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御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第四章 秋風の吹く

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第八話 学祭 体育祭①

 朝から指定体操着で登校、今日は学祭の締め、体育祭だ。


 そして、由良姫にとっては放送委として、一日中アナウンス三昧が待っていた。

 昨日、文化祭も終了間際に、副委員長から頼まれたのだ。


「おう、小林。明日って購買休みやったっけ」


「学祭中、パン屋さん来ないよ」


「そっか、カップ麺でも持ってきて、湯もらうか」


「ヒロ先輩、お弁当作ってきましょうか?」


 由良姫の一言に、ものすごく驚いた顔をした後、ニカっと満面の笑みが返ってきた。


「マジ? 大丈夫か?」


「どういう意味ですか?」


「いやあ、うちの人に怒られないかなと」


 浩徳は眴のことを、意外にも鮮明に憶えていた。

 そして、養護教諭からの忠告。彼は彼なりに、由良姫の家のことを調べていた。


「眴ちゃん、明日の朝、一緒にお弁当作ってもいい?」


 怪訝そうな顔をする眴に、宇羅彦が思い出したように言った。


「そういや、俺、明日弁当いらん。女子から弁当作ってきてもらえる」


「で、由良姫は誰かに作って持っていくんですか」


 勘のいい眴には見透かされているようだった。


「お願い、眴ちゃん。めっちゃお世話になった……」


「いいですよ」


 話途中で、眴から許可が降りた。珍しいこともあるものだと、由良姫は思った。


「由良姫には、まともに料理教えてこなかったから、一緒に作りましょうか」


 由良姫の表情がぱあっと明るくなる。


「実は心配してたんだ」


「同じのを二個作りますか?」


「いつもと一緒で、うちのと、ウーちゃん並みのと」


 翌朝、眴が驚くほど、由良姫は早起きしてきた。


「なあ、眴ちゃん。どういう風の吹き回しなん?」


「どうってことないですよ。宇羅彦がお弁当もらって食べるのに、あげてはいけないとは言えないでしょう?」


「なあんだ」


 それでも、一緒に嬉しそうに弁当を作る由良姫を見ながら、眴は別のことを考えていた。


 このまま、好きな人ができて、一層のこと祓いを辞め、普通の幸せを。


「出汁巻は火を強くしすぎると固くなりますよ。余熱で形にするくらいで」


 由良姫は巻きすを用意して、焼きあがった熱い出汁巻卵を乗せた。


「上から包むようにして優しく巻いたら、少し落ち着かせて」


「眴ちゃん、味見して」


 由良姫が、出汁巻卵の端を眴に渡す。


「美味しいですよ」


 ウインナーを炒めようと、由良姫が冷蔵庫を覗く。


「そこにタッパーに肉が入ってるでしょう。豚肉を塩麹につけてあります。全部使っていいですよ」


「えっ? いいの? どうやって焼くの?」


「お肉の表面についてる塩麹をペーパータオルで拭き取って」


 クッキングシートを敷いて弱火でじっくり焼いていると、徐々に香ばしい匂いが漂ってくる。


「あとはポテサラとプチトマと。えーと、何かデザート」


「頂き物のシャインマスカットが食べ頃ですよ。冷やしてあります」


「わあ、このブドウ美味しいね! 初めて食べた」


「好きなだけ持っていっていいですよ」


「なんか今日、眴ちゃん、やさしいね」


「せっかく協力しているんですから、当然でしょう?」


 眴はにこやかに由良姫へ笑いかけた。

 由良姫の年相応の女の子らしいはにかんだ表情、本来望むべきもの。


 眴は、柏木浩徳が由良姫のことを調べていることに、すぐ気がついた。

 なぜ調べているのか。


 この辺に昔から住んでいる者なら、それが禁忌(タブー)であることはわかっている。


 芥見に住む者には、関わるな。

 響家(キョウケ)、奏家(ソウケ)に縁(ゆかり)ある者に、関わるべからず。それがこの国の暗黙のルールだった。


「眴ちゃん、ありがとうね! いってきます!」


「ちゃんと水分取るんですよ」


 由良姫がニコニコしながら手を振って、自転車に乗って出かけていった。


 だからこそ、由良姫と宇羅彦については、戸籍を調べても身元は一般人にはわからないだろう。

 そもそも、二人が御子姫の子であることは公にされていない。

 ただし、この場所に住み、芥見の氏(うじ)を名乗る者に育てられている、それだけで十分なはずであった。


「それだけ、怖いもの知らずか、それとも……」


 本気であったとしても、由良姫の持つ宿命の前には身を引くしかないと、いつか悟るだろう。


「共に乗り越えてくれる者に恵まれるか」


 知らぬうちに、眴は独り言を呟いていた。

 狐のケンがのそりと顔をのぞかせ、眴の独り言に応えるようにケン! と鳴いていた。


 体育祭が始まると、由良姫は約束通りテント下までやってきた。

 宇羅彦も放送委として顔を出した。一年は他にも数名やってきた。


 体育祭は、職員室等の前にテントが数個張られ、その下で生徒会、放送委、教師に学祭委が集まり各々役割を担う。

 体育祭なので、普通に各種競技が行われていく。


 校庭には九色のブロック旗が並んだ。

 応援席の最後列では、大きなブロック旗が揺れていた。太鼓や、メガホン、大きなハリセンまで持って叫んでいる。


 競技が始まる前から校庭はお祭り騒ぎだった。


 目玉種目は、各ブロック毎の応援合戦、同じくブロック別リレー、そしてガチな勝ち抜き騎馬戦。

 由良姫は浩徳と同じくリレーに選ばれていた。

 宇羅彦は騎馬戦だった。


「おまえのブロック、ぜってえおかしいって! おまえ並みのが三人に、上に乗るのが元バスケ部部長とか三年まで引っ張ってきて」


「いえ、そんなこと言われても……三年の先輩は本人の強い希望で」


 宇羅彦は放送委員長にイジられながらタイムテーブルを確認する。


「なあ、柏木、騎馬戦勝ち残り決まったも同然じゃねえか。コレの勝者得点デカすぎねえ?」


「俺に言うなよ。体育祭の種目と得点は学祭委と先生も一緒に決めてんだから。俺、無関係」


「じゃあ、今年はぜってえ! おまえには負けねえ!!」


「ちょっと、うるさいよ! マイク入ります!」


 副委員長が、委員長にシッシと手で追い払う真似をする。


「ったく、いつの間にかタイムテーブル他人に任せて、喋くってばっかで」


 タイムテーブルは順調に消化されていった。


「おい、藤吉、水分ちゃんと取っとるか」


「はい」


 放送アナウンス席と生徒会長席はほぼ隣同士だった。

 それもあってか、先ほど新聞部が由良姫と浩徳が並んでいるところを撮っていった。


「おまえ、リレーに選ばれとるで、体調しっかり管理しとけよ。リレーの得点はブロック優勝の鍵やから」


「はい、さっき委員長が負けないって」


「ああ、去年さ、足立さあ、柏木にぶっちぎられて、あいつのブロック負けたんだよね」


「あ……はあ……」


「小林、うちのブロックの一年にプレッシャーかけんでくれる」


「えっ!? 二人一緒のブロックなんだ。あー、それで仲いいんだ」


「だからっ!! それがいらんお世話だっつーのっ!!」


「なによ、さっきだって……」


「おまえさあ、バトン受渡し順わかってて、ワザと言ってんちゃうやろなあ」


「あ、一年女子。からの二年男子、アンカー」


 由良姫の背中越しに飛び交うやりとりに、由良姫は副委員長の向こうでタイムテーブルを見る宇羅彦へ視線を向けた。

 宇羅彦は目と目が合うと、かすかに鼻で笑って親指を立てた。


「副委員長、もうすぐリレーの予選が始まります」


「えーっ? 藤吉さん、ごめんね。頑張ってきてね。そのまま昼休憩行っていいから」


 由良姫はペコっと頭を下げると、先に席を立った浩徳の後ろについていった。


「おい、気にするなよ」


「はい」


「とにかく、何番目に渡されようと、俺がいるから」


「はい」


「俺に渡すことだけ考えて走れ」


「はい」


「まだ予選だから、ソコソコでいいからな」


「……はい!」


 由良姫は振り向いた浩徳の顔を見て大爆笑した。浩徳の思い切りの変顔に、緊張がほぐれた。

 由良姫と浩徳のブロックは、余裕でリレーの予選をブッチ切った。


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