第44話 聖書への道のり
祝日の翌朝。今日はアインを旅立つ日だ。
祭りは終わり、外はいつもの柔らかな朝の喧騒に包まれている。
「ありがとうございました!」
俺たちは、アニマの私室で別れの挨拶をする。
「寂しくなりますわね」
「ほんとです」
セレナとルナはどこか寂しそうな顔で、俺たちを見つめた。
「本当に……本当にもう行くんだね? 寂しくなるよ〜」
アニマは何故かめちゃくちゃ泣いている。
「アニマ様、気持ちが悪いです」
側近はいつも通りだ。
「スピリトゥスは初めて来た国だったので、楽しかったです」
「えぇ。今生の別れという訳でもないですし、またいつかお邪魔します」
カタルシアとマヨも丁寧にお礼を言った。
「それでは、お気をつけて」
「また、いつか巡り会う日が、きっと来るでしょう」
「はい! さようなら!」
そして、セレナとルナ、アニマとその側近に見送られながら、俺たちは城をでて、そのまま街を後にした。
アインを後にしてからしばらく経った時、俺たちは穏やかな草原を馬車で進んでいた。
ミリアは荷台の上でごろごろ転がりながら、
「スピリトゥス、楽しかったね〜! ルナねぇとセレナねぇにまた会いたい!」
と、尻尾を振りながら言っていた。
カタルシアは静かに本を読んでいる。
「なぁ、次はどこに向かうんだっけ?」
俺は馬車の端に腰掛けながら、そう尋ねた。
すると、マヨが懐から一枚の古びたマップを取り出した。
――レインからもらった、あのマップだ。
「次は天神聖書の反応が近くにあるから、そこに向かうわよ」
マヨはマップを指さす。指の先には、赤い印が大きな国の中にあるのが見えた。
「ここは?」
「フォルティス王国よ。拡大してみたら、かなり大きな施設の中……おそらく学校にあるみたいね」
「学校? あぁ、バグの予兆が出た時ボソッと言ってたな」
「どんなところなんですか?」
カタルシアも興味を示して身を乗り出す。
マヨは少し難しい顔をして続けた。
「フォルティス王国は大陸の中央にある大国よ。交易の中心地としてとても発展していて、軍事力も非常に強い。『勇者の国』なんて呼ばれているわ。各国から優秀な若者が兵士を目指して集まってくるの。
そして、この光っている場所……どうやら『覚醒者育成学院・サウス校』の中にあるみたい」
「覚醒者育成学院? 気になってたんだが、覚醒者と能力者って何が違うんだ?」
俺が聞き返すと、マヨが詳しく説明を始める。
「『覚醒者』は未成年の能力者のことよ。成年は基本的に20歳。長命種は平均寿命の5分の1ね」
「私はエルフなので、成人は200歳ですね。私は86歳なのでまだまだです」
マヨの言葉にカタルシアが補足した。
「8ッ――そ、そんなだったんだ」
(確かに、考えればカタルシアってエルフじゃん。ギルド登録の時、俺は何もわかんないからマヨに投げっぱなしで知らなかった)
見た目に反してかなり年上だったので、「そんな歳イッてたの!?」と言うのをこらえ、俺は変な言葉が出てしまった。
横でマヨが、「原初の時代から生きてるヤツが、何言ってんだ」とツッコむ。
そして、軽く咳払いをした後、説明を再開した。
「で、フォルティス王国は特にこの覚醒者育成に力を入れていて、サウス、ノウス、イースト、ウェストの4つの学院があるの。
どれも大規模で、特に戦闘学部は一校だけで1000人規模。クラスは低級、中級、上級、超級、そして最上位の天星級の5段階に分かれているの。最大4回生まで在籍できるわ」
ミリアが目を丸くして聞いた。
「へぇ〜! 学校に1000人!? すっごいね!」
マヨは少し真剣な表情でマップを指差した。
「問題は……この印が付いているのが、その学院の"書庫"らしいってこと。学院の書庫は特に厳重に管理されているはずよ。一般人が入れるような場所じゃない」
俺はマップを眺めながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……つまり、聖書はその学校の書庫にあるってことか。しかも、フォルティスって軍事大国だろ? 簡単には潜入できなさそうだな」
カタルシアが静かに言った。
「書庫に入るには、学院の生徒になるのが一番自然な方法かもしれませんね」
マヨもうなずく。
「幸い、後期入学の試験が6月にあるみたい。今がちょうど試験直前……あと数日で受けられるわ。合格すれば6月中旬に入学できるはず」
俺は拳を握りしめ、口元に笑みを浮かべた。
「異世界の学校生活……か。なんか、急に面白くなってきたな! よし、決まりだ。次の目的地はフォルティス王国。覚醒者育成学院・サウス校だ!」
「潜入捜査みたいで、なんだかワクワクしますね!」
また新たな刺激に、みんなは興奮している。
こうして俺たちは、次なる国に向けて冒険を再開させたのだった。
スピリトゥスから北西に向けて進むことおよそ2日後。前方に大きな岩山が見えてきた。
「あそこを越えた先が、フォルティス王国の国境よ」
マヨが告げる。
「もうそんなところまで来ていたのか。早いな」
「平坦な道が多かったからね」
そんな会話をしながら、俺たちは岩山を目指した。
やがて、岩山の麓に到着すると馬車を〔インベントリ〕に収納し、俺たちは徒歩で山道を登り始めた。
「……険しいわね」
山を登っていると、空気が次第に冷たくなり、木々がまばらになっていく。
岩肌が露出した急斜面が続き、風が強く吹き抜ける。
そして、俺たちが頂上付近の少し開けた場所にたどり着いた時、微かに違和感を覚えた。
「ん……なんか、視線を感じるな」
何者かに狙われているかのような、鋭い視線。
その直後だった。
「――キィィィィッ!!」
鋭い鳴き声が山肌に反響する。
上空から急降下してくる影。魔物だ。
翼を広げたその魔物は、体長は優に10mを超えていた。
灰色と白の混じった強靭な羽、鋭い鉤爪、宝石のように赤く輝く不気味な目。只者ではないオーラを放っている。
「まずい!」
本能で危機を感じた俺は反射的に体を動かし、ドンッと力強く地面を蹴ると3人を抱えて攻撃を避けた。
雷魔法を応用した疾走で、足にはビリビリと稲妻が走っている。
直後、
――ズドォン!
という衝撃と共に、魔物が地面に激突してきた。
「くうっ!」
「きゃぁ!」
砂埃が舞い、風圧で体が持っていかれそうになる。
「これは、サミットロード……! 山の主と呼ばれる鳥系の魔物よ!」
マヨは立ち上がると、剣を抜きながら叫ぶ。
「山岳地帯の守護者みたいな存在で、縄張り意識が非常に強いわ。近づいた者を容赦なく攻撃してくる!」
「ここに来て、かなりの強敵ですね」
サミットロードは上空に飛び上がると、再び急降下。
風を切り裂くような速度で、鋭い鉤爪を振り下ろしてきた。
「危ない!」
俺は雷剣を構え、即座に迎撃する。
「はっ!!」
――バチィッ!!
稲妻を纏った斬撃がサミットロードの爪と激突。
火花と雷光が散り、サミットロードは一瞬体勢を崩したが、すぐに翼を広げて高度を取った。
「速い……!」
ミリアが爪を輝かせて追撃しようとするも、サミットロードは風を操るように旋回し、容易に距離を取る。
「動きが速くて、拘束魔法を放とうにも捉えられません!」
「こいつ……鳥系は厄介なんだよ」
俺はそう呟きながら距離を取りつつ、〔解析〕を使った。
【Summit Lord】Lv.45
MP:700/700
HP:350/350
STR:400
DEF:300
AGI:600
〈〈詳細〉〉山岳地帯に生息する大型の魔物。非常に狂暴で、素早い動きで敵を翻弄する。しかし、意外と防御力に乏しく、特に水属性に弱い。
(アジリティ……表示できる項目がまた増えている。いや、そんなことより――)
「水だ!」
俺は解析結果を見て、口を開らいた。
「アイツは水に弱いらしい」
「それは初耳だわ」
マヨはそれを聞いて、剣を構え直す。
「でも――このままじゃ届かないわ! カタルシアちゃん、バフをお願い! テンコとミリアは時間を稼いで!」
「わかりました!」
カタルシアが素早く詠唱し、みんなに強化魔法をかける。
身体が軽くなり、反応速度が上がったのを感じる。
サミットロードが再び急降下。今度は風の刃を纏った羽ばたきで広範囲攻撃を仕掛けてきた。
「みんな、散開して!」
マヨの指示に従い、俺たちは左右に分かれる。
風の刃が地面を抉り、岩が砕け散る。
「テンにぃ! いくよ!」
「まかせろ!」
ミリアが紫の爪を輝かせて大胆に飛び出し、サミットロードの注意を引く。
そして、サミットロードの目がミリアに向いた瞬間、俺は背後から一気に間合いを詰めた。
「今だ!」〔瞬雷〕
雷を集中させた高速斬撃が、サミットロードの翼の付け根を捉える。
――バチバチッ!
激しい雷鳴が響き、サミットロードが苦痛の鳴き声を上げた。
しかし、サミットロードはしぶとい。
翼を大きくはためかせ、強烈な突風を巻き起こす。
俺たちは風圧に押され、後退を余儀なくされた。
「このっ……!」
カタルシアがツルの鞭を生成し、サミットロードの足を絡め取ろうとするが、サミットロードは器用に爪で切り裂く。
「くっ……山の主ってだけあって、相当手強いな。マヨ! あとどのくらいだ?」
「あと30秒くらい!」
マヨは居合のような構えで、力をためているようだ。目を閉じ、息を整え、魔力を練ることに集中している。
傍らではカタルシアが防護結界を張って、護っている。
「よし、ミリア! 連携だ! ルミナスでの特訓を思い出せ!」
「わかった!」
俺とミリアは時間を稼ぐべく、同時にサミットロードに向かって駆け出した。
「いくよ!」〔魔獣の咆哮〕
――ドォォン!!!
ミリアが放った大地を震わすような音の砲撃が魔物に直撃すると、三半規管がやられて魔物の高度がぐんっと下がる。
その隙を逃さず、俺は跳躍し、雷剣を横薙ぎに振り抜いた。
――ズガァァン!
雷の斬撃がサミットロードの胸元を切り裂き、サミットロードは岩場に激突した。しかし、傷は浅い。
ミリアがすかさず追い打ちをかける。
「くらえー!」〔魔物の爪・弾〕
サミットロードは再び素速く空に舞って、攻撃をかわそうとした。だが――
「ははっ、動きが単純だ!」〔雷縛〕
サミットロードの動きを読んでいた俺の稲妻が、サミットロードの体を縛り上げる。
「キィィィィッ!!」
サミットロードは抵抗するが、為す術なくそのまま地面に落ちてくる。
「よしっ! 行けるわ!」
同時に準備が完了したマヨが告げると、剣を強く握り、魔力を一気に解放した。
水色のオーラがマヨを包み込む。
「水魔法! 最大出力!」〔溟海の荒津波〕
次の瞬間、剣から大量の水の塊が放たれた。魔力を孕んだ、巨大な斬撃のような波がサミットロードに押し寄せる。
――ザッバッァン!!
そして、その攻撃はとどめを刺すようにサミットロードを飲み込んだ。
「キ……キェ……」
サミットロードは最後に小さく鳴くと、動かなくなった。
「ふぅ……やったか」
俺は雷剣を解除し、息を吐く。
カタルシアがすぐに回復魔法をかけながら近づいてきた。
「みんな、無事ですか?」
「うん! ちょっと疲れたけど、大丈夫!」
ミリアが尻尾を振りながら笑う。
マヨがサミットロードの死骸を眺めながら言った。
「サミットロードの羽は高値で取引されるわ。せっかくだから、少し持っていきましょう」
こうして俺たちは戦利品を回収し、再び馬車に戻った。
岩山を越える頃には、太陽が少し傾き始めていた。
「フォルティス王国……もうすぐだな」
俺は馬車から見える景色を見つめながら、静かに呟いた。
天神聖書、そして覚醒者育成学院。
新たな冒険の予感が、胸の奥で静かに高まっていた。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




