第二話 勢揃い
芥見本家へ、今、高校生以上で二つ紋、輪紋と響紋両方を併せ持つ者、が集まった。
二つ紋は徐々に生まれつつあったが、それよりもケガレの変容の方が早かった。それはすでに想定内のことであった。
鹿野神は西の方に点在し、猪野神は東の方に点在して暮らしている。
もう少し正確にいえば、西の首都とその近郊には多くの鹿野神が住んでいた。本来の鹿野神はもっと西の地に分かれて暮らしていた。
また、猪野神は、東の首都とその首都圏から離れ、もっと東に暮らしていた。
芥見家は、古くからとある地方の芥見という集落に住んでいる。輪紋響紋衆の中でも、眼の力を発現する者が生まれる一族である。
かといって、頻繁に力ある者は生まれるわけではない。
芥見眴は常世の眼を持ち、ケガレがよく視える。以前は、御子姫の元で常世の穢の研究をしていた。
今では現世に紛れこんできたケガレやモドキを視たり、モドキを取り出したりすることができる。稀なる力を持っていた。
この時代、常世の眼は、眴ただ一人であった。
芥見本家には、万里依と宇宙依の姉弟がいた。
二人とも現世の眼を持ち、現世でのケガレの動向の予知もしくは予測を役目と心得ていた。
万里依は物見、いわゆる千里眼とでもいうのか、目の前で起きていることを視る力に長けていた。
近くであれば、モドキの動向さえ手に取るよう視ることができた。
宇宙依は先見、未来に起きるべきことが降り注ぐように視えた。
あまりに視え過ぎてしまうため、バグが起きる。
そのため、ケガレが原因で起きる事件だけに絞って先見を使うようにしていた。
日曜日に、由良姫と宇羅彦に話した祓いについては、宇宙依だからこそのバグというか事情があった。
宇宙依にとっては、水泳部のシャワー室の事件こそがメインであり強く視えた。
音楽準備室の事件は、起きることは予測できた。しかし、宇宙依は視え過ぎるからこその、視る優先順位があった。
つまり、起きることはわかっていた。しかし、優先順位は低かった。重なることまでは、視ていなかった。
宇宙依はケガレの発生が強く感じられた方を優先した。だからシャワー室へ行かせたのである。
「ほんま、ごめんな。俺がもっとしっかり視て、判断できたらよかったんやけど」
「宇宙兄大丈夫。聞いてたし、ヤバいんはわかってたし」
「うちも視れんことないで、携帯とかあればリアルタイムで指示できる。眴さえよければ、携帯持たせれば指示は出せる」
万里依はそう言って眴の方を見た。苦い顔をしていた。
それは一方で祓いの現場での危険は減り、一方で芥見の縛りが浸透してくる危険性を孕んでいた。
「眴が言うてたやろ。いっぱいありすぎて、迷うってわかるわ。その中から特にヤバいのを抜き出すんが、めっちゃ困難。けどそこから視始めたら、宇宙依の負担は減る」
「万里依さん、そんな無理されなくてもいいんですよ。最悪、ケガレになってからでも、あとからキッチリ祓いに行けばいいだけのことです」
「眴ちゃん、それだと……そこの家、全員ケガレになってまう」
由良姫の言葉を、眴は受け流した。まるでそれが当然だという顔をしていた。
万里依はまだその中からでも、選び被害が最小限で済む方向を視ている。
「人にまとわりつくモドキの流れなら、うちにも視える。その中でも濁りが深くなったのをメモして宇宙に渡す。そうすると、なんやヤバいのんがパッと浮き上がってくるらしい」
「そっかあ。宇宙兄は視え過ぎてバグるんやったな。けど、視えたもんは必ず起きる。それやったら、見張っとるのが確実ってことか」
「それだけ、モドキに巣喰われて、気枯れを起こしそうな人がぎょうさんいてはるってことやろ?」
「そんなん、全部祓えるなんて思うんは、ただの驕りやと思います」
初音のキツい一言で場が凍りつく。だが、それこそ正解だった。
由良姫はこういう初音が苦手だった。ちょうど鹿野神、猪野神がいる。せっかくなので首都のことを話してもらおうと、由良姫は眴へ話を振った。
「やっぱ、モドキだけでも、首都の方がスゴイんやろ。なあ、眴ちゃん」
「私が奏司さんの代理で行ってたのは、昨年のことですが、首都はもう手に負えない様子が見て取れました」
「へえ、眴さん。東の首都に、よく来てたの?」
虎雅が、驚きながら眴を見た。それもそのはず、東の首都はモドキの濁りが、蔓延していた。歩けばまとわりついてくる。
「俺たちもターミナルで待ち合わせたけど。久しぶり、都心まで来たら、まあヤバかったね」
「まだ、ターミナルはマシじゃん。一応、首都の顔だから。副都心も最近大掃除したみたいだし」
「そうだったんですね。その前から眼帯外すと、モドキに巣喰われていない人を探す方が難しかったですね」
由良姫がギョッとした顔をする。それを見て、大那が鼻で笑った。初音が白けて言った。
「そんなん、どこでも人のぎょうさん集まってくるところは、遅かれ早かれでっしゃろ?」
それは大那へ向けられていた。それをどうにかするために集まったはずだとでも言いたげだった。
「まあまあ、初音もムキにならんと。うちらが住んどる街も、最近西の首都になってから、なんやいろいろ厳しなってなあ」
「へえ、そうなんやあ。凛華、聞かせてくれへん?」
凛華が集まったみんなに向かって、西の首都の様子を話した。西の首都には今現在、国家元首とその一族が、東の首都から移ってきた。
昔の都に戻ったと、市民の喜ぶ声と、呼応するように警護が厳しくなっていた。
「今年の祇園さんはお上が戻らはって最初の祭やさかい、まあ気張ってはるわ。うちらも祇園さんの終わる前に戻らなあかんねん」
「二都制になったのは今月からでしたね。西は西都、東は東都と呼ぶとか、ニュースで言ってました」
万里依が時間を見計らって、夏休み中の注意事項を伝えた。そして、各々の役割分担を決めた。
「県高のことは、生徒の由良姫と宇羅彦に任せるわ。確か、合宿所ができて、この夏から使えるんやったな」
「うん。うちとウーちゃんも八月頭に二泊三日で合宿参加する」
「音楽部が確か八月一日から一週間使うらしい」
宇羅彦が宇宙依にわざわざ合宿日程を見せる。科学部物理班とロボコン班も日程を被らせていた。宇羅彦が宇宙依とグータッチしている。
「ほんなら、うちらは大きな街まで行って、様子見てくるわ」
「凛華は栄へ行って遊びたいだけやん」
初音が呆れ顔で言った。万里依はしばらく考えて、鹿野神の二人に向けて役割を振り分けた。
「実はな、由良姫たちが通う県高には、パパ活グループがあってな。夏休みなっていきなり動き出して危ないんや。それを鹿野神の二人で見ててくれへんか」
そこへ宇宙依が付け加えた。もうすでに何か視えているようだった。
「どんなんか、街の感じ見てはるだけでええで。視えてる感じやと、土地勘ない二人にいきなり祓いを頼むわけにはいかんし」
「ほんなら、猪野神のは、由良姫のクラスの女子たちと東高やな。あそこには有名なダンスチームがあってな。毎年、大きな街でお盆の頃開催される祭りがある。ダンスバトルも兼ねとるんよ」
「それがなんで俺たちの役目になるんだ?」
大那が面倒臭そうに食ってかかった。
「そうやろなあ。まあ、ちょっと聞いて。由良姫のクラスの女子グループが、東高のダンス部の祭りチームへ参加する筋が視えとるんやけど、このチーム絡みでちょっとヤバいことが起きていくんや。せやから猪野神の二人には参加してもらって内情を探ってもらおう思うてんねや」
宇宙依の静かにポツポツ話す言葉には、不思議な重さがあった。大那ですら、その前では口ごたえ一つしなかった。
万里依は全員を見渡すと、締めにかかった。
「これで決まりやな。各自の役割分担、しっかり頼むで。毎日集まるんは大変やから、なんか重大事が起きたら、また集まろか」
長い話が終わるのを見計らって、万里依と宇宙依の母が、皆が集まる座敷へ晩ご飯を運んできた。みんな手分けして運びながら、ワイワイ何気ない話をしていた。
そこへ、音無しで、小さな人影が寄ってきた。
宇羅彦が真っ先に反応する。大那へ伝わる。由良姫が強張る。凛華もお盆を落としそうになる。
初音と虎雅が挨拶をする、その声は上ずっていた。
「よう来んさった。口さがないのは感心せん。ここは田舎やで、塩梅よう頼むで。ええな」
それだけ言うと、本家の主人は家の奥へ消えていった。




