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御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第二章 夏の盛りは

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第一話 鹿野神と猪野神

 夏休みになった。

  

 西から鹿野神(かのがみ)の二人、初音と凛華、従姉妹同士。

 東から猪野神(いのがみ)の二人、大那(だいな)と虎雅(たいが)、又従兄弟同士。


 こちらへやってくることになった。それぞれに芥見の家に分かれて世話になるらしい。


 鹿野神の二人を迎えに大きな街のターミナル駅へ行った際のこと。


 由良姫は駅裏の予備校街近辺で、水泳部の三年女子を見かけた。シャワー室での祓いの際に見かけた顔だった。

 一応進学校なので、予備校へ通っているのは不思議ではない。しかし、彼女は予備校へ行くにしては、少々派手めな格好をしていた。


 前々からその女子生徒を、イジメの対象にしていたグループがあった。

 その中の二人が、瀬名をシャワー室へ呼び出した人物だった。そして今、そのグループの一人が、駅裏で年配の男と並んで立っていた。


「美由紀! こっちこっち!」


 水泳部の三年女子は美由紀と呼ばれていた。年配の男と待っていた女子は、美由紀を紹介すると、美由紀と男が駅の雑踏へ紛れていくのを見送った。

 するとそこへ、サラリーマン風のスーツを着た、こざっぱりした男性が来た。先に美由紀を見送った女子も、またその男性と消えていった。


 そこは、東の首都に比べれば、その半分もあるかどうかの大きさの、地方の中核都市だった。その都市の玄関口であるターミナルは街の表の顔だった。

 この街にはもう一つ、街一番で、全国でも有数の繁華街があった。


 迎えの車用の場所へ車を寄せて、由良姫と宇羅彦は鹿野神の二人との待ち合わせ場所へ向かった。

 そこは駅裏、新幹線口の目の前で、壁画前と言われていた。大きな壁画と大きなデジタル時計が目印の場所だ。


「ぎょうさん人がいすぎて、わからへんちゃうん」


「ほんまやな、新幹線の改札見とらなあかん」


 そんな中、宇羅彦がまったく別方向を、チラッと指差した。


「あ、水泳部の女子? さっき車の中から、予備校から歩いてくるの見た」


 その間に改札から出てきた凛華(りんか)が、一瞬だけ目の前を行き過ぎた男の背中をジッと見た。


「……あの人、汗やない臭いするわ」


 「え?」と、一緒に改札を出てきた初音が振り返った。


「なんでもない。エビせん買うてくるんやろ?」


 初音は売店を指差し、凛華へ手を振ると、足早に向かっていった。


 鹿野神の二人を待ちながら、宇羅彦が指差した方を見た由良姫が言った。


「何?ウーちゃん、お父さんちゃうの?」


「ちゃうて、パパ活やろ」


「え、マジ?」


「男の手、なんやゴツい指輪しとった。あんなカバン持ってへんて、ほんまの父親やったら」


 水泳部OBの瀬名の件で知った三年の女子部員。

 イジメのグループは小さくなっていた。目の前をパパ活らしい人物と歩いていった。

 そっちに気を取られて、鹿野神の二人が新幹線口から降りてくるのを二人は見落としてしまった。


「ちょっと……すみません」


 由良姫が振り返ると、クセ毛で明るい髪のポニーテールの女の子がハイタッチしてきた。


「やっぱり、由良姫や! 久しぶりやん! このクソあっついのに、相変わらずやなあ」


 少し口が悪い、鹿野神の凛華だった。


「初音は? 一緒ちゃうん?」


 宇羅彦が指差した方を見ると、売店で何やら買い物をしていた。


「あの、名物のエビせん買うてはるわ。めっちゃ好きやねん」


 しばらくすると、前髪を巻いた、白い肌の明るい髪の女の子が目にとまった。大きなトランクと、大きな海老茶色の紙袋を持って向かってきた。


「ごめんねぇ! もうずっとコレ食べたかってん!」


 初音は山のようにエビせんを買ってきた。初音は笑っていたが、視線だけは駅裏の方へ流れていた。


「この街も、焦げついとるみたいやなあ」


「え? なに?」


「ううん、なんでもあらへん。眴さん、元気?」


「車で待っとる」


 宇羅彦はトランクを持ってやり、初音の後からついていった。由良姫が、凛華のトランクを引っ張りながら聞いた。


「こっちとそっちと比べてどお?」


「どおって、来たばっかやし。わからへんわ」


「そういえば、そうやんなあ。だって、西の首都になったんやろ。だいぶ、変わったかなあって」


「ふうん。まあ、ゆっくり話すわ」


 凛華はニッと笑うと、由良姫の隣に並んで歩いた。


 二人は車に到着すると、後ろのラゲッジにトランクや荷物を積み込んだ。


「眴さん、久しぶり。コレ、お母さんから預かってきた」


「ああもう、いいって言ったんですけど。相変わらず、唱(となえ)さんは律儀ですね」


 初音が封筒を渡したのを見て、凛華も同じように眴へ封筒を渡した。母の言葉(ことは)からの手紙と心付(こころづけ)が入っていた。


「眴さん、とうとう車が大きゅうなったねえ」


 助手席に体の大きい宇羅彦が乗り込む。狐のケンが由良姫の足元に寝そべると、後部座席に初音と凛華が乗り込んだ。


「これで猪野神のが来はったら、パンパンやん。どないすんねん」


「芥見の万里依さんが車出してくれますから、大丈夫ですよ」


「猪野神のは、明日来はるん?」


「そうですね。とりあえず、今日は特に何もないので、向こうへ着いたらゆっくりして下さい」


「眴さんの手料理が食べれるだけで、来た甲斐があるわあ」


「何も特別なもの作ってませんよ」


「スパイスカレー、眴さん特製の!!」


 翌日、猪野神の二人がやってきた。


 迎えに行ったのは、昨日と同じ大きな街のターミナル駅だった。

 駅裏では、また水泳部の三年女子が年配の男と待ち合わせていた。昨日とは別の男だった。友達らしい女子とも一緒だった。


 しかし、一瞬目を離した隙に、男性と女子二人は雑踏へ吸い込まれていた。

 

 よく見渡すと、他にも二組くらい、同じような年配の男性と女子高生くらいの子とが連れ立って歩いていた。この場所はそっちの方でも、有名な待ち合わせ場所だった。


 虎雅(たいが)が無言で視線を細めた。


「ああいうの、増えとるな」


 大那(だいな)が興味なさそうに吐き捨てる。


「何が? まあどんだけ食ってもいいじゃん。腐らなけりゃ」


 虎雅が苦笑いしながら相槌を打つ。


「澱みとでもいうのかな。街が濁って見えるよ」


「そりゃあ、しゃあない。金で縛るヤツは、だいたい腐り方が似る」


 大那の物言いは雑だが、一目で本質を突いていた。


「あれ、由良姫じゃねえ?」


 すると急に横から声をかけられ、由良姫は飛び上がるほどビックリした。宇羅彦かと思うくらいのガタイの良い男子が、二人も立っていた。


「由良姫、久しぶり、全然変わってないなあ」


「相変わらずの黒髪ロン毛でお姫様カットじゃん。暑くない?」


「何か悪いん?」


「悪くない、悪くない! 着いた早々、突っかかるなよ」


「言うてんの、そっちやし。ていうか、いきなりデカなってへん?」


 猪野神の二人がやって来た。

 ついこの間まで十センチも違わなかったのに、いきなり宇羅彦並みに大きくなっている。

 さらに言えば、大那(だいな)が茶パツに腰パンになっていた。


「コイツ、さあ。いきなりチャラくなってて。初め、誰かと思ったよ」


「ほんまや。ど田舎にどヤンキー。目立つで、クソババアが何言うか知らんで」


「芥見の妖怪ババアか。まだ生きてんのかあ。まあカンケーねえし」


 大那と虎雅は、東の首都の大きなターミナル駅で待ち合わせて、一緒に高速列車で来ることにしたという。そこで待っている時、お互い遅いなと思ったら、すぐ側にいても気がつかなかったらしい。


 虎雅(たいが)は相変わらずのツーブロックでも、フワッとパーマがかかったやわらかイケメン風。

 大那はメッシュの茶髪でウルフカットでチャラさ全開。

 デカいのが三人集まって、それぞれが全員違う風貌というのも、なんだか笑える。


「眴ちゃん、車で待ってるから。行こっ!」


 由良姫が虎雅の腕を引っ張るのを、見つめる眼差しがあった。由良姫と同じクラスの、ちょっと派手めな女子グループの子たちだった。


 どうやらグループで大きな街の方まで遊びに来たようだった。彼女たちは前々から、宇羅彦のことを気にしている風だった。


 今度は首都から来たイケメン二人と一緒にいるところを見られた。連れ立ってチラチラとこちらを見ながらコンコースを抜けていった。

 由良姫は夏休み中に厄介なことにならないといいけど、と思っていた。


 ただ助かったのは、猪野神の二人は芥見本家の方で寝泊まりするようで、由良姫の家の方は鹿野神の二人が来ていた。


 夜には、顔合わせで皆、芥見本家へ集まることになっていた。


 そこへ早速、家電にクラスの女子からかかってきた。


「めんどくさいから、ウーちゃん出て」


 宇羅彦がつっけんどんに出ると、二言三言喋って電話は切れた。


「何って?」


「虎雅(たいが)たちのことやった。あいつら、車に荷物乗せて一緒に行くの見てたみたいや。メンドーやなあ」


「いっそのこと、会わせてやったらええやん。おもしろそうやし」


 凛華が、普段由良姫たちには見えていない面が、クラスの中から見えてくるかもしれないと言った。

 そのとき由良姫は、駅裏で見た派手な背中を思い出していた。


 夏は、濁りを光に紛れさせる。


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