第32話 聖戦
グランたちが到着する少し前。テルース神王国の陣地にて。
天幕が幾重にも連なる白亜の陣地は、淡い光に包まれていた。
その中央、ひときわ大きな天幕の内側で、数名の将と神官が円卓を囲んでいた。
「隠密兵より、アンドロメダ軍がもう時期到着するとのことです」
「いよいよだな」
低く呟いたのは、金の刺繍を施した法衣を纏う大神官だ。
「マロン王国はよくやってくれた。今まで不可侵領域の『ジャム山脈』のせいで、進軍を諦めていたが、王国内に自作のチェックポイントの制作とカモフラージュに協力してくれるとは」
「そうだ。これで忌まわしき魔王を打ち倒せる」
円卓の上には、帝国全土の地図が広げられている。赤い印が、いくつも打たれていた。
「魔王国アンドロメダは、帝国最大の軍事力を誇る。あそこを落とせば、帝国は瓦解する」
別の将が、指で地図をなぞる。
「だが、若いとはいえ、魔王グランは侮れぬ」
その時、
「だからこそ、神王自らが出るのだ」
と、静かな声が天幕に響いた。全員が立ち上がり、深く頭を垂れる。
天幕の奥から現れたのは、純白の王族衣装を纏った神王セレステ。
背には淡く光る翼が揺らめいている。
「我らは正義の名の下に進軍する。帝国の腐敗を断ち切るために」
その言葉に、神官たちは恍惚とした表情でうなずく。
「アンドロメダを落とせば、帝国は混乱するだろう」
「帝国の盟主が倒れれば、残りは烏合の衆。神王国に刃向かう者はいなくなりましょう」
静かな笑みが広がる。
だが、一人の若い将が口を開いた。
「……もし、魔王が想定以上の力を見せた場合は?」
一瞬、空気が張り詰める。大神官が目を細めた。
「その時は――"あれ"を使用する」
円卓の隅に置かれた巨大な黒い箱へ、視線が集まる。
白い布で覆われているが、その隙間から、淡く不穏な光が漏れていた。
若い将の喉が鳴る。
「あれは、神王国でも禁忌とされているはずでは……」
セレステは静かに振り向く。
「勝利のためなら、手段は選ばぬ。それが王だ」
その瞳には、揺るぎのない冷たい光が宿っていた。
「案ずるな。使うのは"もしもの時"だ。魔王を討ち、帝国を落とせば、我らの時代が始まる」
天幕の外で、軍鼓が低く鳴る。聖戦の刻は近い。
白き陣営は、静かに、しかし確実に牙を研いでいた――。
◇◇◇◇◇◇
グランとセレステは互いに向き合う。
魔力と神力がぶつかり合い、空間が歪む。
互いに対峙すると同時に、神王軍の祈祷と共に、両者を中心に直径500mの結界が張られた。
「それじゃあ、始めようか!!」
セレステの声と共に、両者が同時に踏み込んだ。
轟音と、空間が圧縮されるような衝撃が、結界内を駆け巡る。
グランとセレステは互いに武器を交えたまま、しばしの間膠着した。
だが次の瞬間、セレステの足元の大地が陥没する。
ズゥゥンと、とてつもない重力がセレステを襲う。
しかし、
「ふっ、甘いわ!」〔天光の加護〕
と、セレステの頭上に純白の光輪が展開され、グランの重力攻撃を打ち消した。
地面は砕ける。だが彼の膝は折れない。
「重力か。実に君らしい」
次の瞬間、白槍が閃く。
――ズドォォン!!
一切の迷いも曲線もない、神の裁きのような突きがグラン目掛けて飛んできた。
グランは横へ跳び、黒翼を羽ばたかせる。
だが衝撃波だけで、後方の地面が数十メートル抉り飛ばされた。
(速い――!)
目にも止まらぬその一撃は、俺を震え上がらせる。
もしもの時は止めるつもりだったのに、そんな考えはとっくに吹き飛んでしまっていた。
「見事な突きだな。だが――」
グランは空中で体勢を立て直し、両手を広げた。
〔重力操作〕
セレステの身体が一瞬、宙へ浮く。そして、地面に叩きつけられた。
そして再び、空へと舞い上がる。
だがセレステは微笑を崩さない。
「祈りは、理を超える」〔天使の梯子〕
セレステがそう言うと、光翼が大きく広がり、天から光柱が降りた。
セレステの放つ光は、グランの攻撃を"浄化"する。
「なぜ、父上を殺した!!」
グランはすかさずセレステに飛びかかると、強烈な斬撃を繰り出した。
魔剣が闇に染まる。重力を帯びた斬撃が、セレステを引き寄せ空間ごと裂く。
それに対し、セレステは即座に槍を回転させ、光の結界を展開した。
「私が神核兵器を使ったのは、私たちの恐ろしさを示すため、お前たちが二度と刃向かって来ないようわからせるためだ。故に、奴が死んだのは事故だ。私の本意ではない」
「だが、殺したのは事実だ! なのに貴様は、謝罪の一言もなかった」
グランのオーラが僅かに増大する。
セレステは淡々と続けた。
「敵国に謝るバカがどこにいる。むしろ敵国のトップが死んだんだからラッキーじゃないか」
その言葉に、グランはギリィッと歯を食いしばる。
「セレステ、貴様ァ!!」
グランは重力操作でセレステを斜め下へ飛ばすと、
「重力魔法。闇魔法。混合」〔漆黒の貪食者〕
と、スキルと魔導の混合技を発動する。
グランの前に展開された漆黒の魔法陣から、巨大な竜の頭のような形をした闇が現れ、セレステに食らいついた。
「……小癪な」〔絶対なる聖域〕
しかし、セレステも負けじと技を繰り出す。だが、その顔から笑みは消えていた。
闇と光が激しくぶつかり合う。
グランの竜状の闇が、セレステの聖光の結界に食らいつく。しかし、光は歪むことなく輝きを保ち、闇を弾き返す。
「――これが、神王の力か」
「父上! 頑張ってください!!」
俺たちは息を呑む。目の前の戦いは、魔王と神王という異質な力が、ただぶつかり合うだけのものだった。
「私はその、支配と欲にまみれた貴様の思想が大嫌いだ!!」
「なら私だって、お前のような、頭お花畑のペラッペラな思想も嫌いだ!!」
2人の攻防に、空気は振動し、轟音が耳をつんざく。
「何が平和だ!! 何が調和だ!! 創造と秩序を司る神の力を称え、破壊と混沌を司る魔の力を忌むのは至極当然の理だ。そんな力を以って和平を語るなど、神の意に反する!」
「貴様こそ、何が神だ!! その魔の力を生み出したのは、天神……貴様らの言う神そのものではないか!!」
両者の武器がぶつかる。
その度に、結界があるはずなのに、足が自然と後退してしまうほどの圧が襲う。
「魔神王――原初神がいるからこそ、世界に天賦力が循環し、秩序を保っているのだ。魔力は、断じて破壊だけの力ではない!!」
黒翼を羽ばたかせ、闇魔法を展開し、重力の軸を次々に変え、セレステの動きを制限する。
「くっ……!」
漆黒の竜が、セレステを追い詰める。
しかし、セレステは、光の槍を旋回させ、竜状の闇を切り裂いた。
「祈りは、力を凌駕する!」
光の結界が、闇を押し戻す。眩い閃光が結界に広がり、空間は光と影の渦で染まった。
「埒が明かんな……だが、このまま押し切る!」
グランは瞬間的に距離を詰める。闇魔法と重力を混ぜ、斜め上から斬撃を放つ。
セレステは白槍で受け止めるが、その衝撃で結界の壁が砕け散った。
破片が飛び散る。もはや、結界の修復が追いつかないほどの戦闘。
「……速い!」
俺は思わず声を漏らす。人間の目では追えない速度で、2人の位置が入れ替わる。
セレステが光翼を広げ、光の柱を落とす。
「――これで終わりではないわ!」
しかし、グランは微動だにせず、黒翼を広げて衝撃を受け止める。
「天光の加護――光魔法と同じだな。だが、これだけでは俺は止まらん!」
重力操作でセレステを空中に浮かせ、さらに複数の漆黒の竜を召喚する。
「小賢しい真似を……」
戦いの勢いは留まることを知らない。
衝撃波で周囲の大地が割れ、空気が裂ける。
グランの目が微かに赤く光る。
「これならどうだ!」
グランははるか上空まで飛び上がると、漆黒の竜を自らの腕に巻きつけ、重力と闇を極限まで増幅させる。
「――我が右腕に宿りし漆黒の竜神よ。その力を解き放ちたまえ――喰らえ!!」〔漆黒の流星〕
そして、詠唱と共に力を一気に解放すると、轟音と共に、無数の闇の流星がセレステを襲った。
だが、セレステは一歩も動かず、槍を天に掲げ、技を発動する。
〔黄金の天神光〕
巨大な光が、闇竜を完全に包み込む。溢れる光が暗闇を押し返す。
衝撃で、結界内部の空間が揺れる。砂や瓦礫が宙に舞い、地面は波打つ。俺はその光景を目の当たりにして、思わず後ずさる。
「……この戦い、どこまで加速するんだ……」
グランは直ちにセレステに接近。黒翼で宙を滑空し、セレステに斬撃を連打する。
闇の引力と斥力が纏わり、斬撃が放たれるたびに空間が裂け、轟音が響く。
セレステは槍を回転させつつ、祈祷による補助バリアを展開。光の結界が斬撃を分散させる。
「……いい攻撃だ。さすがは魔王」
淡々とした声だが、光の輝きは一瞬も衰えない。
2人の戦いはもはや、戦術ではなく、力の象徴のぶつかり合いだった。
どちらも譲らない。空間は歪み、結界内の気流は渦巻き、闇と光が交互に放たれる。
俺は息を整え、無意識に拳を握る。
「……これが、神王と魔王の戦いか……」
勝敗の概念を超えた聖戦は、まだ始まったばかりだった――。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
グラン:アンドロメダ魔王国の魔王。真面目。誠実な性格。若い顔だが威厳がある。
セレステ:テルース神王国の神王。天神に対して歪んだ信仰心を持っている。




