第五話 県高と東高
凛華はいつも何も考えていないように見えて、時々、こちらが見落としていたものを言い当てる。
今回もそうだった。
由良姫も宇羅彦も、高校では部活以外でほとんど人と関わらない。
関わらずに済むなら、それでよかった。そのスタンスは、中学の時から変わらない。
だから、高校でも自分から誰かと関わるつもりなどなかった。そのはずだった。だが、ここでは不思議と、縁は生じていく。
それでも、関わらなければ見えてこないものもある。
由良姫は冗談めかして、同じクラスの女子グループと関わることになった二人へボヤいていた。
「大那、虎雅。うちのクラスの女子よろしく。その代わり、夏休み明けに戻ったらイジメられるのだけは嫌やから」
「はあ!?」
「大那、メンチ切ってもムダ」
由良姫は容赦なく大那にデコピンした。小さな頃から、大那は由良姫には弱かった。
宇羅彦は悪びれず、猪野神の二人に丸投げした。
「俺も関わるの後々メンドーなんで、よろしく」
電話をかけてきた、由良姫のクラスの女子たちは、ダンスチームを作っていた。
彼女たちは、県立東高、通称東高のダンス部とそのOBたちによって作られた、大きなダンスチームに誘われていた。
隣県の大きな街で、毎年お盆の頃開催される、全国規模の『ザ・祭り』と称するダンス大会に参加するためだった。
約束の日、猪野神の二人は待ち合わせ場所で、四人の女子を紹介された。もちろん、由良姫も一緒だった。
由良姫のクラスには、同じ中学から来た女子グループがあった。
この街の中学は、大きく五つに分かれていた。
街の中心にある栄中。昔ながらの商店と、古くからの家が多い。きゃやんたち四人は、そこから来ていた。
城の北側にある城北中。芥見のような旧家もあり、先祖代々この土地に住む家が多い。由良姫と宇羅彦、万里依と宇宙依も城北だった。
西陵中は新興住宅地の学校で、県外から越してきた家も珍しくない。
東豊中は団地と田畑と工場が混じる地区で、中途半端にやんちゃな子が多い。
そして南の天神中。県境の大きな川に近く、工場の多い地区で、五校の中では一番荒れていた。
高校に上がって制服が同じになっても、中学の色はそう簡単には消えない。
誰がどこ中か。
それだけで、なんとなく距離の取り方が決まることもある。
四人の中心にいるのは、きゃやん。小柄で、キツめの可愛い子だった。
そのきゃやんと、もんちゃん、きょん、ゆんゆ。
四人は中学の頃からダンスチームを組んでいた。彼女たちが、大那と虎雅を誘って東高まで来ていた。
きゃやんたちは、ただ遊びで踊っていたわけではなかった。
栄中の体育館の端で、放課後に音を流しては振りを合わせていた。文化祭でも、地域の小さな祭りでも、四人はいつも一緒に踊っていた。
その頃から、東高のダンスチームは少し特別だった。
毎年、祭りの時期になると東高の名前が出る。誰がセンターを取ったとか、どの先輩が団旗を振ったとか、栄中の女子たちの間では半分伝説のように語られていた。
「高校入ったら、絶対あそこのダンスチームに入れてもらおうって言い合ってた」
きゃやんは、少し照れたように言った。きょんが髪を揺らしながら頷く。
「うちらだけやと、東高の子らに混ざるんちょっと怖いし。よかった」
もんちゃんが本音を漏らす。ゆんゆがクスリと笑った。
「それで由良姫に頼んだの?」
虎雅が聞くと、きゃやんは首を振った。
「ほんまは宇羅彦くんに頼みたかったん」
「そうやったん。ほんでも、無理やわ」
由良姫がやんわりと答えた。四人が宇羅彦を目当てにしていることくらい、もちろん気づいていた。
「アイツより、俺らでガマンしなよ。まあまあイケてるはずだぜ」
大那のあっけらかんとしたアピールに、全員が笑った。
東高に着いて、ダンス部の部長に挨拶をしていたところ、早々に寄ってくる女子たちがいた。
中心にいたのは、エリとアイだった。
二人とも東豊中の出身だと、きゃやんたち四人は知っていた。
東高には、東豊中からの生徒が多かった。
五つの中学の中では珍しく、東豊中にはダンス部があった。中でもこの二人は、うまいことで有名だったからだ。
エリはリーダー格らしく、大那に笑いかけながら距離を詰めてくる。
アイはその後ろで、虎雅と県高の女子たちを見比べていた。笑っているのに、目だけが妙に冷めている。
エリは鼻にかかったぶりっ子ボイスで話しかけた。
「へえ、地元の高校じゃないんだあ。一緒に参加してくれたら嬉しいな」
大那は思わず顔をしかめた。
「おまえ、臭いな」
エリは驚き、不快感を露わにした眼差しで、大那を睨み返した。
虎雅が爽やかに笑い返しながら割って入った。
「君さあ、なんて呼べばいい?」
「エリです」
「エリちゃんさあ、何かつけてる? コロンみたいの」
「あ……シャワーミスト」
「そっかあ。いい香りなのにね。そういうの、あいつ苦手でさあ。いきなり臭いとか、ゴメンね」
虎雅は上手にごまかした。確かに、エリからはケガレ臭がしていた。
そして、少し後ろで笑っているアイからも、薄く同じ臭いがした。
大那と虎雅は、エリの誘いに乗ったように見せかけて、東高のダンスチームへの参加を決めてきた。
二人はその日、芥見本家へ戻ると早速東高の話をした。
今日は参加する挨拶に行ったようなものだった。練習のスケジュールや必要なものを聞いて、全員帰ってきた。
「万里依さん、俺たちダンスチームに参加の返事してきたよ。由良姫のクラスの子たちもやる気満々だったし。いい感じに進めてきたよ」
万里依はそれを聞きながら、ちょっと渋い顔をしていた。
万里依の眼は物見の中でも遠見に優れていた。パッと視点を切り替えるように、今起きていることが視えた。
「うーん、アイツらいてるんか。ヤバいなあ」
「どうしたんすか?」
万里依はフーッと長いため息をついた。
そして、大那と虎雅を呼ぶとダンスチームのOBについて話し始めた。
「ミツとアキって呼ばれとるんが合流しとる。コイツら東都の大学行って、向こうで就職決まったって聞いとったんやけど。まさか帰省してくるとは思わんかった」
ミツとアキも城北中の出身だった。
由良姫や宇羅彦、万里依たちと同じ地区の中学だ。特に万里依は学年が同じだった。だから万里依は、二人の昔をよく知っている。
昔から目立つ連中だった。人前では愛想もいいし、教師や年上にはウケがよかった。
ダンスだけは結構マジにやっていて、ストリートダンスの大会に向けて、ひたすら練習していた姿を万里依も知っている。
ただ、いつからか、目立ち方が変わった。
同学年の女子や後輩に対する距離の詰め方が嫌なものになった。
そういう噂は、城北ではなかなか消えない。
「ってことは、要注意人物ってことですね」
笑いながら虎雅が言った。
万里依の苦虫を噛み潰したような顔は、面倒ごとを一つ、いや多分二つ三つ抱え込んだようだった。
「宇宙依が視た、このダンスチーム絡みのヤバいことに、コイツらは絶対噛んでくる。それくらいクズなんや」
「マジか。じゃあ、由良姫と同じクラスの女子、ガッチガチにガードするか。なんかあったらブン殴られるくらいじゃすまねえな」
大那はそう言いつつ、ふと思い出したように虎雅に聞いた。
「そういえばさ、あの東高のケバい女、二人とも相当だったよなあ」
「まあまあかな。おまえは敏感すぎるんだよ。いきなり臭いはダメだって」
「どうしたん? ぶなんかあったんか」
「いやあ、東高のダンス部にケガレ臭のする女が二人もいて。まあ他にもちらほら。だから、そんな中に通ってたらモドキもらってもしゃあないよなあって。ちょっとね」
「そうか。東高は県高に比べたら、中途半端に腐りかけとるヤツが、そうやってちらほら混じるんが怖いとこや。気ぃつけなあかん。そこが県高との違いや」
モドキは、こうして浸潤していく。
規模は違っても、道は同じだった。




