↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第九章 春、なのに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/74

第五話 鬼神降臨

 突然、由良姫が耳を押さえてしゃがみこんだ。浩徳は勢いよく柏手を打った。

 その反響と残響が、ケガレの声を打ち消していく。


「息吹(いぶき)の神、真白の神よ。その清けき御響にてケガレを祓い給え」


 これは柏木の一族が祀る神、真白神を覚醒させ、ケガレを祓う者を守護する唱え言葉だった。


 真白の神は、贄(ニエ)として流された赤子のいなくなった葦舟に乗り、御自ら贄の一族の元へやってきた。


 贄となっていた輪響紋衆は、真白の神を得たことで、祓いの力を受け継ぐ依り代となった。


 最初に男神が依り代としたのは、時を超えた先で戦っていた、贄の一族の男だった。


v真白の神はふたつに別れ、男神は時を超え、ケガレが潜む戦場へ向かった。


 そこで、ケガレに呑まれ半ば腐りかけていた、贄の一族の男を依り代とし、ケガレを討ち祓った。


 残った女神は赤子の姿から成長し、やがて贄の一族の者と交わって子を成した。その子に血とともに力を分け与え、依り代としての役目を授けた。


 贄の一族は元は一つの民ではない。ふたつの民が交じり合っていた。

 女神の依り代となるのに適していたのは、響紋の一族の方だった。よって力と役目は自然と、響紋衆へ引き継がれた。


 輪紋衆はその力を護り、受け止め引き出す役目を引き継いだ。

 真白の男神は、時空を超えて、贄の一族の輪紋衆の男をしばらく依り代とした。


 そして時を経て、血と力を受け継いだ響紋衆の姫御子を見守ることとなった。

 真白の男神が時空を超えて依り代としたのは、ケガレに呑まれた輪紋衆、奏家の奏司であった。


 そして見守り続けたのは、女神の血と力を濃く受け継いだ御子姫が産んだ、姫御子(おんなのこ)、由良姫である。


 そして今また、男神は、かつて分かたれた血と力を一つにする。


 由良姫の内で、真白の神が時を経て一つになった。

 由良姫は、その身に真白の神を宿した依り代となったのだった。


 そして内なる神は、柏手の響によって覚醒し、依り代を守護しながらケガレと戦う。


 響く音で覚醒し、鬼神となる。

 戦を終えるとまた、響く音で眠りにつくのだ。


 ケガレが強大で凶悪になればなるほど、真白の神の血は神へ戻ろうとして濃く現れる。


 由良姫の内なる鬼、鬼神の血は、ずっと時が来るのを待っていた。


 今、分かたれていた真白の神が一つとなる。

 本物の鬼神は覚醒し、古(いにしえ)のケガレへと化した贄の一族の末裔を祓う。


 由良姫が依り代として得たその力は、神の領域であった。


 由良姫がゆっくりと顔を上げる。紅い瞳がケガレを捉えた。

 

 その瞬間、屋敷を埋め尽くしていたモドキの塊が一斉に震え、黒い霧のように崩れ始めた。腐臭も、淀んでいた気も、何もかもが光に呑まれて消えていく。


 ケガレは一瞬にして祓われた。

 そう、かつて御子姫が常世のケガレを瞬時に討ち祓った時のように。


 由良姫は、新たな力をも手に入れた。

 今まで祓うことのできなかった、宿主の中に潜むケガレの欠片、モドキを祓えるようになったのだ。ただしこれは、血が近い者に限っていた。


 血が近いといっても近親者ということではない。古(いにしえ)に遡り、出自が近いかどうかという話である。

 祓ってみなければわからないレベルのものだった。


 ただわかっているのは、今ともにケガレと戦っている者たちの体内に巣喰ったモドキは祓えるということ。


 芥見の曽祖母が化した、古(いにしえ)のケガレ。


 それを一撃で祓った由良姫の姿は、以前、無意識のうちに鬼化した時とまったく同じだった。


 母の御子姫と同じ、銀に輝く白髪を揺らし、紅い瞳が暗闇に爛々としていた。

 ケガレを討ち祓うと、浩徳は柏手を響かせ、鎮めの唱え言葉を発した。

 それとともに、鬼神は由良姫の内へと帰していく。


 倒れた由良姫を抱える浩徳に、信じられないという面持ちで宇羅彦が呟く。


「終わったんか?」


「そうみたいやな」


「なんやろ……初めてや。終わった後のこの清々しさ。全部祓い清められとる」


「せやけど、神さんを目覚めさせるんは、依り代の消耗が激しい。奥の手や」


 浩徳は、宇羅彦に手伝ってもらい、由良姫を運んだ。

 依り代となる由良姫だけでなく、覚醒と鎮静を司る浩徳の消耗もまた激しかった。


「ヒロ先輩は、こんなんどこで習ったんすか?」


「ぶっつけ本番。もっと修行を積まんと体がブッ壊れそうや」


「使えませんね、しょっ中は」


「そらそうや、俺も由良姫もブッ壊れる」


 宇羅彦は屋敷から出ると結界を解いた。

 白鴉と狐のケンが寄ってくる。


『お見事でした。それで……由良姫殿は依り代に?』


 低い声が聞こえた。


「はい、真白の神が降りました」


 浩徳は答えた。


『そうか、宿命とはいえ、重い荷を背負わせたな……代わってやれればよかった』


 御子姫に似た声が呟いた。

 宇羅彦は黙って、抱える由良姫を見つめた。


 しばらくすると、眴が車で迎えに来た。由良姫と宇羅彦、狐のケンを乗せると走り去った。

 浩徳はその後をバイクで追いかけた。白鴉は屋敷の屋根に止まり静かに見送った。


 家に戻ってしばらくすると、由良姫が目を覚ました。寝かされていたソファから立ち上がると、由良姫は万里依と宇宙依に集っていたモドキを、きれいに祓い切った。


「ええっ!? 由良姫、それはいったい……」


 驚く眴に憑いていたモドキも、由良姫は祓ってみせた。


「なんや知らんけど、できるようになっとった。でも、祓える人とそうでない人はあると思う」


「結界で薄ぼんやりにしか見えへんかったけど、由良姫……御子姫殿のように変現しはったね」


「そうなん!? ウソーッ!!」


「自覚ないんや」


 宇羅彦が驚いたように言った。そして、宇宙依を見て続けた。


「そうや、ババア、とんでもないケガレになりよったで。初めて見たわ。宇宙兄は、アレが見えとったんか?」


「ああ……とうとうとんでもないことになったって……間違いであってほしいって思ったよ」


「そうか……白鴉が、あのケガレのこと知っとるようやった。白鴉は、ババアとは格の違う存在や」


「それは長(おさ)殿でしょう。異形衆の」


眴は皆にお茶を出しながら答えた。


「あのケガレの正体なら知っとるよ。柏木の祖父母(じじばば)宅にある巻物に描かれた姿、そのまんまや。大海から二本足で上がってきとった」


「なんでそんなこと!?」


「せやかて、真白の神さんが祓うんは、そのケガレやで」


「そんな……一族の者がケガレになった姿と一緒やなんて……」


「宇宙兄、ほんなら、今度のグレードBのケガレとは違うんか?」


「違う。俺は、ケガレになる前に、曽祖母を屠(ほふ)るつもりやった。できひんかったけど。せやから、みんなには知らせんかった」


 宇宙依は難しい顔をしながら説明し始めた。


「今度のグレードBは、一人の触媒のような女子がおって、その子の真っ黒な負のエネルギーがモドキを引き寄せるんや。そこに集まっとった同じような連中が一気に呑まれて気枯れを起こす。あっという間に巨大なケガレになってまうんや」


「グレードBってことは、せいぜい十人前後の塊や。神さん起こさんでも、俺と由良姫でなんとかなる」


「あんな、その場所に、いてるんや。巻き込まれんでもいい子が」


 宇宙依の言いにくそうな素振りで、由良姫も宇羅彦もすぐに察した。自分たちの知っている、誰か親しい人物が巻き込まれる。


「どんな子や? どうせ祓いに行くんや! その時やったら、助けたかってええやろ!!」


「宇宙兄!!」


 二人の声は悲鳴に近かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。