8.お茶の広場
「ああー、疲れた、疲れましたね」
「うーん、なんかすごいことになったねえ」
ミノリとマサノリは、街門からまっすぐ伸びる大通りを歩いて長方形の大きな広場に出た。
ふたりとも、正直言ってどうしたらいいのかわからないでいる。
広場には、ポールに白いロープを渡して囲い、丸テーブルと椅子をセットしてある店が3か所ある。各50席ほどだろうか。テーブルの間を、トレイを持った背の高いおにいさんが何人か歩き回っている。
テラス席がある店舗というより、石畳の広場に椅子とテーブルを並べているだけのオープンテラスで、飲み物とナッツや焼き菓子を準備するテントが立っている。きっと夜には撤去するのだろう、簡単なものだ。
人の流れを邪魔しない場所に立ち止まり、しばらく様子を見る。やがて何となく仕組みがわかってきた。他の人のまねをしてさりげなく近寄ると、背の高いおにいさんが目ざとく近寄ってきた。見様見真似で銀貨を一枚差し出す。
おにいさんは無料のスマイルをサービスしながら、ふたりをテーブルに案内し、ミノリのために椅子を引いてくれた。ミノリは人に椅子を引かれるなんて物語でしか知らなくて、ちょっとオドッとしてしまう。
「大丈夫だよ、中畑さん。多分この広場の店は競合してて、こういうサービスでも競ってるんだよ」
「あ、そうなんですか?」
「うん、たぶん。きっとここはこの町のおしゃれなスポットとか、観光客向けの場所かなんかなんだよ、ほら、ゴミ一つ落ちてないだろ? 広場を囲んでホテルっぽい建物もあるし、ほら、あそこの建物の二階には広いテラスがある。広報とか公示とかがあったら、人を集めてあそこから大声で読んだりするんじゃないかな。あと貴族や王族が顔見世したりとか?」
「う、うん、そうかも、あ、宗教関係者が挨拶したりとか? TVでクリスマスとかにやる?」
「あー、あるかもねぇ、祝祭の時に祝福を授けたりするやつね、うんうん」
ふたりがテキトーなことを言っているうちに、ハンサムなおにいさんが右手に持ったトレイを肩の位置に持ち上げ、飲み物を運んできた。小声でお勘定を要求する。
マサノリが銀貨を渡したが、おつりはお兄さんのものになるようだった。
「ふたり分で入街税と同じだね。入街税が安いのかお茶代が高いのか、うーん」
「だよねー、そのうち事情も分かるよ、ゆっくり馴染んでいこう?」
「うん」
この飲み物は何だろう? コーヒーでもないし、紅茶でもなく、あまり飲んだことはないけど、ハーブティーのようなものなのかな、とか思いながらひと口飲む。飲み物で意外に肩から力が抜けるのを感じ、自分が凄く緊張していたんだなー、と気づく。
ふたりは、小声でこそこそと話す。
「あー、無事に街には入れたけど、この先どうしたらいいのかなぁ」
「そうだね、うーん、ホテル? あるのかな?」
「ですよね。泊まるところを見つけないと」
「様子がわからないから、少し高くても安全なところがいいよね」
「ですよね」
こんな広場の真ん中の人が多いところで細かい話をする訳にも行かず、結局マサノリが席に案内してくれたおにいさんにさりげなく近寄り、相変わらず銀貨を握らせながら中級くらいの宿を教えてもらった。費用の掛かるやり方だが、おにいさんはよく心得ていた。
こういう仕事をしているから、新しく街に来た人は見分けているのだろう。おそらく彼が案内した客が実際にその宿に泊まれば、宿から紹介料のようなものがもらえるのだろう。
「お名前を伺っても?」
マサノリはちょっとためらったが、門番が名を控えていることを思い出した。
「俺はマッサ・ノーラ、女性はミ・ノーラだ」
「ノーラ家のマッサさま、ミイさまですね、ご案内させます」
また名前がかわった!
おにいさんが指をクイッと曲げると、できるだけ小ぎれいにしてはいるがちょっと薄汚れた感じの少年が走ってきた。
「この子がご案内します。ついて行ってください」
と、ふたたびスマイルをサービスしてくれた。 何かが書かれた木札を少年に渡す。
ミノリとマサノリは、事情がわからないにしてはまあまあの対処法で、なんとか値段は高めではあるものの安全で清潔な宿に落ち着くことができたのだった。これは、マサノリが言い方は難しいが一種特殊な大学に所属していて、ガラス細工のヴェネチア、象嵌細工のトレドなどに行った人たちから、いろいろと“慣習の違い”を聞かされてきたおかげだった。
人生、何がいつ、どこで役に立つかわからない。
マズーラは、元は王都でしたが30年ほど前に王権が変わった時、王都も今の場所に変わりました
組織的に既得権を守る傾向が強く、それが王権変更の理由のひとつにもなったにもかかわらず、いまだに外から来たものは受け入れられにくい構造です




