突風を巻き起こし、バランスを崩そうとしてくる。
「この程度!」
俺は跳躍して風を回避し、そのままアルトに向かって突進した。
だが、アルトは冷静に技を発動させる。
「風魔法」〔旋風斬〕
次の瞬間。強烈な風が、刃のごとく襲いかかった。
「まずい! 防護結界!」
俺は素早く結界を張り、カイスは後ろへ下がり攻撃を回避した。
ライオスはそれに乗じて前線を上げてくる。
「おらァ!!」〔魔炎爆弾〕
――ボォン!
ライオスの放った炎の球は、一気に爆ぜ、爆音が轟いた。
だが、こちらも負けじと反撃する。
「テンコ、"アレ"を試そう」
「わかった」
カイスの言葉を聞き、俺は一気に駆け出した。
「いくよ!」〔模倣:旋風斬〕
その後ろから、カイスの攻撃が近づいてくる。
そして、俺の側を通り過ぎる瞬間、その攻撃に雷属性の魔力を付与した。
「いっけー! 合体技!」〔雷電旋風〕
カイスの模倣した旋風に、俺が雷属性を大量に付与した瞬間、強烈な雷を帯びた竜巻がライオスとアルトに向かって襲いかかる。
「うおおっ!?」
「これはヤバいぞ!」
ライオスが炎を爆発させて防御しようとするが、雷の回転が炎を飲み込み、2人をまとめて吹き飛ばした。
「ぐわっ……!」
「はは……完全にやられた……」
アルトはそう苦笑し、ライオスも頭を掻きながら笑った。
「くそっ、身体が痺れる。魔力だけでこんな……相変わらず化け物だな、テンコ! だが――」
やがて、ライオスは立ち上がると、炎のオーラを解放する。
「オレたちにも、できるぞ! アルト! 反撃だ!」
「了解!」
アルトも立ち上がると、2人同時に魔法を発動させた。
風と炎の魔力が渦巻き、熱風が吹き荒れる。
「来るよ、テンコ」
「あぁ」
俺たちは、その気迫に身構える。
「オレたちも見せてやる! 合体技!」〔火炎旋風〕
そして、遂にライオスとアルトの合体技が放たれた。
火災旋風のような、炎を纏った竜巻。範囲が広くて避けられない。
防御するしかないが、俺の防護結界では防ぎ切れないし、カイスのスキルは間に合わない。
だが――
「カイス!」
俺はカイスに合図を送った。
カイスの能力は、見たものを再現する。それは、"今"見たものに限定されない。
すなわち、"見たことがある"物も模倣の対象。ただし、過去の物は、その時予めストックしておく必要がある。
ストックは3つまで。
ライオスたちは、カイスがなんの能力をストックしているのか、なにも知らない。
〔模倣:大地創成〕
――ゴゴゴゴゴ……
カイスが能力を使うと、巨大な大地の壁が出現した。
攻撃は壁に阻まれる。
「こ、これは!?」
「戦闘訓練の時、教師が使っている大地魔法!? まずい!」
ライオスとアルトは、巨大な壁を見上げながら驚愕した。
そんな中、俺は視界を遮られているのを利用して、攻撃を打ち込んだ。
「これで終わりだ!」〔雷撃砲〕
俺の両手から放たれた白雷のビームは、壁を貫通し、その奥にいたライオスたちを襲う。
――ズドォォン!!
「ぐぁぁぁ!!」
ライオスたちは全身が感電し、その場にひざまずいた。
「はぁ、はぁ……ハハハ、やっぱ敵わねぇな!」
ライオスはその場に大の字に寝転がり、笑った。
俺たちは、ライオスたちの元へ歩み寄る。
そして、カイスは眼鏡を直しながら、静かに微笑んだ。
「良い戦いだったね。連携も、上手くなってる」
俺は2人に手を差し伸べながら、
「だいぶ息が合ってきたな。さすが、天星級って感じだ! 絶対に代表に選ばれような!」
と、笑いかける。
「ハハッ、もちろんさ」
「当たり前だろ! テンコ!」
2人も元気よくそう言って、俺の手を取った。
それから、軽く汗を拭いながら、4人で輪になって座り込む。
ライオスが水を飲みながら、興奮冷めやらぬ様子で言った。
「親善大会……本気で代表狙えるかもな。テンコ、お前は絶対に天星級の顔になるぞ」
「今年もやっぱり、『魔王』がいるノース校が特に強いらしいけど、サウス校も天星級の層が厚いからな。俺たちも頑張らないと」
それに、カイスが静かに付け加える。
俺はそれを聞いて、考察を巡らせた。
「あの魔水晶をぶっ壊したっていう人か。ただ、魔力が多かろうと、出力や技術、スキルによって差は埋められるからな。その人のことを実際見たわけじゃないんだろ? まぁ、一騎打ちで敵わなくても、総合で勝てばいいんだよ!」
俺の言葉に、みんなは「そうだね」とうなずく。
俺は空を見上げながら、静かに息を吐いた。
(強者との戦い……全盛期の力を取り戻すには、一番手っ取り早いかもしれないな)
その後、寮へ戻る道中、夕陽が学院の建物を赤く照らしていた。
寮に戻った俺は、部屋のベッドに腰を下ろし、今日の練習を振り返っていた。
(親善大会か……)
フォルティス四学院がぶつかり合う、国内最大のイベント。
各国の若き精鋭が集まる大会。なにか情報を掴めるかもしれない。
だが、それ以上に、学園生活の大イベントという青春の1ページが、この上なく待ち遠しかった。
「……これも、日常か」
俺は窓の外に広がる、夕暮れの学院を見ながら小さく微笑んだ。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
ライオス:テンコのクラスメイトで、前期選抜首席の実力者。暑苦しいが、見た目に反して魔法使い。
アルト:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。風魔法使いらしい。
カイス:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。スキルの模倣は加護。




