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御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第七章 冬に埋もる

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第六話 失われた秘匿

 この日、初音が盗られた携帯は初音個人の物だった。そのため、初音は失くしたことをそれほど重要視していなかった。

 それより、ケガレ対策室の身分証を紛失した方が、初音には重くのしかかっていた。


 ケガレの存在は公にはなっていない。しかし、一部のマスコミでは未確認情報として出回っていた。

 上からの圧力で報道されることがないだけで、いつでも許可さえ降りればケガレというものの存在は世に知られるところまで来ていた。


 その一方で、ケガレは正体不明な存在であるため、必要以上に恐怖感を煽り、国中がパニックを起こすとして、政府が箝口令(かんこうれい)を敷いていた。


 そんな中、初音の自宅の電話が鳴った。ちょうど初音しか家にはいなかった。


「もしもし、鹿野神です」


「私、東西制作会社の内村と申しますが、初音さんはご在宅で……」


 初音は慌てて電話を切った。血の気が引いた。聞き覚えのある声だった。


 失くした携帯電話には、自宅の番号だけではない、同級生の番号に加えて、祓いの関係者全員の携帯番号と自宅の番号も全部登録していた。

 当然、我央の元へも直接、番組制作会社から連絡が入っていた。


 同じ頃、初音の携帯に登録されていた万里依や凛華の元へも、不審な携帯の電話番号から着信があった。

 由良姫の携帯に凛華から電話がかかってきた。


「なんや知らん番号から電話かかってきた。この携帯番号、祓いのグループにしか教えてへんのに」


 そのことを眴に話すと、そこへ家の電話が鳴った。

 由良姫が出ようとするのを、眴が制し放っておいた。電話は留守電へ切り替わった。


「私、東西制作会社の内村と申します。藤吉様のお宅でしょうか──」


「なんでっ!?」


 由良姫は振り向くと、宇羅彦と目と目が合った。


「もし携帯だけ落としても、ロック解除できんと中身は見れん。これはロック破られとるで」


「落ち着いて下さい。まず、家の電話は出ないこと、留守電へ切り替わりますから。今から万里依さんと話するので待って下さい」


「うち、ヒロくん家に電話する」


 宇羅彦の携帯へ大那から電話がかかってきた。


「知らん番号から? 虎雅もか。自宅はどうや? そうや、東西制作会社の内村や。マズイな、マスコミ臭いで」


 由良姫が急いで検索すると、大手マスメディアの下請けだった。


 我央は、祓いの関係者が仕事上直通で使用する番号へ、番組制作会社から電話が入ったことで直感した。


「折り返しご連絡しますので、連絡先はこの番号でいいですか?」


 一旦切ってから、玲を呼び、誰か直通番号を漏らした者はいないか調べるよう指示した。


 万里依から眴の携帯に連絡が来た。スピーカーにして対応する。


「えっと、まず結論から言うと、初音の携帯が電話かかってきた会社の元にあります。おまけに身分証と学生証も一緒に保管されてて、カバンごと落としたか盗られたか。とにかく、ロック解除されてデータ、ゴボウ抜き。今しがた、初音以外の全員には、PCメールで今後の指示を送信したので見て下さい。ご迷惑おかけします」


 ふう……と、眴がため息を吐いた。すると、万里依からの電話が終わってすぐにまた着信があった。


「我央です。西の首都の方まで、お疲れ様でした。それで……」


「携帯をなくしたのは鹿野神初音です。身分証、学生証ともに制作会社が保管しています。ロック解除されてデータを抜き取られた可能性があります」


「そうですか。高校生では、やはり少し無理がありましたね。こちらこそご迷惑をおかけしました」


 我央は静かに通話を切った。

 眴は無言で受話器を置いた。


 その表情を宇羅彦は離れたところから見つめていた。


 由良姫はとりあえず、携帯を操作して電話番号のブロックを行った。家電の方もブロック機能があったので操作した。


 初音の携帯から派生した電話の騒動には、皆それぞれ、万里依の指示通り親にも事情を説明し、着信をブロックして対応していた。あとはケガレ対策室が対処してくれるのを待つしかなかった。


「眴ちゃん、我央さんはなんて?」


「制作会社の件、こちらで処理していいですかと聞かれたのでお願いしておきました。しばらくは、万里依さんの言う通りやり過ごしましょう」


「そうか。制作会社の方はなんとかしてくれるんやったら、まずは万里姉の指示通りが一番やな」


「そうですね。今頃遠方までフルパワーで視てくれているでしょうね。責任感の強い方ですから」


「そうやね。視る方に専念するって決めて、うちらがミスった。なんだか申し訳なくって……」


「そこも、ある程度覚悟されてたと思いますよ」


「せやかて……うちは凛華があそこまで怒ったから、もうええけど。ほんでも、正直、なんでって、まだ思ってる」


「初音だけが悪いんやない。今ここで、俺たちだけが初音を庇ってやれる」


「ウーちゃん、なんや、お父さんみたいや」


「そうか?」


 宇羅彦は少し驚きながら、由良姫の顔を見た。そしてプッと吹き出しながら言った。


「由良は誰見てもお父さんにダブらせるだけやろ」


 ──俺の親父は、豪鬼だ


「それでも、うちは似てるって思ったよ。お父さんはいつも一族のみんなをずっと心配してた。お母さんや叔父さんや里のみんなだけやなくって」


 由良姫と宇羅彦のやりとりを離れて聞きながら、眴は嬉しかった。ここにしっかりと奏司の思いが引き継がれていることに。


 そのためにも、隠し通さねばならない。


 狐のケンが尻尾をゆっくりファサッファサッと動かしている。その眼差しを見つめつつ、眴はここにも見守る視線があることを心強く感じた。


 しかしこの一件は、一族中を駆け巡ってしまった。


 実際祓いに出ている者には、家族を含め内密にするよう手は打ってあった。しかし、どんなに気をつけていても綻びはある。


 鹿野神の大叔母の元へも制作会社から電話が入った。

 それが、一番厄介だった。初音の母、唱が手を回すより速く、大叔母は鹿野神中へ広めてしまった。


 大叔母は大叔母で、これは一大事と思ってのことだった。彼女は一族を守っているという自負の強い人でもあった。

 これは起きるべくして起きたことでもあった。


「なんや、西の方はみんな知っとるらしい。東西企画自体が、西のTV番組の有名な制作会社らしいで」


 由良姫の元へ、凛華から泣きながら電話が入った。


「どないしよう。初音に連絡つかへんの」


「凛華、落ち着いて。家の電話、繋がらへんの?」


「うん。どっちも何遍かけてもあかんねん。家の近くまで行ったら、なんや知らん人がようけおって……」


 由良姫は心配して万里依へ確認してみる。


「なんやえらいことになっとるみたいで。今、我央さんの指示で別方面から事を鎮火させるよう動いてはるらしい」


「まさか、一族のことがバレたりするん?」


 万里依は渋い声だった。だが、きっぱりとこう言った。


「あれは自業自得やで。鹿野神の本家筋に泥かぶってもらうしかないわ」


「そんな……」


 由良姫はすぐに顔に出る。リビングでは宇羅彦と浩徳が心配そうに由良姫を見ていた。


「凛華がどうしたんや」


 宇羅彦が聞いてくる。浩徳が考えられる予防線を話す。凛華の父親は府警のケガレ対策本部にいる。マスコミ対策もしているだろう。


「兄貴に聞いたけど、ケガレのことは今でもトップシークレットや。そう簡単に世間には出てこん。そこは安心してもええ」


「問題は、初音のメンタルや。まさか、こんな大事になるとは思ってへんかったはずや。ここは直接会いに行った方がええかも知れん」


「せやな、ああいう感じのお嬢様はポキンと折れたら、そこで終わりのような感じするでな」


「もう!! ヒロくんまで!!」


「これはもう、行くしかないってことなんやろうな」


 宇羅彦と浩徳は、これから発生するケガレのリストとにらめっこしながら、所要時間を計算し始める。浩徳が県警の兄へ連絡する。

 にわかに家の中がワサワサし始めた。


 二階から降りてきた眴は、まず車を見に行った。戻ると、芥見本家へ電話を入れた。


 そんな中、宇羅彦は我央へ電話をかけた。    

 もちろん、初音の件だった。


「宇羅彦さんですか、どうされましたか」


「鹿野神初音の件です」


 宇羅彦の声には、今までにない緊張感があった。


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