9.ポイント交換
「ふう」
ミノリは、案内された部屋の椅子に座り、おおききく息をついた。これで今日は屋根のあるところで寝ることができる。
部屋はきれいに掃除してあり、窓に掛ったカーテンは半分閉めてある。
この部屋は3階、独特の形をした帽子を被った少年に案内されて、飾り細工がある手すりが付いた階段を上り、ドアの前で鍵を渡された。
その鍵でドアを開き、室内にはいる。左右の壁に沿ってベッドがふたつ、間に布を垂らしたパーティションが形ばかり置いてある。窓の傍に丸テーブルと椅子がふたつ、カップがふたつ。
こちらのお部屋ですが、よろしいですか? と言われ、ええ、ありがとうと答える。
すぐにお茶をお持ちします、と案内の少年が一礼してドアを閉めた。
マサノリがベッドをチェックして、藁マットみたいだけど、シーツは清潔だよ、と言いながらミノリの向かいに座った。すぐにノックがあって、先ほどの少年がお茶を入れたポットを持ってきた。マサノリがここにきてもう3度目になるチップを渡す。少年に銀貨は多すぎるのだろうが、それしか持ち合わせがない。
少年は嬉しそうな顔を見せて出ていくと、盆にお菓子を載せてもう一度入ってきた。
「どうぞごゆっくり。御用がありましたら、お声掛けください」
ふたりは、それぞれのカップにお茶を注いで口をつけた。
「中畑さん、ごめんね、本当はシングルふたつがいいんだけど」
「うん、なんか言い出せない雰囲気だったもん」
「だよねー、ベッドはひとつでよろしいですか、とか、何考えてんだか」
「いえ、夫婦じゃありません、っていったら、あ、ご兄妹でしたか、とか言われちゃって」
という次第でツインルームだ、どうしたらいいんだろう?
「はあー」
ふたりは黙ってお茶を飲む。
この街には、誰も聞いたことのないニパーンとかいうところから、6人もの変わった服装をした人が旅の荷物も持たずにやってきた。
ふたりは知らないが、すみやかに街門から役所に知らせが届き、どうやら転移魔法の暴走に巻き込まれたらしい、素性のはっきりしない者が6人街に入り込んでいる、と報告が行っている。
ここがまっとうな統治をおこなう都市であれば、宿泊できる場所にはすでに緊急のお達しが出ている。折り返し宿泊施設から役所に報告をあげなくてはならない。用心深く対応されるのはやむを得ないことだ。
やがて王都からの連絡と状況の問い合わせが入るだろう。王都にはもっとたくさんの異人がいきなり噴水広場に現れた。
どういう扱いになっているのか心配だが、王都中央広場噴水前にはリーダータイプのバルカンが行った。おそらく孔明もいるだろう。そう大きなミスは犯さない。
ニパーンでの魔法暴走による多人数転移、バルカンも似たような説明を絞り出してくれていればいいのだが。
ミノリがお茶を置いて話しかける。
「野中さん、費用を負担してもらっていますよね、半分払いますので」
マサノリもお茶を置く。 なかなか大変な事態なのだが、転移特典の精神耐性が仕事をしているのだろう、平常心を保てている。
「あ、そうそう。それなんだけど、ちょっとこちらの事情を話していい?」
「はい、何か問題あります? ポイント全部交換してしまいました?」
「あ、まあ、そういうようなことなんだけど」
「あのさ、中畑さんはポイント交換で何を選んだ?」
「え? えっと、安全第一で、まずマジックバッグです。次元収納ってなってました」
「あー、なるほど、いいね。ごめん、突っ込んだことを聞いて悪いけど、もらったポイントっていくつだった?」
マサノリは、目の前の空間で手を動かしている。
「あの、野中さん、何を見てるんですか?」
「うん、これがほぼ全ポイントを振ってしまった理由なんだよ、おかげで金欠になったけど」
「はい?」
「これね、本当に見つけにくいところにあったんだよ。他にも見つけた人がいるかなぁ」
「えーっと?」
「ポイント・ボード・アクセス権」
「え?」
「ほら、転移特典を選ぶボードがあったじゃない、あれにいつでもアクセスできる権利なんだ」
「ええー、そんなのあったんですか!」
「うん、いやもう、これしかないと思ったんだけど。これが930ポイントだったんだよ。もらったポイントが1,000だったから、ほんとうにぎりぎり」
「うわー、よく取りましたね。あ、私も1,000でした」
「そうなんだね、で、これのおかげで王都噴水広場には行けなくて、マズーラ街門前ってわけ」
マサノリの説明によれば、ボードの項目全体をざっと見ていると、1,000ポイントしか与えられていないのに、2,500ポイントとか、5.000,6,000というポイントを要求するアイテムもあったらしい。
目の前にボードを拡げながら読み上げたのは、黒の双剣、5,300ポイント、ミスリル織の賢者のマント、12,000ポイント。
「でさ、ずいぶん高いポイントをもらった人もいるんだな、と思ったんだけど」
「そうですよね、ポイントって人によって違うのかな?」
「うん、そう思ったんだよ。それで、1,000ポイントでもらえる一番高いやつを探してみたんだよね」
「なるほどー、よく思いつきましたねぇ」
1,000ポイント以上のものは、字が薄くなっていた。だから、ミノリは濃い字しか読まずに選択した。最初に次元収納を取ったら500ポイント以上は薄くなってしまったので、後は500ポイント以下しか見なかった。時間が限られていると思うと、余裕がなくなる。
マサノリは、違う考え方をした。1,000ポイントで交換できる最も高いものは何か、全額使うと転移場所がランダムになりそうだから、できれば王都広場に行ける100ポイントは残しておきたい、と。
そして、900という表示を集中して探し、ポイント・ボード・アクセス権を見つけた。タップして説明を読めば、転移後もボードにアクセスでき、金貨をポイントに交換してボード内の転移特典を得ることができる、という表示が出た。
「サイコーじゃないですか、よく見つけましたね!」
「うん、ありがとう」
王都中央広場噴水前への転移者は、最初に飛んだバルカンが上手に仕切りました
転移してきた人たちが分散しないように注意し、警備兵や役人に対応
全員まとめて兵舎で寝泊まりできるように交渉したのでした、やるね!
この経緯は別の編で詳しく語られます




