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御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第五章 暮れゆく秋

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第六話 鬼化の爆弾

 早朝五時に、浩徳が芥見本家へやってきた。

 浩徳は、ケガレが声を出したことを知っていた。


 ミイラ化した状態のケガレになりきっていない時は、キーキーという声を出す。その声が人の言葉に聞こえる。

 しかし、ケガレになったものは、声は出さないのが通常だった。


 というよりも、なぜ浩徳がケガレのことを知っているのかが、驚きであった。


「どうしてそのこと!?」


「うるさい、ボケ!! 早う、連れていけ!! 鬼化(キカ)する!!」


 浩徳は、ズカズカと屋敷の奥へ勝手に入っていった。


「鬼化する!?」


「誰がや!?」


「由良姫に決まっとるやろ!!」


 浩徳の後について、宇羅彦も芥見の二人も慌てて、寝ている由良姫の元へ向かった。


 由良姫はぼうっとした白い光に包まれていた。

 その光だと思われたものは、真っ白な長い髪の毛だった。

 由良姫は自分で自分を髪の毛で包み、床から少し浮いていた。


 その異変に、眴が気づかないわけがなかった。

 間もなく眴がやってきて、その状態の由良姫を見て青ざめた。


「どうして……もう、手遅れだ……」


 由良姫は白い髪でケガレを吸い尽くした。

 白い髪はみるみるドス黒くなったかと思うと、一瞬にしてケガレを祓って白く戻った。


 だが、長く垂れた白い髪を床に広げたまま、由良姫は少し宙に浮き、眼をカッと見開いた。その眼は赤々としていた。


 その時、由良姫の目の前で浩徳が大きく柏手を打った。

 反響する音に乗せて、なにやら呟くと、もう一度柏手を打った。


「鎮まり給え」


 すると、浮いていた由良姫が、ドッと浩徳の方に倒れかかってきた。

 受け止めると、浩徳もその反動で後ろへ倒れかかった。それを宇羅彦が止めた。


 その場に居合わせた者たちは、何が起きたのか訳がわからなかった。


 眴には理由はわかっていた。


由良姫には鬼化をコントロールする力がなかった。


 それが、由良姫の爆弾の一つだった。

 由良姫にとって鬼化するということは、鬼神となり戦をし続けることだ。


 それはまた、モドキを宿したままの人間をケガレと見做し、戦い滅すことになる。

 つまりは、今現在モドキに憑かれていない人間は皆無に等しく、放っておけば大虐殺を起こしかねない状態だったのだ。


 この鬼化を唯一コントロールしているのは、御子姫だけだった。

 その鬼化を、浩徳は鎮めた上、由良姫を元に戻したのだった。


「柏木が守護する神は、鬼神か!?」


 眴は、思わず口にしていた。

 眴が鬼化しそうになるのと、由良姫の鬼化とは別物であった。

 

 眴はせいぜい鬼人となる程度である。

 かといって、鬼人となってしまうと、元には戻らない。下手をすれば異形として、異形衆の元へ行かなければならない。

 そのため、眴くらいの鬼化であれば丸薬でコントロールできた。


 由良姫の鬼化は根本的に違う。力の源が違うのだ。


「戦神(いくさがみ)にならずに済んだか……よかった……」


 その場で、眴はへたりこんでしまった。


 由良姫は鬼化の影響か、元に戻ってから懇々と眠っていた。

 騒動がひと段落すると、もう朝になっていた。


 芥見本家では万里依と宇宙依だけでなく、両親から曽祖父母までが屋敷内にいる。

 この騒ぎが知られるのは、そんなに時間はかからなかった。


「祓いのことは、万里依と宇宙依に任せとる。今更、年長者が意見はせん。そやけど、由良姫の鬼化は別や」


 曽祖母が厳しい口調で続けた。


「芥見には眼を持つ者が多い。それは鬼の力、異形の力や。それは決して世間に知られてはならんものや」


 眴の側まで来ると、曽祖母は目の前に座ってじっと睨んだ。


「のう、眴。わかっとるな。御子姫殿が、由良姫と宇羅彦を芥見に預けたのは、上手く隠してくれると信じたからや」


「はい、重々に」


「今一度、その任の重さを、よく考えんといかん」


 浩徳は、眠り続ける由良姫の元を離れなかった。彼は、祖父母の話を忘れることができなかった。


「神さんは、二つの顔を持つ。命を与え、命を奪う。癒し、滅する」


 柏木の一族は、神を守護(まも)ることが仕事だ。


「守護の誓いを立てたなら、命を賭して守護(まも)らんといかん」


 浩徳は、その話をしなければならないと感じていた。

 由良姫が話してくれる前に、自分が知っていることを話さなければ。


 浩徳が由良姫に付き添っているところへ、眴がやってきた。浩徳は眴に言った。


「お話があります」


「そうですか。ちょうどよかった。私も尋ねたいことがありました」


 眴からは、以前見せた険しい表情は消えていた。

 この人物こそが、由良姫の鬼化を唯一鎮めてくれるのだろう。

 

 由良姫の力の暴走を、止めてくれる。


 浩徳が家の電話を借りて、自宅へ電話すると母親が出た。


「あ、俺。今日学校休むで、悪いけど連絡して」


「そうか。お母さん、気になっとった。あんた、掌に印が出たやろ」


 その電話を聞いていた兄が、母親から受話器を受け取った。


「篠から聞いとった子か。篠が心配しとったで」


 浩徳は、パパッと話を終わらせると、後ろで立ってる人影に驚いた。


「お前(ま)さん、何処(どこ)から来(き)んさった」


 その眼は、得体の知れないものを見るように見開かれていた。


「あの……」


 さすがに浩徳も、どう答えてよいやら口ごもった。


「まあ、ええわ。塩梅よう頼むで。鬼さんを起こさんよう」


 そう言って、年老いた主のような人物は家の奥へ消えていった。


「うーわっ! ビビったぁ!」


「曽祖母や。珍しいな、知らん人に声かけるなんて」


 そこへ、宇羅彦がやってきた。


「由良姫が目ぇ覚ましたで」


 案の定、由良姫には眠っている間に起きた、鬼化の記憶はなかった。


「ケガレの声を聞いたよな?」


 浩徳が、由良姫に聞いた。続けて宇羅彦が由良姫に聞いた。


「ケガレが言葉を喋ったんや。聞いたやろ?」


 万里依も宇宙依も、眴までいる。皆が由良姫の周りに集まっていた。


「うち、どうしたん? キーン! て、すっごい耳鳴りみたいのがして、それからよう覚えとらん」


「ケガレが喋ったんやて。由良姫は言葉を聞いたんか?」


 由良姫は首を振った。だが、宇羅彦を見るなりみるみる顔が険しくなった。


「ウーちゃん、ケガレの蝕が起きとる」


 由良姫は眴の顔を見た。眴は眼帯を外し、宇羅彦を視た。


「これはいったい……いつの間に!?」


 由良姫は、躊躇せず宇羅彦に術を放ち、蝕を起こしているケガレを祓った。


「どういうことや!? 言葉か、ケガレの発する言葉の声か?」


「今まで、完全にケガレになる直前に祓っとった。気が枯れてミイラ化した時に、まだ言葉にならん声は聞いたことあるけど」


 由良姫と宇羅彦は戸惑いを隠せなかった。

 声によって、二人とも知らないうちにケガレをもらっていた。


 このことは早急に、祓いを行なっている鹿野神と、特に神守我央の依頼で手伝っているだろう猪野神の二人には、報(しら)せなければならなかった。


「なんだって!? ケガレが喋った? そんなこと聞いたことないぞ」


 大那(だいな)から驚きの声が返ってきた。


「よかった。ケガレの言葉っていうか、その声を聞かんようにせなあかん。といっても、無理やろうで、声を聞いたらケガレをもらうって覚えといて」


「どういうこと? 声を聞いたら、ケガレをもらうって。じゃあ、どうしたらいいんだ!?」


 虎雅(たいが)にも連絡をしたところ、意外と落ち着いて聞いていた。すぐに大那から大騒ぎで連絡があったらしい。


「大那(だいな)と虎雅(たいが)で、お互い祓い合うんや」


「術をかけ合って、祓えばいいんですね」


鹿野神の二人のところに連絡する頃には、虎雅から詳細が届いていた。


「まだ、こっちではそういうんはありません。でも、気ぃつけます。ありがとうございます」


 初音からは丁寧な返答があった。


「ところで、由良姫はどうしてはります? 本家の祖母が気にしてはりましたえ」


「鹿野神から勘繰(かんぐ)りが入ったわ」


 万里依が、眴に知らせた。それも仕方のないことだった。


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