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『神』のゲームの主人公~突如巻き込まれた異世界ゲームで、最高のエンディングを目指します~  作者: トランス☆ミル
第三章 バグの脅威編

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第25話 戻ってきた平穏

 戦いが終わった、と告げられたのは昼を少し過ぎた頃だった。


「……終わった、のか?」


 俺は丘の上から、静かになった平原を見下ろして呟いた。


 つい数分前まで、黒い歪みとノイズに満ちていた場所は、嘘のように元の草原へと戻っている。


「勝ったのよね?」


 マヨが確認するように言う。


「ああ。少なくとも、今回の戦いはな」


 俺はそう答えながらも、胸の奥には小さな棘のような感覚が残っていた。


 最後のゴースト。不気味に歪んだ空間。そしてあの声。


(……今は考えるな)


 俺は思考を切り替え、仲間たちの方を見た。


 カタルシアは負傷者の簡易治療を手伝い、ミリアは冒険者たちと笑顔で言葉を交わしている。


 誰もが疲弊しているが、絶望している者はいない。


 この光景を見て、ようやく実感が湧いた。俺たちは、生き残ったのだと。




 その日の夕刻、帝国軍は正式に勝利を宣言した。


 王都ベガでは、戦勝と生還を祝う晩餐会が開かれることとなり、前線・後方を問わず、功績のあった者たちが王宮へ招かれた。


「晩餐会ねぇ」


 豪奢な正装に着替えながら、俺は鏡の中の自分を見つめる。


 魔神王としてではない、冒険者テンコとしての姿。


「戦場から宴会場へ直行なんて、切り替えが早すぎない?」


 マヨが半ば呆れたように言う。


「でも、こういう時こそ必要なんだと思います」


 そんなマヨに、カタルシアは柔らかく微笑んだ。


「無事を祝うことで、"生きている"って実感できるんです」


「ごはんもいっぱい出るんでしょ!」


「ハハハ、お前ってやつは」


 ミリアは相変わらずだが、その明るさに救われる自分もいた。




 王宮の大広間は、昼間の緊張感が嘘のように、温かな光と賑わいに満ちていた。


 天井にはシャンデリアが幾重にも吊るされ、淡い光が星のように瞬いている。


 3軍の旗が壁に掲げられ、種族も立場も異なる人々が、同じ卓を囲んで杯を交わしていた。


「おぉ……」


 ミリアが目を輝かせる。


「まるでお祭りだな」


「実際そうよ。生きて帰れたお祭り」


 マヨはそう言って、グラスを手に取った。


 料理はどれも豪勢で、肉料理や乳製品、果実酒やフルーツジュースの香りが広間いっぱいに広がっている。


 戦場では考えられなかった光景だ。


 俺たちが席につくと、ほどなくして見知った顔が現れた。


「よう。無事だったようだな」


 低く落ち着いた声。


 振り向けば、そこに立っていたのはグラディウスだった。


「ぐ、グラディウス団長!」


「おっ、その反応を見る限り、怪我はなさそうだな」


 その隣には、無表情ながら鋭い視線を持つソールと、穏やかな微笑みを浮かべたフリールの姿もある。


「後方に湧いたと聞いた時は肝を冷やしたが、見事に守り切ったようだな」


「そちらこそ、前線お疲れ様です」


 俺がそう返すと、グラディウスは小さく笑った。


「互いにな。勝利ってのは、誰か一人のもんじゃない」


 フリールがグラスを掲げる。


「本当に。今回ほど連携の大切さを実感した戦いはありませんでした」


「……生存率も、想定より高い」


 ソールは短くそう言い、グラスを口に運ぶ。


 その何気ない言葉に、この戦いがどれほど綱渡りだったかを思い知らされる。


「ええ。だから、今は祝うべきです」


 フリールの言葉に、周囲の空気が少し和らぐ。俺はグラスを手に取り、仲間たちの顔を見渡した。


「まっ、無駄話はこれくらいにして、飯でも食うか! 今日はご馳走だぞ!」


 そして、グラディウスの一言で、みんなの表情は明るくなり、俺たちは食事を始める。


 グラディウスたちは、そんな俺たちを見て、静かに自分の席へと戻っていった。




 それからしばらく、俺たちは晩餐会を楽しんでいた。


 卓上には、次々と料理が運ばれてきている。


 香ばしく焼かれた肉の塊、色鮮やかな野菜の煮込み、帝国特製の濃厚なチーズ料理、香り高いスープ、甘味として並ぶ果実のタルトや蜂蜜菓子。


 初日とはまた違う、とても豪華な料理だ。


「おいふぃ~」


 ミリアは目を輝かせ、フォークを手にし、料理を頬張っている。


「少しは落ち着きなさいよ」


「大丈夫だよ、マヨねぇ」


「大丈夫って……」


 そんなやり取りに、思わず笑みがこぼれた。


 カタルシアは上品にナイフを運びながらも、どこか安堵した表情を浮かべている。


 戦場では見られなかった、穏やかな時間。


 笑い声が広間に響き、杯が触れ合う音が重なる。


(……平穏か)


 腹は満たされているのに、心のどこかが妙に静かだった。


 俺はそっと席を立つ。


「ちょっと風に当たってくる」


 軽く手を振り、俺は大広間の喧騒けんそうを抜けてバルコニーへ出た。


 王宮のバルコニーは、夜風が心地よく吹き抜けている。


 王都ベガの街並みが眼下に広がり、灯りが星のように輝いている。そして、淡い魔力光が揺らめいていた。


(これがカタルシアの言っていた、魔力の光。星魔の帳(マナカーテン)と比べたら地味だけど、こっちのほうが落ち着くな……そもそも星魔の帳(マナカーテン)は――)


「……考え込む顔だな」


 俺が物思いに耽っていると、突然背後から低い声が響く。


 振り向くと、そこにはグラディウスが立っていた。


「だ……グラディウスさん!」


「宴は性に合わんか?」


「いや、そういうわけじゃ……」


 俺は再び空を見上げる。


「ただ、少しだけ静かになりたかっただけです」


 グラディウスも隣に並び、腕を組んで夜空を見た。


 しばらく、沈黙が続く。


 戦場では常に響いていた金属音も叫びも、ここにはない。


「……違和感か?」


 不意に、グラディウスが言った。


 俺は視線を横に向ける。


「何のことです?」


「お前の目だ。勝った顔をしていない」


 グラディウスの言葉は図星だった。


「……最後のゴースト。あれは、普通のとは違いました」


「ほう」


「ただの暴走じゃない。意志のようなものを感じました。それに――」


 俺は街を指差す。


「陰謀論的な話になるのですが、予兆の前日に現れた"星魔の帳(マナカーテン)"。あれから感じた異様な雰囲気は、バグの領域で感じたものとほぼ同じでした。そして今も、微かにアレの残滓を感じます」


 空間の歪み。魔力の過剰反応。そして最近頻発する異常。


「もし世界そのものが、どこか壊れ始めているとしたら……まだ、危機は去っていないのかもしれません」


 夜風が、静かに吹き抜ける。


 しばらくして、グラディウスは低く笑った。


「……若いな」


「否定はしないんですね」


「否定できる材料もない」


 グラディウスは空を見上げたまま言う。


「だがな、テンコ。世界がどうあれ、俺たちのやることは変わらん。護るべきものを護る。それだけだ」


 単純で、揺るぎない答え。


「今日、お前たちは護り切った。それで十分だ」


 その言葉は、不思議と胸に響いた。


 魔神王だった頃の俺なら、じゃない。今の俺がやりたいこと、やるべきことがある。


「……ありがとうございます」


「礼はいらねぇよ。俺も昔はそうだった」


 グラディウスは踵を返す。


「さっ、お前も早くお仲間の元へ戻りな」


 そう言い残し、グラディウスは広間へと戻っていった。


 俺はもう一度、夜空を見上げる。


 揺らめく魔力光。祝福のようにも、警告のようにも見えるその光を、しばらく見つめた。


(……平穏)


 本当に戻ってきたのか。それとも、嵐の前の静けさか。


 答えはまだ分からない。


(だが、今夜だけは――)


 俺は小さく息を吐き、広間へと戻る。


 ガラスの扉を開け広間に入ると、兵士たちの笑い声が、温かな光とともに迎えてくれた。


 俺が席に戻ると、女子同士、仲良く雑談をしていた。


「テンにぃおかえり」


「あぁ、ただいま」


「長かったわね」


「ちょっとな。団長と話してた」


 俺は少しだけ笑って、席に腰を下ろした。


 カタルシアが優しく微笑む。


「お口直しに、デザートでも食べましょ」


「そうそう! 今日はお祝いなんだから!」


 ミリアはそう言って、俺の皿に勝手に肉を乗せる。


「ちょっ、盛りすぎだろ!」


「いっぱい食べて強くなるの!」


「そうよ、あんたあんまり食べてなかったじゃない」


 マヨもどこか楽しそうにグラスを掲げた。


 笑い声が重なり、灯りが揺れる。


 今はただ、仲間が隣にいる。それだけで十分だった。


 今はただ、戻ってきた平穏を、俺たちは確かに噛みしめていた。


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


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〈主な登場人物〉


テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。


マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。


ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。


カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。


ライト:マゼラン王国の国王。優しく真面目な性格をしている。


グラディウス:帝国の英雄と言われる剣士の男。マゼラン王国騎士団の団長。

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