第54話 校外学習
入学から3日ほど経った日の朝。ホームルーム。
「今日は一日、校外学習に出かける。訓練もあるため、ジャージに着替えてから始業5分前には正門前に集合するように」
担任にそう告げられ、 更衣室でジャージに着替えた俺たちは、指示通り正門前へと向かった。
朝の空気はひんやりとしていて、まだ人の少ない学院の敷地はどこか静かだ。
そんな中、既に何人もの生徒たちが集まっており、あちこちで談笑する声が聞こえてくる。
「みんなたのしそうだな……」
「こういうイベントは気合い入るからな!」
ライオスが笑う。
「確かに、授業で聞くだけよりは面白そうだな」
「だろ? しかも『訓練もある』って言ってたしな! 絶対戦えるぞ!」
ライオスは拳を握りしめてやる気満々だ。
「お前はそればっかりだな……」
アルトが苦笑する横で、カイスは腕を組みながら少し考え込む。
「歴史と訓練を組み合わせるってことは、ただの見学じゃないね。何かしら意図があるはずだ」
「まあ、行けば分かるだろ」
俺はそう言って軽く肩をすくめた。
(校外学習か……楽しみだ)
そんなことを思っていると――
「全員揃っているな」
低く通る声が響いた。
振り返ると、戦闘実技を担当する教師と、担任のネス先生がこちらへ歩いてきていた。ざわついていた生徒たちも、次第に口を閉じて整列していく。
教師は俺たちの前に立つと、周囲を一瞥し、ゆっくりと口を開いた。
「これより校外学習を開始する。今回の目的は2つ、1つは歴史の実地学習、そしてもう1つは、実地訓練だ」
その言葉に、生徒たちの空気がわずかに引き締まる。
教師は淡々と続ける。
「午前中は遺跡および歴史資料館を巡り、古代魔法や過去の戦いについて学ぶ。午後は状況に応じた訓練を行う予定だ。気を抜くなよ」
ライオスが隣で小さく「よっしゃ」と呟くのが聞こえた。
教師は最後に一度うなずくと、
「それでは出発する。順番に、正門の外に用意してある馬車に乗り込め。一つにつき10人。計4台で行く」
と告げた。
こうして、俺たちの初めての校外学習が始まった。
学院の正門を抜けた馬車は、石畳の道を軽やかに進み、やがて都市部を抜けて郊外へと出た。
窓の外には、広がる草原とまばらな森林。遠くには小さな村や農地も見える。普段は学院の中にいることが多いだけに、その景色はどこか新鮮だった。
「おお……外ってこんな感じなんだな」
ライオスが身を乗り出して外を眺める。
「お前、普段どこに住んでたんだよ……」
アルトが呆れたように返すが、その表情はどこか楽しそうだ。
カイスは窓の外を見ながら、静かに言った。
「この辺りは、古代遺跡が多く発見されている地域だ。今回の目的地も、その一つだろうね」
「詳しいな」
「少し調べてきただけだよ」
そんなやり取りをしているうちに、馬車はやがて一つの大きな建物の前で止まった。
石造りの重厚な建築。入口には大きな紋章が刻まれている。
「おぉ……雰囲気あるなぁ」
馬車から降りた俺たちは、その建物を見上げた。
「フォルティス中央歴史資料館だ」
教師の声が響く。
「まずは、この資料館の裏手にある遺跡から見学する。ついてこい」
俺たちはそのまま建物の脇を通り抜け、裏手へと回った。
すると――
「こ、これは……」
思わず声が漏れた。
そこには、崩れかけながらもなお威厳を保つ石造の神殿が佇んでいた。
柱は何本も折れ、屋根も半分以上が失われている。それでも中央へと続く階段と、その奥に見える祭壇だけは、はっきりと原形を留めていた。
まるで、そこだけ時間が止まっているかのように。
「すげぇ……」
ライオスが感嘆の声を上げる。
「これが古代遺跡……」
アルトは興味深そうに壁面を見つめている。
(ルミナスで見たものとは少し違うな……ルミナスのは古代ギリシャみたいな雰囲気だったが、こちらはアステカ文明のようだ)
俺は遺跡を眺めながら、そんなことを考えた。
やがて、遺跡に近づくと、壁や柱にはびっしりと魔法陣や魔法印のような紋様が刻まれていた。風化している部分も多いが、ところどころは今でも淡く光を帯びている。
「この遺跡は、約3000年前の古代魔導文明時代のものだ」
教師が説明を始める。
「当時は今よりも魔法技術が発展していたとされている。この神殿は、儀式および大規模魔法の発動拠点として使われていた」
「大規模魔法って、どれくらいですか?」
ライオスがすぐに食いつく。
「都市一つを覆う結界、あるいは地形を変える規模だ」
「……は?」
思わずライオスの声が裏返る。
アルトも目を見開いた。
「それ、ほぼ自然災害じゃないか……」
教師は特に表情を変えず続ける。
「当時はそれが可能だった。もっとも、代償も大きかったらしいがな」
俺はゆっくりと神殿の奥へ視線を向ける。
――祭壇。
そこだけ、妙に空気が濃い。
(……なんだこれ)
無意識に、一歩足を踏み出す。
その瞬間――ドクン、と心臓が脈打った。
ほんの一瞬だが、空気が歪んだような……まるで何かに"触れた"ような、不快でもあり懐かしくもある感覚。
(まさか……油断していたが、フォルティスにも"俺の痕跡"があるなんて……でも、3000年前は既に封印されていたはず……なんでだ……)
俺は少し固まっていたが、
「……テンコ?」
という、カイスの声で我に返った。
「ああ、なんでもない」
俺は軽く首を振って誤魔化した。
(気のせい……か?)
しかし、視線はどうしても祭壇から離れなかった。
その後も遺跡の見学は続き、柱や魔法陣の解説、簡単な観察などが行われたが、俺の意識はどこか上の空だった。
そして一通り見終えた後、教師が声をかける。
「次は資料館の中だ。移動するぞ」
俺たちは再び建物の中へと戻った。
資料館の中はひんやりとしていて、外とはまた違った静けさがあった。
高い天井に、整然と並ぶ展示ケース。その中には、古代の道具や書物、武器の残骸などが収められている。
俺たちは自由行動で、順路に沿って見学を始めた。
「これは、古代魔法装置の一部だって」
カイスが一つの展示を指し示す。
そこには、水晶のような核を中心に、複雑な金属の枠が組まれた装置が置かれていた。
「魔力を蓄積し、一定条件で自動発動する装置。現代の魔法技術の原型だな」
「へぇ……」
ライオスが興味津々で覗き込む。
「触るなよ」
「わかってるって!」
さらに進むと、今度は武器の展示に移った。
刃こぼれした剣、折れた槍、黒く焼け焦げた盾。
「これは古代戦争で実際に使われたものみたいだね。中には、魔法によって強化された武器も含まれている。この剣なんて、ルーンが刻まれたかなり高位の古代アイテムだよ!」
アルトがじっと剣を見つめながら、興奮したように呟く。
「今の技術とは、根本から違うな……」
「理論体系が別物だね」
それを見て、俺とカイスは小さくうなずいた。
「向こうにも、面白そうなのがあるぞ!」
それから、ライオスに催促され俺たちは次の展示へ向かった。
古代の書物などの資料が展示されているエリア。そこには、一枚の古びた石板が置かれていた。
表面には、かすれた文字と複雑な紋様。
「それは、遺跡で見つかった。古代文書の一部だ」
ちょうどそこにいた、教師の声が響く。
「完全には解読されていないが、一部には"世界の均衡"や"封印"に関する記述があるとされている」
(……来たな)
俺は目を細める。
教師は間をおいて、ゆっくりと口を開いた。
「実は……この石板は、学院の地下から出土したものだ」
その言葉に、その場の4人の目が見開かれた。
「「えっ!?」」
教師は静かに続ける。
「元々、あの学院は巨大な遺跡上に建っているらしく、いろいろな物が発見されたんだ」
「ということは、他にも展示されているんですか!」
教師の話に、ライオスは食い気味に口を開いた。
しかし、教師は首を横に振る。
「いや、見つかったには見つかったのだが……その全てに強力な封印と防護の術式が刻みこまれていて無理だったそうだ。この石板は、神殿の入口に立っていた看板のようなものらしく、唯一その影響を受けていなかった……アレは、とんでもないものだ」
どこか含みのある、何かを隠すような言い方。俺はだいたい見当がついていた。
――天神聖書が封印されている神殿。禁書庫に聖書が封印されているんじゃない。聖書が封印されていたところに、意図せず禁書庫ができてしまったのだ。
「テンコ?」
ライオスが不思議そうに覗き込む。
「なんか気になるのか?」
「……いや、なんでもない」
俺は視線を外した。
(天神聖書……やっぱり関係してるな)
確信に近い何かが、胸の奥で静かに形を成し始めていた。
その後も見学は続いたが、俺の意識はすでに別のところにあった。
過去の遺物。失われた技術。そして――かつての"俺の痕跡"。
(この世界の遺物が、全て魔神王につながっているのだとしたら――)
この世界の真実にたどり着くのは、まだまだ先だと、そう思わせるには十分すぎる内容だった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
ライオス:テンコのクラスメイトで、前期選抜首席の実力者。暑苦しいが、見た目に反して魔法使い。
アルト:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。風魔法使いらしい。
カイス:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。スキルの模倣は加護。




