殲滅戦の後に
ゴブリン集団との戦闘で、思わぬ足止めを喰らってしまった。そのせいで、俺が騎士団のキャンプ跡地に辿り着いたのは、巨大キメラ“殲滅するモノ”のおよそ10数分後となってしまった。
そこは文字通りに、キャンプ跡地だった……テントや仮住まいの類いは全て潰されていて、残った人員は数名の足止め役の騎士のみ。
残りの連中は、どうやら尻尾を巻いて乗って来た船へと逃げ去ったらしい。さすがに、ユニオンボスが召喚したレア種に恐れをなした模様。
見た目からして、あのズ抜けた巨体である……滅茶苦茶な戦闘能力を有しているのは一目瞭然。それを足止めしている騎士団のメンバーは、まだ幾人か残っている。
その場の状況が辛うじて分かったのも、その残ったメンバーが大声で怒鳴り合っていたから。お前も早く逃げろとか、隊長を置いて戦闘放棄など出来ませんとか。
騎士団の中にも、気骨のある人材は少しはいたようだ。
師匠が遠目から観察した限りでは、やたらと横柄な連中が数人混じっていたらしい。それを見て、師匠はどこかの貴族が点数稼ぎにこんな僻地に来たと推測していた。
恐らくはそうなのだろう、そんな連中に限って窮地には素早くトンズラ扱いて失踪するのだ。つまりは既に船上にいて、逃げ去る算段でもしているに違いない。
穿った見方だけど、当たらずとも遠からずな予感はする。そして残った責任感ある騎士団連中のためにも、この巨大キメラの活動を止めてあげたい。
ただし、俺にはもちろんそんな権限などありはしない。なので地道に殲滅のお手伝いを、タゲを取らない程度に遠くからするくらいしか手段は無い。
巨人キメラのHPを確認すると、何と残り2割とちょっとである。もしや騎士団の中に、相当な腕利きが混じっていたのかな?
雨上がりに顔を出した、お日様のダメージ効果も大きいとは思うけど。良く見たら、破壊された施設の中に大砲とかも混じっていたようだ。
あれで敵の体力を削っていたのかな、今は完全に横倒しで砲手もいない有り様。とっくに壊れて、破棄されている感じはとっても残念。
そんな強力な兵器があるんだったら、ゴブリン討伐も頑張れば良かったのに。お蔭で俺が絡まれて、さっき酷い目に遭っちゃったよ!
まぁ過ぎた事だし、今さら愚痴を言っても仕方のない事ではある。しかしエリアボスって、改めて色々とえげつない技を持っているなぁ。
あの残された騎士団の前衛さん、本当によく耐えてるよ。逃げた連中が何人いたのか定かではないけど、力を合わせれば倒せていたかも知れないのに。
微力ながらもこっそりと光魔法でダメージを加えつつ、俺は思わずそんな事を考えてしまう。組織ってやっぱり、チーム力が大事なんだなぁ。
逃げた連中に足りなかったのは、根性なのか修練なのかは俺には分からない。ただ、遠目からでも分かるのは、戦場の攻勢の推移くらいのモノ。
いよいよ、巨大キメラ“殲滅する者”の残りHPは1割に……いや、自身の体力を犠牲にして、またあの従者召喚技を使ったらしい。
人間サイズの有翼キメラが、戦場に何体も産み落とされて行く。これでまた、優劣の天秤が大きく傾く事になりそうな気配が。
残された騎士団の何人かで、巨大キメラをキープしているリーダ格の騎士を護ろうと戦線は組まれる。しかしどうにも力の差は歴然で、倒されて行く者もチラホラ出始めていた。
それを目にした俺は、思わず悪態をつきながら有翼キメラを釣ってしまう。
その行為が裏目に出ようと何だろうと、感情移入はすでに為されていた。さすがにこれ以上の、そ知らぬ振りは精神衛生上宜しくない。
そんな訳で、こちらの弓矢攻撃に釣られて、勢い良く飛んで来る有翼キメラが2体ほど。俺はそいつ等を、ネムと一緒に迎え撃つ構え。
奴らが近付くまでに、弓の連射で体力は削っておいた。そこから素早く両手棍に持ち替えて、接近と同時に《ブン回し》での先制攻撃を撃ち込んでやる。
その勢いに、仲良く撃墜されて行くキメラの群れ。いや、まだ体力は削り切れてないけどね……それにしても、地面に落とされても相変わらずの無感情。
少しは怒ればいいのに、全く張り合いが無い連中だ。生まれたばかりのうちの子だって、コイツ等に較べたらずっと感情豊かに感じてしまう。
戦闘で張り切っているっぽいネムに負けずに、俺もまだ操り慣れていない新しい両手棍を振り回す。凶悪な形状でダメージも高いが、なかなかに操るのは大変だ。
それでも先ほどの範囲ダメージは、今までに無い好感触だったような。そんな先制攻撃が功を奏して、こちらに有利に戦闘は進んで行く。
時たま重い武器に振り回されるのは、まだ新武器に慣れてないからかスキル振りが甘いせいか。ネムが上手い具合に、宙空から気を散らしてくれるのが有り難い。
巨人キメラ本体の動向も気になるが、こちらも2体相手に気が抜けない戦いである。何しろこの有翼キメラ、隙あらば飛び上がって妙な角度からの攻撃を仕掛けて来る。
油断も隙も無い、動き自体は割と単調なんだけど。
指先と足先のかぎ爪が鋭くて長くて、それがこいつ等のメイン武器だ。地上では腕の振り回しを、宙空からは足のかぎ爪での引っ掻き攻撃を仕掛けて来る。
属性はもちろん闇で、他には噛み付き攻撃もたまに繰り出す。狒々顔だけあって、その顎の力も強そうだが他は特にスキルや術系の技は無い模様。
ガタイの良さのせいか体力は普通より上だが、動きはそんなに素早くもない。要するに良きサンドバックだ、扱い辛い新装備の両手棍に内心で悪態を吐きつつ。
ここぞとばかりに、新スキル《乱撃》の試し撃ちなど。
範囲技なのは知っていたが、なかなかに威力も高いようだ。さすが両手武器のスキル技だけはある、アイテムを使ってまで覚えた価値は充分にあった。
それは良かったけど、戦いの趨勢は何故かこちらの断然有利とはならず。何に反応したのやら、まだ2匹とも始末してないのに追加がやって来た。
つまりは、騎士団と戦っていた有翼キメラが新たに2匹、こちらに向かって来ている。どうやら精進足りず、居残り騎士団は倒されてしまった模様。
これは奮闘していた隊長さんとやらも、かなり危ないかも知れないなぁ……まぁ生き残った後に、こちらの正体や事情やらを根掘り葉掘り訊かれるのも嫌だけど。
出来得るのなら、戦闘を放棄してさっさと仲間の船へと逃げて欲しい。それももはや無理だろう、エリアボスの“殲滅するモノ”が逃してくれるとも思えない。
彼はその名の通り、この場を殲滅する為だけに闇より産まれ出たのだ。
とは言え、大半の獲物となる騎士団の連中は逃げちゃった後だけどね。それを考えると、騎士団の内情だか腐り具合いはかなり酷かったのだろう。
国に戻って、この森の出来事を何て報告するのかは知らないけれど。もう2度と、戻って来て欲しくないのが師匠と俺の本音である。
それはともかく、増えてしまった有翼キメラに再度の範囲技をお見舞いしつつ。この周辺だけ、やたらと賑やかになってしまった反省は後にしよう。
完全に騎士団の連中にも、こちらの所在はバレてしまっているかな。しかしその巨大キメラの足止め要員も、すっかり数を減らして寂しい限り。
最初の2匹をようやく倒して、その辺は何とか確認出来たけど。それ以降は、襲い掛かる新たな敵への対応に、追い回されてそんな余裕は全く存在せず。
その局地的な戦闘が終わった頃には、向こう側も不気味なほどの静けさに包まれていた。さすがに全部倒し終わるのに、5分以上掛かってしまったからなぁ。
気が付いたら、あちらの戦闘も終わっていたらしい。悄然と立ち尽くす巨大キメラ、東の海岸方向に顔が向いているので、狩り損ねた殲滅対象に思いを馳せているのかも。
ただしさすがに海は渡れないようで、これ以上の追走はしないみたい。
それは良かったが、奮闘していた騎士団の分隊長はとうとう倒されてしまったらしい。代わりに巨大キメラのHPは、残り1割に満たない憔悴度。
気の毒ではあったが、隊長さんも仲間の為に命を張れて本望だろう。そう思う事にしよう、俺の中ではこの問題はそんな感じで解決フォルダーに仕分ける事に。
そうなると、残った問題は目の前の巨大キメラの処遇のみ。そいつは今も、陽光にジリジリとダメージを受けて、勝手に消滅に近付いている。
それでも何と言うか、ヤバい証拠は早々に隠滅したい心理が働いてしまい。思わず装備を弓矢に交換、完全なる証拠消滅の手助けに走ってしまう。
この選択は、果たして良かったのか悪かったのか……巨大キメラ“殲滅するモノ”のタゲが、一気にこちらへと向いてしまった。
失った目標が再び出現して、どことなく張り切ったエリアボスが接近して来る。改めてタゲを取ると分かる、その巨大な敵を前にした際の威圧感って凄いね。
これはやっちゃったかなと、俺は内心で早くも後悔しつつも。エリアボスの残りの体力と睨めっこしながら、攻撃の手を緩めず弓を射かける。
奴から直接攻撃を受けたら不味いなと、そのプレッシャーは半端無い。そんな中、光魔法の《ライトアロー》が思わぬ効果を示し、これならイケると勇気を貰ってみたり。
しかし対面してみると異様な形状だな、コイツ……ヒドラ風味もあるし、飛竜風味もある。そう言えば、コイツの中心は『魔力の核』だっけ?
確か心臓の位置よりもっと上、喉仏の辺りでこの巨体を維持していたような。単純に弱点だったりしないかな、踏み潰される前に遠隔で試すのはアリだな。
矢弾を強烈な風の矢に交換して、どんどん近付いて来る巨人の喉仏を狙い撃つ。そこに命中した途端、案の定怯むように蹈鞴を踏む巨人キメラ。
どうやら推測通り、核の位置は弱点だったみたい。
その発見に勢い付いて、更に光魔法もその場所へと撃ち込んでの必勝体制。覿面に怯む動作を見せてくれ、ノーリアクションのキメラにしては表情豊か。
もっとも、苦しむ姿も悲鳴も全く上げないけれど。もちろん急所をガードしようなんて動作も取らず、敢え無く沈んでいく哀れな巨大な体躯。
最後は意外と呆気なかったな、まぁ完全に漁夫の利なんだけど。
――何にしても、これで証拠の隠滅は叶ったようで何より。




