妖魔との宴・後編
そんな感じで、ようやくログインチェックは終了の運びに。相棒のネムと妖魔のミフェルは、今は熱心にバーベキューの間食に励んでいる。
お客さんにお茶でも淹れようと、俺はコンロの端っこでヤカンを火をかける。ついでに妖魔の興味を惹きそうな素材を、鞄から取り出して並べて行く。
それから3つまでならタダで弁償用にあげると言うと、ウンウンと本気で悩み始めた。その中には、ボーンキメラのドロップ品も含まれている。
面白い反応だな、まぁあまり時間を掛けられても困るけど。
「骨素材の他には……おっと、飛竜の血ってのも瓶に入って1個あるなぁ。これって、どこで入手したんだっけ?」
「あ~~っ、それは頂戴!!」
ワイバーンとの戦闘では無かったな、確か蝙蝠のレア種のドロップだったような? そんな事を考えていると、妖魔っ娘はサッと手を出して飛竜の血をゲット。
そのまま瓶に口を付けて、あっという間に飲み干してしまった!
まさか飲むとは思わなかった……キメラの材料を探してるって、話の流れの斜め上を行く行動である。唖然としつつも湧いたお茶を差し出すと、もっと血は無いのかと変な催促をされてしまった。
無いならアナタの血でお代わりしたいと、やはり妖魔の常識は怖かったみたい。それはキッパリとお断り、多少むくれられてもこれだけは阻止したい。
話を逸らそうと、他の気になる素材も羅列して行く。
「ヒドラの牙に飛竜の骨、暗塊の杖に闇の羽根飾り……骨素材以外にも、用途不明の闇系の素材っぽいのが結構なるなぁ」
「あ~~っ、羽根飾りは頂戴っ!!」
今度も即反応されて、奪われた2個目の闇系の素材であった。そして今度は食べる訳では無く、何やら呪文を唱え始めたと思ったら。
その羽根飾りから、何と闇色の羽のモコッとした鳥が産まれて来た。召喚術らしいが、物凄く得意げにこちらを見ている妖魔っ娘である。
リアクションを求められ、取り敢えず俺はやや大げさに凄いなぁと驚いてみると。それで機嫌が急上昇したっぽいミフェルは、黒いモコ鳥と遊び始める。
ネムが警戒して騒ぎ立ててるが、黒モコ鳥はまるで無視の大物振り。
小柄な割に強いのかなと調べてみたら、黒モコ鳥はこのナリで何とレア種らしい。本気で凄いな、この妖魔っ娘の召喚術って。
しかし計画性は無いみたいだ、あと1個ねと告げると泣きそうな顔に。
仕方が無いので、何かと交換で欲しいの持って行きなよと条件を出すと。何が欲しいのかと、逆にこっちの欲しい物を尋ねられてしまった。
おやっ、このパターンは精霊や竜宮城と一緒な気配? この妖魔はそこまで力が強いのか、それなら遠慮せずに欲しいモノを提示しよう。
「武器スロットがいっぱいで、全部のスキルが入らないんだよね……スロットの増えるアイテムを、あるだけ欲しいんだけど?」
「あげるケど、それは1個だけダ! ……えっとネ、光魔法にスロットをまルっと交換出来る呪文があるケど、私は光魔法がキライだから覚えてナイ!
……代わりに、闇魔法の凄いのならあげルゾ!」
そうらしい、闇魔法の凄いのってどんなのだ? 攻撃系か便利魔法系か、はたまた補助系かで欲しいかどうか議論の分かれる所ではあるかな。
しかし、スロット丸替えの光系の魔法なんてのが存在してるんだ。本当なら是非欲しいけど、誰か親切な精霊に今回の報酬として貰えないかな。
光系の魔法の得意な存在って、他に誰がいるか思い付かない。とにかく、現在精霊から受けているクエをクリアする励みにはなりそうだ。
そうそう、彼女を説得して場所を移動して貰う件も忘れないようにしないと。
そんな訳で、まずは交換の結果から報告しようか。妖魔ミフェルが欲したのは、先取りした2つを除いて結局全部で6つとかなり多かった。
随分と欲張りだが、ちゃんとその分の見返りはくれるそうだ。俺もこれは冒険者の流儀だから、仕方ないんだ感を全身で出して残念感をアピール。
本当はタダであげたいけど、それは規則違反なんだ的な雰囲気での対応は我ながら鼻白む次第。まぁ、向こうも子供っぽい容姿なのに、割と太っ腹なのは助かった。
ただし、その交換した素材の用途を聞いた途端に俺は血の引く思いを味わう破目に。もちろんその用途は召喚なんだが、その戦力の使い道が問題なのだ。
それはまぁ、後で記述するとして……とにかく彼女の欲しがった素材は、『闇蝙蝠の皮膜』『死肉喰らいの生肉』『魔力の大骨』『魔力の核』『ヒドラの牙』『飛竜の頭蓋骨』の全6品。
これら全てが召喚用の媒体になるらしく、割と貴重品なのだそう。
その召喚モンスターの、中核となるのが魔力の核らしい。これは確か骸骨キメラのドロップなので、文字通りお返しする感じで問題はない。
他の素材に関しても、俺が持っていても特に意味のないモノばかりだから交換に否は無し。特に死肉喰らいの生肉など、引き取って貰えて安心した感じですらある。
もう1つの生肉も、出来れば引き取って欲しかったが量的にこれで充分らしい。ちなみに、豹柄のマスクも押し付けようとしたが断固拒否された。
肝心の見返り報酬だが、まずは待望の『皆伝の書:武器』でのスロット+1。それから彼女のイチオシの、《ダークジャッジ》と言う中級の闇魔法で2つ目。
これは精神魔法の類いらしく、周囲全体に眩暈や錯乱、時には失神を招くそうだ。説明を読むと、強い思いがより効果の上昇を及ぼすそう。
要するに、闇魔法スキルが高い方が効果が上がるって事なのだろうか。考えてみれば、パーティ戦ではダメージ系より強力な威力かも知れない。
良いモノを貰ったお礼を述べると、大威張りな感じでドヤ顔された。悪い娘じゃないんだよな、俺も特に妖魔贔屓って訳じゃないんだけど。
それからダメ元で、雷か氷の宝玉をくれないかとのこちらの3つ目の頼みなのだが。2つ返事で応じてくれて、どうやら彼女の懐の深さは相当なモノの様子。
そして出て来たのは、宝玉:雷|《雷精召喚》と言うある意味ぶっとんだ代物だった。まずMPコスト58と、とんでもない魔力大食い呪文だ。
その分、詠唱時間は上級魔法にしては割と短い方であるらしい。ただし、それだけ苦労して召喚した従者の雷精も、滞在時間はスキル依存らしく。
スキル10程度で召喚した雷精だと、たった10秒しか維持出来ないみたい。せめて1分はいて欲しいが、そうなるとスキル60とか必要になって来る。
ちょっと通常使用は無理だな、少なくとも当分は。
それでも宝玉の贈与は有り難いので、存分にお礼を言っておく。早速使ってミロと言われたので、これで他人に売る選択肢は無くなってしまった。
まぁ、それでもスキル+4だけでも有り難い……自身のアバター強化は、順調に進んでいるって事で。ただし呼び出した精霊は、案の定8秒で消滅してしまった。
妖魔っ娘は何だダメな奴♪ 的な温かい眼差し、そしてすぐに見本を見せてくれた。その結果だが、とんでもなく派手な龍型の雷精が出現した。
しかもそれが3匹とか、どんだけ高スキルの持ち主?
ひょっとして、スキルPが100どころか300を超えているのかも……だとしたら、得意との闇系魔法はそれ以上だと想像出来てしまう。
とんでもない化け物だ、当然ながら現時点では手も足も出ないのは確定済み。
ちなみに氷の宝玉も強請ってみたが、欲張るな! と一喝されてしまった。それじゃあ代わりにと、改めて自身の鞄の中身ををチェック。
それから便利だけど、数の少ない時の狭間の香木をリクエストしてみる。ついでに便利だった星の涙も、あれば欲しいとお伺いを立ててみた。
すると何と両方持ってるらしく、しかも複数個ずつ貰えてしまった。時の狭間の香木は追加で4つ、星の涙は追加で2つの補充である。
これは嬉しい贈り物だ、少なくとも使えない魔法よりは余程役に立ってくれそう。いや、雷スキルの+4は素直に嬉しいんだけどね。
最後の6個目は、彼女が勝手に決めてしまった。『波紋のロッド』と言うらしく、どうやら指定した任意の魔法を範囲扱いしてくれる能力があるそう。
その分MPは消費するが、回復や強化系の魔法には最適かも。
とにかくこれで全ての交換が終わった、達成感と妖魔っ娘の喜んでる姿が微笑ましい。ただしこちらは、喜んでばかりはいられない事情がある。
何しろ、その使用目的をさっき妖魔ミフェルから聞いてしまったのだ。それに関して、俺はどう対処したモノかと思案している際中。
つまり彼女は再召喚したキメラ2号で、騎士団のキャンプ基地を襲撃する予定でいるらしいのだ。何でも数年前に、イジワルして来た国の紋章旗が、あの連中の持ってるのと同じだったと判明したそうな。
見間違いじゃないかとの説得も、絶対に合ってると言い張る妖魔っ娘。
「ヨワッチイからって、集団で掛かって来るのはズルい!! アイツ等にされた意地悪は絶対に忘レない、今度はコッチがやり返してやるんダ!!」
「それはまぁ、その権利はある……のかなぁ?」
善悪の基準なんて曖昧だ、俺だって騎士団には嫌な目に遭わさた思い出しかない。つまり不快な感情はあれど、忠義信や同情心は全く湧いて来ない。
邪魔だとすら思っているが、だけど殲滅すれば良いとまでは思えない。同族意識なのかは分からないが、そこら辺のニュアンスはミフェルに辛うじて伝わったらしい。
ちなみに以前追い払われた騎士団ってのは、全部で数百人単位だったらしい。どんだけ災害認定されてんだ、恐るべし赤ネームの妖魔っ娘!
どちらにせよ、巨大キメラ2号を作ってキャンプ基地を襲わせるのは決定事項らしい。ここは彼女の縄張りでこそ無いけれど、狩場の1つではあるらしく。
そこに堂々と居据わるのは、つまりは狩ってくれて構わないとの意思表示に他ならず。威張りつつ唱える彼女なりの理論は、あながち間違いでも無いと思う。
ってか、その理論を崩すほど騎士団には肩入れ出来ないよね。
それでも俺は、辛うじて修正案と言うか、こちらからの提案を幾つか刷り込ませる努力は頑張った。同族の騎士団に対して、せめて追い払う程度に留めてとの懇願も含めて。
ついでにここは、君みたいな魅力的な娘が長々と居据わる場所じゃないよとのお世辞には。妖魔っ娘は満更でもない様子で、街の方にも幾つか拠点があるんだと申告して来た。
どうやらここには、本当に素材を採集するために立ち寄っただけらしい。用事も終わったし、もう戻るとの言質も貰えてこちらとしては一安心。
これで何とか、精霊ラマウカーンとの約束と言うか依頼も果たせる。ただし、彼女の作ったキメラ2号を、無事に騎士団が倒せればの話だが。
念の為にこの地にも主がいて、澱みを残したら怒られるぞと告げると。ミフェルは小首を傾げて、森の主と事を構えるのは得策ではないとの考えに至ってくれた。
それからどうしようと、相談というかこの事案を丸投げして来た。まぁ、それに関しては本当に良かった……彼女が誰彼構わずに、喧嘩を売る性格で無くて。
そんな訳で、俺が奴について行って後処理をする事に決定の運びに。
「助かった、ヨキにはからえ? 冒険者、お前はまだヨワッチイけど私は気に入った! 今度会うときにまで、ゼッタイに絶対に強くなレ!?
そしタら、私の家来にしてやルからな!!」
――……はいっ、家来ってナニ!?




