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収穫祭が近づき、殆どの人間が里帰りをしたものの遺跡の調査がある私達は帰るわけにも行かず、同じくスクォーラに残ったクロエと久しぶりに飲もうと言う話になった。
私が持参した干し肉を割く横で、葉野菜をちぎり香草を混ぜ込むクロエ
「其れは? ラビですか?」
「あぁ、先日の見回りの時に捕まえた」
私の仕事は対象を探し何日か森をウロつく事もある、近くに宿が無ければ野宿も有り得て…、当然携帯食糧なども持ち込むが味気ない其れが私は余り好きでなく、いつしか私は、余裕がある時は森で食糧を手に入れる事も増えて居た。
実家が料理を出す店だった上、幼い頃から剣に触れて居た私は肉を捌くのも慣れて居たし、余った肉を燻して保存する方法も見慣れては居たから。
まぁ、しかし、これ程手慣れたのは、そんな仕事ばかり渡して来たフラウが原因かもしれないと思うと、人生何が幸いするか良く判らないとも思う。
「器用な物ですね、美味しいですよ」
味見するか? と小片を渡すとクロエはそう言って笑うが
「器用はお前だろう、何だこの飾り切りは」
香草を混ぜた緑の葉野菜の上に華やかな色の野菜が花の様にカットされて配置して有る
「久々なので、たまにはいいでしょう」
なんて言っているが、野菜ごとに違う下ごしらえをしたと言う細かさに、良い嫁になるぞと笑ったら
「貰って下さいますか」
なんて妙に真顔で言うから
「お前なら引く手、数多だろ」
そう答えたら、何故だかため息を付かれてしまった。
「珍しいですね」
花の形にカットされた根菜のサクリとした歯ごたえに嵌って居ると、私の髪を見てポツリとそう言うのに、顔を向ける。
「ん?」
「髪の色がくすんで居ます」
「あぁ、ここに残るって言ったら見回りを頼まれた…やはり増えてるな」
「成る程、ですが、そんな状況だからこそ、わかる程減ったなら補充しろと怒られてませんでしたか?」
「仕方が無い、あいつは今日は居ないんだ」
そう答えると、クロエは少し驚き
「立ち会わないのですか!?」
「いや、親族の集まりに顔を出して来るそうだ、例の日迄には戻るらしい」
そう答えると、クロエは納得した様に彼も大変ですねと苦く笑った。
「お前は良いのか?」
「え?」
クロエだって其れなりに名の知れた家の筈なのに、滅多にそういう集まりに顔を出そうとはしない、大丈夫なのかときくと
「私は…継ぐ気は有りませんから」
「まぁ、其れは聞いて居るが、姉上が居るんだよな」
「えぇ…、彼女なら心配いりません、強い方ですし、何よりあの世界を良くご存知です…、母の様には…」
クロエの母上は貴族社会では珍しく平民出身だ。
お忍びで領地に良く行って居た父上が見染めての恋愛結婚だという、父上の身分を知らないまま母上も父上を慕う様になり、やがて結婚の申し込みを受けて初めて其れを知ったという。
身分違いに戸惑う彼女を父上は熱心に口説き落とし、やがて結ばれた。
しかし、現実は御伽噺程上手くは行かないもので、巻き込まれた貴族社会に母上は上手く溶け込む事が出来ず、やがて心と身体を弱めてしまった…。
父上は必死で彼女を支えたけれど、元々その中で生きて来た父上には彼女の苦しみが中々理解出来ず、幼いクロエは母上を楽にしたいという思いから、闇の術と医術学ぶつもりでここに来たと云う。
「母上の具合はどうだ?」
「変わらずです、元気な日も有りますが、少しの刺激で、精神の均衡を失います」
「そうか…、辛いな…」
「草に住むラリューンは草原でしか生きられない…父上の責任です」
ラリューンと云うのは、成長しても掌に乗る程のサイズの小さな獣。
フワフワした柔らかい毛玉のような体に真っ黒いつぶらな瞳が愛くるしく、昔は愛玩様にと生け捕られたという。
しかし、ラリューンは人に飼われると毛並みが劣化し元気を無くし余り長く生きられない…延命しようと手厚く看病してもすぐ死んでしまう。
其れを悟り今では彼らを草原から持ち去る人間は殆どいない。
愛らしさに、其れを知らない子どもが捕まえる事は有っても、大人はそう言い聞かせ草原に戻す。
母上の話になると良くクロエは其れを呟くのだが…
「だが、草原よりも愛する物を見つけたラリューンはどうするのだろうか…」
「アイシャ?」
何時もであれば、この話はクロエの其の呟きで終わる、けれど、ルーニアの感情を感じる様になった私は何となくそんな言葉を呟いて居た。
「恋しさで心を病む場合も人は有ると聞く、だとしたら、どちらを選んでも病むのなら…短い間でも愛する相手と居たいと思いはし無いだろうか?」
「母は、あの時に父と別れても病んだかもしれない、そう言うのですか?」
珍しくきつい瞳でクロエに見つめられ、失言に気が付いた
「いや、すまない、クロエ、私が軽々しく口に出すべき言葉では無いな」
そう頭を下げると、
「いえ…」
クロエはふっと瞳の力を弱めて軽く首を降った。
クロエは以前から、母のような女性を作りたくないと言っていて、恋愛を遠ざけているような所があった。
ならば、その水に慣れている貴族の女性はどうかと思えば、身近で母上を追い詰める彼女たちの姿を見て居るだけに、そのような女性は心惹かれませんなどと頑なで…。
「アイシャは…どうしますか? 住む世界の違う人を好きになってしまったら?」
いつの間にか飲み干していたグラスに新しいカスクを継いでくれながらクロエが私をじっと見る
「そうだな…」
以前の私であれば、一笑に付したであろう問いかけ。
けれど、精霊であるルーニアを切なげに見つめるカイの瞳、その瞳に捕らわれて言葉すら交わせないまま人に恋したルーニア…。
身分や立場なんて関係ないまま惹かれあった二人のことを考えると心という物のままならさが良く判って
「……判らないな」
結局、自分の中で明確な答えが出なくて、そう言うと、クロエは軽く目を見開いた。
「変わりましたね…ルーニアのせい、ですか?」
「判るのか?」
「えぇ…、以前のアイシャならきっと一笑に付したでしょう?」
流石に付き合いが長いだけ有って、クロエは良く私を知っている、そう言うと
「ずっと見て居ますから…」
そう言って、薄く笑って。
その笑顔はいつもながら美しかったけれど、どこか儚げなのが少し心に引っかかった。




