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御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第七章 冬に埋もる

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第二話 ファーストキス

 初めて、キスをされた。


 十六年間生きてきて、初めてのキスである。


 実は、由良姫と宇羅彦の誕生月は二月だった。


 本来、高校一年生なら今はまだ誕生日前で、十五歳ということになる。


 しかし、二人は奏司が亡くなった後のゴタゴタで一学期にはほぼ登校することができないでいた。その後、学校側と話し合い、翌年から一年生を始めることにした。


 由良姫と宇羅彦は、少なくとも生まれて一年は戦人の里で育てられた。

 その後、御子姫は結界を張り、時も同じ頃奏司に不治の病が見つかり、眴と共に在野へ下った。


 その際、由良姫と宇羅彦の戸籍を作る時にわざと誕生年をずらして登録した。

 これもまた、御子姫と奏司とで話し合って決めた。

 本当の生年月日は、知られてはならない。そして、名前も。


 だから、本当の生年月日も、本当の名前も、知っているのは御子姫とわずかな者だけだった。


 そして。

 イヴの夜、浩徳というヤンチャなクソ坊主は、つい、本当についうっかり、キスしてしまった。


 理由は明白。ただ、可愛かったから。


 してから気がついた浩徳は謝るのは違う気がして、ハッキリと展望台で今度こそ本当の自分の言葉で由良姫に告白した。


「今さらだけど、俺、真剣だから」


 二人は午後八時頃に、由良姫の家に着いた。


 いつも通り、浩徳は眴に挨拶して帰っていった。ただ、なんとなくではあるが、眴は由良姫との関係性が少しだけ変わったのを感じ取った。


 その数日後、万里依から眴へ連絡が入った。


「私も宇宙依も、話し合って決めました。年越しの先見についてもお話したいと思います。明日からよろしくお願いします」


 そして、浩徳も交えて、東と西ともウェブ会議を行うことになった。

 それを聞いた由良姫は、浩徳とどうやって接したらいいか、一人で悩み続けることに限界を感じた。


 夜十時過ぎに、由良姫は眴の部屋をノックした。

 眴は遅い時間ではあるけれど、ここ数日の由良姫を見ていたので部屋へ入れた。


「たまにはハーブティーなんかどうですか。女子会みたいでしょ」


 由良姫は頷いて、ソファでくつろいでいたケンの隣に腰かけた。


「あんなぁ、眴ちゃん。お父さんと眴ちゃんは恋人同士やったんやろ? 初めてキスした時のこと憶えてる?」


「ええ、もちろん」


「そしたら、次会った時とか、どうだった?」


 由良姫の会話から、眴はおおよそ見当がついていた通りだと確信した。


「そうですね、私と奏司さんの間には、知っての通りモドキを取り出し祓うという共通の目的がありましたから。それでも、私の気持ちを話せば、それはドキドキしていましたよ」


「眴ちゃん、お父さんよりずっと年上やんか。それなのに?」


 眴はクスッと笑って、ちょうど入ったハーブティーを由良姫に渡した。


「そういうのに、年上も下も関係なんてありませんよ。好きならなおさら、嫌われていないだろうかとか。そうですね、怖かったですね。私は見守っているだけの期間が長かったので、余計にドキドキでしたよ、正直なところ」


「へえ、そうやったんだ。お父さんの方が、いつも眴ちゃんのこと頼ってくっついてたから」


「そういうことは、外側から見ているだけではわからないものです」


「うん、そうやね。お父さんと喧嘩したことある?」


「しょっちゅうでしたよ。本当にわがままで、引くということを知らないというか。でも、正直な人でした。まっすぐで」


「なんか、似てる気がする」


「ヒロくんとですか?」


 眴は穏やかに、由良姫に微笑み返した。


「それで? 知りたかったことというか、気持ちは落ち着きましたか?」


「うん、明日来るやん。顔合わせたらどうしたらいいか悩んでて。なんや、そんなん、お互いわからへんし。でも、ニッコリ笑って出迎えたらええだけやんかって。だって、それがうちの気持ちやし」


「そうですね。きっと、ホッとすると思いますよ、ヒロくんも」


 そう言うと、眴はふと、奏司と出会った頃の自分を思い出したように笑った。

 この先、これからもずっと、何かあるたびごとに、由良姫はこうして揺れるのだろう。いつまで自分は、それを傍で見守っていてあげられるだろう。


 もう少しだけ、できれば由良姫が成人するまで。

 だが、そんなに時は残されているのだろうか。


「おはようございます」


 ちょうど芥見の二人が来て、車を止める場所を眴に聞きながら止めていた。浩徳は自転車置き場に自分のを横付けすると、玄関のドアを開けた。


「あっ、ヒロくん、おはよう!」


 由良姫が少し頰を赤らめながらも、満面の笑みで出迎える。

 浩徳はちょっと気恥ずかしそうに、でもいつもと変わらず「っはよ」と応えた。


 狐のケンが浩徳の傍へ行くと、ケン! と挨拶をして付き従う。

 その様子を奥から見ていた宇羅彦が、まるで眷属のようだと笑った。


「眷属って言うたら、俺が由良姫の眷属みたいなもんやから、ケンは仲間、同志やな」


 ケンが尻尾をファサッ! ファサッ! と嬉しそうに振る。

 部屋の奥の方にいた宇羅彦へ、浩徳が何冊か本と雑誌を渡した。


「あっざーっす!!」


「誕生日って由良姫と一緒やろ。試験受ける日に十六歳になっとったらええで、準備だけしとけば」


「そっすね。俺もう二輪乗れるんで、一発受験で行こうかと思うんですけど」


「中型? 四百?」


 頷く宇羅彦を見て、浩徳は深く突っ込むのはやめた。


「それより、先輩。しました?」


「何を?」


 宇羅彦はこっそり由良姫を指差した。

 浩徳は表情一つ変えず、おまえはどうなんだと、反対に宇羅彦に聞き返した。


「いやあ、俺はそういうんは禁止されてるんで」


「そうか、実は俺もなんや。なんせ、神さんやしな」


「先輩、言い逃れ上手いっすねえ」


「ちょっと、二人でコソコソ何話しとるん?」


「昔の黒歴史」


 浩徳は笑いながら、中免一発合格の秘訣の話だと言った。


 リビング中央の一台を会議用につなぎ、それぞれのノートPCには資料と地図を表示していた。


 チャットではなく、顔を見ながら話せるウェブ会議ができるよう、眴が必要な機材を揃え、それぞれに渡していた。もちろん鹿野神、猪野神の方にも打診済みである。

 引越しする前にすでに回線工事も済ませてあった。


「うーわっ! ええなあ。下りてくる速度が全然違う。うらやまー!」


 宇宙依が会議の準備をしていると大声で叫んだ。


 以前のチャットでの会議を見ていて、やはり人数が多くなると無理があると眴は感じていた。


 そこで、眴なりに調べウェブ会議のシステムを導入した。この頃を境に、ネット環境は急速に変わっていく。こうした遠隔会議の仕組みも、少しずつ広まり始めていた。


「これなら位置情報も同時に送れるし、東や西ともスムーズに祓いの計画立てられるわ」


 まずは、宇宙依が前もってまとめていた各地域のケガレ発生リスト。

 グレードに分けてリストアップされていた。グレードはAからEまでに分けられ、今回のリストの大半はCクラス以下だった。


「始めます」


 万里依の合図で、東西の参加者が一斉にPCの画面へ現れた。


「ヤッホー! 元気?」


「なんや、引越し先めっちゃええやん!」


 ワチャワチャと一斉に喋り始める。思った通りの状況になっている。


「ちょっと、ストップ!! 会議やから、うちが進行係な。まず、宇宙依から送ったリスト見て、質問あったら挙手」


「ホテルの場合は、コレ見せたらええねんな?」


 凛華の手には、内閣府の対策室から送られてきた身分証があった。


「コレで、ほんまに信じてくれはると思う!?」


「えーと、今からみんなに神守我央の携帯番号教えるで。トラブったら、そこへ連絡して。直接フォローしてくれる」


「実際は、いつから動いたらいいんだ? リストには、日付過ぎてるのもあるけど」


 虎雅(たいが)がリストの指摘をすると、宇宙依が体調不良を謝ってから説明をした。


「日付が過ぎとるものは、もうケガレ化したと考えてええ。まずは、この先起きる事件を優先してほしい。その合間に、すでに発生済みの現場へ入って祓う。地元警察が規制線を張っとるとこは、身分証見せたらそのまま入ってええ」


 ウェブ会議は続いていた。


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