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『神』のゲームの主人公~突如巻き込まれた異世界ゲームで、最高のエンディングを目指します~  作者: トランス☆ミル
第五章 宗教国家と天神信仰編

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第36話 スピリトゥス霊王国

 霧は、まるで生き物のようだった。


 帝国側の街道を抜け、緩やかな丘を越えたその先。白く淡い霧が、境界線のように横たわっている。


「霊王国の結界ね。ここからは"霊域"……」


 マヨが静かに呟く。目に見える障壁はない。だが、空気が違う。


 風の音が、どこか遠い。


 俺たちは一歩、霧の中へ踏み出した。


 その瞬間、世界の"重さ”が、わずかに変わる。


 今までバグやら戦争やらの重圧に押しつぶされていたせいか、妙に足取りが軽い。不気味だが優しい雰囲気。


「……雰囲気あるわね」


 呼吸が澄んでいる。耳に入る音が、やわらかい。


「……なんだこれ」


 俺は違和感を覚え、ふと足元を見る。


 土は同じ。草も同じ。だが、踏みしめた感触がまるで違う。


「マナの流れが……静かですね」


 カタルシアが目を細める。


「静かって?」


「帝国のマナは、常に渦巻いてる。流れが強い。でも、ここは――循環してる。押しつけてこない」


「あぁ……なんとなく、わかる気がする」


 そんな話をしながら霧を抜けると、石造りの門が現れた。国境門だ。


 白い石でできたそれは、派手な装飾もなく、ただ穏やかに立っている。


 門番が2人。銀白の髪に澄んだ瞳。人と変わらない姿だが、どこか影が薄い。


「ようこそ、スピリトゥス霊王国へ」


 門まで行くと、門番の1人が優しく声をかけてきた。


 声音は柔らかい。武装はしているが、敵意は感じられない。


「帝国からの旅人ですね。霊王都アインへ向かわれるので?」


「えぇ」


 マヨはうなずき、例の"特権プレート"を提示する。


「あぁ、特権階級の方だったのですね。大変失礼しました。どうぞ、お入りください」


 そのプレートを見た門番は、急いで門を開けた。マヨは涼しい顔をしている。


(こいつ、相変わらず権力を乱用してんな……まぁ、ホントのこと言ったら色々面倒だしいっか)


 俺はそれを見て、少し引いた。


「よし、行くか」


 そして俺たちは、は霊王国の内側へ足を踏み入れた。


 門をくぐると、その先にはなだらかな丘陵と、遠くにかすかに白い都市が見える。


 俺は、無意識に胸元を押さえた。


 ――落ち着く。


 理由はわからない。だが、この空気は嫌いじゃない。




 霊王都アインは、光の都だった。


 近づくにつれ、白と薄青を基調とした建物群が姿を現す。


 屋根や壁には何やら特殊な石が埋め込まれているらしく、陽光を受けて柔らかく輝いている。


 だが眩しくはない。優しい光だ。


 城門を抜けると、街の喧騒が広がる――はずなのに。音が静かだ。


 人々は行き交っている。市場も開かれている。子どもたちも笑っている。だが、響きが柔らかい。


「わぁ……綺麗」


 ミリアが目を輝かせる。


 通りの脇では、精霊族と思しき少女が、小さな光の球を浮かせて遊んでいる。青年が不思議な力で箱をふわりと持ち上げ、荷を運んでいる。


 魔法とは違う。詠唱も、魔力の波動も感じない。


「これは……」


 俺が不思議そうにしていると、マヨがおもむろに説明を始めた。


「これが幽霊種特有の能力体系よ」


「あぁ、昨日言ってた霊力とかいうやつか」


「そう。魔力や神力しんりょくと並んで、天賦力てんぷりょくに含まれることもあるけど、基本は別の力とされているわ」


 マヨの説明に、カタルシアも続く。


「霊力は、大地を流れるマナと人々が放つ"念"が融合したものと言われていますが、実際はよくわかっていない未知の力なんです。霊力を使った能力は、魔法や加護に並び、霊能と呼ばれているんですよ」


「へぇ~。まだまだ知らないことだらけで、面白いな!」


 俺は新たな知識に興奮する。


 未知の力。未知はロマンだ。それだけで胸が躍る。


「魔力とも神力とも違う力。これが幽霊種の生命力の源なのか」


「そうです!」


 俺は街を見渡す。


 その視線が、一瞬だけ遠くへ向いた。


 アインの街並みの奥。高台にそびえる霊王城のさらに向こう。


 巨大な樹が、かすみの向こうにかすかに見える。空へと伸びる、淡い光をまとった樹。


 胸が、わずかにざわついた。


「テンコ?」


「……いや、なんでもない」


 視線を逸らす。


 理由はわからない。ただ、少しだけ奇妙な感覚がした。


 その時。白装束の騎士が駆け寄ってきた。


「マヨ様御一行ですね。お待ちしておりました」


 一礼。


「……はい?」


 マヨは困惑した表情でそう漏らす。


 気を休めるために、こうなることを避けたのだ。困惑するのも無理はない。


「霊王アニマ様が、お会いになるとのことです」


「え……まさかパパ!? 余計なお世話を……」


 マヨはハァっとため息をつく。


「あぁ、グラン経由か」


 どうやら、グランが皇帝に連絡し、そこから更に皇帝が霊王に連絡を入れたみたいだ。


 皇帝も良かれと思ってやったことなので、マヨは複雑な表情をしている。


 だが、断るわけには行かないので、


「歓迎を感謝します」


 と、短く告げ、霊王城へ向かった。




 霊王城は、街並みと同様に白を基調としていた。


 だが王城特有の威圧感は薄い。高くそびえる塔も、どこか柔らかい曲線を描いている。


「城っていうより……大きな神殿みたいだな」


 俺が呟くと、マヨがうなずいた。


「霊王国は、政治と信仰の境目が曖昧だからね」


 それから程なくして、俺たちは玉座のある部屋の扉にたどり着いた。


 ――ギィィィ……


 重厚な扉が開かれ、中へ入る。


 案内された謁見の間は、意外なほど質素だった。


 赤い絨毯も黄金の装飾もない。白い石床と、淡い光を放つ霊石の柱。そして、奥に置かれた玉座。


 その玉座に――


「ん〜……あと5分……」


 横になっている人物がいた。


「王。お客様がお見えです」


 即座に、隣に控える黒髪の側近が冷たい声を落とす。


「……はっ」


 びくりと跳ね起きる白銀の人物。


 銀白の長髪がさらりと揺れ、ずれた王冠がカタンと音を立てた。


「えーっと……よ、よく来たね!  帝国のお客人!」


 取り繕うような笑顔。威厳? そんなものは見当たらない。


 俺は小声で呟く。


「……あれが霊王?」


「……あれが霊王よ」


 マヨは遠い目をする。マヨが頑なにお忍びを押していたのが、なんとなくわかった気がした。


 側近が一歩前へ出る。


「こちらが霊王アニマ様です」


 改めて見る。年齢は、人間で言うと50代後半と言ったところだ。


「いやぁ、堅苦しいのはなしでいこうよ。ここは戦場じゃないしね」


「先日まで戦争をしていた方に、その言葉は不謹慎ですよ」


「え!? 帝国って戦争してたの!?」


「知らなかったんですか? 正確にはアンドロメダですけど」


 軽い会話。側近は少しイライラしている。


「た、大変そうですね」


「全くです」


 俺の言葉に、側近は即同意。よほど大変なのだろう。


 だが、その視線が俺に向いた瞬間。


 空気が、わずかに揺れた。


「……へぇ」


 その一言で、ほんの刹那、霊力がざわりと広がる。


 圧ではない。干渉でもない。


 "覗かれた"感覚。


 俺は思わず肩を強張らせた。


「面白い魂してるね、君。力が"混ざっている"」


「え……?」


 間の抜けた声が出る。


 側近が即座に口を挟む。


「王。失礼です」


「えー?  本当のことだよ?」


 アニマは楽しそうに笑う。


 だが、その瞳はまだ俺を見ている。


 探るように。測るように。一瞬だけ、胸の奥が熱を帯びた。


 俺は視線を逸らした。


「ど、どういう意味ですか?」


「んー?  いやぁ、珍しいなって思っただけ」


 しかし、すぐにふっと空気が緩んだ。霊力の揺らぎも消える。


「この人の言うことは基本無視して結構です」


 側近が続く。


(この人、王様に結構ガッツリいくなぁ)


「王に向かって、君不敬だぞ」


(あ、やっぱり怒られた)


「我が国の同盟国であり、世界有数の大帝国であるミルキーウェイの皇女様を前に、そんなお気楽な態度でいる方が不敬です」


「ぐっ……た、確かに」


(あ、論破された)


 アニマは、ん゛ん゛っと咳払いをし、気を取り直す。


「ま、難しい話は後でいっか。君たちはしばらく滞在するんでしょ?」


「えぇ、その予定です」


 マヨが応じる。


「よしよし。歓迎するよ。ここはね、"戦う国"じゃなくて"巡る国"だからさ、良い気分転換になると思うよ」


「巡る?」


 俺が聞き返すと、アニマは指でくるくると円を描いた。


「力は巡る。命も巡る。世界も巡る。だから、気持ちを流れに任せることで、少し落ち着けるはずだよ。たぶん」


 その言葉は、意味こそわからないが、やけに静かに胸へ落ちた。


 やがて、側近が咳払いをし、


「王、そろそろ国祭の件が……」


 と、アニマに告げる。


「あ、はいはい、今やります。ってことで、好きに観光してってよ。アインは楽しいよ〜」


 それを聞き、アニマは無邪気な笑みを浮かべ、立ち上がった。


「よければ、今日は城に泊まって――」


「遠慮しておきます。貴重なお時間、ありがとうございました」


 去り際にマヨはそう言って、霊王城を後にした。




 国境を越えたのが昼過ぎだったので、外はすっかり夕焼け空だ。


「観光は明日からになりそうね」


「そうだな。楽しみだ!」


 新たな国。新たな冒険。俺たちは未知の世界へと足を踏み入れたのだった。


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。


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〈主な登場人物〉


テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。


マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。


ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。


カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。


アニマ:スピリトゥス霊王国の霊王。陽気でお調子者。威厳が全くない。

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