第七話 賞味期限:JK
「なあなあ、ユニット名なんやけど、こういうんはどお?」
邪魔者の直美が、家庭の事情とかで突然転校した。以前、直美とユニットを組んでいた二人は、始めるなら今だと思った。
『賞味期限:JK』
「ウワッ!? なにこれ、ウケる」
「でしょ。私思ったのよ、あの長谷川って奴、結局うちらのことJKだからって利用しただけじゃん。それならもういっそのことさ」
「わかるう。おまえらみんな、どーせ考えてること一緒だろ、みたいな」
「そうそう。最初からソレを売りにしちゃえばいいじゃん。前はカワイイアイドル系だったから、今度はちょっと闇落ち系」
「うんうん。ウケるよね。ちょっと悪ノリするくらいがいいんじゃない?」
「じゃあ、ステージネーム考えなきゃ」
数日後、二人は以前のユニットの時、それぞれのチャームポイントだったところから名前をつけた。皮肉ったのだ。
やえば。ギターが弾けて作曲までできたのを嫉妬されて、一度も自作曲を一人で歌わせてもらえなかった。前はフォークギターだったのをエレキに変えた。
エクボ。笑うとできるエクボに人気が集中して、笑わないでと何度言われたかわからない。衣装はいつもブルーかムラサキで地味目にされた。だったら今度はアカを着る。
イメージカラーは黒と赤。
「ねえ、聞いて。うちな、このステージ衣装、大嫌いやったん。いっつも地味色でさ、おまけに笑うと文句ばっか言われてさ」
「そうやったねえ。うちも邪魔くさいわ、家にまだ置いてあるけど、捨てたろかって見るたび思うわ」
「捨てるくらいなら、その前にグチャグチャにして動画アップしん? 切り刻んでさ、赤と黒のスプレー買ってきてぶっかけてさ」
「サイコー!! やろう、やろう!!」
「うちら、生まれ変わったでって。ちょっとダークな感じのネタで動画アップしよ」
「じゃあさ。私の作った曲にめっちゃあいつらへの不平不満書きなぐった詞つけてさ、完成したら動画にしようよ」
「今度、駅前のパル9へ衣装探しに行かへん?」
そうこうするうち、やえばが曲を作ってきた。
十七歳デスゲーム。
添加物メンタル。
産直・閲覧注意。
「なに、コレ。マジ、ウケるわ。ヤバい」
やえばとエクボ。
紗栄子と繭美。今までのユニット活動で受けた仕打ちを、全部吐き出す、新生ユニットが誕生した。
「まずは、前のうちらを葬る、儀式みたいなのが必要よね」
「なあ、前のブロマイド写真持っとる?」
「あるよ。めちゃいっぱいボツにされたし」
「ソレ、燃やすのどお? でさ、前話しとった衣装を切り刻んでさ」
紗栄子と繭美は動画のシナリオを書いた。動画のアップは前に作ったコミュを使った。そこで大々的に、お葬式と題した卒業の儀式をアップし、動画を公開した。
動画公開と同時に、サイトを『賞味期限:JK』専用コミュへ変更する。
二人はやえばとエクボとして再出発、というか再生を遂げた。
「ねえ、賞味期限切れのマジな卒業式までカウントダウンしようよ」
「いいねえ。毎日、あと何日ってカウントダウンしよ。でさ、ファンを消費者って呼ぶの、どお?」
「あははっ! なにそれ、どーせ、賞味期限切れたら捨てるんだろって?」
すると、早速反応があった。元々、二人のファンからのコメントが並ぶ。
〈やえばちゃん、そのギター待ってた!〉
〈エクボ笑ってる方が絶対かわいいじゃん〉
〈前のユニットより100倍いい〉
〈写真燃やすのヤバすぎwww〉
〈衣装全部切り刻むとかヤルじゃん〉
〈賞味期限切れるまで推します〉
〈消費者一号です〉
動画公開直後のコメントは、二人が予想した以上の大反響があった。
「ほら! やっぱこれがうちらのほんまの人気なんやって!」
「そうそう! 前のやり方がおかしかったのこれで証明されたわ」
「自信持って、悪ノリしていこ!」
ファン側も、ダークな悪ノリにガンガン乗ってくる。
二人は一曲だけの動画ファイルを、あえて容量軽くしてアップした。
「十七歳デスゲーム」を、パル9で買った衣装を着て歌う。
やえばは、黒に赤の差し色が入ったパンクっぽい服に、エレキも黒。
エクボは、ゴスロリ寄りの赤い服に黒バラコサージュ。
そして曲の最後には、先日切り刻んだ衣装を燃やすシーンを編集して入れた。
それが、思った以上の勢いで広まった。
誰かが、ネットの掲示板サイトへ動画のアドレスを貼った。
「URL踏んだら大音量で不気味なMIDI鳴ってワロタ」
「動画見た。ダーク系JKユニットらしいけど、カメラ睨みつけるエクボの子フツーにカワイイ」
「ギターの子、センスいい。けど、燃やしてる場所、火気厳禁とか映りこみが草」
「だけど、香ばしすぎる」
「また、見てしまった。負けた気分だ」
二人は書き込まれたコメントを見ながら、ケラケラと笑い続けた。
「香ばしいって、褒め言葉になるん? このチャンネル、ヤバない?」
「大丈夫やって。こっちに応援スレ立ち上がってるよ。見てみて」
「わあ、ほんまや。これって、うちらの勝ちやん」
動画の再生数は、更新するたびに増えていった。前のユニットの時には考えられない速さだった。
学校でも、廊下ですれ違いざまに声をかけられるようになった。
「賞味期限、『ショウミ』って呼ばれとるん、見たで」
「兄貴が、見つけたんやけど、衣装燃やしたん、おまえらやろ」
「十七歳デスゲーム、聞いた! 地味に耳に残るわ」
「前に直美とやってた時より、今の方がめちゃウケる」
「ほんま!! めっちゃ嬉しい!!」
紗栄子と繭美は声を合わせて言った。
以前なら、みんな空気を読んで、真っ先に直美の名を出していた。
今は違う。
やえばとエクボ。
二人の名前だけが呼ばれる。それも、ステージネームで呼ばれるようになってきていた。
「やっぱさあ」
放課後、エクボは上機嫌で机に頬杖をついた。やえばはケースからギターを取り出して撫でた。
「うちら、前より絶対こっちの方がええよね。そう思わん?」
「そらもう。そうに決まってるやん。前は何でもあいつ基準やったし」
「ほんまになあ。笑うなとか意味わからんかったわ。うちの写真捨てとるの何回見たか知らん。ムカつく!」
「うちは曲作っても、今度ねとか言ってさ。いつまでたっても今度って、いつ来るんってさあ」
二人は顔を見合わせて笑った。
数週間後、大きな街のアイドル系ユニットが出る、ライブパフォーマンスイベントから声がかかった。
賞味期限:JKとして初めて人前に立った。
黒と赤。やえばとエクボ。
やえばは黒いエレキをストラップ短めに抱え、エクボは赤のゴスロリ系衣装に黒バラ。二人は舞台の中央に立つ。
エクボがマイクを握った。
「本日の鮮度確認、よろしくお願いしまーす!」
客席から笑いと歓声が返ってきた。
「賞味期限まで、まだまだあるからねー!」
やえばがギターをかき鳴らす。
最初の曲は、十七歳デスゲーム。
やえばが作った曲を、やえば自身が歌った。隣ではエクボが一緒に考えたパフォーマンスをしながら、客席に向かってニッと上から目線で笑いかけた。
誰も気にしなくていい。誰にも止められない。
曲が終わると、一瞬遅れて大きな拍手が起きた。それにかぶさるように、やえばとエクボのコールがかかる。
「ヤバッ!!」
舞台袖に戻った瞬間、エクボはやえばの腕を掴んだ。
「めっちゃ気持ちいい!」
「なあ! うちも思った!」
「直美おらん方が、全然ええやん」
二人は声を揃えて言ってから、またケラケラと笑った。
ライブ後、写真を並べると、それも予想以上に売れた。
「やえば単体あります?」
「エクボちゃん、笑ってるのほしい」
そんな声が次々とかかる。二人はそれさえネタにした。
「単品注文入りましたー!」
「バラ売りされてまーす!」
帰宅後、コミュを見ると、今度は個人名を挙げるコメントが一気に増えていた。
〈やえばのギター普通にカッコいい〉
〈曲作れるの強いな〉
〈エクボの笑顔好き〉
〈赤い衣装めちゃ似合う〉
〈やえば単推し〉
〈エクボだけの写真もっと欲しい〉
「ほら、エクボ人気、エグいやん。めっちゃバラ売りしたなあ」
「やえばもやん。ソロで聴きたいって。スゴすぎるう」
まだ、それはただ嬉しいだけだった。
次の週には、やえばの曲が別のサイトで紹介された。その次には、エクボの写真が掲示板で話題になった。
どちらかが少しだけ相手より特別扱いされると、もう一人がからかう。
「今週はうちの勝ちやな」
「はいはい、来週見とってみ」
そんなやりとりでさえ、二人にとっては新しい遊びにすぎなかった。
ある日、ファンの一人からこんなコメントが書き込まれた。
〈本日の鮮度はエクボのが上かな〉




