第8.5話 白は黒と語らう
ルカスの姿が見えなくなった後、しばらく二人は黙っていた。
夕べとは打って変わって、朝の空気は清々しかった。
「……行きましたね」
パンテラが静かに言った。
「ああ」
レグルスは、まだルカスが歩いていった方向を見ていた。
「昨夜は……話せたんですね。レグルス様」
「……なぜ知ってる」
「夜中に物音がしたものですから、少し様子を見に参りました。すぐに戻りましたが」
レグルスが、微妙な顔をした。
「見ていたのか」
「少しだけでございます」
「……余計なお世話だ」
「左様でございますか」
パンテラは表情を変えなかった。でも、声にわずかに温かみが滲んでいた。
少し間があった。
「……泣かせてしまった」
レグルスが、ぽつりと言った。
「はい。よく泣いておられました」
「慰め方がわからなかった」
「……頭を撫でて、抱きしめてあげたではないですか」
「お前、全部見ていたな?」
「……少しだけでございます」
「少しじゃないだろう」
パンテラは少し考えてから、静かに答えた。
「言葉がなくても、伝わっていたと思いますよ」
レグルスが短く息を吐いた。
「……だと良いが」
また沈黙が落ちた。
「レグルス様」
「なんだ」
「ルカス様は今朝、とても良い顔をしていました」
レグルスが、ようやくこちらを向いた。
「……そうだったか」
「はい。昨夜あれだけ泣いたのに——すっきりした顔で起きてきました」
レグルスは再び、ルカスが歩いていった方向に目を向けた。
「パンテラ」
「はい」
「……今日は夕食を、少し豪華にしてくれ」
パンテラが、深々と頭を下げた。
「かしこまりました」
その口元は——いつもより、緩んでいた。




