第20話 予兆
翌朝。俺たちは予定通りにチェックポイントへと向う。
メイドに連れられ王宮の地下を奥へと進み、そして巨大な扉の前にたどり着いた。
扉には大きな魔法陣のようなものが描かれている。
「この先にチェックポイントがあります」
案内人はそう言って扉を開けると、その奥に巨大な青紫色に輝く宝石のようなものが現れた。
その石は浮いており、下に複雑な紋様の魔法陣が淡く光っている。
「おぉ~、雰囲気あるなぁ~」
「宝石みた~い!」
「綺麗ですね~」
初めて見る古代と近代の混合技術に、俺たちは感動した。
そして、チェックポイントの前まで来ると、メイドが説明を始める。
「それでは登録を始めます。登録の方法は簡単で、チェックポイントの前にあるこの石板に10秒ほど手を置いていただくだけです」
説明が終わると、
「最初はどなたから登録されますか?」
と尋ね、みんなはそれぞれ意見をまとめた。
「あたしやりた~い」
「そうだな、俺は最後でいい」
「では、私は2番目ですね」
順番が決まり、ミリアから登録に向かう。
「ここに手を置いてください」
ミリアが石板に手を置くと、当たり前のようにステータス画面のようなウィンドウが現れ、登録中の文字とプログレスバーが表示されている。
そしてプログレスバーがいっぱいになると、登録完了の文字が表示された。
「これで登録は完了となります」
「やった〜!」
「次はカタルシア様ですね。どうぞこちらへ」
ミリアの登録が完了し、次にカタルシアが登録をする。
「近代技術の最高峰を目の当たりにすると、なんだか緊張しますね」
カタルシアはそう言いながら、すぐに登録を済ませた。
2人共テンポよく登録を終え、いよいよ俺の番が回ってきた。
「最後は俺だな」
俺はそう言って石版に手を置く。しかし、ここで予想外のことが起こった。
表示された画面には登録済みの文字。
「あれ、テンコ様は既に登録済みになっておりますね」
「なッ!?」
(しまった! こうなることを想定してなかった!)
俺は近代技術という言葉に油断して、ベースが古代魔法であることが頭から抜けていたのだ。
「あれ、え、こ、これは……」
俺が予想外の自体にキョドっていると、
「失礼しました。以前登録した際に、一緒に登録したのを忘れていました」
と、マヨがフォローしてくれた。
俺は心の中でナイス!と呟く。
「そうでしたか。こちらの確認不足で――」
「いえいえ、忘れていたこちらに非があるわ。とにかく、今日はありがとうございました」
マヨはボロが出ないうちに話を切り上げると、その場を後にした。
王宮を離れると、俺たちはこの街の冒険者ギルドへ向かった。
「そういえば、チェックポイントって登録済みのものしか使えないんだよな。だとしたら、ミルキーウェイのを使うには戻らないと行けないのか?」
道中、俺は気になっていたことを質問する。
「いや、その必要はないわよ。姉妹国同士はどれか1つでも登録すれば、その全てで登録完了になるの。だから、私たちはここからミルキーウェイに飛べるし、もう1つの従属国『アンドロメダ魔王国』にも行けるわ」
「なるほど、そういうシステムなのかぁ。ますます便利だなぁ」
「アンドロメダもいい所ですよね。いつかみんなで行ってみたいです!」
(ミルキーウェイにマゼランにアンドロメダ……どうやらこの帝国全体が宇宙モチーフのようだな)
そんな話をしていると、すぐに冒険者ギルドに着いた。
ガチャッと扉を開け、中に入る。
「おぉ~、すごい量の依頼だな」
中に入ると、俺は掲示板に貼られた大量の依頼書に驚く。
「まぁ、大森林が近くにあるし、ベガではそこまで問題になっていないけれど、接する集落や街での魔物の被害も大きいのよ」
マヨはそう言うと依頼書を一つ手に取り、
「依頼は少し軽めのにしましょうか。今日は移動もあったし」
と、提案してきた。
「どれどれ、『郊外の森林に出没するワイルドドッグの討伐』……なるほど、報酬も悪くないし、ちょうどいいかもな」
「ワイルドドッグは、最初にあったブラッドウルフより少し強いくらいだから、いい運動にはなるわよ。」
俺たちは依頼を受理し、街を出て目的の場所へ向かった。
「そろそろ縄張りに入ったはずよ」
森に入ってしばらくすると、マヨがそう告げた。
ワイルドドッグは大型犬ほどの大きさで、集団で行動することが多いらしく、知能は低いが数が揃うと厄介な魔物みたいだ。
「あっ、何か足音が聞こえるよ」
森を進んでいると、ミリアが小声で言う。
「何匹いるかわからないから、慎重にいきましょう」
「そうですね」
俺たちが警戒していると、魔物気配を感じた。もうすぐそこまで来ているらしい。
「ガルルル――」
そして気配と唸り声が段々近づいてきて、ついに黒褐色の毛並みをしたワイルドドッグが姿を現した。
鋭い牙を剥き、こちらを睨みつけている。
「よし、行くぞ!」
俺たちはすぐに戦闘に入った。魔物はザッと十数匹はいるようだ。
「耐久強化魔法をかけます!」
カタルシアが魔法でバフをかけ、俺たちは群れへと突っ込んでいく。
〔ライトニングソード〕〔魔獣の爪〕〔ウォータースラッシュ〕
「私も援護します!」〔ロックバレット〕
俺たちは流れ作業のように魔物を倒し、カタルシアも石の弾丸で援護している。
そして、見事な連携であっという間に魔物を倒してしまった。
「ふぅ、ちょっと物足りなかったわね」
「お前、割と野蛮だなぁ」
「よ~し、コイツらから資源を剥ぎ取ろう!」
「ミリアまで口が悪くなって……」
倒し終えると、みんなは資源を回収し始める。
俺は、はぁ~っとため息を付いて、資源集めを手伝いに行った。
「なんか光る宝石みたいなのあった~!」
「あぁ、それは魔結晶ね。魔物の体内で魔力が凝縮され、それが骨や筋繊維と結合して固形化したものよ。結構珍しいくて、高く売れるかも」
「そんなものもあるのか。」
俺たちは資源を集め、最近手に入れた俺のスキル〔インベントリ〕に収納する。
青黒く渦巻く穴に、俺たちは資源を放り込んでいく。
「結構いっぱいあるなぁ。大型犬16匹分の資源が、インベントリに入り切れるのか?」
そんなことを言いつつ、俺たちが順調に資源を回収していると、突如として異変が起こった。
「……ん?」
なんと未解体の魔物数匹から、ビリビリとグリッチが発せられ始めたのだ。
そして、間もなく奥から別のワイルドドッグが数匹現れた。こちらもグリッチのようなものを纏っている。
「な、なんだ!?」
「なんだか……様子がおかしいわ」
俺たちが戦闘態勢に入った次の瞬間、
「ガ……ガガ……」
と、ノイズのような声を発し、体がカクつくように跳ね、まるでコマ送りのような動きでこちらへ突進してきた。
理性のない虚ろな目、ただ壊れて暴走した機械のような突進。
(この感じ……なんだ……)
俺の胸の奥がざわつく。俺は不思議な感覚に囚われ、魔物の攻撃の手前でボーッと突っ立っていた。
「テンコ!」
「ッ!?」〔ライトニングソード〕
だがマヨの声で我に返った俺は、反射的に剣を振るい、魔物の動きを止める。
しかし確実に斬ったはずなのに、一瞬映像が乱れるようにブレた。よく見ると、傷はついていない。
「……回復、じゃない。もしかして、これは…バグの……予兆?」
マヨの声が震える。その恐ろしいセリフに、俺もカタルシアも固まってしまった。
「嘘だろ……まだ全然対処できる状況じゃないぞ……」
「来るわよ! 全員構え――」
マヨの警告が終わるより早く、グリッチを纏ったワイルドドッグが一斉に飛びかかってきた。
動きは異常に不規則で、まるでラグくなったゲームの敵が、カクつきながら瞬間移動しているかのようだ。
「くっ、当たらねぇ!」
俺の剣は軌道を読めず、空を切る。
「拘束魔法が効きません!」
カタルシアが援護をするも、全く効き目がない。
「ここはあたしが……」〈魔獣の爪〉
「ミリア!? 危険よ!!」
そこで魔物を止めるべくミリアが飛び出すも、魔物に触れた瞬間、バチィッ!!っと弾かれてしまった。
「きゃぁ!?」
「大丈夫か!?」
「痛ぁ〜い」
弾き飛ばされたミリアは受け身がとれず、ズサーッと地面に倒れてこんでしまった。
その後も攻撃を避けながら、反撃するもイマイチ効果がない。
「くそっ! どうやったら倒せるんだ? マヨはなんか知らないのか? 俺の解析は【Error】としか表示されねぇ」
「私は学校に行ってないから知らないわ。そもそもバグと戦って生き残った人が少ないから、対処法も広くは知られてないのよ」
(学校……?)
「と、とにかく逃げるぞ!」
そんなやり取りをしていると、俺は木の根に足を引っかけて、体勢を崩してしまった。
「しまっ――」
そんな俺に魔物は躊躇なく飛びかかってくる。
俺がもうダメだと思った次の瞬間、
――ズドンッ!!
という爆音と共に、ワイルドドッグの一体が吹き飛んだ。
「遅れて悪い! 加勢する!」
俺たちの前に現れたのは、剣を構えた屈強な男と、槍を持つスラッとした寡黙な男、そして後方で魔法陣を展開する美麗な女の3人組だった。
「エラーだ、気を抜くな!」
剣士の男が前に出て、突進を真正面から受け止める。
「耐性強化魔法をかけるわ!」
「よしっ! いくぞ!」
女の声と同時に、剣士と槍士は一斉に駆け出す。
そして、呆気なく全ての魔物を倒してしまった。
魔物は悲鳴も上げず、少しノイズを発しながら静かに崩れ落ちた。
「……助かった、ありがとう」
俺が息を整えながら言うと、剣士の男は軽く笑って、
「大したことねぇよ! それより、早く街に戻ろう。話はそれからだ」
と言った。
俺たちはその男の言う通り、ひとまず街へと向かう。
これから俺たちにどのような運命が待ち受けているのか、この時は考えたくもなかった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




