続・水中神殿1
宝箱の中身を回収してたら、ファーが壁の上部に空いてた穴を覗いて来てくれた。その報告を詳しく聞いてみると、どうやらずっと奥へと下って続いているらしい。
それを読み解くに、どうやらスルッと滑って下るみたいな相棒のゼスチャー。どうもただの排水溝とか、或いはここから戻れるのかなとの俺の予想は違ってた?
まだ先があるのかな、このゴーレムがラスボスは緩いと思ってたけど。ファーは全くお構いなし、一緒に滑ろうぜとハイテンション。
ふむっ、どうやらウォータースライダー的な仕掛けらしいね、コレ。定番なのは、滑り落ちた先に敵が待ち構えてるってパターンだけど。
ファーもそんな先までは、調べには行ってないみたい。それは当然だ、危ない事は絶対にしちゃダメだと、常々口を酸っぱくして言ってるからね。
それより問題なのは、行くか進むか……いや違った、行くか戻るかだな。前進あるのみって、どんだけ前のめりな冒険者なんだ、俺って。
まぁ、道があるなら進むしかないか、何しろこちとら冒険者だもんね! 念の為に、前もって《水中呼吸》と《風属性付与》を武器に掛け直して、と。
ついでに《炎テンション》も、待ち伏せがあった時の用心に掛けておこう。
ファーは自前で飛べる癖に、何故か俺の懐に潜り込んで来た。一緒に滑る気満々の相方、この先に恐怖が待ち構えているとも知らずになぁ(おどろ口調)。
いやいや、自分で怖いフラグを立てるのは止めておこう。しかし……本当に、成り行き任せの行先知らずの滑り台って怖いんですけど。
本当に滑り出して大丈夫なのかね、ファーさん? まぁいいや、敵が待ち構えてると先読みも決め込んだし、覚悟を決めて飛び込もうか!
そして壁をよじ登っての、丸い穴へと飛び込む俺とファーのコンビ。それはもう、絶叫系でも類を見ない程の揺さぶりを体験中です、ハイ。
さすがバーチャル世界、これでもかって程の現世では有り得ないコース設定。無駄に酷いウォータースライダーの果てに待っていたのは、案の定の派手な着水だった。
今回の水溜まりは割と深いな、とは言えこっちの腰の辺りまでだけど。そして水の中には、やはり大量のモンスターの群れが待ち構えていた。
いやいや、とは言えここまでの敵の数は想定外ですよ? 何でこんなにいるの、ってか大半がオタマジャクシ型の雑魚なんですけど。
俺は持っていた棍棒を振り回し、反射的に防戦へと移る。
ファーは大満足の様子で、俺の懐から無事飛び立った様子。楽しんで貰えて何よりだ、それより今の現状分かってらっしゃる?
分かってたみたいで、相棒は光の水晶玉を水中に投下してくれた。それによって混乱する黒い群れ、良い感じに等分にオタマジャクシのHPが削れて行く。
おっと、その手があったか……こちらもさっき分捕った、水の水晶玉を水中の敵に投入。数が多過ぎて、もはや黒い塊にしか見えない敵達が次々に昇天して行く。
一気に10匹以上を殲滅させたかな、まだまだ黒い影は多いけど。それはそうと、水が水晶玉の投入で、洗濯機のような渦巻きを発生させていた。
なるほど、水の水晶玉の水中使用もなかなか凄い威力だな。ファーにも持たせておけば良かった、後で渡すのを忘れない様にしなきゃ。
ってか、大アメンボも寄って来た、見える範囲で4匹いますけど?
オタマジャクシの突進や噛み付き技は、ゴミみたいなダメージしか与えて来ない。逆に水上の大アメンボの放つ水魔法は、2桁ダメージが基本だからなぁ。
攻撃力の高い、警戒すべき敵は早目に倒すのが定石である。それは分かってるけど、こっちが今戦っている場所は腰までの水溜まり。
モロに敵の、得意な領域で敵はスイスイ避けるけどね……腹立つなぁ、両手棍の範囲攻撃の《ブン回し》で追いこんではいるものの。
水の中のオタマジャクシにも、何故かダメージが入るのが面白い。範囲魔法も欲しいな、炎魔法の《キャノンB》は全くの期待外れだったし。
もう一度水の水晶玉を投げ込んで、いつの間にか敵影もかなりスッキリして来た。こっちも割と、攻撃を喰らって累積ダメージが酷いんだけどね?
タガメも数匹乱入して来て、場はもう阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わって行く。ポシェットを確認したら、水晶玉の残数は結構まだある感じ。
ここは勿体振らずにどんどん投入だ、命より高い買い物は無いんだから。そしてタガメは最優先でキルの標的に、コイツが一番の難敵だからな!
そんなこんなで、ヤンチャな滑り台から10分が経過。
何故にこうなった、随分命懸けな遊戯もあったもんだな! こちらの体力は既に2割を切っていて、敵の姿はようやく全ていなくなった所。
オタマジャクシだけで、ゆうに50匹以上いた気がするなぁ。そんな場所で泳ぎたくは無かったな、今更の愚痴ではあるけど。
そして水棲の敵のドロップだが、全く大した物は無かったと言うね。ここは本当に、厄介でケチ臭いダンジョンだなって感触がある。
とにかくちょっと休憩しよう、幸い水から上がれる陸地もあるし。部屋の構造は上とあまり変わっていない、水色の壁と床が静謐感を漂わせている。
さっきまでは、水の中での戦闘音でむっちゃ煩かったけどね。さてと、それじゃあさっき入手した癒しの香木を試してみよう。
これは魔除けの香炉にくべると、ヒーリング効果がアップする香りが嗅げるらしい。おっと、なかなかに良い香りが漂って来ましたよ?
ファーもウットリしている様子、君はさっきからはしゃぎ過ぎ! こっちも座って休憩だ、確かに回復が目に見えて早くなっているかな。
それにしても香木シリーズは便利なのが多いな、もう少し本数欲しい所だけど。入手した癒しの香木は、あと残りたった2本と寂しい限り。
もう少し、どこかで補充出来ないかな……安全地帯とかで売ってたら買うんだけど。そう言えば、アロマ系は琴音が一時期ハマってたっけ。
あいつも色々と流行が変わるから、こっちも変な知識が貯まって行くと言う相互循環が。それにしても、バーチャル世界なのに香りまで再現とは凄いなぁ。
おっと、気付いたらもうフルにHPが回復しちゃってたよ。これで安心して、この水中神殿の冒険を再開出来ると言うモノだ。
このダンジョンがどの程度深いのか分からないので、余りゆっくりはしていられない。準備を整えて、ポーチの中身をしっかり確認してと。
そうそう、ファーにも水晶玉とポーションをお裾分けするのを忘れずにと。さて、これで準備万端整ったかな、次の部屋の扉を開けようか。
おっと、今度の扉はしっかりと自動ドアなんだ。ってか次の部屋もやっぱり、水の張られたパターン構造の繰り返しみたい。
こうなると、弱点属性の雷魔法を覚えたくって仕方が無いっ!
――おめでとう御座います、雷魔法《スパーク》を取得しました!
てへっ、取っちゃった……初級魔法だけど、念願の攻撃系を取得出来ちゃったぜ! MPコストは8で、詠唱時間もそんなに長くは無いみたい。
これで幾つ目の魔法だとか、そう言う文句はもう気にしない事にする。ひたすら我が道を往くのみ、我流を極めてこその冒険者だ。
整備された道を行くのではない、俺が通った後に道が出来るのだ! こんな勇ましい台詞で、琴音は誤魔化されてくれるかなぁ?
まあいいや、言い訳はまた後で考えよう……おっと、一応《水中呼吸》も掛けておこう、何しろこの部屋も膝下まで水が張られてある。
そして出て来るのは、相変わらず大量のオタマジャクシの群れ。代わり映えしないって事は無い、何故なら大カエルも混ざって来ているから。
前衛カエルは変なシャツを着ていて、両手で持った三叉の槍でこちらに突き掛かって来る。水中からの攻撃なので、回避しにくくてかなわない。
《スパーク》で早速嫌がらせしてやるけど、これがかなり効いてくれて面白い。闇系の敵に《フラッシュ》がすこぶる効いたけど、モロそんな感じだ。
お陰で近付いて来る敵が、皆怯んでくれて範囲攻撃の格好の的だ。ファーも集団を見付けては、水の水晶玉を放り込む爆撃機と化してる。
これこれ、奢りだからと言って、やたらと贅沢に使うんじゃありません! まぁ、結果的にはそれで良かったのかも知れない。
何故なら厄介な魔法使いカエルも、後衛陣に混じっていたっぽいから。そいつは杖を持っていて、お洒落な三角帽を被っていた。
いや、遠くで早々に倒されてしまったから、朧気にしか見えてないけど。今回も割と敵の数はいたけど、新魔法のお陰で戦闘は数分で終了。
《スパーク》強いな……いや、威力は弱くてダメージは辛うじて2桁って感じだけど。水属性の敵が、思い切り怯みまくるのが良い感じ。
思い切って取って良かった……『雷の術書』を1枚持ってたから、スキル3Pの放出で済んだし。そしてここでも、残念ながら大したドロップは無し。
まぁ良いか、宝箱があると信じて次の部屋へとレッツゴー。そろそろ終着点かな、ダンジョン攻略も侵入から既に1時間が経過している。
とか思って入った次の部屋も、前のと似通った造りだった。ただし水位は確実に、段々と低くなって来て動きに不自由は無くなって来ている。
そして雑魚のオタマジャクシは存在せず、その代わりに前衛カエルと魔法使いが数匹。それから、巨大なハンマー持ちイボガエルが2匹待ち構えていた。
おっと、ひょっとしてここはボス部屋ですか?
――ようやく手強そうな敵が出て来た、テンション上がるね!




