15.知の巻物「ワインズデイル王国」
「俺は行くぜ、冒険者ギルド。待ってろよー受付嬢!」
とか叫んでいるアッキー。おひるともおやつとも言えるような言えないようなカロリー摂取? の後は、ベッドに寝転んで、グダグダしている。
「だーかーらー、そのタキシードで行って追い返されて来たばっかりじゃない、無駄よ、ムダ」
すげなく一蹴しているマリ。
「冒険者になるの?」
サキに尋ねているノーラ。
「成り行きっていうか、白い部屋で永田、ごめん、アッキーがいきなり剣と盾を買ったのよ。やった、異世界だ、魔王だ、迷宮だ、とかもう目が往っちゃってたの。
私とマリは、こいつもう死んだな、って。仕方がないからサポートしてやろうってことになって。マリが魔法少女やりたいって、杖とローブと魔法をゲットしたの。
ふたりとも戦う気満々だもん、私は回復と補助だよね。荷物運びを考えると、次元収納でしょ、ヒールと身体強化を買って、思いついて魔法強化なんかをざっと買っただけなの。
ポイントが金貨に変わるっていう声が聞こえたでしょ、それで、できるだけお金を持っておいた方がいい、じゃないと本当に死ぬわ、というわけ。あんまりアイテム持ってないの」
「苦労してるねえ」
「まあねえ、スクールで気が合って、製作もよく一緒にやってたの。お互いに欠点を補える感じで、うまくいってたから。ついね、そのままの気分で、3人で一緒にやるものだと思っちゃって」
「そうだったんだね。いいと思うけどな、もともと気は合ってたんだったら、知らない人と組むよりずっといいんじゃない?」
「アッキーはこんなだしねぇ。
冒険者登録させないことにはどうしようもないわ。マリちゃんがんばって止めてくれてるけど、いつまでもつかわかんないし」
「そうねえ、いっそマリちゃんかサキちゃんが受付嬢に応募しちゃうってのはどう?」
「うー、マジで何とかしないと。そうだ、アッキー、自分で受付嬢になればよくない?」
「あ、それいいかも。そうすれば毎日受付嬢と隣の机!」
「……」 不気味映像が目に浮かぶふたり。
「ふー……」
ベッドに寝転んでグダグダ言っているアッキー、タキシードがもうシワシワだ。横に立ってアッキーを粉砕し続けているマリ。小柄な彼女がピンクのワンピ姿で腰に片手、反対の手でアッキーを指差してイロイロ言っている姿がかわいい。
もうひとつのベッドに座って話しているノーラとサキ。こちらは緑のローブと紺のロングドレスで、落ち着いた雰囲気だ。
この世界に来てようやく、少なくともコス好きという小さな共通点を持つ人を見つけられて、5人とも自覚はないものの、ひと安心しているのだった。
「あー、これこれ、あったよ」
椅子に座ってアイテム・ボードをチェックし続けていたマッサがようやく顔をあげた。
「画面が拡大できたんだ、読めたよめた、助かった」
「それはよかったね、で、何があったって?」
「多分知識の巻物なんだよ、これ。ワインズデイル王国、って書いてあるだけなんだけど、ここがワインズデイルなら、この国のいろいろなシステムとか、わかるんじゃないかな」
「冒険者ギルドのシステムとか」
サキが嬉しそうにする。もしかしてアッキーは受付嬢にたどり着けるかも。
「あ、物の値段もわかるかも、そうしたらもう値段調べしなくても済むよね」
これはノーラ。
「だといいよね。とにかくこれ買ってみなくちゃ」
「えーっと、ポイントは?」
「10ポイントだね」
「私が買うわ。手数料は1割だったよね、金貨11枚ね」
ノーラがリュックを下ろして、アイテムバッグから、金貨を取り出す。
「よろしく」
「うん、悪いね」
「手数料のこと? 稼いだらそのうち身内価格で割引よろしく、ってことで」
「もちろんだよ、困ってるときに助けてくれた人に恩を返すのは当たり前だよ」
義理堅いタイプなのだ。血液型はモチロンA型。
「その言葉、忘れないでよ」
と、マリ。わたしも手数料払ってそれ買ってもらおう、とか喜んでいる。サキもうんうん頷いている。
ちょっと引き気味のマッサは、とにかく買ってみて、使ってみてのことだから、まあまあ、とか言いながら、えーっと、ここかな、と、ウインドウに金貨を近づける。
金貨は何もない空間に消えていった。
「ちょっと、マッサ」
突然立ち上がって、腰に両手を当てたノーラが、足を踏ん張っている。
「え、え? な、な、なにか、俺何かした? え、え?」
突然お怒り爆裂のノーラに、のけぞり引きするマッサ。
「いま、金貨11枚、全部ポイントに交換したよね」
「あ、あ、あーーー」
「どうするつもりなの、生活費を稼ぐんじゃなかったの」
「う」
何も考えず、手数料まで全部ポイント・ボードに吸い込ませてしまった。
あー、ありがち?
「マッサは、真っ青」 マリがかわゆく首を傾けてオヤジギャグを披露する。微笑みを添えるところが余計に心を抉る。
洒落てる場合じゃないわよと、サキ。「次の時、今の手数料も財布に入れればいいじゃない」、「マッサ、次は忘れないのよ」、ノーラの肩に手を掛けて宥め、なんとか納める。
すいません気をつけます、とか小さくなりながら、マッサはワインズデイル王国という巻物を10ポイントと交換した。巻物は円テーブルの上にふわりと実体化した。
「では、はい。わたくし、ノーラが読みます!」
すごく恥ずかしいけど、ここで読むけど、笑わないでよ、笑ってもいいけど、笑ったら殴る、と言って読み始めた。 えい!
「是はワインズデイル王国なる知の書なり。汝・中畑みのり、畏みて知に跪け。唱えよ、ワインズデイル王国と。天と地とその間を、暁星と夕星の導に、知の道を歩め」
ブスッとした顔で、大人しく「ワインズデイル王国」と唱えるノーラ。
「あ、しまった、跪くの忘れてた」
床に膝をついて、巻物を目の高さに両手で掲げ、もう一度。
「ワインズデイル王国」
何が起こってるんだとあっけに取られて見守っていた3人は、もう爆笑の嵐。ふたりしかいなかったときには耐えられたマッサも、引きずられて笑いの堤が切れてしまった。こらえ切れずに、ぐふぐふいっている。
「きゃはははは」
「げろげろー」
「うわー、これやるの、人前じゃイヤー!」
「うるさい、やってみせた私に敬意を見せろ!」
「厨二だ、異世界にもいるんだ厨二、ウケるー」
「お仲間ー、アッキーのおともだち~」
「違う俺は違うぞ!」
「受付嬢ラブヤローのクセに。否定できんのか、この」
もう収拾がつかない受けっぷり。いや、神主さんが読み上げる祝詞みたいなものではあるんだけどね、この世界の。
引き攣るお腹を押さえながらもなんとか笑いを収めた4人に、ノーラは言ったのだった。
「もっと凄いのあるからね、読んでもらうよ、みんなの前でね。唱えるときの正しいポーズを見つけるまでに何回トライしたと思う? どんだけハズかったか。
いい、やってもらうよ? いま見せた通りにね、間違ってたら、て・い・ね・い・に修正してあげる。
特にマッサ、思いっきり笑わせてもらうから」
ううー。
巻物は予想通り、ワインズデイル王国の統治手法、周辺諸国との関係を始めとして、貨幣価値、細かいところでは冒険者ギルドで売られているポーションの基準値段、ホテルの宿泊料から旅行者や冒険者向けの旅籠の値段、トイレの使い方やお酒の種類まで、この世界の一般常識を網羅している優れモノだった。
という訳で、全員がこの「知の巻物」を読むことになった。アッキーとマッサの分は、ワルーイ顔をしながらノーラが費用を払い、巻物を読み上げ、跪き、両手で捧げて「ワインズデイル王国」と唱えるところまで、ひとりずつ実行させられた。もう大爆笑だったのだが、もちろん、マリとサキも強制実行となった。
こうして「恥かき仲間」となった5人の間からは遠慮が吹っ飛び、まるで昔からの知り合いだったような気易い関係になった。その意味では巻物の洗礼にも意味があったのかもしれない。
マッサは、この先巻物をポイント交換する人には、初回は必ず詠唱時の正しいポーズを教える名目で、目の前で読んでもらうことにしようと思いついてニマニマしていた。今日の自分の恥は、明日の誰かの恥である。たとえ王侯貴族でも、必ずやっていただこう、うん。
マッサからオーブや巻物を受け取るためには、必ず本人が来なくてはならないという、必要もないのに厳格なルールが定められたのだった。
通貨の単位は、単数がデイル、複数がデニー
銅貨 50枚で 大銅貨 1枚
大銅貨 2枚で 銀貨 1枚
銀貨 10枚で 金貨 1枚
金貨 100枚で 大金貨1枚
銅貨1枚 1デイル 10円 くらい
日本円とデイル通貨には貿易関係がなく、定められた円-デイル交換率も、刻々と変る為替相場もないので、何を基準にするかによって通貨価値は異なることになる。なので、仮の設定。
大銅貨 50デニー 500円
銀貨 100デニー 1000円
金貨 1,000デニー 10,000円
ちなみに、この換算率を適用すると、1,000ポイントは10,000,000円、1千万円となる
転移者87人は、1時間だけのことだけれども、1千万円持っていたのだった!




