23. 来なかった人にも届ける
会の翌朝、集会所の前を通ると、戸には次の集まりの紙が貼ってあった。
リコは足を緩めた。昨日の看板を外した跡が、木の上に細く残っている。入口で名札を書いていた場所には椅子が二脚寄せられ、床は乾いていた。自分たちの会があったことを確かめるものは、それだけでも足りた。
現地の受付で、ピッパは返却の控えを机へ並べていた。すもも色のベストの前を留め、帰りの通常便に載せる鞄を足元へ置いている。
「食器は全部、戻りました。借りた鍋も受領済み。残った紙皿は、主催の保管分へ」
リコは自分が持ち帰った札を出した。会の進行に使った紙で、表には挨拶が二行しかない。ピッパは白いところを見て、これはあなたの分です、と戻した。
「名札は、ほとんど皆さん持ち帰ったね」
「忘れた分は集会所で預かります。今週の利用日に、本人へ渡せるようにしました」
そこで昨日の控えは閉じられた。
窓口の担当者が、リコへ別の薄い封筒を出した。旧仕分け堂の管理主任から、通常の業務便で届いたものだった。引取りを望まなかった人への処理結果と、まだ確認を続ける品の一覧が、別々に封じてある。
リコは届け先と預かる通数を読み合わせた。ピッパも帰り支度を一度止めたが、口は挟まなかった。机の端でボンゴが畳んだ見本の紐を締めている。
「その大きさなら、帰りも席は余る?」
リコが尋ねると、職人は包みを持ち上げた。
「貨物で預ける。乗客の膝へ晴れ舞台を載せるわけにはいかない」
彼は名札を外し、作業つなぎのポケットへしまった。二人は午前の便へ向かう。リコとナギは今日と明日、コムギ棚の返答を受け持つことになっていた。
銅色の襟留めの女性には、仮受付で会った。
約束の時刻に来た彼女は、手袋を外して椅子へ座った。外套の裾が脚に掛からないよう、一度だけ払う。リコは向かいへ座り、本人の返答に対応する封筒を渡した。
「管理担当からの回答です。ご希望の、完了のお知らせが来ました」
女性は受領の欄へ印を付けてから封を開いた。リコは自分の配達控えを机の手前へ引いた。相手の紙がこちらへ開かれても、読み込む用事はなかった。
女性は最後まで読み、折り目をつけずに机へ置いた。
「これで、この件については、もう同じ返事を出さなくていいのね」
「はい。今日のお知らせで、今回ご依頼の扱いは完了です。受付の記録にも合わせます」
古い預かり書に残っていた別印の継承が、所管の照会で確かめられた。本人の希望する廃棄の扱いが認められ、薄青の包み一品について、担当者が定めた区分で処理を終えた。回答には実施した日と方法が記録されていた。リコはその結果を運んだのであって、処理の現場にはいなかった。女性が持ち帰るのも古い品ではなく、この一枚だった。
「別の担当になっても、また同じ問いが来ることはないのね。それが気になっていたから」
彼女は襟留めを指で直した。
「同じ話を何度も聞くと、自分の言い方が足りなかったのかと思ってしまう」
リコは受付の控えを示した。今回の返答を受けた日と、この回答を渡した日がある。
「次の担当にも、ここが渡ります」
女性はその行を見た。気持ちの続きを尋ねられると思ったのか、少し待ったが、リコは鉛筆を机へ置いていた。
「じゃあ、いいわ」
紙を外套の内側へ入れ、手袋を着ける。立ち上がる前に、昨日はにぎやかだったみたいねと言った。
「集会所で、食事をしました」
「前の通りを通ったの。笑い声が聞こえた」
リコは頷いた。箱の実演や焼きリンゴの話を続けることもできたが、女性はすでに鞄を持っていた。
「返事、ありがとう」
「お預かりしました」
戸が閉じてから、リコは受領の欄を確認した。鞄には持ち帰る品が一つも増えなかった。
昼前、ナギが時計の受領控えを持って戻った。
数十年前の成人祝いの置時計は、昨日の午前、予定どおり地元の運搬担当から本人へ渡されていた。支えも一緒に収まり、外装に搬送中の変化はなかったと記録されている。
「家の棚に置けたって」
ナギは短く言った。
「見に行かなくても、よかった?」
「本人が、受領の確認だけでいいって」
リコは頷き、変更後の予定を閉じた。最初の時刻には届かなかった。変更を知らせ、本人が選んだ朝に届いた。その二つの日付は、どちらも消さずに残した。
窓の外を見ていたナギが、あ、と声を出した。灰色の外套の男性が受付の前を通りかかり、こちらへ気づいていた。革の手袋を着けたまま、指を少し上げる。
「ちょうどよかった。お礼だけ」
時計の客は戸を開け、入口に立った。
「台が少し広いかと思ったけど、置いたらあの幅でよかった。棚の端へ寄りすぎない」
ナギは椅子から立った。客はそのままでよいと手を振る。
「今、家では別の時計が鳴ってる。古い方は静かなまま。それで、落ち着いたよ」
「ぐらつきは」
「なかった。もし変わったら、書いてある先へ聞く」
男性はそれだけ言って、通りへ戻った。今日は買物の途中らしく、空の袋を片手に持っている。ナギは閉まった戸を少し見てから、机へ戻った。
「よかった?」
リコがもう一度尋ねると、彼は今度は頷いた。
「あの幅で」
リコは笑わずに、控えの端をそろえた。
*
翌日も、二人は同じ受付へ出た。
灯台で足止めされた荷の受領確認は、前日までに届いた分を先に閉じた。返答を待つ品は別の束にして、窓口の担当へ渡す。受取時刻の変更が、古い保管の年数の中へ紛れないよう、今回の運搬の控えを一番上に置いた。
前日の女性の控えには、古い番号と新しい番号の両方が付いていた。最初に旧堂で返答を受けた時、古い番号の方に次の照会用封筒が残っていた。リコが出す前に気づいたものだ。今日は窓口の担当と二つの一覧を開き、どちらにも同じ完了の知らせが結びついていることを見た。
「新しい担当が、古い台帳から調べ始めることもあるので」
担当者は片方を閉じる前に、相手の番号を読み上げた。リコも自分の控えを読む。一度戻った返事は、次の机にも残った。
その後、来客のない間に昼食を取った。一昨日の焼きリンゴを期待する癖が、まだ抜けなかった。今日の包みは、厚く切ったパンと冷たい根菜だった。リコが黙って蓋を見ていると、ナギが自分の水筒を出した。
「温かいのは、こっち」
「贅沢を覚えてしまった」
「一昨日は、君も運んだ」
「そうなんだけど」
彼も根菜をかじり、少し塩が欲しいと言った。二人で一袋の塩を分けた。食事会の続きをするつもりでいなければ、これも悪くなかった。
その朝に届いた業務便には、中継港からの短い点検結果もあった。灯台の使える区間を限った運用は続いていて、決めた再確認を現地で行ったという。直せていない箇所と、次の確認を受け持つ人の欄は残っていた。
ナギは紙の端へ指を置いたまま読んだ。予備灯の配置の説明を直した箇所に、短髪の副担当が加えた印があった。
「ここ、僕がいる時には言葉で伝えてたところだ」
「書いてくれたの?」
「うん。次に立つ人にも分かるように」
彼は返す必要のある問いだけを別紙へ移した。今から船で戻るとは言わなかった。リコはその横で、旧仕分け堂へ持っていく確認の束をまとめた。
午後、窓口へ一人の成人が来た。前に出した照会へまだ答えが来ていない、という。
リコは名前を確認し、担当者に保管の控えを出してもらった。対象の品は、引取りを断った女性のものとは別だった。今の連絡先は分かったが、誰が扱いを決められるか、確認が揃っていない。
「昨日、終わった人もいると聞いたので。こちらも終わったのかと思って」
「こちらは、確認が続いています」
担当者が答えた。リコは次の連絡予定の紙を渡した。会の日付ではなく、今回延ばした保管期間の見直しに合わせた予定だった。窓口から返答が出る場合と、まだ出ない場合の両方について、知らせる先を確かめる。
「待っていればいいの?」
「前にいただいた資料について、同じものを出し直す必要はありません。追加で必要なものが出たら、この窓口からお知らせします」
相手は紙を読む。すぐ終わる返答を期待していたらしく、口元は緩まなかった。
「分かりました。忘れないでください」
リコは受領した連絡先をもう一度声に出した。早く朗報を、と約束する代わりに、次の連絡を受け持つ担当を示した。
客が去ると、机の上には返事を出せたものと、出せなかったものが残った。リコはどちらも束へ戻した。
イリスの店へ送る知らせも、同じ午後に用意した。
祝い衣装の箱の外底にあった取扱札は、前に送った外観の写しと結びついている。ただし、古い服をどう広げてよいかは、所管の保存担当の確認が続いていた。リコはイリスが受け取れる連絡の範囲を確かめ、次の見直しにも状況を返すという担当窓口の文を添えた。
葡萄色の髪に光るショールを掛けた店主の姿を思い出すと、長い旅の前の町が一度近くなった。あの店では今日も、袖や裾を直しているのだろう。リコは余白に、食事会が済んだことを自分の言葉で一行だけ書いた。衣装の持主の事情はそこへ足さなかった。
封をした手紙は、通常便の窓口へ渡した。
戻ってくると、ナギは明朝の出航票を持っていた。旧仕分け堂へ戻る区間の天候と、港の充填の予定が記されている。今日はここで泊まり、明日、記録を持って飛ぶ。
「鞄、軽くなった?」
ナギが聞いた。
リコは肩紐を掛け直した。返した紙の分、少し薄くなっている。
「うん。でも、空っぽにはならなかった」
彼は自分の道具袋を上げた。こちらは、出発した時とほとんど同じ重さだった。
リコは受付の机から残った鉛筆を取り、担当者へ戻した。明日使う人の手が届くところへ、転がらない向きで置いた。




