第19話 マゼラン王国
マゼラン王国に向かっていた俺たちは、ミルキーウェイ皇国の辺境都市である『ステラ』を横切り、5日経つころには国境を通過した。
そして出発から約6日で、マゼラン王国の中央に広がる王都『ベガ』にたどり着いた。
「ほぉ~、思ったよりも栄えてるんだなぁ。古き良き都って感じだな」
日も落ちてきて、関所の前はなんだかノスタルジックな雰囲気が漂っている。
「良いところですよね~」
「ここに来るのは5年ぶりくらいね。相変わらず平和な街だわ」
関所を通過すると、俺たちは初めに宮殿へ向かって歩きだす。
ベガには全体的に丸っこい家が多くあり、所々に馬やヤギといった家畜や、リスやセンザンコウのような小動物がいる。
マヨが可愛いと形容するのも、なんとなくわかる気がした。
「動物が結構いるんだな」
「王都の北側に大森林が広がってるから、野生動物がよく街に出てくるのよ。でも一切害はなくて癒やしにもなるから、共存してるのよ」
「なるほど~、すげぇ理想的な関係性だなぁ」
「みたことない動物がたくさんいる~!」
俺たちがベガの街並みに興奮しながら歩いていると、大きな王宮が見えてきた。
ミルキーウェイ宮殿には劣るが、それでも豪華で立派な宮殿だ。
「おぉ〜、宮殿も可愛らしいなぁ」
王宮は全体的にピンクっぽい色で、なんだかお菓子の国のお城のようだ。
「国王陛下にご挨拶に伺ったのですが、よろしいでしょうか?」
宮殿の麓にある第一正門まで行くと、マヨは門番に事情を説明する。
「おぉ、これはマヨ様。事情は聞いております。早急に国王陛下に伝えますので、第二正門前で少々お待ちください」
「わかったわ」
そして、第一正門をくぐり、長い階段を登って第二正門で少し待つことにした。
しばらく待っていると謁見の準備が整ったのか、案内人が出てきて俺たちを玉座まで案内してくれた。
「こちらが玉座の間でございます」
俺たちが玉座の間の前まで来ると、案内人が扉をギィィッと開ける。
重厚な扉が開かれると、甘い色合いの装飾に包まれた空間が姿を現した。
赤い絨毯の先の丸みを帯びた玉座に、穏和な雰囲気の中年の男が座っている。
「お待ちしておりました、マヨ=アステリア第一皇女様。この度は遠いところから御足労いただき、誠にありがとうございます」
「こちらこそ、急な訪問ご迷惑をおかけします」
国王が玉座から降りて挨拶をすると、マヨも一歩前に出て軽く頭を下げる。
「いえいえ。マゼランとミルキーウェイは姉妹国ですから、気軽に遊びに来ていいんですよ」
国王はそう言ってから、俺たち一人一人に視線を向ける。
「そして、こちらがウワサの御一行ですな。ようこそお越しくださいました。マゼラン王国国王、ライト=マゼランでございます」
そして笑顔で一礼した。
マヨが言うには、国王は俺が魔神王であることを知っているらしい。まぁ、ミルキーウェイの従属国国王であることを考えると当然だ。
謁見の場には家臣たちもいるため、ここでは知らないフリをしている。
「えぇ、私のパーティメンバーです」
マヨがそう紹介すると、ライトは軽くうなずいた。
「マヨ様。そしてお連れの方々。マゼラン王国は皆様を歓迎いたします」
「「よろしくお願いします」」
「道中お疲れだったでしょう。今日はぜひ、王宮でゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
マヨが礼を述べると、ライトは満足そうにうなずいた。
「では今宵は、ささやかながら歓迎の席を用意しております。細かい話は、その後にでも」
そうして俺たちは挨拶を済ませ、王宮の客間に案内された。
「おっきなベッド~!」
客間に入ると、ミリアがベッドにダイブする。
「わぁ~! なんだかお姫様の部屋みたいですね!」
「かなり広いなぁ」
客間はとても豪華で、大きなベッドにふかふかのソファ、浴場までついている。
そして、やはりメルヘンチックな雰囲気だ。
「晩餐会の時間までまだ時間があるわね。少し予定でも立てておきましょうか」
「あぁ、そういえばちゃんとした予定立ててなかったな」
マヨがそう言うと、ミリア以外の3人は椅子に座り予定表をテーブルの上に広げる。
「まず、明日はこの国に寄った目的でもある、特定地点間転移機構、通称『チェックポイント』に行くわ」
「なんだって? 呪文?」
「そういえば説明してなかったわね。チェックポイントっていうのは、特定の国にある古代魔法をベースとした転移装置のことで、これを使用するには国に申請して登録する必要があるのよ。
チェックポイントからチェックポイントに転移することができて、転移魔法を使える人なら近くの登録済みのチェックポイントに飛ぶこともできるのよ」
「へぇ~、便利なもんだな」
どうやらマヨは既に登録済みのようで、外交をするときは基本的に使っているらしい。マヨが馬車に疎かった理由がなんとなくわかった気がした。
(つまり、RPGのセーブポイントみたいなものか……これはいい!)
俺は便利なシステムに感心する。
「ちなみにこの技術を応用したのが魔法通信で、国家間の情報のやり取りができるの」
「なるほど、面白い技術だな!」
「ウワサには聞きますが、すごい技術ですよね!みなさんの力になれるよう、転移魔法の習得も頑張らなくては」
カタルシアもチェックポイントについて聞いたことがあるらしく、目を輝かせている。
「それで、登録が済んだ後は自由行動でもしましょうか」
「自由行動ってことは、街歩きとか?」
「えぇ。ミリアも喜びそうだし」
「やったー! 動物いっぱい見たい!」
ミリアはベッドの上で跳ねながら歓声を上げる。
「昼食をとってしばらくしたら、この国の冒険者ギルドに行って簡単な依頼でも受けましょう」
「レベル上げも怠らず、ですね」
マヨは予定表にさらさらと書き込んでいく。
そうして予定を立てていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「失礼いたします。晩餐会の準備が整いました」
柔らかな声とともに、メイドが顔を覗かせる。
「もうそんな時間か」
「それじゃ、行きましょうか」
俺たちはメイドに連れられ、会場へ向かった。
会場につくと、そこには食器の並べられた長いテーブルがあり、その側に家臣や多くのメイドがズラリと並んでいた。
「さぁ、どうぞこちらの席へ」
俺たちが席に着くと、豪華な食事が次々と運ばれてくる。
そして、豪奢なシャンデリアの下、長いテーブルには色とりどりの料理が並んだ。
焼き立てのパン、果実を使った前菜、大きなステーキ、マゼラン王国特製の乳製品、様々な料理が俺たちの目を惹く。
「おぉ、これはすごい……」
俺は思わず声を漏らした。
料理から溢れる香りが、みんなの食欲を刺激する。
「マゼラン王国は酪農が盛んな国でしてな、特に乳製品には自信があるのですよ」
奥に座っているライトが、穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
「わぁ、おいしそう!!」
ミリアは目を輝かせ、今にも手を伸ばしそうになっている。
「ミリア、まずはご挨拶が終わってからよ」
「はぁい」
マヨにたしなめられ、ミリアは名残惜しそうに手を引っ込めた。
ミリアの耳は萎れている
ライトはそれを見て、
「では、お腹も空いていることでしょうし、どうぞ、遠慮なく召し上がってください」
と言った。
その一言を聞いて、俺たちは食事を始める。
「「いただきます!」」
俺が料理に手を付けると、想像以上に優しい味が口の中に広がった。
「う、美味い! 美味すぎる!」
「う〜ん、おいひ〜!」
「ふふっ、ミリアちゃん詰め込みすぎですよ」
「急な来訪だったにも関わらず、こんなにも美味しい料理を作ってくださって、本当にありがとうございます」
マヨが丁寧にお礼を述べると、ライトは嬉しそうに目を細めた。
「そう言っていただけると、料理長も報われます」
周囲のメイドたちも、安堵したようにうなずいている。
「ところで、チェックポイントの登録は明日向かわれるのですか?」
そして、ライトは明日の話に切り替える。
「えぇ、その予定です。登録は早めにしておいた方がいいですしね」
「わかりました。申請の手続きは不要ですので、明日は直接登録に向かわれて結構です」
「ありがとうございます。助かります」
「いえいえ。むしろ、我が国の技術を使っていただけるのは光栄ですよ」
ライトはそう言うと、ニッコリと笑った。
「滞在予定は3日間ですので、残りの2日は観光でもしようかと思います」
「あたし食べ歩きした〜い!」
「お前、食べることしか考えてねぇだろ」
「私は教会や神殿巡りをしたいですね」
「ま、マニアックだな……」
そうして話題は再び料理や街の話へと戻り、晩餐会は終始、穏やかな雰囲気のまま進んでいった。
部屋に戻ってゆっくりしていると、ミリアとカタルシアがバルコニーに出て何やら騒いでいる。
「どうしたんだ?」
俺とマヨが外に出てみると、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
「こ、これは!?」
小高い丘にある王宮から見下ろした夜景に、色とりどりに輝く無数の光のカーテンのようなものが架かっており、空気がキラキラと煌めいている。
まるでオーロラを含む星空が下まで降りてきたかのようだ。
「これが、カタルシアの言っていた魔力の光ってやつなのか?」
「い、いいえ、こんなの私も見たことありません。魔力光は本当に淡く空気が光るだけですから」
みんなが唖然としていると、マヨが口を開いた。
「これは、星魔の帳……数百年に一度しか見れないという、とても珍しく神秘的な現象……まさか、生きているうちに見ることができるとはね」
マヨも初めてみるらしく、目を丸くしている。
(数百年に一度……なんだか異様な雰囲気を感じる……)
この時俺は、なぜか数百年に一度という言葉に引っかかったが、その光景を前にすぐ考えるのをやめた。
「そんなにすごい現象なのか」
「原理が謎に包まれているからこそのロマンもあるわ」
「街がお星様みたい」
俺たちは完全に目を奪われてしまい、しばらくの間外を眺めていた。
こうして、マゼラン王国での最初の夜は、静かに更けていくのだった。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
ライト:マゼラン王国の国王。優しく真面目な性格をしている。




