第28話 背後に潜む影
アンドロメダ魔王国に来てから2日目の朝。
「おぉ、起きたか」
俺たちは、魔王城の客間で一晩を過ごしていた。
先代魔王の書斎を出た後、特にやることもなく、みんなは一日中客間の中にいて、俺はグランと会話を実らせていた。
「ふあぁ、その口調久々に聞いた気がするわ」
マヨは眠そうな顔で、そう話しかけてくる。
「まぁ、仕方ないだろ。一応国のトップにとって、俺は威厳ある魔神王だからな。でも――」
俺は少し穏やかな表情をする。
「最初は、なんかノリで口調を変えてたけど、今になって思う。かつての俺も、あんな感じだったって。思い出せないけど、なんだか身に染みついているような、そんな感じ」
「……そうね」
俺はそう言って微笑むと、マヨも少し嬉しそうな表情を浮かべた。
そんな話をしていると、
「おはよ〜」
「おはようございます」
と、2人も起きてきた。
「よしっ、みんな起きたな。今日の予定は、朝みんなが起きてから伝えるって、昨日の夜グランが言ってたから、みんなの身支度が済んだら行くぞ」
それからみんなは準備を済ませ、グランの部屋へ向かった。
「失礼します」
部屋に着くと、俺たちは扉を開け、中に入る。
するとそこには、席を立って外を眺める、グランの姿があった。
「少し早かったですね」
グランは振り返ると、穏やかな表情を作り、俺たちの前まで歩いてきた。
そして、今日の話し始める。
「今日は、本当は色々やりたいことがあったのですが、隠密部隊の定期連絡が少々遅れているみたいで……それで今日は、少し肩の力を抜いてもらおうと思いましてね」
「肩の力を抜く、ですか?」
カタルシアが首を傾げる。
「ええ。隠密部隊からの報告が届くまで、まだ時間があります。こちらとしても慌ただしく動くより、一度状況を整理したいと思いまして」
そう言って、グランは窓の外――魔王城の高台から見える街並みに視線を向けた。
「ですので、本日は『魔王都アルマク』を案内しましょう。正式な会談ばかりでは、気も滅入りますから」
その言葉に、ミリアがぱっと顔を輝かせる。
「ほんと!? 魔王の街ってどんなところなの?」
「ふふ、見てのお楽しみです」
グランは楽しげにそう答える。
マヨは腕を組みながらも、どこか興味を隠しきれていない様子だった。
「観光なんて場合じゃない気もするけど……まぁ、情報待ちなら仕方ないわね」
「決まりだな」
俺はそう言ってうなずいた。
こうして、俺たちは魔王都アルマクへと向かうことになった。
城の正門を抜けると、そこには想像とは少し違う光景が広がっていた。
「……意外と、普通だな」
俺は思わずそう呟く。
石造りの建物が整然と並び、広い通りには多くの魔人族たちが行き交っている。
魔人族は頭に角が2本生え、背中には黒い翼が生えている。だが、雰囲気は普通の人間となんら変わりはない。
グランにも翼はあるらしいが、特に力を持った者は、形態変化みたいな感じで翼をしまえるらしい。
「たくさんの人がいますね」
市場では露店が並び、香ばしい匂いや甘い香りが混ざり合って漂っていた。
「魔王国と聞くと、もっと物々しい印象を持たれがちですが、ここも帝国の国の一つですから」
大きなローブを深く被って変装したグランは、苦笑しながら言う。
「ここには魔人族が多いですが、別の街に行くと鬼人族もいますよ」
「へぇ……」
ミリアは見たことのない独特な光景に興奮して、猫耳をピコピコさせながら、きょろきょろと辺りを見回す。
通りを進むにつれ、アルマクの活気がよりはっきりと感じられた。
鍛冶屋の前では、真紅に熱せられた金属が打ち鳴らされ、魔力を帯びた火花が散る。
書店のような店では、魔導書や古文書が山積みにされ、店主が客と専門的な話をしている。
「魔法文化が根付いてるのがよく分かるわね」
マヨが周囲を見渡しながら言う。
「ええ。魔人族などの悪魔種は、漏れなく魔力を有していますからね。固有魔法や属性魔法などのスキルを持つ者も多くいます。それに、アンドロメダは軍事だけでなく、魔術研究でも栄えてきました。父上も、武力一辺倒では国は保てないと、よく言っていました」
グランはマヨの言葉を聞いて、アンドロメダの魅力を誇らしげに語った。
それから、
「こちらが中央広場です」
と、案内を続ける。
視界が一気に開け、巨大な噴水を中心とした広場が現れる。噴水から立ち上る水は、淡く紫がかった魔力光を帯び、陽光を受けて幻想的に輝いていた。
「うわっ、綺麗ですねぇ」
カタルシアが思わず息を漏らす。
「ルミナスのとは、また違った良さがあるな」
「これは街の魔力循環を可視化したものです。アルマクの心臓部、といったところですね」
「街そのものが、一つの魔法陣みたいなものだな」
俺がそう言うと、グランは小さく目を見開き、すぐに微笑んだ。
「流石ですね、ほぼその通りです。このアルマクは魔域となっていまして、いざという時に備えています。ちなみに魔域とは聖域の魔力バージョンです」
広場では、子どもたちが走り回り、露店の前では笑い声が上がっている。
戦争の影など、ここからは想像もできないほど、穏やかな光景だった。
「……護りたいもの、ってこういうのよね」
マヨがぽつりと呟く。俺は何も言わず、その言葉を噛み締めた。
この街も、ここに生きる人々も、間違いなく"護るべきもの"だ。
「そうですね。これが父上が護ってきたもの。そして、私がこれから護っていくものです」
グランはそう言いながら、少し覚悟を感じる表情をするが、すぐに笑みを浮かべ、
「さぁ、アルマクはまだまだ広いですよ」
と言い、観光を続けた。
その後も俺たちは、アンドロメダの魅力に触れて回った。
「う~ん、おいし~!」
ミリアは、店にあった珍しいそうな食べ物に目をつけ、それを食べながら歩いている。アンドロメダで採れた海産物の揚げ物が挟まっている、ホットドッグのような食べ物だ。
アンドロメダは大陸の一番東にあり、海に面しているので、漁業が盛んだった。
もちろん、俺が買った。いや、買わされた。
(俺の金の取り分が、コイツの食費に吸われてる気がする……)
そんなこんなしながら、俺たちは通りを抜け、石段の多い坂道を上っていくと、街の喧騒が少しずつ遠のいていった。
「ここは……?」
カタルシアが周囲を見回す。
「アルマクでも、少し高い場所です」
グランはそう答え、手すりのある展望台へと俺たちを導いた。
そこは城とは別の高台で、街全体を見渡せる場所だった。
石造りの柵の向こうには、夕暮れに染まり始めた魔王都アルマクが広がっている。
「……すごい」
思わず、そんな言葉が漏れた。
建物の影が長く伸び、屋根や塔の輪郭が夕日に照らされて朱色に染まっていく。
噴水や街路に流れる魔力の光は、昼間よりも柔らかく、まるで街そのものが呼吸しているかのように揺らめいていた。
「黄昏時は、ここが一番綺麗に見えるんです」
グランは、ローブのフードを取りながら静かに言う。
「父上もお忍びで、よくここに立っていました」
その声には、懐かしさと、ほんの少しの寂しさが混じっていた。
「『国の上に立つ者は、常に全体を見なければならない。街の明かり一つ一つが、民の命であり、生活であり、未来だ』――と、そう言って」
「……良き父親だったのですね」
マヨがそう言うと、グランは小さく笑った。
「ええ。厳しくもありましたが、誇れる父でした」
ミリアは柵に身を乗り出し、夕焼けに染まる街を見つめている。
マヨも腕を組み、黄昏の街を見下ろしながら口を開く。
沈黙が落ちる。風が吹き抜け、マントや髪を揺らした。
だが、その時だった。
「――失礼いたします」
背後から、低く抑えた声が響いた。
振り返ると、そこには黒装束に身を包んだ男が立っていた。
気配が薄く、いつ現れたのか分からない。
「……来たか」
グランの表情が、一瞬で引き締まる。
「隠密部隊、定期報告です」
男は膝をつき、簡潔に告げた。
「先日お伝えした通り、軍はこちらに向かってきています。アンドロメダの国境を越えるまで、およそ5日ほどかと」
隠密兵は一度言葉を切り、続けた。
「ですが――背後に、別の存在が確認されました」
「……続けろ」
グランの声が低くなる。
「マロン王国への潜入調査で判明したことなのですが……背後で糸を引いているのは――」
隠密兵は、はっきりと告げる。
「『テルース神王国』。我々の分析では、ほぼ間違いありません」
その言葉を聞いた瞬間、グランの表情が一変した。
目を見開き、固まっている。
夕暮れの空が、ゆっくりと夜へと沈んでいく。さきほどまで穏やかだった街の灯りが、どこか遠く感じられた。
「……もう一度聞く。どこが糸を引いている」
グランは静かに聞き返す。
「……テルース神王国で御座います。」
重い沈黙が、展望台を包み込んだ。
グランは街を見下ろしたまま、しばらく動かなかった。拳が、わずかに震えている。
「……そうか」
低く、押し殺した声。
守るべき街。父が命を懸けて築き、遺した国。その背後で、再び蠢く因縁の影。
「なぜ、気づかなかったんだ……」
「テルース神王国とは?」
俺は恐る恐る質問する。
グランはゆっくりと顔を上げ、夜空を睨みつけるように呟いた。
「マロンの更に北側の、不可侵領域を越えた先にある大国です。そして――
亡き父の……仇」
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
グラン:アンドロメダ魔王国の魔王。真面目。誠実な性格。若い顔だが威厳がある。




