第三話 ウェブ会議
ウェブ会議は順調に進んでいた。
宇宙依の説明が終わると、万里依が続けて注意点を確認していく。
「その際に、必ず二人一組で祓いに出向くこと。祓い終わったら、お互いに祓い合うこと。いつどこでどんなふうにケガレもらっとるかわからへん」
「はい、いいですか? その件ですが、皆さんはケガレが魂の蝕を起こしているのは見えますか?」
眴は神守我央が連れてきた眼を持つ者である玲と、万里依と宇宙依には見えていないようなので、他にいるかどうか確認したかった。
それは、この先二人一組で行動していくにしても、最も重要なことだった。
「それなんですけど、モドキが気枯れを起こして、ミイラ化した後にケガレへ変貌するのはわかります。見てれば臭いや色や気配もわかるし。せやけど、魂の蝕ってなんですの?」
初音の問いに、宇羅彦は驚いたように聞き返した。
「見えんのか? 」
初音の顔が一瞬、不快感をあらわにした。しかし、すぐにいつものクールな様子に戻った。
宇羅彦はお構いなしに話を続けていた。
「ミイラ化したのはまだケガレやないんや、一歩手前。ミイラ化で新たに生まれたケガレの元っていうか、核みたいなモンに蝕まれてケガレに変わるんや。それが魂の蝕や」
「宇羅彦の言う通りですが、問題はケガレとなった本体からもらうケガレによって起きる、魂の蝕に気がつくことができるかどうか、なんです」
眴が見えるかどうか挙手を求めると、虎雅と凛華の二人が「多分」と言いながら手を挙げた。
そして、凛華が合っているかどうかの確認で、説明を始めた。
「魂なんか知らんけど、人それぞれ色がついてて。イメージやけど、人の真ん中にあるのんが、だんだんカビいっぱい生えるみたいな、早送りで錆びてくみたいな。全部、喰い潰されて青黒なって、最後にケガレに変わるんやろ」
「その様子を、生きてる人の中で起きてるのが見えますか?」
「キモいし、見んようにしてんねんけど、最近たまに見てまうん。それに、お母ちゃんに言ったら、内緒にしときって。誰にも言うたらあかんって。それは、常世の眼やって……」
凛華は、眴の映っている画面を見つめながら泣きそうな顔をした。
「いえ、これは二つ紋の者に現れる傾向です。最初の二つ紋の我央さんも見えていますし、由良姫と宇羅彦も見えています。だから、大那さんにも初音さんにも、何かのきっかけさえあれば見えるようになるはずです」
「ほんまにか?」
初音の指先が、膝の上でわずかに強く組まれた。
いつもはおしとやかでクールな初音が、見せたことのない険しい表情をしていた。
初音は、自分には見えないものが凛華には見えていることに、少なからず苛立ちを覚えていた。
初音と凛華は従姉妹同士で、お互いの母は双子の姉妹だった。
その姉の方が利発で初音の母であった。初音は母譲りの努力家でもあった。
妹はというと鷹揚で、目立たないが知らないうちに姉より先になんでもできるようになっていた。凛華もまた、そんな母親に似ていた。
凛華にできて、自分にできないことはない。小さな頃からそうだった。それがいつの間にか、凛華は肩を並べて追い越していった。
一緒に祓いをする時は、いつも初音の方がリーダーシップを取っていた。
凛華はマイペースで、いつも初音の言う通りでいいよ、という感じだった。
大那にも、必死の形相になる初音の気持ちが理解できた。
虎雅は小さい頃から仲の良い、同い年の親戚の子だった。
同じ二つ紋だということもあって、知らないうちに猪野神の中では比較されるようになっていた。
それが嫌で、大那は結構地元では有名なヤンキーになっていた。
比較されても自分自身が傷つかないよう、見た目もやってることも比べようがないようにしていた。
それでも、無神経な大人たちは寄り合いがあると、出来のいい方と悪い方、といって呼んでいた。
虎雅は、うんざりしていた。そういう大人たちはクソだと、大那に言ってのけた。
それから少しずつ二人は距離が縮まっていった。
「年長者の私から言わせてもらうなら、能力というものは比べても仕方がないものなんです。各々に得手不得手もあるでしょうし。それになにより、私があなた方に聞きたいのは、祓いについて何をどう考えているかということです」
いつもの眴にはない、厳しい口調で画面に向けて語っていた。その視線は、初音から外れることはなかった。
「ケガレを祓うということは、それによって手柄を競い合うものでもなければ、能力の優劣をつけることでもありません。二人一組で当たる、共同作業です。片方がやられたら、その時点で両方終わりなんです。本来はそういうものでした。そのために必要なものが何か、よく考えてみて下さい」
「俺は、祓いは虎雅が誘ってくれたから。俺たちって二つ紋って言って、スゲえんだぜって。でもさ、三個下に二つ紋が生まれてさ。気がついたら、猪野神だけでもう十人近く生まれてるんだ」
「大那、おまえはおまえで良くね?下のガキと比べてどうすんだよ。俺はおまえと組んで祓うことしか考えたことねえよ」
「うちも、うちも!! 初音は頭良くてさ、物知りでさ。うち、ほんまは初音と一緒の中高一貫校入りたかったんや。せやけどな、うち、ひどいイジメに遭うててん。その子らみんな、初音が行くとこ受験しよったんや。うち、結局中学公立行ったやろ。引越しした理由はそれやったん。ほんで、今通ってるとこ受けたら、マグレで入ってもうたんよ」
眴からの問いかけで、大那と虎雅がようやくまともに本音を言い合えたような雰囲気となった。そこへ、凛華もぶち込んできた。
凛華は計らずも、周囲のイジメが原因で初音と離れ、ズタズタになった自分を一人で組み立て直さなければならなかった。それを見守ってくれたのが母親だった。
母親は、口煩い大叔母から凛華を守るため縁まで切っていた。
そのためだったのか、大叔母の溺愛の矛先は初音へと自然に傾いたのだった。
初音は黙って、半ば呆れたように聞いていた。
「これって会議ですやろう? ほんで、二人一組で動くんやったら、うちは後で凛華と打ち合わせたらええんでしょ?もうそろそろ、うち、お暇させてもろてええです?」
そう言ったかと思う間もなく、ブチン! と初音の回線が切れた。
凛華は、消えた初音の画面をしばらく見つめていた。
「あーっ!! まだ連絡事項…」
万里依が大声を上げて、他のメンバーは唖然としていた。
他のメンバーは冬休みだった。ウェブ会議だと言って部屋にこもれば家の手伝いをせずに済むのか、そのまま会議なのか雑談なのかわからない時間が続いていた。
「万里依さん、このケガレになっちゃったやつで、グレードEクラスが結構あるんやけど、これくらいなら一人でもよくない? 」
「うちもそう思ったんやけど。万が一を考えて行動することが大切やし、社会人ならまだしも、あんたらみんな高校生やからな。関わっとる大人の責任になるんよ。うちとかよりも、眴さんの責任になったら、困るんは由良姫と宇羅彦や。唯一の保護者や。そこ、考えてな」
「せやなあ、そこまでは考えへんかったわ。うちらが勝手にやることで迷惑かけたら、責任がみんなそっちへ行ってまうんや。気ぃつけなあかんねんな」
凛華は、由良姫と喋りながら、初音の心配ばかりしていた。




