11.オーブを取り込み、巻物を詠む
「あ、野中さん、出かける前にポイント交換したものを確認したいんですけど、よかったら一緒に見ません? この先、参考になるかもです」
「え? それはありがたいけど、いいの?」
「いいですよ。まさか盗んで逃げたりしないでしょ?」
「そんなことするはずないよ、この先協力してもらえる相手だよ」
「ならいいです」
「でも、中畑さんの能力構成がわかっちゃうんだけど」
「ああ、そんなのいいですよ。簡単に言うと、いのちだいじに、です。
職能が薬師で、魔法が火と水とヒール、薬がつくれるように鑑定と調薬、万一逃げることになった時の用心に隠密ですね」
「う、ありがとう、ごめんね」
「べつに? ありきたりな構成だと思いますよ。あの中で4,5人同じ構成でも驚きません」
「そういうもの? 錬金術師とか、魔法使いとか、いろいろあったよね」
「冒険したくなかったし、冒険に巻き込まれるのもちょっと困るかなと思ったんですよね。街で普通に生きていたいんです、生きていないと帰れないでしょ?」
うーんと唸るマサノリのことは気にしないで、交換した品々をベッドの上に出し始めた。
「えーっと、まずこれが“調薬セット”ですね。中身を見るのは後にします」
マサノリも近くまで来て見ている。
「これこれ、これがたぶん“ジョブオーブ”だよね、ひとつしかないから。
“スキルオーブ”と“マジックオーブ”は3個ずつだから、どっちかな?
職能が“薬師”でしょ? えーっとメモしておこうっと、緑色で、直径は、うーんと……」
「直径たぶん7cmだと思うよ、それくらいかな」
「あ、すいません。そういうの得意でした?」
「うん、俺芸大の工芸なんだ。錺職人の家の子でさ、センチじゃなくて寸で見る方が得意だけど、大体サイズはわかるんだ」
「へー、凄いですねー。古いお家の方なんですか?」
「いや、どうだろう? 小さい頃から金属片や細工道具が好きでさ、仕事部屋に潜り込んでは叱られたよ」
「ふーん」
「直径7cmくらいの緑のオーブ、ジョブオーブ、薬師、俺メモ係やるよ」
マサノリはあまり家の話はしたくないようだった。ミノリも深追いする気はない。そもそも、芸大の工芸と言われても、なんか芸術系の大学なんだな、ということしかわからない。音楽ではないし、絵でもない、工芸?
「お願いします。
えーっと、スキルが鑑定、調薬、隠密です。魔法がヒール、火、水ですね。
大きさは違うけど、どっちがどっちのオーブかわからないんで、試してみますね」
「そうだね、それしかないもんね。
えーっと、透明なのが3個、薄い桃色、赤色、水色と。色がついてる方がマジックオーブだよね、多分」
「ですよねー、意外とわかりやすいですよね」
うーん、待てよ、人に頼まれてスキルオーブを出すときは、複数一度には出せないな、とマサノリは思う。判断材料がないのだ、仕方がない。ひとつずつ出して、その場で使ってもらう方がいいだろう。あとから違っただのなんだの言われても困る。
実は、マジックオーブの方がさらに難しい。レベルがあるが、1レベル1個で出てくるのか、色が違うのか、マジックオーブを取らなかったマサノリにはわからないのだ。
「じゃあ、使いますけど、どうすればいいのかな」
「うーん、手に持って、何か唱えたらどうかな」
「ですよね、えーっと唱えるのはちょっとハズイな。えーっと、持つでしょ……。
ちょっと心の中で~」
「声出さなくてもきっとイケるよ」
「だといいけどなぁ。 あ、詠唱が浮かんだ、やっぱり火魔法はファイアなんだなあ」
手のひらに乗せたオーブは、スルリとミ取り込まれた。
ミノリはしばらく感動に浸っていたが、さすがに室内で火魔法を唱えてみる気にはならない。
次々にオーブを取り込み、何か変わったかな? よくわからないな、とひとしきり騒いでいた。マサノリは色別のメモを取りながら、うんうん、よかったね、とか励ましになりそうな言葉を掛けてみた。
「はー、べつに何も変わんないけどなー、ま、いいか、次行ってみます」
「うん、どうぞ」
「これ、ナイフで、こっちが鋏、見てのとおりデス」
「うん、ちょっと待って、ボードにアクセスする。照合してみよう」
「どうぞ」
「えー鋏? はさみって道具だよね、えーっと?」
「あ、道具じゃなくて、武具の所にありました」
「え? 武具?」
「そうなんですよ、薬草採取のためのナイフを探してたら鋏があったから、そっちの方がいいかなと思ったんだけど、なんか高いし。 実物を見たら洋裁用の鋏みたいでしょ? なんで武具なのかな?」
「うーん、そうだよね……もしかして、この世界、まだこういうX字型の梃子を応用した鋏が普及してないのかも」
「え?」
「授業で道具の歴史とかもやるんだけど、日本で洋裁鋏が普及したのは割と最近みたいなんだよね、明治時代だったかな。その前は、なんて言うの、糸切はさみ? だったんだって。それで髪の毛も切ってたって」
「ふーん、そうなんですね。良くわかりませんけど高かったです。
これって作るの難しいんですか?」
「そうだね、全部手作りだとね。最初は刀鍛冶の人たちが作ったって」
「ふーん、だったら、もしこれが作れたら、大儲け?」
「うーん、俺、鍛冶は得意じゃないからなー。2枚の刃がきっちり動いて、布が切れるように作らなくちゃなんないから、刃の合わせが難しいらしいよ。同じ形の刃物を穴ひとつで繋げるだろう?
穴を残して鋳るのか、後で穴を抜くのかもわからないし。留め金を作るのはできると思うけど」
「そっか、わかんないけど、要するに大変なんだね。じゃあま、懸案事項で」
「なんかいい縁があるといいけどね、鍛冶屋に雇ってもらえるといいなあ」
あとは好感度上昇の巻物と幸運上昇の巻物2本を読むだけだ。開くと謎の文字が書いてあったが、すぐに読めるようになった。恥ずかしいな、と思ったが、詠みあげよと書いてあったので、やむなく読んでしまった。おまけに、唱えよ、と書いてある部分を唱える時、巻物を捧げ持った姿勢でなくてはならないようで、正しい詠唱姿勢を探し当てるまでさんざん試してみる羽目に。
恥ずかしいと言っている余裕もなく、必死だったのだが。
笑わないようしていたが、口の端がぴくぴくするのまでは抑えられないマサノリが、「うん、巻物を開いた後、一度巻き戻してもまだ使えるか試してもらえると助かるんだけど」とか言っていた。
ミノリは憮然としながらも、ふたつある方の幸運上昇を一度開いて巻き戻し、ふたたび開いて詠み上げた。
「巻物は、一度開いて確認してもらえばいいってことだね、うん」
最後に、地図を開き、ふたりで覗き込んだ。
それは十分に驚愕に値するものだった。




