第34話 終焉
魔神王は指を鳴らす。すると、背後で魔王軍の兵士たちが倒れる音が聞こえた。
「!? なにが……」
「安心しろ。眠らせただけだ。我を知らぬ者に、我の力を見せるわけにはいかないのでな」
魔神王はそう言うと、
「さて――」
と、真剣な表情を見せた。
〔ステータスオープン〕
【繧ェ繧ウ繧キ繝弱き繝螟ゥ豐ウ】LV.43
Error 404 Not Found
HP:133027/270000
MP:60453/120000
GP:41075/70000
STR:240000
DEF:350000
魔神王は自分のスペックを確認する。
(う〜ん。今の一撃で、HP、MP、GPのそれぞれが約半分持っていかれたか……レベルも低い……)
「だがまぁ、問題ない」
魔神王はそう言うと、一歩ずつセレステに近づいていく。
「使えるスキルは雷魔法くらいか……だが、我には魔導と聖導の知識がある」
「と、止まれ!! 貴様、何者だ!!」
セレステは声を荒げる。しかし、魔神王の歩みは止まらない。
「今から死ぬ奴に、名乗る名はない」
空気が震える。刹那。白い稲妻が戦場を駆けた。
――ブゥーーン!!!
脳が破裂しそうなほどの轟音と衝撃波が、無差別に襲いかかる。
「なッ!?」
「きゃぁッ!?」
大量の砂埃が舞い、グランやマヨたちは、爆風に体が持っていかれそうになった。
「なにがッ――!?」
そして、砂埃が晴れてくると、そこには左拳をセレステの顔の前で寸止めしている魔神王の姿があった。
セレステは小刻みに震え、その場にへたり込む。
「ふむ。空間と風の操作で衝撃波を抑えたつもりだったが……少し鈍ったかな」
魔神王はそう言って、肩を回す。
さらに砂埃が晴れると、地面には魔神王が通った軌跡が鮮明に残っており、セレステの後方数百メートルに渡って、大地が大きくえぐれていた。
「み、見えなかった……」
グランは唖然とする。
「い、一体何が起きて……」
「案ずるな。稲妻の速度で移動しただけだ」
震えるセレステに、魔神王は静かに話しかける。
「貴様はまだ殺さん。我の話を聞き入れるのなら、生きて帰してやろう」
魔神王はそういうと、宙に浮き上がる。
その瞬間、魔神王の背後に大きな光輪が出現し、その光輪から6枚の翼が生えた。周辺の空気が、ピリピリとノイズを発している。
それから少し間を置き、やがてゆっくりと口を開いた。
「神王セレステに問う。貴様は聖戦の敗北を認め、今後一切、帝国に手出しをしないと誓えるか」
「……誓えない、と言ったら?」
「テルース神王国は、地図から消えることになるだろう」
セレステはしばし沈黙した後、口を開いた。
「ふざけるな……神の意に敗北は存在しない!! 今のグランより魔力のないお前の力など、たかが知れているわ!! 皆の者、神核兵器発動の準備だ!!」
セレステがそう叫ぶと、従者たちは再び祈祷をし始めた。
兵器の周囲に天聖陣が展開され、空間が震え始める。
「強がってはいるようだが、先ほどのでだいぶやられているようだな。そう何度も防げまい」
セレステは後方に下がると、微かな笑みを浮かべる。
「はぁ、我のため息程度の兵器など、何度受けても一緒だ。受けてやるつもりはないがな」
魔神王がそう言って、兵器の発動を止めに行こうとすると、
「行かせるか。天神よ我々に力を――」〔天神意思集団神術:悪滅桎梏の天鎖〕
と、セレステが謎の技を発動した。
その瞬間、魔神王の頭上と足下に大きな天聖陣が展開され、体が光の鎖で固定された。
「これは……」
(力が入らない……能力も使えないか。今の我の力では、解くのに少々時間を要するな)
魔神王は体を動かそうとするが、ガッチリと縛られており、びくともしない。
「これほどの集団神術をこの速度で発動するとはな。おおよそ、もしもの時グランに使うため、あらかじめ準備を済ませておいたのだろう」
「クックック。その通りだ。失敗しても、次で確実に仕留めるためにな!」
「用意周到だな」
戦場に冷ややかな空気が流れる。グランやパーティメンバーも、固唾をのんで見守っている。
そして静寂の後、準備が完了し、兵器がノイズを発し始める。一発目より格段に高い強い、凄まじいエネルギーだ。
「……ほう。興味深い」
魔神王は何かに気づき、ニヤリと笑う。
同時にセレステが手を挙げる。
「神核兵器、出力最大! 撃て!!」
次の瞬間、セレステは手を振り下ろす。
先程の数倍……いや、数十倍はあろう光が、魔神王に向かって解き放たれた。
だが、魔神王は動じない。そして静かに笑みを浮かべ、フッと息を吹きかけた。
――ギンッ!!
その瞬間、超圧縮されたエネルギーの塊が、光の線を兵器ごと貫く。
大地が割れ、エネルギーが四方八方に拡散した。
「……やり過ぎたか」
魔神王は光の鎖を引きちぎると、防護結果を張り、みんなを護った。
立っていられないほどの揺れが、大地をひび割る。
「ば、馬鹿な……ありえん!!」
「なるほどな」
魔神王の体からは、赤黒色と青白色のオーラが立ち昇っている。
「魔力と……神力……? なぜ、2つのオーラが……!」
セレステはその光景に目を見開いて、驚いている。
「通常、混ざることのない魔力と神力を強制的に干渉させ、融合させることで莫大なエネルギーを生み出す『グリッチ技』か。よく実現できたものだ」
魔神王はそう言うと、また一歩ずつセレステへ近づいていく。
その表情は、不気味なほど穏やかだった。
「お前……ま、まさか……!!」
セレステはたじろぎながら叫ぶ。
「そのまさかだよ」
魔神王はそういうと、勢いよく飛び上がる。
「神の意に反する者に裁きを」
そして、そう唱え手を掲げると、魔神王の周りに無数の黄金の雷の矢が出現した。
雷魔法で作られた矢に、神力が籠っている。
一つ一つが、街を消し飛ばすほどのエネルギーを秘めた、神の矢だ。
「くらえ」〔天雷无妄・神裁き〕
魔神王が手を振り下ろし、技を発動した刹那。放たれた矢は3万の神王軍に向かった。
――ズドドドドド……
矢は轟音と共に、兵士たちを大地ごと蒸発させる。
震動が地面を伝い、大地がひび割れていく。
「こ、これが陛下の――」「テンコの――」「テンコさんの――」「テンにぃの――」
「「力……」」
それを見ていたみんなは、思わずそう漏らした。
みんなはありえない光景に、依然として固まっている。
「お、お前は……なんなんだ……!!」
そんな中、戦意が完全に喪失したセレステは、怯えた声で叫んだ。
魔神王は軽く息を吐いてから、口を開く。
「I’m your OMEGA――我こそが、貴様の終焉だ!」
魔神王はその後、残りの従者も瞬殺し、相手はセレステのみになった。
セレステの絶望の表情。一歩も動けないまま、仲間が消えていく恐怖。セレステは息の仕方も忘れ、その場に崩れ落ちた。
魔神王はグランの元へ行く。
「彼奴は其方が殺れ。仇なのだろう」
「陛下……」
グランは魔神王をまっすぐに見つめる。
「案ずるな、我の力をわけてやろう。其方ならできる。先代魔王スペーズが得意としていたあの技で、仇を討て」
「まさか……御意」
グランは魔神王の言葉を静かに受け取ると、そっと立ち上がった。
「き、貴様ら、何をするつもりだ!!」
「仇討ちだ」
魔神王とグランはそれぞれ手を前に突き出すと、詠唱を始めた。
「空間は神の帆布にして世界の枠を司る秩序」
「重力は神の繋縛にして空間を支配する法則」
空間が歪み、重力が一点に収束していく。
「「今こそ、全てを飲み込み無に帰する漆黒の闇を解き放つ時」」
そして、詠唱を終えると、バキバキと空間に亀裂が入り、中心に漆黒の領域が渦巻き始めた。
「まさか……それは……」
「父上の技……使わせていただきます。発動!」〔ブラックホール〕
無限の重力を纏った漆黒の闇が、地面を、空間を削りながらセレステを襲う。
「く、来るなぁぁぁ!!」
セレステは最後の力を振り絞り、天へと舞い上がるがたちまち引き戻されてしまった。
セレステはもがくも、どうすることもできない。
「こんな……嫌だ……か、神よ! どうか、どうか私をお救い――」
セレステの声は闇へと吸い込まれ、やがて体も闇へと消えていった。
しばし沈黙した後、魔神王はグランに声をかける。
「……スッキリするか?」
グランはどっちとも言えないような表情を浮かべる。親の仇を討ったというのに、どこか気持ちが晴れない様子。
魔神王は続ける。
「その気持ち。大事にしろ。例え敵であろうと、それが悪とは限らない。善悪とは、人々が勝手に作り出した自己的な思想であって、絶対の正誤ではない」
その言葉に、グランの目が揺れる。
「お前も、"今の我"も、勘違いをしている。我が護りたかった日常は、何も仲間だけのものではない。他人、動物、魔物や敵まで。全ての生命には各々の思想があり、日常があり、物語がある。我が護りたいのはその全てだ。傲慢な考えに聞こえるだろう。だが、我にはそれを実現するだけの"力"があった」
魔神王の話を聞き、グランはハッとする。先代魔王スペーズの言った『力は護るために使え』の真意に、グランは気づいた。
("あった"、のだがな……)
魔神王は何かを思い出し、少しうつむく。
しかし、グランを見た魔神王はわずかに微笑み、
「神は慈悲深いのだ。蘇生の加護」〔坤為地・神の慈悲〕
と、技を発動した。その瞬間、目の前に超巨大な天聖陣が展開され、死んだはずの3万の神王軍の兵とセレステ、その従者が復活した。
「あ、あれは、蘇生魔法!! ……いや、加護? 数万年前……神話の時代に失われたと言われた禁術……」
カタルシアは正しく神の御業を目の前に、思わず声を上げる。
「な、何が起きたんだ?」
「俺、死んだはずじゃ……」
復活した神王軍は、みんなパニックだ。
「……これは……蘇生?」
混乱するセレステに、魔神王はそっと声をかける。
「貴様たちには呪縛をかけた。我々に手出しできぬようにするための呪縛をな」
「私を……殺さないの……ですか?」
恐る恐る尋ねるセレステに、魔神王はハハッっと笑うと、言葉を続けた。
「貴様たちは相応の罰を受け、いろんな意味で生まれ変わったのだ。これ以上、我が干渉する必要もない。貴様が死ねば、関係のない民の生活が脅かされる。そもそも、貴様たちは貴様たちの正義に従ったまでだ。死に値するほどのことでもない」
その言葉に、セレステの表情が揺らぐ。
「だから、貴様たちは生きよ! 限られた自由のなか、己の日常よ歩むのだ!」
魔神王の言葉は、セレステの胸に深く突き刺さる。
「これが……王のあるべき姿……」
やがて、セレステはぽろぽろと涙を流し、
「ありがとう……ございます」
と、頭を垂れた。
それからセレステはグランにも謝罪しその場を去っていった。
「そろそろかな……」
神王軍が去ってすぐに、魔神王の左半身がノイズを発し始める。
「陛下……」
「もう時間のようだな。さらばだグラン。また、記憶を取り戻すその日まで……」
そして、魔神王が別れの言葉を告げると、その場に倒れ込んでしまった。
「ここ……どこだ……」
俺が目を覚ましたのは、魔王城の客間だった。
「て、テンコ!」
「テンコさん! 起きたんですね!」
「テンにぃ~」
いつもの声。安心する音色が、俺の耳に飛び込んでくる。
あの時俺は気を失っていた。だが、"記憶"として、鮮明に憶えている。
「心配かけてすまなかったな」
「ホントよ。もう無茶しないでね」
「ハハッ、肝に銘じます」
かつての自分の顕現に、俺は懐かしさを感じていた。
(俺もあんな風に、なれるかな……)
こうして、アンドロメダとテルースの戦いは、幕を閉じたのであった。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
グラン:アンドロメダ魔王国の魔王。真面目。誠実な性格。若い顔だが威厳がある。
セレステ:テルース神王国の神王。天神に対して歪んだ信仰心を持っている。




