21.ネジ蓋のポーション瓶
ガラス工房の掃除や整備が終わって使えるようになったので、4人はマッサの仕事を見に来ていた。
ノーラは歯科技工士になる訓練中で、サキ、マリ、アッキーは服飾デザイン・スクールの学生だった。クリエーター・マインドが5人の共通した性質だから、ガラスの制作にも興味を引かれたのだった。
「いろいろやり方はあるんだけど、まだ練習中だから」
と言いながら、マッサはコップの形を中抜きした石膏型に、溶かしたガラスを流し込む作業を見せた。そして、すぐに取り出すと割れちゃうから、冷やすのに時間をかけるんだよ、と言いながら完成したガラスコップを渡した。
「うわー、これ貰っていい?」
マリは大喜びだ。日常使いのコップは木製か、せいぜい素焼きなのだ。マリは、水はグラスで飲みたいと思っていた。
「いいけど、出来はイマイチだよ」
「ううん、すごくハッピー!」
本当に大喜びしている。
ああ、そうか、ここには食器をガラスで作るという発想がまだないのかもしれない、マッサは商売の可能性に気が付いた。だがこの程度のことはすぐに他のガラス工房でもやるようになる。芸術作品を作り、貴族に売り込むようになるまでに年月がかかりすぎるだろう。マッサは、今すぐにでも稼ぎ始めなくてはならないのだ。
「お礼だよ」と言いながら、作っておいたガラスコップとガラスの皿をひとりずつに渡した。「厚手にしか作れなくて悪いけど」。
うーん、と考え込んでいたサキが、ちょっと難しい顔をして言い出した。
「ねえ、マッサ、ポーションの瓶を作ってくれないかな」
「うん? そりゃできるけど、ノーラがポイント交換のポーションを売ってるだろ? 最初から瓶に入ってるから、いらないんじゃないの」
「うん、そうなんだけど」
ポイント交換のポーションは、傷を治すヒール・ポーションで0.1ポイント、銀貨1枚だ。薬師ギルドに持っていけば10本で金貨1.5枚、10本あたり銀貨5枚、およそ5,000円の利益が出る。濡れ手に粟とはこのこと。石化解除ポーションと解毒ポーションはもっと利益率が高い。
この差額稼ぎとポイント・ボードの交換手数料でガラス工房を買い、組合の権利金を払ったのだった。
「飲みにくいのよね、ポーション瓶。コーヒー牛乳の瓶みたいになんないかしら」
ポーション瓶はギルドに入っているガラス工房が独占制作していて、理科の授業で使うフラスコのような形でコルクで栓がしてある。
これが恐ろしく使いにくい代物なのだそうだ。戦闘中に怪我をしたのを見て、ポーションを掛けてやろうと思っても、コルク栓をナイフで抜くのに焦って切り落とすし、口が狭いからトポトポトポとしか出なくて、一気にかけられない。
形も持ち歩くのに適してなくて、コルク抜きがないから栓が抜きにくい。一回栓を抜いたら半分で足りる時でも全部使うことになる、コルク栓は一度抜いたら抜けやすくなるから持ち歩けない、等々(などなど)、不満はたくさんあるようだ。
「ああ、なるほど、そう言えばそうかも」
マリとアッキーが頷く。
突進型剣士アッキーと暴走系魔法使いマリを補助するサキは、テントから傷薬までマジックバッグに入れて迷宮に入る。たしかにポーションを頭からぶっかけられたこともあった。サキはヒールも使えるのだが、できれば魔力は温存しておきたい。フォッシャーズが使うポーションはノーラが手作りで準備してくれているから、薬師ギルドや薬師の店で買う冒険者と比べて贅沢に使うことができ、その分長く潜れて稼げている。
石化しかけた時には石化解除の魔法は持っていないサキにとって、石化解除ポーションは唯一の手段でさえある。戦線が持ちこたえているうちに素早く解除しなくてはならず、焦る気持ちでコルクを切り飛ばしてしまうこともある。
「ポーションはどれもコルク栓だよね、あれさ、ネジ蓋になんない? 瓶が牛乳瓶みたいな形で、蓋がジャムの蓋みたいに、ちょっと捩じると開くようになんないかな。ネジ蓋なら使いかけをポシェットに入れておいても蓋が外れなくて安心だよ、ね、どうかな」
うーん、とマッサは考えた。ネジ蓋自体はさほど難しくない。ガラス瓶口は、鋳型をネジ山にすれば済む。蓋のほうはまずプレス型で円形の金属を押して形を作り、もうひとつのプレス型でネジ山に引っかかる爪を押し込んで作る。ガラスも鉄も再生して扱えるマッサにとってさほどの難題ではない。
だが、液体を漏らさないためにはシリコンのパッキンが必要なのだ。蓋の裏に貼ってある、白い輪っかだ。ゴムでもいいが劣化が早い。サキがマジックバッグを持っているのだから、瓶は繰り返し使えるようにしたい。
「わかった、やってみる。シリコンは化学製品でここでは作れない。パッキンになる他の素材を探してみる」
2週間ほどして、マッサはネジ蓋式牛乳瓶とでも言えるものを持って帰って来た。
「サキ、試してみてくれる?」
それはサキのリクエスト通りの、牛乳瓶の形、蓋はすこし捻れば開く。ちょうどジャム瓶のように作ってあった。液体漏れ防止のパッキンも貼ってあり、残ったポーションも保管できるスグレモノだ。おまけの工夫もついていて、ちょうど瓶の高さの真ん中あたりに赤いガラスでぐるりと線が入れてある。この線の僅かな膨らみがあれば、手が滑っても瓶を取り落しにくいのではないかと考えたのだった。
「この瓶、200ccなんだよ。赤い線の所で100cc」
「うわー、ありがとう!」
200ccとわかっていれば、あと何本飲めるかわかるだろう。これもマッサのちいさな気配りだ。
この瓶は非常に使いやすく、冒険者が欲しがった。だが、薬師ギルドと揉めたくないので、ポーションを入れて売ることはできない。
5人は話し合った末、特に用途は言わずに瓶だけを売ることにした。ギルドで買ったポーションを自分でこの瓶に移し替えて持っていくなら問題はない。密閉できるので、品質低下も防げるし、2,3本この瓶を持っていって、使う度に移し替えるという手もある。
瓶はフォッシャーズの紹介を受けた人だけに、家で細々と売った。
だが、これはすぐに人気が出るだろう。利権が絡んで手に負えなくなる前にと、カーンに助けを求めた。




