第55話 古のダンジョン攻略
昼。資料館での見学を終えた俺たちは、昼食を食べ、外へと集められていた。
見学の余韻がまだ残っているのか、生徒たちの表情はどこか浮き足立っている。そんな中、引率で来ていた戦闘実技担当の教師が前に立ち、腕を組んで口を開いた。
「よし、全員揃っているな。これより午後の実地訓練を開始する」
その一言で、空気が一段引き締まる。
「今回の訓練内容は――ダンジョン攻略だ」
一瞬の静寂の後、「おぉぉ!!」と、あちこちから歓声が上がった。
「来たぁ!! やっぱりそうだよな!!」
隣でライオスが拳を突き上げる。
「ただの訓練じゃないよね……遺跡見学とセットってことは、さっきの話と何か繋がってるはずだ」
カイスは腕を組んだまま、静かに呟く。
「まぁ、行けば分かるだろ」
俺は軽く肩をすくめた。
教師は続ける。
「今回挑むのは、この周辺で発見された古代系ダンジョンだ。午前中に見た遺跡と同時代の構造を持つとされている」
その説明に、周囲がざわつく。
「なお、ダンジョン内ではパーティを組んで行動してもらう。基本は4〜5人編成だ。戦闘、探索、連携――すべてを評価対象とする。ダンジョンの最奥部にたどり着けば、評価は満点。ただし、危険と判断した場合は即座に介入する。無理はするな」
教師の声は淡々としているが、その言葉には確かな重みがあった。
「では、パーティを組め。5分後に出発する」
その合図と同時に、生徒たちは一斉に動き出した。
「よし! テンコ、オレたちで組むぞ!」
ライオスが迷いなく言う。
「まぁ、そうなるよな」
俺が答えると、
「結局このメンバーか」
「まぁ、知らないやつと組むよりいいさ」
と、アルトとカイスも自然とこちらに集まってきた。
「バランス的には……まあ悪くはないな!!」
「いや、近接2人にバフなしは、どう考えても偏ってるだろ」
アルトが苦笑する。
「いいじゃねぇか! 前で暴れてぶっ壊せばいいんだよ!」
「脳筋すぎるだろ……」
そんなやり取りをしながらも、4人で顔を見合わせる。
「じゃあ、このメンバーで行くか」
「ああ!」
短いやり取りで、パーティは決まった。
それからしばらくして、教師の号令で再び全員が整列する。
やがて馬車に乗り、みんなはダンジョンへと向かった。
「よし、ここからは歩きで移動する。ついてこい」
俺たちは馬車を降りると、教師の後に続き、森の中へと足を踏み入れた。
しばらく歩くと、木々が途切れ、開けた場所に出る。
そこにあったのは――半ば地中に沈んだ、石造りの巨大な建造物だった。
「これが……」
「ダンジョンの入口だ」
教師が短く告げる。
崩れかけた柱、ひび割れた外壁。しかし、その奥へと続く入口は、まるで口を開けた獣のように暗く、重い気配を放っていた。
空気が、違う。
午前中に見た遺跡と同じ――いや、それ以上に濃い。
「……なんか、ゾクッとするな」
アルトが小さく呟く。
「いいじゃねぇか! 燃えてきた!」
ライオスは相変わらずだ。
カイスは無言で周囲を観察している。
「各パーティごとに順番に入る。中での行動は自由だが、無茶はするな」
教師の指示が飛ぶ。
こうして、次々にパーティが中へと消えていく。
そして――
「次、行け」
俺たちの番が来た。
「よし、行くぞ!」
ライオスを先頭に、俺たちは入口へと足を踏み入れる。
石の床を踏みしめ、暗い通路へと進む。
内部はひんやりとしていて、外とはまるで別世界のようだった。壁や天井には、かすかに光る魔法陣が刻まれている。
「……古代系の迷宮型ダンジョンにくるの、なんか久しぶりだなぁ」
俺は内部を見渡しながらそう呟いた。
「そういえば、お前冒険者だったな。この道のプロじゃねぇか?」
ライオスが振り返る。
「いやいや、プロと言うほど長くやってないよ。理由も、金を稼ぐためとレベル上げっていう不純な理由だし……」
「でも、その年で冒険者はすごいよ。普通、こういう学校とか特殊な専門機関じゃないと、資格が取れないからね」
アルトは感心したように、俺を見つめた。
「資格? あぁ、階級のことか!」
(そういえば、俺たちマヨの特権という名の不正で冒険者になったんだった……)
俺は感心しているアルトたちを横目に、ハハハっと苦笑いした。
「まぁ、何にせよ頼もしいじゃねぇか! じゃあ前は任せたぜ!」
そんな中、ライオスは俺の背中をバシバシ叩く。
「はいはい」
俺はめんどくさそうにしながらも、先頭に立った。
先に見える通路は緩やかに下りながら、幾つもの分岐へと枝分かれしている。
壁面に刻まれた魔法陣が淡く光り、最低限の視界は確保されているが、その光はどこか不安定で、時折ゆらりと揺らめく。
「いかにもって感じだな……」
俺は足元と周囲に注意を払いながら進む。床の石板にはわずかな段差や色の違いがあり、いかにも"仕掛けがある"と主張していた。
「止まって」
俺が小さく声をかけると、全員が足を止める。
「この辺、踏み方間違えると発動するタイプの罠だ」
「マジかよ……見ただけで分かるのか?」
「まぁ、なんとなくな」
軽く言いながら、俺は安全そうな足場を選んで進む。後ろの3人も慎重についてきた。
少し進むと、今度は壁面の魔法陣が一斉に強く光った。
「来るぞ!」
直後、空中に幾つもの魔力弾が生成され、一斉にこちらへと放たれる。
「任せろ!」
ライオスが前に出て、炎を纏った拳で弾を叩き落とす。
俺も横から飛び出し、残りを雷で撃ち落とした。
「自動迎撃か……めんどくせぇな」
「魔力反応型だね。一定以上の出力で反応してる」
アルトが冷静に分析する。
「じゃあ、出力を抑えて進めばいいのか?」
「いや、完全には避けられないと思う。周期か範囲の問題だ」
そんな会話を挟みつつ、今度はカイスが前に出る。
「少し待って」
床と壁を見比べ、ゆっくりと手をかざす。
「……このライン、魔力の流れがある。ここを跨がなければ起動しないはず」
「お前、よく分かるな……」
「感知系は得意なんだ」
カイスの指示に従い、俺たちは罠を回避しながら進んでいく。
途中には罠以外にも、小型のゴーレムなどがいた。
そんな風に、俺たちは戦闘と罠回避を繰り返しながら、着実に奥へと進んでいった。
幾多の罠と戦闘を越え、俺たちはついに最奥部手前までたどり着く。
広い空間の奥には、巨大な石の扉。そしてその前には、すでに何人かのクラスメイトたちが集まっていた。
「お、テンコたちも来たか!」
みんなは俺たちを見て、表情を緩める。
「結構いるな」
「いや、少ない方だ。ここまで来れたのは4パーティだけ。他はリタイアらしい」
「マジかよ……」
ライオスはすぐに扉を見て言った。
「で、なんで入らねぇんだ?」
一瞬、空気が重くなる。
「……中に守護者がいる。しかも相当強い。偵察したやつが言ってたが、今までのとは別格だ」
一人の男子がそう言うと、視線を落とした。
「へぇ、いいじゃねぇか」
だが、ライオスはそれを聞いてニヤリと笑う。
「だったら全員で行けばいいだろ?」
その一言で、場の空気が変わった。
「ここにいるのは、全員ここまで来たやつらだ! 弱いわけねぇ! 力合わせて倒せばいいだけだろ!」
短く、まっすぐな言葉。
やがて、
「……確かにな」
「やるしかないか」
「そうだな。前期後期のトップ3が集まってるんだ!」
と、覚悟が広がっていく。
「よし、行くぞ」
俺の声に、全員がうなずく。
誰かが扉に手をかけ、ゆっくりと押し開く。
重い音とともに、暗闇から濃密な魔力が溢れ出した。
その圧に息を呑みながらも、誰も引かない。
こうして俺たちは、ダンジョンの最奥部へと繋がる空間に踏み込んだ。
「……ッ!」
足を踏み入れた途端、空気が変わった。踏み入れては行けない領域に、入ってしまったような感覚。
みんなは思わず息を呑んだ。
空間はかなり広く、円形の闘技場のような構造をしていた。天井は高く、中央には――
「……あれが、守護者か」
誰かが呟く。
そこに立っていたのは、高さ2mほどの石像。
人の形をしているが、その背には2枚の翼。全身に刻まれた複雑な紋様が、淡く青白く光を放っている。
古代兵器だ。
やがて、石像は空中へと飛び上がる。
――ギィィン
金属音のような音が鳴り響き、石像の瞳がゆっくりと光を灯す。
「来るぞ!!」
アルトの声と同時に、石像の胸部に魔法陣が展開された。
直後、極太の光線が放たれる。
「散れぇ!!」
――ズドォォォン!!
轟音と共に、地面が抉れる。
全員が咄嗟に左右へ飛び、直撃を回避した。
「なんだ今の威力……!」
「洒落になってないぞ……!」
間髪入れず、次の攻撃が来る。
空中に複数の魔法陣が浮かび上がり、衝撃波が連続で炸裂した。
「くそっ、範囲が広すぎる!」
「近づかないとジリ貧だ!」
そんな中、ライオスが歯を食いしばりながら前へ出る。
「オレが行く!! 近接組は着いてこい! 魔導士はバフを!」
流石は前期首席の男。冷静に判断し、的確な指示を飛ばした。
ライオスは炎を纏い、一気に距離を詰める。
その動きに合わせ、アルトが風で軌道を補助し、魔導士が防御の加護をかけた。
連携は、完璧だった。
「喰らえぇぇ!!」〔紅蓮の拳〕
アルトの風で浮かび上がったライオスの一撃が、石像に叩き込まれる。
だが――
「硬っ……!?」
まるで岩山を殴ったかのような手応え。
石像は微動だにしない。
直後、その腕がゆっくりと持ち上がる。
「ライオス、離れろ!!」
石像が腕を振り下ろすと、衝撃波が爆ぜ、ライオスが弾き飛ばされた。
「ぐッ……!」
「大丈夫か!?」
「……問題ねぇ!」
即座に立ち上がるが、その表情には余裕はない。
他の生徒たちも次々に攻撃を仕掛けるが、有効打にはなっていない。
「どうなってんだよあれ……!」
「再生してる……!?」
石像の表面は、わずかに削れてもすぐに修復されていく。
その間にも、無差別に放たれる光線、爆撃、衝撃波。
まさに、蹂躙。
しかし、ここに来て、俺はあることに気づいた。
(――あれ? 俺に攻撃してこない……?)
違和感。無差別に放たれているはずの攻撃は、一切こちら側に飛んでこない。
こちらを見ることはあっても、次の瞬間、別の方向へと攻撃を放つ。
完全に認識はされているのに、攻撃対象から外されている。
(なるほど……そういうことか)
胸の奥で、何かが確信に変わる。
――このダンジョン。この遺跡。そして、この兵器。
全部、"俺側"だ。
「みんな! 一瞬だけいいか!」
俺は声を張り上げた。
「なんだ!?」
「隙、作れるか!」
「は! 上等だ!!」
ライオスがニヤリと笑う。
「よしっ、やるぞ!!」
ライオスの声と共に、全員が同時に動いた。
炎、風、魔力弾、加護。
一斉攻撃。
石像がそれに対応しようとして、下に降りてきた瞬間、俺は懐に潜り込んでいた。
(やっぱり……来ない)
至近距離。それでも、攻撃は飛んでこない。
無防備。完全な隙。
「――終わりだ」
掌に、雷を集中させる。
圧縮。凝縮。力を限界まで高める。
〔雷撃砲〕
ゼロ距離で、叩き込む。
――バリィィ!!
轟音と閃光。雷が内部へと流れ込み、石像の全身に走しった。
ひび割れ、光が暴走する。
そして――
ドォォォン!!!
爆散。
石の破片が飛び散り、光が弾け、やがて静寂が訪れた。
しばらくの沈黙。
そして――
「……倒した、のか?」
誰かが呟く。
煙が晴れ、そこには崩れ落ちた石像の残骸だけが残っていた。
「……マジかよ……」
「やった……!」
歓声が広がる。
ライオスが大きく笑いながらこちらに来る。
「テンコ!! 最後のアレ、やばすぎだろ!!」
「助かったよ。あれがなかったら、削りきれなかった」
アルトとカイスもうなずく。
「いい連携だった」
「……ああ」
俺は軽く笑って応じる。
そして、ふと視線を崩れた石像へと向けた。
石像は俺を攻撃しなかった。違和感と既視感。
(まさか……"あの時"も!)
その正体に、俺は気づく。
――まだこの世界に来たばかりの時戦った、黒いドラゴン。
俺――竜天神は竜の始祖であり、魔と神の頂点。
何かが、一本に繋がり始めていた。
その答えに辿り着くには、まだ時間がかかる。
だが確実に――この世界の奥に、何かが眠っている。
それだけは、はっきりと分かった。
(……面白い)
俺は視線を戻し、静かに笑う。
こうして、校外学習の実地訓練は幕を閉じたのだった。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
ライオス:テンコのクラスメイトで、前期選抜首席の実力者。暑苦しいが、見た目に反して魔法使い。
アルト:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。風魔法使いらしい。
カイス:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。スキルの模倣は加護。




