18.バルカンがやってきた
名前のこともちょっとこだわりが過ぎたかもしれませんが
異世界に突然飛ばされたとして、召喚ではない場合、後見してくれる王侯貴族がいないわけだから相当苦労するかな~、という感じで作りこんでいます
昔、日本女性がインド北部とか、バリ島とかにひとりで旅行するのが流行ったことがあったらしいんです。だいぶん上の世代なんだけど
その頃の話を聞くチャンスがあって、旅行者でいる間はこんな感じで、住みつこうとしたらこんな感じだったよ、という話を参考にしています。
名前を正確に呼んでもらえなかったというのも、ここからです。
もっとも苦労したのは宗教上の“カースト”で、日本女性はカースト外になるので、そこがスゲー無茶振りだったとのこと
もうひとつ、明治政府が政策として招いた、お雇い外国人(「少年よ大志を抱け」で有名なウイリアム・クラークや、小泉八雲・ラフカディオ・ハーン)の話を参照しました
近代ヨーロッパから、まだ男女とも髷を結っていた時代の日本に来た人々の目には、異世界に見えたことでしょう。ただ、国と国の契約の下に来ていましたから、帰れることはわかっていました。
クラークは帰った人、小泉八雲は、日本女性と結婚して子を得、日本で死んだ人です
ノーラ、マッサ、サキ、マリ、アッキーの5人が共同で借りた家は、最初にマズーラに入った街門から見れば右手、街の東側にある。職人街と冒険者ギルドのほぼ中間地点だ。フォッシャーズが迷宮に潜り、マッサが職人街の鍛冶場に研師として通い、ノーラは家で薬を作って薬師ギルドに納める。
やがて、マッサのポイント・ボードからさまざまな武具やオーブを手に入れたい転移仲間が王都からやってくるようになった。
そう、冒険者ギルドを通じてフォッシャーズの名が王都に伝わるとすぐにバルカンがやってきたのだ。まだぎりぎり宿住まいだった5人は、「バルカン、前髪ぱっつんはデフォだったのか」と思いつつも、わざわざ訪ねて来てくれたことを喜んだ。
冒険者ギルドの建物内で待ち受けていたバルカンは、受付嬢にフォッシャーズが帰ってきましたよと教えられ、大股で近寄ってきた。
「俺がわかるか」
開口一番がこれだ。もう、口調は改めたらしい。
対応するのはサキだ。
「はい。聖女と勇者を選ぶな、ポイントは金貨に交換される、俺は王都中央広場噴水前を選んだ」
「覚えていてくれたか」
「あの日は本当にありがとうございました」
王都転移組は、バルカン・コスと孔明コス、さらに女性のカリョウテン・コスが相談役のような立場で全員を掌握していた。そして、一緒に白い部屋を通じてここに飛ばされた残りの12人を心配し、探していた。いい奴なのだ。
3人は、こんなところでは何ですから、と言って、バルカンを連れて宿に帰った。
「カーン・シブヤだ」
「へ?」
「カーン・シブヤ」
「どちらのお生まれで?」
「俺のかーちゃんは日本人だ、オヤジもな」
「なるほど」
「役人に改名されましたね」
「いや、自分で名乗ったんだ」
「うわー、すっごい。柴崎桜マリー、又の名をマリ・アサクーラ」
「永田明久、アッキー・イサ」
「岬友花里、サキー家のミです!」
「中畑みのり、ノーラ家のミ」
「俺はノーラ家のマッサだそうだ。野中正則」
「うーん、苦労したなあ、お疲れさん」
「思いつきさえすれば! カトリーヌとかマルグリットとか、いろいろあったのに、損しちゃった!」
「俺はクラウドがよかったなー」 (多分クラウド・ストライフのこと。マニアだねぇ)
「はあ、まあ。相手が剣持ってましたし、つい正直に……」
「人に名前を訊ねてメモしてんのに、みのりを、ミ・ノーラと誤変換する人は役人に適していません!」
「はあ……まあ俺はマッサでも別に……」
すっかり話し込み、王都の事情を聞き、こちらの状況説明をするうちにポイント・ボードの話に進んだ。そしてカーン・シブヤ(!)も詠唱姿勢の指導と爆笑の洗礼を受けながら、知の巻物「ワインズデイル王国」を読み上げ、恥かき仲間となった。
カーンは、ここで頑張れそうか、王都に来るか、と確認し、5人はここでやっていきたいと答えた。王都転移者のまとめ役としては、ここにも転移者の拠点があるのはありがたいこと、支援が必要なら遠慮なく言ってほしいし、こちらからも頼むことがあるかもしれないからよろしく、とのことだった。
ポイント・ボードで交換できる物と値段表を書き写してもらったカーンは、「やる気が出る!」と喜んだ。王都組にマズーラの事情を説明すると言い残して、王都へ帰って行った。
王都とマズーラの間は頻繁に人の行き来があり、乗合馬車も1日何便もあるから王都にも来てくれ、王都からはポイント交換しに来る人がかなり来るぞ、とのこと。
貸家に移ってしばらくして、稼いだ金貨を持ってポイント交換を頼む人が訪ねてくるようになった。1割の手数料は安くはないのだが、マッサが1,000ポイントのほとんどをつぎ込んで生活に困っていることはカーンに教えられていて、「そのうち稼げるようになったら割引してくれよ」とか言いながら支払ってくれた。もちろんマッサもそのつもりだ。
早く十分に稼げるようになりたいというのは、みんなの共通の願いだ。金貨の蓄えができれば、帰る方法を探す余裕ができる。
巻物を買ったメンツは、もちろん、もれなく恥かき仲間となっていった。
「みんなマジメよね、お礼だけ言って読まないで逃げる人いないもんね」
と、サキ。
「マッサが上手いんだよ。巻物だけ買いに来る人あまりいないよね。だから最初を巻物にして、それを目の前で読まないと他のをゲットできないようにしてるんだと思うな」
ノーラがボソッという。
「いやいや、ノーラさんや、詠唱のポーズを教えますよ、とか言って見物の口実作ってませんかね?」
「ははは」
笑いひとつでごまかせはしない。
唱えよ○○と、と言われている言葉は祈りのポーズでないと受け入れられないのは本当だ。だが、巻物を詠みあげる時までそのポーズでやる、というところがちょっとしたインチキなのだ。
もちろん、ふたりとも巻物を読む人を見逃すつもりなんて全くない。次第に話が拡がって、祝詞を詠むように厳かに朗々と詠みあげて、恥ずかしくないもん、とアピールしたり、淡々と読むに徹したりする人も出てきたのだが、爆笑ネタであることに変わりない。
たまに、珍しい巻物を詠む人がいると、うんうん、こんなのもあるのか、まだまだこの楽しみは捨てられないな、と頷きながら遠慮なく鑑賞させてもらい、恥かき仲間を増やしていくのだった。
最初の1回だけだ、許してもらおう。
なお、このインチキは“帰還の巻物”(リレミトみたいな)を読み上げた人によって、バレバレになってしまうのだった。緊急事態で迷宮を脱出する人が、両膝をついて朗々と巻物を詠みあげる余裕なんかあるはずはない。走りながら読むだけ読んで、力尽きて呪文だけ膝をついて唱えた。光の粒に変換されながらも「バカヤロー」と怒鳴ったのだった。
ま、帰れてよかったよ、ね?
異世界暮らしにもリズムが出てきた。5人合同といえ家を借り、フォッシャーズは住むところを気にすることなく、長期間迷宮に潜ることができる。帰ってくれば寝るところと温かい食事がある。
マッサは朝早くから鍛冶場に”出勤”し、ひとりで黙々と掃除し、砥石を点検して必要に応じて面直しする。マジメというか几帳面な仕事ぶりは誰もが認めるところだ。すぐに研ぎを頼まれるようになり、慎重にゆっくりと進める手順は、他の研師の技術向上を助けることになった。
マッサにとっても、帰れば待っていてくれる人がいるというのは最高の毎日だ。
サキはドロップの正しい評価を知るために、ふたたび知の巻物のお世話になった。「鑑定」だ。みんなの前で詠まなくても能力はゲットできると知っているから、そっとひとりで詠み上げようとしたのに、全員にバレていて……。
「是は知の巻物、鑑定なり。捧げ持ち唱えよ、アナリシスと。日の沈むところ、虹のかかるところ、月の上るところ。雲が雨となるところ、水の流れるところ、海の終わるところ、万物は流転し、始まりに帰る。始まりを知り、姿を変ゆるを見、終わりを見届けよ。美しきを知る者、汝の名は岬友花里」
覗き見られてゲッとなった。鑑定のおかげで値段の高いドロップや薬草を見逃すこともなくなるし、適正価格での取引を主張できるようにもなるから必要ではあるのだが、ひとりで2度恥をかいたのでムッとしたのも確か。
ノーラは、薬師の職能を得てから鑑定のスキルオーブを取り込んだせいだろう、調薬に特化した細部にわたる鑑定が自動的に発動するスキルをゲットしていた。だから鑑定の巻物は詠んでいない。
だが、好感度上昇という、涙なしでは詠みあげられないチョーゼツハズい巻物を読んでいる。なんなら幸運上昇だって相当なものだ。
初日じゃなったらぜったいやらなかったと、そっとサキを慰めた。
ノーラはたまに薬草採取に行き、最初の日に街門で見た薬師のエネアとも知り合いになった。並んで薬草を探しているときに、冒険者チーム「暁の地平線」に会い、あらあらこんなところで会うなんて、と言いながらエネアが引き合わせてくれた。
その縁で薬草採取の護衛には、指名依頼を入れるようになり、徐々にマズーラに馴染んでいっている。
ここまでは、転移に関する基礎の物語です
ここから、各個の物語に入ります。なぜ87人と確定的にカウントできているのか、王都噴水広場では何があったのか、失踪しているアズーラ転移のもうひとりはどうしたのか、どこに転移したのかわからない最後のひとりはどこにいるのか、フォッシャーズの迷宮探査はどうなっているのか
それらのお話は、基礎の物語に乗せる形で、独立して描かれて行きます
巻物の詠唱文を所々に入れていきますので、よろしかったら、周囲に人がいないことを3回くらい確認してから、跪いて詠んでみてください。格安で異世界気分を満喫できるかも? デス
ノーラとマッサが縦糸になって、全体のバランスをとっていきますので、ふたりの話を「ノーラの穏やかな異世界生活」へとつなげておきます。最終話はきっちりプロポーズで締めますので、お楽しみに
全話数は各自の事情と同じくらいあるので、40程度になると思います
登場人物の個性に従い、冒険、統治、ギャクなど様々となるはず
何故彼らが選ばれ送り込まれて来たのかについてある程度の推測が成り立つ話をすこしずつちりばめて行き、最終的には誰かに結論を出してもらいます
全ての物語が完成した時点で、ひとつのタイトルに直して統合しますが、年数が掛かりそうなので今の時点ではこの形で
独立してもお読みいただけるよう書き進み、統一するときに余分な説明を排除して再編集します
楽しんでいただけるよう、がんばります




