水中神殿を進む
残ったのは変な仕掛けと、どうやっても開かない次の部屋への扉。さっきまで自動だったので、しばらく佇んで恥を掻いてしまったのはナイショだ。
仕掛けと言うのは、壁際に設置されている獅子脅しだった。竹製で風流ではあるけど、この殺風景な水色の部屋には不釣り合いな気がするかな。
それを良く観察してみたら、獅子脅しの音を鳴らす場所にスイッチがあった。何気なく押してみたら、扉がほんの一瞬だけ開いてくれた。
ほんの3秒程度の時間だけど、扉をすり抜けるには充分な時間だ。ただし、自分が扉の前で、あらかじめスタン張っていればの話。
獅子脅しのスイッチと扉との距離は、目算で5メートル以上はある。しかも膝下までの水のお陰で、素早く動けないと言う規制付きだ。
ここは頭を捻って、正解を導き出す感じのクイズ部屋形式かな? つまり前提として、正しい仕掛けの解き方は存在する筈である。
うん、何の事は無い……獅子脅し自体がヒントだったみたいだ。これは片方の窪みに水を溜めて、その重みで梃子の原理で音を鳴らす仕掛けである。
つまり片方の空洞に水を溜める事が出来れば、簡易自動スイッチ押しマシンになってくれる感じだ。獅子脅し自体は動かせないが、近くの壁から水が噴き出ている箇所が幾つか。
そして不自然に設置されている、雨どいをちょちょいと操作してやれば正解に辿り着きそう。おっと、この形で何とか上手く行きそうな雰囲気。
それを確認して、ファーと一緒に慌てて扉の前に移動する。獅子脅しが目論見通りに順調に作動して、そして押される開閉スイッチ。
その瞬間、俺たちは見事に開いた扉をスルッと通り抜けに成功した。やったね、何とか突破出来て何より……相棒も、しっかり無事について来てくれてる。
用心していた待ち伏せもいないみたい、それどころか次の部屋には敵の姿が見当たらない。この部屋も先程と同じ位の大きさで、そして次への扉も見えている。
ただし床は濡れておらず、四角のパネルで奥まできっちり区分けされている。敵がいない分、ちょっと不気味な感じを受けるのは気のせい?
うん、どうやら気のせいでは無かった模様……部屋の中央まで歩いた途端、異変を感じた妖精がビターンと顔に貼り付いて来たのだ。
それと同時に、足元に大いなる異変が。床だと思って踏もうとしていた次のパネル、実は絶妙に隠されていた水溜まりだったらしい。
落とし穴の一種、と言うか敵が潜んでいた仕掛けトラップだった様子。水で出来た腕が、こちらの足に掴みかかって来なすった。
慌てて回避、後ろに下がって魔手から逃れつつ敵のチェック。敵は“ウォータハンド”と言うらしい、悔しそうに手をニギニギして再び水中に消えてしまった。
どうやら遠隔攻撃の類いは持ってないみたい、だからと言って脅威には違いないけど。何しろ水の罠と普通の床パネルの見分けがつかない、本当に全くつかない。
嫌な仕掛けだな、水に引き込まれたらひょっとして溺れ死んでたかも? パネルの大きさが1×1メートル程度だから、本当にスッポリ頭まで沈んで行く可能性も。
そうなれば、水中で何も出来ずに溺れ死んでた可能性はある。せっかく《水中呼吸》を取ったのに、使えず終いの恥ずかしい死に方だ。
俺はファーにばれないよう、さり気無く新魔法の《水中呼吸》をを掛け直す。大雨なのに、傘を忘れたみたいな間抜けな情景なのは敢えてスルー。
ところが相棒は、罠とパネルを見分けようと低空飛行に挑んでいた。これこれ、敵もいるんだから危ない真似はよしなさいって。
幸いウォータハンドは、水に獲物が侵入しないと反応しないようだ。これって通り抜けるには、いちいち全部の列のパネルを見極めないと駄目って事?
そんなご無体な、そんな事してたら日が暮れちまいますぜ、旦那。
旦那って誰だと、自分の感想に1人突っ込みはまぁ置いといて。これも要するに頭を働かせて、正解のルートを探し出さなきゃ駄目って事だ。
さて、今度はどうしたら正解を得られるのだろう……手段は色々とありそうだけど、なるべく華麗に最短時間で突破したい所。
例えばいちいち何かアイテムを突っ込んで、パネルか罠かを見極めるとか面倒くさい。だってパネルの数、ざっと数えて50枚以上あるんだよ?
正確に数えた所、横に7枚、縦方向に8枚並んでいた。ファーが目の前のパネルに着地して、ここは安全だよと身を以て知らせてくれている。
だから危険な真似はしないでね、君は襲われたら本当に危ないんだから。まぁ、安全なパネルが本当に紛れ込んでいるのは分かった。
そんな訳でファーを回収して、さて2部屋目の謎解きに掛かろうか。俺が閃いたのは、水の仕掛けには水で対処しようって遣り方だ。
便利系の魔法って、使いようによっては本当に便利である。その名も《清き水》で、これはただMP消費で水を湧き出すだけの呪文なのだけど。
その水が周囲に溢れて行って、それに従って水のパネルには波紋が広がって行く。その光景を、俺はしっかりと記憶に焼き付けて行く。
ってか、波紋に反応した水の手魔人が、一斉に反応して飛び出して来てますけど。そして獲物が近くにいないのに気付いて、気まずそうに水中へと戻って行く。
そのお陰もあって、しっかりしたパネル版のルートはこれで確定した。後はその記憶に従って、8列の道を飛んで突破して行くだけ。
それを見てるファーは、本心でこちらを感心している素振り。そんな彼女に得意顔を見せつつ、俺は見事にパネルの仕掛けを突破に至った。
そして次の扉の前に到着して、順当に開いてくれる扉であった。
今度の部屋は、さっきまでの半分程度の広さしか無かった。そして目立って存在を主張しているのは、中央に居座るゴーレムとその後ろに鎮座する宝箱。
ここが最終部屋なのかな、それにしてはシンプルな気もするけど。敵の名前は“翡翠ゴーレム”と言うらしい、その名の通り水属性なのだろう。
まぁ普通に殴って倒すけどね、だって弱点属性の魔法持ってないから。モロに打撃に強そうな敵に、敢えて打撃で挑むのは効率が悪いのは確かではある。
でも現状でも魔法に手を出し過ぎと、琴音に注意されている身なので。これ以上は手を出せない、余程良い魔法とか術書を入手しない限りは。
琴音は水魔法とレイピアの魔法戦士なので、そこを踏まえて俺のアバターのビルドをしないとね。とにかく戦闘だ、レア種では無いけどボス戦開始だ。
ゴーレムはやはり鈍重だった、しかし防御の高さと体力の多さは死ぬほど厄介。攻撃も当たれば痛いが、大抵は回避出来てしまうスピードの無さ。
他のゴーレムと何が違うのかなと、観察してみたけどよく分からない。材質とかドロップはもちろん違うのだろうけど、戦闘パターンは同じっぽい。
ただ鈍重に、殴り掛かって来るだけのワンパターンな敵である。
などと、楽観的に思っていたのも相手の体力が半減するまで。HP半減からのハイパー化の到来で、行動パターンがガラッと変化して行く翡翠ゴーレム。
まずは《地団駄》と言う足踏み技で、こちらが一瞬スタンさせられてしまった。そこからの《水流パンチ》は、さすがの超重過ぎる一撃だった。
これにもスタン効果が付いていた模様で、こちらは全く動けず次撃まで喰らってしまう始末。慌てて転がって距離を取ろうともがくも、今度は踏みつけられそうで大わらわ。
何とか動けるようになったモノの、体力の減りは相手とほとんど一緒に。《風属性付与》込みの反撃の《撃ち上げ花火》で、強引に削りのお返しを喰らわせつつ。
ようやく与太って来た敵のゴーレムに、怒りの追加攻撃を喰らわせる。ってか、いつの間にか床が水浸し状態になってるのは何故っ?
水の発生源は、どうやら周囲の壁の穴みたいだけど何のためだろう。何やら仕掛けがあり……あっ、このゴーレム回復してやがる!
水に浸かると回復するのか、こっちは逆に移動に制限が掛かるってのに。長期戦は圧倒的に不味いな、さっさと倒してしまいたいけど。
敵の弱点を突けないってのが、ここに来て微妙に響いてるなぁ。
取り敢えずは《バグB》をぶち込んで、魔法の効きを確かめてみる。おっと意外と削れてる、これは《風属性付与》付きの殴りより効果的なのでは?
とは言え、実はダメージ系の魔法の揃いは全く不完全な俺のアバター。炎魔法の《キャノンB》は封印したし、そもそも相手は水属性だしな。
やはり雷系も欲しいかも、ダメージ魔法の初級の魔法で良いから。とか言いつつ、再詠唱可能になったのでもう一度《バグB》をブッ放す!
琴音の話では、魔法はスキルを伸ばして行けば、割と激変して使い勝手が変わる奴もあるらしい。上級の魔法を覚えるより、スキルを伸ばして初級魔法の使い勝手を強くする的な。
だからこの《バグB》も、初級とは言え強くなる可能性は充分に存在する。そんな戦いだが、結果的には敵の回復率よりこちらの追い込みが勝る形に持ち込めた。
つまりは闇魔法と、魔法の掛かった棍棒の殴りでの必勝パターンでの削り切りに成功。何とかゴーレムを粉微塵にして、めでたく宝箱とご対面の運びに。
ちなみに翡翠ゴーレムのドロップは、翡翠の指輪と翡翠の飾りが1つずつ。それから、水の水晶玉×4と言う割と豪華な感じだった。
レア種でも無いのにこのドロップは、さすが宝箱の番人である。ちなみに翡翠系は防具では無く、ただの換金素材で装備は不可能っぽい。
肝心の宝箱の中身は、それとは逆にショボかった。『水の術書』にマナポ(中)×3本、それから『憩いの香木』も同じく3本に『水のマント』と言う背中装備。
海賊の洞窟や断崖の遺跡に比べると、やっぱりショボい感じ。
――水のマント 耐久7、防+6、精神+2
精神力が上がるのは嬉しいが、防御力は今の装備の方がちょっと高いな。交換は保留で、ってかまだ1時間以上も時間が余ってるんですけど。
どうしようかな、取り敢えず戻ろうか……ってか、ファーさんどこ行った? うん、確かに壁の上部に、丸い穴が開いてるのには気付いてたけど。
排水溝みたいな役割かと、つい無意識に決め込んでしまっていたよ。
――えっ、ファーさん……この中に入ってみようって?




