第59話 天星級三席の実力
ネレウスに絡まれてから2日後。日曜日。今日は決闘の日だ。
昼。俺たちは、休みで静まり返った学院に、こっそりと侵入する。
普段は多くの生徒や教員が行き交う正門は固く閉ざされており、俺たちはマヨが事前に調べておいた裏手の通用門から忍び込んだ。
「う〜ん。なんと言うか、こういうのも青春だね」
俺は、そんな軽口を叩きながら石畳を歩く。
日曜日の学院は想像以上に静かで、風が木々の葉を揺らす音だけがやけに大きく聞こえた。
「そうね。先生に見つかって叱られるのも、また一興かしら」
マヨが小声で言った。
「ま、まぁ、なるべく見つからないようにしましょう」
カタルシアが苦笑しながら続ける。
ミリアは俺の後ろをスキップするように歩きながら、楽しげに言った。
「テンにぃ、今日は本気でやっちゃうの?」
「本気って……怪我させない程度にな」
そんな会話をしながらしばらく歩いていると、第二闘技場が見えてきた。
第二闘技場は、街のように広い学院の敷地のやや奥に位置している。普段は各種実技試験や部活動に使われる大きな施設だが、今日は完全に無人だった。
観客席にも人影はなく、ただ広い砂場が静かに陽光を浴びている。
闘技場の入り口に着くと、アリーナにはすでにネレウスが一人で立っていた。
銀髪を後ろでまとめ、白いローブを纏った姿。表情は真剣そのもので、先日の高圧的な態度とは少し違う、気迫のようなものが感じられた。
ネレウスは俺たちを見つけると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「……来たか、テンコ」
声は低く、抑揚を抑えている。
「逃げなかった度胸は褒めてやろう。いくらお前が天星級三席とて、未熟な技術を力で埋めているようなヤツに、俺は負けんぞ」
(そっか、ネレウスさんは入学式の時、俺とアンナさんの模擬戦を見ていたのか。つまり、ヤツには俺に勝てる算段があるということ……)
強気のネレウスを前に、俺は気を引き締めた。
「それでは早速、始めるぞ」
ネレウスは、再びアリーナ中央へと歩き出す。
そうして、誰も見ていない闘技場で、決闘が静かに幕を開けるのだった。
決闘の準備が整うと、俺とネレウスは互いに向き合う。
カタルシアが人にバレないように結界を張り、3人は観客席で観戦している。
「貴様、俺のスキルを知っているか?」
戦いの前に、ネレウスが質問した。
「はい、マヨから聞いていますけど、どうしてですか?」
「いや、一方的に能力を知っているだけじゃ、フェアじゃないと思ってな。知っているのならいい。始めるぞ!」
やがて、マヨの「始め!」の合図が響く。
その瞬間、ネレウスが技を発動した。
「――海神の加護」〔溟海の貪食者〕
ネレウスの両側に展開された天聖陣から、神力を纏った巨大なサメ型の魔物が2体出現する。
『海神の加護』。自然属性と水属性の派生系が混合した、神聖魔法。かなり珍しく、強力なスキルだ。
出現すると同時に、2体の魔物は物凄い速さで俺に襲いかかってきた。
(速い……)
俺は雷剣を生成すると、
「はっ!」〔雷電一閃〕
と、2体同時に横薙ぎに魔物を切り裂いた。
「まだだ」〔溟海の軍勢〕
ネレウスは続けて大量の海洋生物を召喚する。数十体近い小型の海魔物——剣魚のような尖った魔物や、触手を持つクラゲ、大きなクジラのような海獣が一斉に召喚された。
その速度と迫力は確かに本物だった。普通の学生なら一瞬で吞み込まれるだろう。
だが——
「この程度なら……効かない!」〔雷光〕
俺は雷のオーラを一気に解放し、大量の海洋生物を消し飛ばした。
そして、なんとか攻撃を耐え抜いた大きなクジラ型の海獣に、雷の掌底を叩き込む。
――バシュッ!
雷が爆ぜ、海獣は粒子となって消えた。
ネレウスが目を細める。
「……やるな。だが、まだ序の口だ!」
ネレウスはさらに神力を高め、両手を大きく広げた。
同時に闘技場の地面に海水が広がり、足場を悪くしてくる。
(なるほど……召喚とフィールド制御の複合か。でも――)
俺は雷剣を地面に突き立て、思い切り放電させた。
しかし、対策されているようで、全く電気が流れない。
「やっぱり、そんなにバカじゃないか……」
「当たり前だろう。さぁ、行くぞ!!」
ネレウスがそう言い手をかざすと、一瞬、海水に神力が走った。
次の瞬間。
――バシュ! バシュ! バシュ!
四方八方から、鋭い海水の攻撃が襲いかかった。流石というべきか、規模が段違いだ。
「うわッ!?」
俺は高く跳躍し、攻撃を避ける。しかし、槍のような攻撃は鞭のように軌道を変え、追撃してきた。
「こうなったら……」〔天裁きの雨〕
俺は無数の雷で攻撃を迎撃しつつ、
「防護結界」
と、全身を覆う結界を展開した。
「ほう。スキルと魔導を両立させるとは、なかなかやるじゃないか」
ネレウスはそれを見て、素直に感心している様子。
観客席のマヨたちも、
「スキルを使用しながら結界術を扱うなんて……それも詠唱を簡略化して」
「スキルを持たない私でも、結界術と魔法の両立は難しいのに、すごいですね」
「よくわかんないけど、テンにぃすごーい!」
と、俺の成長に驚いているようだ。
俺は呼吸を整えると、ゆっくりと口を開く。
「確かに、入学式の時は知識も技術も未熟だった。でも、俺は日々成長しているんです! 大切な仲間を護れるように。その力を、あなたに見せてあげます!」
俺はそう言うと、勢いよく踏み込み、一気に加速した。
地面の海水が割れる。
「くらえ!」〔雷電一閃〕
そして、俺はネレウスに一撃を叩き込んだ。
だが、ネレウスの前に召喚された巨大な亀に防がれた。
「なッ!?」
「どうした。読みが外れたか? 俺は加護使いだが、近接もできるぞ!」
ネレウスが叫ぶと、今度は海水がネレウスの周りに集まり一つの剣になった。
「〔溟海神剣・ヴォイドマリス〕。選ばれし者のみが扱える、最上級のアイテムだ」
ネレウスはそう言うと、剣を構えた。
(剣を中心に海水が渦巻いている。それに、あの圧倒的なオーラ……これは危険だ)
しばしの静寂。そして、再び激しい戦闘が始まった。
ネレウスが神剣を振るう度に、辺りの海水が呼応するように襲いかかる。それに織り交ざる海洋生物の奇襲。
「なんの!」〔雷電剣・流星〕
だが、俺も負けじと攻撃をする。
「くっ……?」
ネレウスが歯を食いしばる。
両者譲らぬ激しい攻防。
「ならば、これならどうだ!!」
そんな中、ネレウスはさらに大きく手を掲げ、最大級の召喚を試みた。
「来い! 〔溟海の支配者〕!」
地面が大きく揺れ、巨大な水の渦が巻き上がる。
その中心から現れたのは、全長20m近い巨大な海龍型の神獣だった。
口から高圧の水砲を放ちながら、猛烈な勢いで俺に向かって突進してくる。
観客席からミリアの声が飛んだ。
「わぁっ、でっかい! テンにぃ、大丈夫!?」
俺は深く息を吸い、軽く構えた。
「……さすがにこれは、本気でいかないとな」
雷のオーラを全身に纏い、速度を一気に上げる。リヴァイアサンの水砲を横っ飛びで回避し、そのまま巨体の側面に跳び乗った。
雷を集中させた手を天に掲げ、
「——くらえ!」〔天裁雷〕
と、雷を落とした。
――ドゴォォン!!
巨大な海龍の体が内側から爆ぜるように崩れ、ネレウスが生成した海水ごと魔物は一瞬で霧散する。
砂埃と水しぶきが舞う中、俺はゆっくりと地面に降り立った。
だが、その瞬間、強大な気配を感じ、ハッとネレウスに視線を向けた。
そこには、居合の構えをするネレウスの姿。
――既視感。
「まさか……今のはオトリ!」
俺は声を上げる。だが、もう遅い。
水色のオーラがネレウスを包み込む。
「海神の加護!」〔溟海の荒津波〕
次の瞬間、剣から大量の水の塊が放たれた。
サミットロードと戦った時見た、マヨが使った技。
だが規模が違う。マヨの十数倍はありそうだ。
恐らく、これがオリジナル。
「くっ……俺は負けない!」
俺は自身を鼓舞すると、全身に雷のオーラを纏わせた。
そして――
「雷魔法! 最大出力!」〔雷撃砲〕
黄白色の稲妻が、空間を切り裂いた。
一筋の光が、ネレウスの攻撃を穿つ。
――ドォォン!!
「ぐあァァァ!!」
俺の攻撃を、ネレウスは防ぎきれずに、その場に倒れ込んだ。
ネレウスは片膝をついたまま、荒い息を吐いていた。
海神の加護による水のオーラはすでに消え、周囲に広がっていた海水も、ただの水溜まりとなって地面に残っている。
「……くっ……」
ネレウスは歯を食いしばり、立ち上がろうとするが、足に力が入らずよろけた。
俺はゆっくりと歩み寄り、静かに声をかけた。
「勝負ありですね」
ネレウスは悔しげに俺を見上げ、唇を震わせた。
「……認めざるを得ないな。お前は……本当に強い。マヨちゃんを護れるだけの力がある……」
ネレウスの声には、プライドを折られた悔しさと、わずかな安堵が混じっていた。
俺は手を差し伸べた。
「マヨのことは、俺がちゃんと護ります」
ネレウスは一瞬迷ったような顔をしたが、結局その手を取って立ち上がった。
そこに、マヨたちもやってくる。
「お見事です、テンコさん! 天星級の2回生にかつなんて、流石ですね」
「テンにぃすごかったよ! ネレウスにぃも、強かった!!」
「ネレウス、これでわかったでしょ? テンコは強くて、大切な私の仲間なの」
マヨの言葉に、ネレウスは少し沈黙したが、やがて口を開いた。
「……ふん。今日はお前の勝ちだ。だが、次は――」
そこまで言った時だった。
「お前たち! そこで何をしている!!」
闘技場の入り口から、厳しい声が響いた。
振り返ると、そこには老魔導師と、数人の警備職員が立っていた。
「大きな音がしたから来てみれば、これは一体どういうことかね」
「あっ……」
どうやら、俺の〔天裁雷〕が結界の外から落ちたものだから、普通に外に轟音が響いていたらしい。
「「す、すみませんでした!!」」
こうして、僕とネレウスの決闘は幕を閉じたのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
ネレウス:銀髪ロングの青年。17歳。ミルキーウェイの公爵家長男で、マヨの従兄弟。マヨにとても過保護で、ウザがられているが、優秀で思いやりのある性格をしている。




