13.コス仲間に出合う
方向を変えて歩き次の広場に出ると、そこにはマズーラの官庁が集まっているようで石造りの大きな建物があり、官服かな、と思われる黒い服と丸く平べったい帽子に房をぶら下げたような特徴的な被り物を身に着けた人が、お供を連れて建物が出てきた。出入口に立っている帯剣した兵が敬礼したから、きっと地位のある人なのだろう。
待機していたハンサムキャブ(1頭立て、2人乗りの軽量馬車)の馬丁が、お供の人が乗るのを待って手綱を渡す。黒い服の人が乗り込むと、馬車はガラガラと車輪の音を立てながらお城の方へとゆっくり進んでいった。
人が馬を引いてポクポクと歩く荷馬車は何台か見たけれども、御者が乗っている馬車はここで初めて見た。箱型の馬車ではないし、歩くのとさほど変わらない速さで進んでいるところを見ると、街壁内での馬車に関する規則があるのかもしれない。
ノーラもマッサも知らないが、街門から伝令兵が駆け出して、不審な入門者について第一報を上げた先は、この広場にある役所のひとつだ。
目立たないように静かに立って、ちらっと眼をやるだけにしておく。
ここは、お役所広場と呼ぶことになった。
「えーっと、もう少し違う方にする?」
「ですね、なんか場違い感が」
市場の広場に引き返し、違う道を選ぶ。
次の広場には、赤レンガ造りの大きな建物があり、ふたりは東京駅のレンガ建物を思い出した。
その建物の他に、広場に沿って、武器屋、薬草の店、道具屋、服屋、今宿泊しているところより安そうな宿屋などが並んでいる。
「ここって……」
「うん」
「「冒険者広場」」
意見一致だ。
この広場に馬車は入れないようで、広場入り口には馬車・馬預かり所がある。ちょっと立ち止まって馬車と馬という、ふたりにとって珍しい物を見ていたら、赤レンガの建物から見たことのあるコス姿が3人出てきた。ちょっと機嫌が悪そうだ。
知っている人、といっても話をしたこともないのだが、とにかくこんな異世界でほっとする人々に出合って、思わず手を振りながら近寄って行った。
「えーっと、こんにちわ」
3人は、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑い顔になった。
「あー、もしかして」
「ねえ、広場にいた?」
「うわー、マズーラ、俺たちだけじゃなかったんだ、よっし!」
スパイ家族のコスだった。門衛が最初に来た異人と言っていた3人、ミノリが街門の方へ歩いて行く後姿を見た3人だ。
「こんなところですが、はじめまして?」
「あ、いや、そうですね」
緊張感に安心感が混じって、おじきし合う。日本人だな~。
ピンク髪、金髪、緑髪そして黒髪が2人。
少女役で背が低めの女の子はピンクのウイッグ、フリルのついたひざ下丈のワンピースにはかわいくレースがついている。白いタイツにピンクのストラップシューズだ。
背の高い金髪男子はグレイのタキシード、黒髪に黒い瞳の女性は紺色のロングドレスだ。
ミノリが深い緑のマント、マサノリが茶色のトーブに白いビシュト。目立つことこの上もない、その5人が建物の前でおじきをし合っている。
日本人が適度な距離を取りながら向かい合っておじきをし合うのは、外国人から見れば妙な習慣だったことを思い出したひとりが、えーっと、座れるところに行こう、目立つから、と言い出して場所を変えることになった。
スパイ家族コス3人組は、冒険者広場から細い道を入って少し歩いたところにあるホテルにチェックインしたと話した。5人でそのホテルに向かって歩く。
「俺ら、街に入ってフラフラ歩いてたんだよね、珍しくてさ」
タキシードが言う。
「そうなんですよ、おのぼりさん丸出しで、もう危ないったら」
ロングドレスが受ける。
「自分たちが街を珍しがっているっていうより、むしろ、街の人が私たちを珍しがっていたわね」
ピンクワンピは辛辣系らしい。
「そのうち、運よく? この広場に来たんだよね」
「まあ、確かに」
「物は言いようです」
掛け合い漫才みたいな説明をまとめると、「冒険者ギルドだ!」 と叫んでレンガ造りの建物に飛び込みそうになったタキシードをふたり掛かりで引き留め、とにかくまず泊まるところを決めたのだそうだ。
そのホテルで、女性ふたりは一緒の部屋でよかったのだが、ひとり部屋がなくてタキシードはツインにいるから、そこで話をしようということだった。
部屋に落ち着き、女性3人はベッドに、男性は椅子に座る。
まずは、自己紹介ね、ということで。
ロングドレスは、岬友花里、ピンクワンピは芝崎桜マリー(しばさき・さくらマリー)、タキシードは永田明久と名乗った。
「あー、門番にアッキー・イサって改名されたけどな! よくメイキュウと呼ばれたけど、アッキーは初めてだった」
永田は、ふん! という顔になった。
「岬が、みさき、と名乗って、ミ・サキー、サキー家のミ、だな、とか書いてたから、名前の方を名乗ったんだけどな、こういうことだ、まったく」
ミノリは、笑っていいのか深く同意するべきなのかよくわからなかった。
「あー、私は、ミ・ノーラということになったみたいでした。ちゃんとみのりって言ったはずなんですけど。こちらの発音と日本語って、違うのかもしれませんねぇ。自動翻訳機能がいたずらしてるのかなぁ。岬さんと同じ名前になりましたね、岬のミとみのりのミ、ですか、何か変な感じですねぇ」
苦笑いを交わす。
マサノリが、これも苦笑いしながら自分の異世界名を名乗る。
「俺はマッサ・ノーラだそうだ。ミ・ノーラとマッサ・ノーラで、ホテルで夫婦扱いでダブルベッドにされそうになって、必死で夫婦じゃないと説明したら今度は、ご兄妹でしたかって。それで結局同室。 もうどうしたらいい?」
全員疲れた表情でげっそりするしかない。
「芝崎さんは何って?」
「あー、わたしは最後だったんで、念のためにマリーと名乗ったの。そしたら……」
「芝崎さんは、おとうさんが外国の方で、娘にはおばあさんの名前を取ってマリーと名をつけたかったんですって。でも、桜の花に感動して日本に住もうと思ったから、さくらも捨てがたかったの、ね?」
「うん、パパはともだちに聞いて、名前はどんなに長くても、カタカナでもひらかなでも漢字でも受け付けてくれるって教えてもらったんだって」
「で、両方いってみた」
「な、なるほど。桜マリー……、かわいらしい名前ですよね」
「そうでしょう? ま、そういうことにしておきましょ?」
マリーは、多少苦々し気な口調だった。自己紹介するたびに、同じような反応をされて来たのだろう。気の毒ではあるけれども、それだって社会に出て仕事に就けば、アピールポイントになるかもしれない。考え方を変えて、攻めに出ることだってきっとできる、うん。
「マリーは名前だと思ったらしくて、家名はと聞かれたんだよね。で、これは柴崎とか言うと、シーバサッキーとかバーサクとか、訳わかんないことになっちゃうと思って、さくら、と言ってみたんだよね」
なるほど? で?
「さてここで問題です!」
マリーがびしっと指を立てる。
「桜マリーさんは、何と言う名前になったでしょう!」
むむむ。ミノリとマサノリは少しばかり考えた。マサノリがマッサ・ノーラで、ミノリがミ・ノーラ、ミサキがミ・サキー、アキヒサがアッキー・イサ……うーん。
「マリー・サックー?」
「マリ・イサク!」
しーん、となる部屋に、マリーの声が答えた。
「マリ・アサクーラ」
「だれ、それ!」
「もう別人じゃん! 朝倉茉莉さん!」」
「あ、さくらです、って答えちゃったんだよね、えへ」
「それか!」
「うーん~」




