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3.白い部屋!

 

 昼が近づく頃には、金曜日が祭日で3連休だったこともあり、百人には届かないものの80人か90人のプレイヤーが集まっていた。今日は凝ったコスが目立つ。

 顔なじみ同士で布やビーズが安く買えるサイトや、最近見たコスについて情報交換しているプレイヤーもいる。





 何かが強く光った。

 迷惑なフラッシュだと、反射的に目を閉じた。写真を撮りに来る人も結構いるので、何個かのフラッシュが同時に光ったのだろうというほどにしか思わなかったのだが。


 目を開くとそこは。

 ええーっと? 知る人ぞ知る(?) 白い部屋!


 ラノベで読む、白い部屋。

 地球と異世界を結ぶ中継地のようなもので、そこに送られた人は、おそらく肉体が行き先の環境に合うように改変されるのだろう。そして、生き延びられるように魔法、剣や盾、マジックアイテム、さらには食料や衣服のような生活用品をもらうこともある。


 異世界の神が「勇者として召喚されるから」と、特殊なアイテムを授けてくれたり、地球の神が「ごめんね、こちらのミスで死んじゃったんだ、異世界で楽しく生きてね」とか言いながらチートをてんこ盛りにしてくれたり、ボードが出てきて職業や魔法を選べたりする。



 この場にいるコスプレイヤーが、このシーンで慌てるはずもない。全員がおそらく、大喜びしている。転移後にはきっと帰りたくなるだろうが、今はあっという間にチョー・ハイになっているに違いなかった。


 話し声が聞こえてくる。

「異世界転移か」

「神が出てくるのかな」

「拝んだ方がいい?」

「そうそう、ここで傲慢に出ると、ろくなことがない」

「そうか、ありがとう、平伏しておく」

「まあ、そこまではしなくていいけど、暴言吐くなよ」

「了解した、サンキュ」

 などと大声で会話しているグループがあり、他の人たちも納得顔で聞いている。みんなそれなりに心得があるようだ。


 だが、神は顕現なされなかった。


 その代わりに、目の前に半透明のボードが出た。

 出たとたんに、「ステイタスを選べるバージョンだな。慎重にやるのだ。余裕を持った構成が望ましい」という大声が聞こえる。バルカン・コスの男だ。


 バルカンはみのりと同じく尖った耳カバーをかけて、エンタメプライズの制服を着ているわかりやすい男だ。このコスはお気に入りなのか、1,2回見ている。リクエストがあるのかもしれない。

 みのりはオリジナルのエンタメプライズを知らない世代だから、最初は制服を着たエルフだと思っていた。新シリーズができていることはモブコス仲間から教わって、DVDで確認した。確かによくできている。


 バルカン・コスが前髪ぱっつんなのは、今日のためだけのスペシャル・カットだと思いたい。


 その相棒が、中国宮廷風ウエアを着て両手で羽扇うせんを持ち、顔の前に玉すだれを掛けるという思い切った作りの諸葛孔明で、ふたりで「本日は参謀揃えにて」とか盛り上がっていた。

 孔明コスはゲームキャラで、麗しさの再現度は高い。中にキモノ風の上下を着て、その上からシースルーのシャンプレーがたっぷり使われたふわふわウエア。キラッキラだ。

 うーん、玉すだれ付きの被り物はギャグ? 顔の前に顎の位置くらいまで7,8本、長く垂れ下がっている。どこから引っ張ってきたんだろう? 羽扇はコス仲間の頭を張るためのものじゃないと思うのだが、ま、いいか。


 バルカンが表情を消して音節を区切った話し方をし、孔明が口の前に羽扇を当てて小さな声で話す演技を採用していて、ふたりは広場でも目立つ存在だった。ここでも周囲に人が集まっている。


「勇者、聖女は選択しないことを勧める、使い潰される可能性が高い」

 これはバルカンだ。まだコス喋りをしているが、もういいのでは?

「先に全体を見よ。然る後にポイントの割り振りを考えよ」

 こちらは孔明さまのようだ。

 なんだか笑えて、全員の肩の力がふっと抜けた。


 みのりだってモブといえどもコスファンでライトノベルの愛読者だ。こんなシチュになったらこんなのがいいよね、と妄想して楽しんできた。

 いくつかのセットを思い浮かべるが、もしこれが現実なのなら、“いのちだいじに”一択だ。

 モブコスらしい選択だ、とみのりは思う。


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