12.マズーラの街を歩く
ネタバレを恐れない方用に、あとがきにマッサの内心を書いております
読んだほうが楽しめるとは思いますが、すでにお気付きの方はご自分の妄想の方を優先なさってくださいませ
うっかり読み防止用に土木用語解説を入れておりますので、どうぞご用心ください
地図のことは忘れることにした。それは都市の場所と道路がわかる程度の簡易な地図や、もっと進んだ三角測量の地図ではなかった。航空測量地図、あるいは衛星画像がなくてはできないような、地図というよりむしろ地形図だ。交換ポイントが高かった理由はわかったが、それがこの惑星全部の分となれば。
この世界の文明度から考えれば、それは戦略級の秘密情報だ。一体何を考えてこんな地図を。
忘れた方がいい。この世界では一般人が持っていていいようなものではない筈だ。
ミノリはアイテムバッグにがっちりとしまい込んだ。どうしてもとなった時にだけ、こっそり引っ張り出して、必要な部分を写して使おう。
「じゃあ、行こうか」
ミノリは、リュックを背負い、金貨1枚と残りの銀貨を財布に入れてチュニックのポケットにしまい、メモ帳とボールペンを持って宿の前に出ていた。
「あのー、よかったら私地図を描きますけど。割と得意なんです」
「あ、それ。何か、マッピングってのをもらってなかった?」
「あーー、そうだった。言語理解、オートマッピング、ありました、そうでした」
「あと、肉体適合ね。地球とは大気組成から違うだろ?」
「かも。 精神耐性もありましたよね」
「ありがたいよね。突然ホームシックになって泣き続ける人が出たら、本人はもちろんだけど、周りが引きずられて大変なことになるかもしれない」
「このあたりは、転移させた人もよく考えているっていうか……もしかしてやり慣れている?」
「コワイねえ」
「誰なのかなあ」
「そうだねえ。そもそも何のため? ってところだよね」
「だよねぇ」
歩いたところは頭の中に地図が描かれていくから、ふたりは安心して街中を歩き回った。
さっきお茶に銀貨を支払った広場を抜け、お客さんを席に案内している背の高いおにいさんを見る。やっぱり銀貨を受け取っている。銀貨1枚はいくらくらいなのか、かなり気になる。
広場を抜け、15cm四角ほどの石で丁寧にパヴェ舗装(注1)されている道を行くと、次の広場に出た。この広場は円形で、四方に大きな道が出ている。
最初の長方形の大きな広場を、お茶の広場、と呼ぶことにしたふたりは、ここには露店の市が立っているから、市場の広場、と呼ぶことにした。
市場を見つけてほっとした。ゆっくりと歩き回って、野菜、くだもの、パン、穀物、布などの値段をメモ帳に書きながら歩く。
軽くひと回りしたところでレンガ建ての建物の壁に寄り、集めた値段を見せ合う。
「えーっと? アンパンくらいの大きさのパンを5個買っている人がいて、銀貨を払っておつりに大きな銅貨を1枚もらっていました。
銅貨は大きいのと小さいのがありました」
「パン、パン、これだな。丸い大きなパンを買っていた人は、銀貨を出して銅貨、ああー、多分小さい方かな? 10枚受け取っていたよ。お店の人が銅貨をひとつずつ数えながら渡していた」
「うーんと、えー小さいパンが5個で大きい銅貨1枚のおつり、大きいパンが1個で小さい銅貨10枚のおつりですね、書きました」
「玉ねぎみたいな野菜、だと思うんだけど、10個くらいが一山で大きい銅貨1枚」
「うーんと、玉ねぎ、玉ねぎ、ありました。買い物かごに2個入れてもらって、銅貨15枚でした」
「玉ねぎ2個で銅貨15枚か。スーパーで玉ねぎって、いくらくらいだった? 覚えてる?」
「ばら売りの大きな玉ねぎで60円くらいです。ネットに入ってて小さめだと、7,8個で300円くらいかな」
「うーん、玉ねぎ価格だと、銅貨1枚5円くらいかな?」
「ですね、何で換算するかでずいぶん変わるかもしれませんね」
「そうだよね、パンだとアンパンくらいのが1個100円とすれば、銅貨1枚10円?」
「えーっと、大きいパンが食パンだとすると、一袋200円くらいだから、40円?45円? ですか?」
「うーん、わかんないよね」
「わかんないですね」
「次行ってみようか」
「ですね」
確かに。タマネギみたいだったけど、タマネギなのかどうかわからない。パンだって、中にナッツとかチーズとかが入っているのかもしれないし、それなら高めになるだろうし。あとでもう一回来て、パンを何種類か買ってみようか、と話しながら今度は武器・防具屋を探して歩いた。
注1 パヴェ舗装: 地球では
同じ大きさ・形に切った石を地面に打ち込むようにして舗装する。1辺20cm程度の立方体の下部に下向きの四角錐がくっついているような形に加工されている
石畳は平石を置く工法で、パヴェ舗装はそれとは別のもの
施工は微罪の刑罰や、農閑期の収入を提供する福祉的な土木作業だったこともある
石と石の間は土なので、アスファルトやコンクリートで道路全体を舗装する工法と較べて排水性が高く、側溝がいらない
軍道としてローマ時代に採用された
兵士の行軍だけでなく、馬車や荷車に耐えられるように考案されており、一部が壊れても補修しやすい
現代でも古い道が残っていて、観光資源となっている場所もあり、農道として使用されている場合もある。ローマ時代からのものが修復を重ねながら残されている
注2 マズーラの街の設計
マズーラは、広場から放射状に道路が出ていて、メインの道路が他の広場と繋がっているという都市設計になっている。もと王都ということもあるが、街全体が円形の街壁で囲まれているため、この形になった
街門からまっすぐ入った広場が長方形なのは、ここがもと王都で、外征から帰ってきた兵士を王が迎えるための凱旋広場だったから
もと王城だったところは、街壁の内側に建造した内壁と王城を守る城壁に囲まれている
内壁と最外の街壁の間には兵舎、訓練所、兵站倉庫、厩舎などがある
マズーラが王都だったころ、城壁内には王城だけではなく、上位貴族の王都邸が立ち並んでいた
マズーラ街門内のおよそ3分の1の敷地が城壁で囲まれていて、その外に一部内壁があり、最外が街壁となっている
まえがきで予告しました、恋愛系ネタバレ情報です
最後まで読んで事情がわかったとしても読み直すのは面倒すぎるので、このあたりで察しがついて、ニマニマしながら読む方が楽しめそうなんです、読者サービス?
マッサは、転移前からノーラにべた惚れです!
嫁に欲しいと思って、人生設計を変えつつあったほどです
どこをどう読んでも、ヒントなしでは到底わからないと思いますが、日本の男子ってこういう感じの人が多いよね
なお、マッサの内心を書いていないのは、わざとです。オタオタぶりを想像する方が面白いもんね。ノーラとツインの部屋で寝ることになったマッサとか? 眠れたと思う?
なお、マッサは現時点で生涯初というほどよく喋っています
Fall in loveのひとめぼれのファーストラブな、赤ずきんちゃんと一緒にいるので、熱病うわごと状態だからなのです
生まれた環境が環境なので、一日で喋ったのが“うん”2回だけだったという日が21年中15年位ありました
この先、周りに察してくれたり諦めてくれたりする人がいないため、非常によく話すようになり、マッサ自身が「俺って話せば話せる奴だったんだな」とか思っている次第
最終話、腹を括ったマッサの頑張りに期待、かも?




